36歳にもなって結婚してないシャアは駄目オトコ

1 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/03 07:39 ID:AtrfeAj8
十四人ニュータイプ漂流記

過去ログ
http://comic3.2ch.net/test/read.cgi/x3/1047138220/
http://comic.2ch.net/test/read.cgi/shar/1037725653/
http://comic.2ch.net/shar/kako/1033/10339/1033913190.html

まとめサイト(月光蝶氏編集)
http://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/1897/log/dame/dame.html

詳細は>>2-3

2 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/03 07:40 ID:MN/vNLaz
アクシズの愉快な仲間たち。主食はスパム、おやつはプリン。

シャア:このスレの主役。34歳独身。人類粛清のために小惑星アクシズを地球に落とそうとしたが
    アムロに阻まれて失敗し、アクシズに取り残された。
    英雄の器の男だが、サバイバル生活ではてんで役立たず。
    プルたちにちょっかいを仕掛けてはアムロに制裁される毎日。でも幸せ。
アムロ:このスレの良心。29歳独身。シャアに人生を狂わされている元機械オタのヒッキー。
    腐れ縁が続いて一緒にアクシズで漂流生活を送る羽目に。
    技術力を生かして今日もアクシズのどこかで修理作業中。
プル達:ニュータイプの少女エルピー・プルをベースにグレミー・トトが兵器として作り出した
    12人のクローン。肉体年齢は10歳。
    プルA〜Lとぞんざいな命名でモルモット扱いされていた上に、
    アクシズの冷凍睡眠カプセルに6年間も放置されていた。
    漂流中のシャアとアムロに解放され、騒々しくも平和な毎日を送っている。

3 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/03 07:41 ID:pMe0UcIA
プルA…普通の「プル」の性格。いつかチョコパフェ食べたいな。
プルB…普通の「プルツー」の性格。たまには一人になりたくて散歩します。
プルC…おとなしくて無口。恥ずかしがりや。お裁縫はじめました。
プルD…オヤジっぽい。豪快の笑ったり人情話で泣いたり。はっきり物を言う。
プルE…無口無表情。ア○ナミ系。ママに潜在的甘えッ子。
プルF…辛口お姉さん系(セイラ風)。優しさ装いつつトゲがある。
プルG…普通の「プル」の性格だが、男言葉で喋る俺女。Eと仲良し。
プルH…やり手の電波娘。NT能力12人中最強。実は策略家か!?
プルI …マジメで理路整然と喋る。シャアと日夜壮絶なディベートを繰り広げるプチギレン
プルJ…軍人気質。シャアを「大佐」と呼ぶ。そして不器用に大佐ラブ。
プルK…人当たりがよく落ち着いている(ミライ風)。誰に対しても敬語で喋る。
プルL…怖がりですぐに泣く。末っ子系。マイナス感情に敏感。
ハロ…度重なる改造を加えられ、今その機能を正確に把握してるのはアムロのみ。
アムロ…前スレでめでたく30歳になりました。
    おさんどんに繕い物、メカのメンテナンスまで引き受ける漂流一家の大黒柱。
    ママと呼ばれると引きこもります。
シャア…前スレでめでたく35歳に(ry。この歳にして手に入れた
    友人と幼女に囲まれた生活に、人生をやり直している気分との発言も飛び出す元総帥。
    でもアクシズ弾劾裁判だけは勘弁な!

4 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/03 10:45 ID:???
プル?「お誕生日おめでとうございます・・大佐・・」

5 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/03 18:32 ID:???
新スレおめ

6 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/03 20:54 ID:???
あげます

7 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/04 01:03 ID:???
>>4
新スレ迎えるたびに「お誕生日おめでとう」はいいかもしれない

8 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/04 19:31 ID:???
>7
(゚∀゚)イイ!
お誕生日おめでとー!

9 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/04 20:14 ID:???
このスレならではの祝い方だね
お誕生日おめ!

10 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/04 22:26 ID:???
前スレが豪華な事になっていてドッキドキ
レス数がもったいないのでこちらに書きまふが

11 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/04 22:45 ID:???
漏れもレスすんの控えて見守り中
ダメ男スレ名物だな、終了間際の大作大放出

12 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/05 00:13 ID:???
同じく見守り中だけど、ひとまず職人さん乙。

>ココアですか?
>どうもありがとう、頂きます・・・。
>これ、美味しいですね。何か隠し味でも・・ああ、内緒ですか(笑)。
ココアの隠し味って、アレですか...

13 名前:月光蝶 :03/12/05 21:08 ID:???
長いのは書き終わってこっちに引越し(次を書くのはもうちょっと経ってから・・)。
(直したいところが多いな・・・ログサイトにUPしたら、切り出して直すか・・・)

>>10-12
ども!
>>12
・・・アレとは・・どのアレでしょう(笑)。
(実は昔ヒゲのスレのロ○ンたんがココアを入れる名手だった事から来ています。
あまりの名手ぶりに、なしでは毎日が立ち行かない人もでたとかで・・(笑))。

・前スレに投稿中の「災いを・・・」が超期待の展開でワクワク。

・そうそう、前スレで「月は地獄だ!」を書いた時に計算した数字を、ついでにUP。
参考計算:
地球からの脱出速度:11.24km/s
地球から金星軌道までの距離:約0.3AU
脱出速度を持ったまま金星軌道まで達するまでの時間:51日
金星の位置が好適であった場合、追いつくまでに必要な時間は軌道到達とほぼ同じ。
位置が不適である場合、金星が来るのを待つか、逃げる金星に追いつかねばならない。
(ある程度近づくと、重力によるホーミング効果が働く)
金星に追いつくまでに移動しなければならない最大距離(概算):0.7*2*3.14 / 2AU = 2.2AU≒339日
スイングバイが出来、なおかつ木星に向かって加速できる条件はこの間のどこかにある。
木星の軌道半径:5.2026AU
脱出速度を持ったまま木星軌道に達するまでの時間:803.58日≒2.2年
なんと、本当にアクシズは木星に到達してしまう事がわかった。
最初に3年の期間を設定した人に敬礼。
2.2年という期間に付いて言えば、3つの条件によりこの期間が3年になる可能性は十二分にある。
(1)アクシズは地球の軌道から太陽方向に向かったはず(CCA小説版の記述による)なので、木星に向かう距離には木星の軌道半径に1天文単位足さなければならない。
この場合、単純計算でもアクシズの移動時間は958.04日≒2.62年まで延びる。
(2)宇宙空間に直線的な移動経路はない。アクシズは太陽方向へ向けてゆっくりと落下していたと考えられるが、その前はラグランジュ点のどれかに沿って地球の軌道を回っていたはずなので、その軌道はベクトルが合成された楕円となる。
つまり移動経路は直線的なものよりも伸びる。
(3)金星によるスイングバイ後は速度が一時的に高まり、木星到達前は太陽による緩慢な減速を受けて速度低下する事を考えると、3年という到達期間は十二分にありえるものとなる。
木星の重力と脱出速度は遥かに大きいため、木星に首尾よく接近できれば、それ以上減速しなくてもアクシズは軌道に入れる可能性大。

まじですた。

14 名前:12 :03/12/05 22:49 ID:???
>>13
すまない。
ちょうど↓を見たばかりだったんで、脳内で勝手に結び付けてた。
ttp://up.2chan.net/p/futaba.php?res=61417

ここ数日、職人さん達には楽しませてもらってる。
個別に感想は述べないけど、今後も負担にならない範囲で
ゆるゆる頑張ってください。

15 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/05 23:09 ID:???
>>14
(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル


ココアにはバターを入れると美味しい隠し味ですよ。こってり。

16 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/05 23:26 ID:???
>15
,r'⌒⌒⌒'、      
( ミ""メ""ミ )
ヾ ▼∀▼ノ 
 / ヽ¥ /ヽ つ〃∩ ヘェーヘェーヘェー

17 名前:15 :03/12/05 23:51 ID:???
あたしゃ山田詠美の小説で初めて知った飲み方なんですが
今検索したらこんな大人向けの飲み方もあるみたいすね。

http://www.recipe.nestle.co.jp/recipe/00732.html

18 名前:15 :03/12/05 23:56 ID:???
ぎゃあ間違えてるし

ttp://www.din.or.jp/~t-nanai/harry/o-recipe.htm
しかもよく見たらアルコール入ってないし
名前だけですね。

25 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/07 10:25 ID:???
>24
年 中 無 休 の

  ◯
   ヽ ̄\                        /⌒⌒>◯
   /☆ ヽ     Å                 /@   <
   (二二二)    ⌒⌒ヽ              (二二二二)
  ( I ノ|ノ)从) ( D ノ|ノ)从)    ⌒⌒ヽ     ( Cノ|ノ)从)
  ノノ *`∀´ノ   ||=@Ω@ノ  ( J ノ|ノ)从)__   ‖*^ワ^ノ <帽子作ったから、サンタも出来るよ!
   丿~ † ~ヾ   丿 ~ † ~ヾ  /|| ;*゚Д゚ノ /\ 丿~ † ~ヾ
  ん  八  )  ん  人  )/| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|\/ ん  人  )
   んU〜Uゝ   んU〜Uゝ  | For 大佐 j/   .んU〜Uゝ
                   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               ア ク シ ズ 弾 劾 裁 判!

||=@Ω@ノ<ジングルベール、ジングルベール♪
|| ;*゚Д゚ノ<…なぜ私だけリボンだけでいるのか教えてはもらえないのか?
ノノ *`∀´ノ<「トロイの木馬」。

26 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/07 14:46 ID:???
J 釣り餌かよ!

27 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/07 19:34 ID:???
大佐に私をプレゼント、ということですね?

28 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/07 21:28 ID:???
,r'⌒⌒⌒'、      
( ミ""メ""ミ )
ヾ ▼∀▼ノ  < フフフ 私は幼女ならいつでも大歓迎だよ。

29 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/07 21:32 ID:???
>>28
   ⌒⌒ヽ 
( J ノ|ノ)从)
 || # ゚Д゚ノ <相手は誰でもいいなんて…フケツです、大佐!

30 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/07 22:30 ID:???
Dよ、鼻眼鏡か…

31 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/07 22:37 ID:???
>>前スレ977
(ノД`)

32 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/07 23:09 ID:???
久しぶりのモンティネタだぁ

懐かしネタ繋がりで
クリスマスシーズンにスパムギフトセットをどうぞ
ttp://www.spamgift.com/Default.aspx

33 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/07 23:56 ID:???
>額に肉
 そういや、シャアもされたんだろうかw 以前投下した伝言板ネタでHが悪戯しようとしたネタ投下したんだが。
おでこの 『メ』傷に書き足しでできそうだw


34 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/08 00:43 ID:???
>30
   Å 
   ⌒⌒ヽ 
 ( D ノ|ノ)从)
  || *´∀`ノ <当たりだよ。
  丿 ~ † ~フつ=@Ω@


35 名前:コンバット :03/12/08 07:23 ID:???
>33
      r'⌒⌒⌒'、
     (ミ""肉""ミ)
     ,ヾ∩Д▼ノ
    /(_ノ¥ィ \
  ⊂こ_)__)`ヽつ

36 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/08 22:37 ID:???

>28


        丶     r'⌒⌒^'、
         ヽ\\ヽ(m#νy'ソ/m)//
         \ (m ヽ(#゚ー゚ノ/m)/
          丶\(m\  m)//
           (m\(m (m m)/
              ( (m /ノハλ)
           ミヘ丿 ∩#∀▼||l
            (ヽ_ノゝ __ノ 

54 名前:災いを呼ぶもの・後篇(1/9) :03/12/13 21:21 ID:???
宇宙世紀0100 12/31 22:17
月面 フォンブラウン市

『今日は地球圏全域で新世紀を祝う鐘を鳴らすというイベントが予定が予定されています。
この企画は初めコロニー間で……』
 テレビに飽きたのだろうか。その顔にどこか影を残した男は立ち上がると窓際へと足を
向けた。カーテンを開けるとすぐに中心街の夜景が目に入ってくる。
 紹介された物件の中では郊外に位置し、やや不便といえるこの家を選んだのはこの夜景
を見たいがためだった。
 だが何よりドームという人工的な環境ながら自然の大地という存在を感じることの出来
る月面都市というあいまいな環境は、地球とコロニーどちらにも属すことは無いであろう
自分に合っていると思える。
 そんなことを考えながら窓の外を眺めていると、車のライトが近づいてきた。徐々に速
度を落とした車はどうやら家の前で停まったらしい。
――やっと来たかな?
 間を置かず玄関のベルが鳴り、カミーユは自分の考えが正しかったことを知った。

55 名前:災いを呼ぶもの・後篇(2/9) :03/12/13 21:23 ID:???
「すまない、遅くなってしまって」
「お久しぶりです。ブライトキャプテン」
「はは、キャプテンはよしてくれ、カミーユ」
「カイさんはもう来てますよ。さあ、どうぞ中に」
 ベルの音に気づいたファも奥から出てくる。
「こんばんわブライトさん、ミライさん。チェーミンも元気そうね。その服よく似合って
るわ」
「えへへ、ありがとうファさん」
 大人びた服を着ているが、まだどこか子供っぽさが残っているチェーミンが照れる。
「……ハサウェイは?」
 一応ドアの外を確認したカミーユが尋ねる。
「あいつは地球にいるそうだよ。あまり宇宙にはあがりたくない……そう言っている」
「……そうですか」
 それを聞き、残念そうな顔になるカミーユ。
 シャアの反乱終結の後、ひどい虚脱状態に陥っていたハサウェイが唯一心を開いた話相
手がカミーユであり、ハサウェイがそれなりに回復し地球に降りた後も連絡を取り合って
はいた。しかし最近になって再び塞ぎこんでいる様子を感じたカミーユは、直接会って話
をしたいと思っていたのだ。
「すぐに食事の準備しますね。皆さんは部屋でくつろいでください。カミーユ、案内して
あげて。ちょっと聞いてるの?」
「わ、わかった」
 物思いにふけっていたカミーユが慌てて答える。
「私も準備を手伝うわ」
「あ、わたしも」
 ファと一緒にミライが歩いていき、チェーミンもその後を追った。

56 名前:災いを呼ぶもの・後篇(3/9) :03/12/13 21:24 ID:???
「よう、久しぶりブライトさん。悪いが、先に一杯やってるよ」
 部屋に入ってきたブライトを見るなり、相変わらずの白いスーツを着たカイがグラスを
かかげる。
「元気そうだな。随分と忙しいようじゃないか」
「ま、それはお互い様だろ……例の件、調べてみたぜ」
 カミーユが席を外すのを見たカイが深刻な表情になる。
「すまない。で、どうだった」
「あんたの予想通りだ」
「ジュピトリス4の件ですか? ロンド=ベルが救助活動にあたったそうですね」
「カミーユ!?」
 そこには両手に水割りの入ったグラスを持ったカミーユが立っていた。
「どうぞ、ブライトキャプテン」
 差し出されたグラスをブライトは黙って受け取る。できることならばカミーユには聞か
せたくない話だった。カイにしてもそれは同じことであり、うかつに話を始めてしまった
自分の迂闊さを呪う、
「ニュースでは遠めからの映像しか写りませんでしたけどね。戦闘があったことは一目瞭
然ですよ。ネオジオンの残党ですか?」
「いや……それがな」
 言いよどむカイ。このまま続ければ最も聞かせたくない話題に触れなくてはいけないだ
ろう。だがもう隠し立てできないと諦める。
「どうやら襲ったのは連邦軍だったらしい」
「そんな!」
「思い過ごしであって欲しかったが……」
 最悪の予想が現実となってしまい、ブライトの声も沈みがちだ。

57 名前:災いを呼ぶもの・後篇(4/9) :03/12/13 21:26 ID:???
「どういうことなんです! 連邦軍が海賊まがいの行為をするなんて」
「ジュピトリス4の事故と時を同じくして、連邦のある艦隊がほぼ全滅に近い被害を受け
た。それもサイド7近海でだ。この部隊、黒い噂が絶えなくてな。非合法な手段を使い反
連邦組織鎮圧にあたっているらしい」
「ま、ティターンズの血は未だ絶えていないってことだな」
 カイが吐き捨てるように呟く。
「そういう部隊だから配備されていた戦力も相当なものだ。ロンド=ベルをも上回ってい
るかもしれん。それが壊滅的打撃を受けた。同時期にジュピトリスも襲われている。まさ
かと思いカイに調査を依頼していたというわけだ。万が一おれの杞憂だったとしても、そ
れは見過ごすことのできない戦力をもった未確認勢力が存在しているということだしな」
「でも一体なんだってジュピトリスなんかを攻撃するんですか!? 木星公団に反乱の兆し
があったとでもいうんですか!」
 遂にこの時が来たか。カイは憂鬱な気分になる。その名前を聞いたときのカミーユの反
応が目にみえるようだった。
「狙いはジュピトリスに乗っていた男の暗殺だったらしい」
「それだけのためにジュピトリスを襲ったんですか!? 馬鹿げてる!」
「……その男がシャア・アズナブルだったとしたら」
「確かなのか!?」
 意外な男の名前に二人は驚きを隠しきれない。特にカミーユの衝撃は大きかったのだろ
う。その顔は青ざめてみえる。

58 名前:災いを呼ぶもの・後篇(5/9) :03/12/13 21:26 ID:???
「戦闘中、専用モビルスーツの姿も確認されたらしい。これだ」
 そういってカイが上着の内ポケットから一枚の写真を取り出す。写真はモノクロでさら
にノイズまじりの見づらいものだったが、そこにはジュピトリスとおぼしき船体をバック
にしたサザビーの姿があった。
「噂によると強化人間を数人引き連れていたらしい」
 強化人間という言葉を聞いたカミーユの表情が苦しげに歪む。
「なんということだ」
 ブライトもショックを隠さない。
「それでシャアの消息は」
「行方不明……地球圏に潜んでいる可能性は高いな」
「ようやくネオジオン残党の活動が終息の兆しをみせてきたというのに!」
「どうしたの? カミーユ」
 応接間に顔を出したファが沈んだ雰囲気に気づき、カミーユに尋ねる。
「……なんでもないよ。ファ」
 とてもそうは思えないカミーユの表情にファの顔が曇る。
「ならいいんだけど……食事の準備できたから、運ぶの手伝ってくれない」
「ああ」
 暗い表情のまま部屋を出て行くカミーユにファは言葉をかけることが出来なかった。

59 名前:災いを呼ぶもの・後篇(6/9) :03/12/13 21:27 ID:???
 食事が始まっても、カミーユは塞ぎこんでいた。
 話かけられれば会話に参加するのだが、すぐに何かを考えこんでしまう。そのあまりの
落ち込み様に場の雰囲気も必然的に重いものとなる。
 困ったファが、それでもカミーユに話かけようとしたその時ベルが鳴った。
「おれがいくよ」
 少しの間でも自分がいないほうがいいと思ったのだろう、カミーユが立ち上がり玄関へ
と向かった。
「すみません。せっかく来ていただいたのに」
 ファが頭をさげる。ブライトが気にするなというように首を振る。
「いいんだ。カミーユの気持ちも良く分かる」
「悪い。おれが迂闊だった」
 カイもうなだれている。
「一体何があったの? あの落ち込み様は普通じゃないわよ」
 カミーユの姿が何故かハサウェイに重なって見えたミライが心配するが、ブライトたち
はただ首を横に振るだけだった。
 シャアの反乱を知ったときのカミーユが、まさにあんな感じだったとファは思いだす。
 怒り、そして悲しんでいたカミーユにかける言葉が見当たらなかったあの時、結局解決
したのは時間だった。ファは何も出来ない自分をもどかしく感じる。
 皆が黙ってしまい、チェーミンが困った顔になる。どうしようと辺りを見回していると、
箱を一つ抱えて困惑の表情を浮かべたカミーユが戻ってきた。

60 名前:災いを呼ぶもの・後篇(7/9) :03/12/13 21:28 ID:???
「ケーキの宅配だった」
 首をかしげながらカミーユがファを見る。
「わたし頼んでないわよ。だれから?」
「『古い友人とその娘たち』だってさ。心当たりありますか?」
 困ったカミーユはブライトたちにも尋ねるが、全員首を横に振る。
「とりあえずあけてみない」
 チェーミンの提案。箱の中身は確かに確かにケーキ、それもおそらく手作りのチョコ
レートケーキであり、その上には一枚のグリーティングカードが添えられていた。カイは
カードを手に取り、中を見る。
「なんだい、こりゃ?」
 カイがカードをみんなに見せる。中には妖精たちと一緒に歩いている二人の騎士のイラ
ストと『Happy New Centyury!』の文字が描かれていた。
「あら可愛らしいじゃない」
「ほんとですね」
「でもこの二人の騎士、妖精たちに連れまわされているようにも見えない?」
 どうやら女性陣には好評らしい。その姿をブライトとカイは呆れて見ている。同意を求
めるようにカミーユを見た二人は、食い入るようにカードを見つめるカミーユに気づいた。
 しばらくの間カードを見つめたいたカミーユだったが、呪縛が解けたかのようにふっと
微笑む。
「いきなりどうしたの、カミーユ?」
 ファが会話を止めてカミーユに声をかける。
「いや、なんか懐かしい感じがしてさ。どうしてだろう。いないはずの二人がすぐ傍にい
るような気がするんだ」
「二人って?」
「アムロさんと……クワトロ大尉」
「カミーユ……」
 ファはカミーユがその名を口にするのを久しぶりに聞いた。アクシズ落とし以来『シャ
ア』または『あの人』としか呼んでいなかったし、それすら口にすることはまれだった。

61 名前:災いを呼ぶもの・後篇(8/9) :03/12/13 21:28 ID:???
「ごめんな心配かけて。もう大丈夫だから」
 まだ心配そうに見つめているファをカミーユが気づかう。ファいつもと同じカミーユの
笑顔を見て、ようやく安堵する。
「赤い彗星が自ら災いを呼ぶことはないです、きっと」
 カミーユの言葉に驚くブライトとカイ。カイは納得できないとばかりに反論する。
「ニュータイプの感ってやつかい? その気が無くても赤い彗星は騒ぎの元だぜ」
「彗星を見て騒ぎたてるのは、いつだって周りの人間たちですよ。そっとしておけばいい
んです」
 ミライとファはカミーユが落ち込んでいた理由をなんとなく察する。二人にとっても赤
い彗星の名は忘れることのできないものだった。
「それよりこのケーキどうするの? せっかくだから食べようよ」
 唯一シャアと直接の関係を持たないチェーミンだけはケーキが気になって仕方が無いよ
うだ。脳天気な娘の言葉にブライトは頭を抱える。
「おいおい。大丈夫か? 毒でも入ってたら厄介だぞ」
「だーいじょうぶよ、父さん。私を信じなさいって。いいよね、母さん」
「そうね。古い友人からの贈り物ですもの、ありがたく頂きましょう」
 女性たちはケーキを持ってキッチンへと向かう。
「恐るべしは甘いものを目にした女の感か……」
 しょうがないといわんばかりにブライトが首を振り、そしてカミーユを見た。
「吹っ切れたのか」
「大尉のしたことは許せませんよ」
 はっきりとカミーユが言った。ブライトとカイは黙ってその先の言葉を待つ。

62 名前:災いを呼ぶもの・後篇(9/9) :03/12/13 21:29 ID:???
「隕石落としは許されない罪です。いつだって大尉は全てを自分で抱えようとしていた。
その結果があの愚行だと思ってます。でも誰かがあの人の傍にいたら止められたかもしれ
なかった。それは自分の役割だったかもしれない。そう思わない日は無かったです。自惚
れ……ですかね」
 カミーユが目を伏せる。そんなカミーユの肩にブライトが優しく手を置いた。
「クワトロ大尉はカミーユをかっていた。それは確かだ」
 ブライトもごく自然にクワトロ大尉と呼ぶ。それを聞いたカミーユが一瞬安心したような表情を浮かべる。
「大尉はずっと導き手を求めていたのかもしれない。そして、ついにそれを見つけること
が出来た。そんな気がするんです」
「導き手ねぇ、あの男がそんなタマかい?」
 納得していない顔で腕を組むカイを困ったようにカミーユが見る。
「もっと単純に考えればいいんですよ。人は一人では生きられない。そういうことです」
「へへ、一人身のおれには縁遠い話だね」
「とりあえずその趣味の悪いスーツを替えることから始めたらどうだ」
「な!? こいつはな、バチカンに……」
 ブライトに反論しようとしたカイの言葉を鐘の音がさえぎる。その音色はフォンブラウ
ン市全土に響き渡っていた。どこからか歓声とクラッカーを鳴らす音も聞こえてくる。
「いつのまにか年が明けていたみたいですね」
――新世紀を告げるこの音を二人もどこかで聞いているのだろうか。
 徐々に小さくなっていく鐘の音を惜しむようにカミーユは目を閉じた。
 エマ、ヘンケン、レコア、トーレス、アストナージ、ハヤト、カツ、サラ、フォウ、ロ
ザミィ。懐かしい人たちの顔が現れては消えてゆき、最後にアムロとクワトロの姿が浮か
んでくる。何故かどこかであった気がする少女たちに囲まれ笑っている二人は照れている
ようでもあり、誇らしいようでもあった。
――いつか会える日が来るさ。
 突然の予感。だがカミーユにとってそれは確実なことに思えた。

63 名前:災いを呼ぶもの・番外編(1/2) :03/12/13 21:33 ID:???
???
「……というお話だったとさ」
???
「納得いかないよ、兄さん!」
???
「なにがだ、オルバよ」
オルバ
「あの黒いガンダム、僕のヴァサーゴのパクリじゃないか! それになんだいこの装備!
隠し腕にガトリングガン? こんなでたらめなモビルスーツ、スーパーロボット大戦にだ
って出てきやしないよ。あげくにはユニットをミサイル代わり? Vガンダムの見すぎだ
ね。まったく作者の正気を疑うよ」
シャギア
「まあそういうな。かよわいオールドタイプがニュータイプを倒すために必死に考え出し
た知恵とほめてやろうじゃないか。まあ隠し腕で鷲掴みなどという行為は私の美学には反
するがな」
オルバ
「……兄さん。それは遠まわしにヴァサーゴをけなしているのかい」
シャギア
「そんなことあるわけ無いだろうオルバよ。ヴァサーゴは遠距離移動時の足として必要な
大事なガンダムだ」
オルバ
「なんか引っかかるけどまあいいや。あとはこれさ。モビルシップ? こんなものが何で
ジュピトリスにあるのさ」

64 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/13 21:33 ID:???
リアルタイムでキター!!職人さん乙。感想は後でゆっくり書かせてもらいます。

65 名前:災いを呼ぶもの・番外編(2/2) :03/12/13 21:34 ID:???
「木星との行き来をする船が一隻だったはずもあるまい。途中ですれ違う長距離航行艦同
士の連絡船代わりだったとは考えられないか。もちろん惑星間航行速度を出している船に
ランデブーするのだ。加減速のために大量の推進剤を積んでいたはず。いわば高加速艦と
でもいったところか。連邦も最大加速をしたシャアたちのモビルシップを補足するのは難
しかっただろうな」
オルバ
「だったら小型戦闘艦とでもいっておけばいいじゃないか。どんな理屈をつけたってだめ
だね。結局はモビルシップという名称を使いたかったのさ。これだから長谷川信者は困る
ね。クロスボーンガンダムなんて所詮黒歴史にすぎないのにさ」
シャギア
「……」
オルバ
「お、怒ったのかい兄さん」
シャギア
「ちなみにプルたちの乗っていたモビルシップはアクシズと呼ばれていたそうだ。彼女た
ちのいる場所は常にアクシズ。泣かせる話じゃないか。私も弟ではなく、愛くるしい妹が
欲しいものだな」
オルバ
「ごめん、悪かったよ兄さん。長谷川漫画は最高さ! この『逆襲のギガンティス』! ガンダムとイデオンのコラボレーションなんて狂ったアイデア、常人は考えないよ! そ
れに女性キャラはすぐに脱がす。しかも胸の小さい女の子が好みなんてもうまさにロリ……。
あ、どこに行くんだい!? 兄さん! にいさぁーーーーーん!」

72 名前:題:シャア大佐の真っ赤な一日(1/7) ◆TZWOODBO6Y :03/12/14 23:55 ID:???

これは私がアクシズの「とある」場所を「とある」時にアムロに作らせた
シャア専用スクーター(赤いだけで実際は宇宙世紀以前の性能しか無いが)で
走ってたとき…。

ヾ,, ノ!⌒i二二,,'O=~:.δ,,;二,!⌒i二二二;' ;。ρ二二!⌒i二二二, O二二二!⌒i
,, ;;',')|  |;;ρ;''";:,,;;:,ρ,~'"'’';;  |ρ;,, :,:';;;'~/;,'"';:;:';;  |;;:ρ;''",,;;i ρ,~'';''|  |
;;,,'), '|  |ρ;,'',o ; ,,.;i'`Y,゚;:,;;'|  |;'`y,'), ,ρ''",o ;;,..';;'|  |;'`!,,,',, ρ''",o ;;,..';;'|  |
,i'"'; ,| O,ハ,二_),'' 二二二二| ,o|二二ヽi 二二二二| ,o|二二二ヽノ二; 二|  |
_,;"i'__',i/;;,.ヽ,O`y,'_;i'’';;,,'i,,.__,,'ノ';;,,_____,'';;,,')___,'''_';_;:,i'' ,,|;;'’';;,__,';i'’';;,"'’';;,,',' 、。
/,.__,./,.__,/,.__,/,.__,./.__,./,.__./ー'',./,.__./,.__,./.__,./,.__./ー''./.__,./,.__,./,.__,./.__,/ー''_,.
i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.
i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.i,,.__,.
"'''"''"”'"''"''"''"''’''"''"”'"''"''"''"''’"”'''"''"”'"''"''"''"''’"”'''"''’" ''"''’" '"”' '"”'
                     γ⌒⌒⌒ヽ
                    ( ミ""メ""ミ )
                     ▼∀▼ ソ ロ・リ・イ・タ!ワタシ〜ハロリ〜コ〜ン!
                  ((=(lil))O_____) ロ・リ・イ・タ!ワタシハアブナイオニイサ〜ン♪
                   ┘└、,, .__ノ/~ ̄l ≡=-
                   | ||  |(/ //    l ≡=-
                  ∠二)、ヽ /___|] ≡=-
                  ゝ_ノ ̄ ̄   ゝ_,,,ノ BURRRROOOOON...

73 名前:題:シャア大佐の真っ赤な一日(1/7) ◆TZWOODBO6Y :03/12/14 23:56 ID:???

ふとそこに、ステレオが投げてあったのに気づいた。

                     γ⌒⌒⌒ヽ
                    ( ミ""メ""ミ ) /
                     ▼∀▼ ソ  
                  ((=(lil))O_____)  \
                   ┘└、,, .__ノ/~ ̄l
                   | ||  |(/ //    l
                  ∠二)、ヽ /___|]
                  ゝ_ノ ̄ ̄   ゝ_,,,ノΣ キキィッ


    ,________,__.     
  / /     / ./i     
  | 三 |二二二二| 三 |;;;;|
  | ◎ |li≡≡ilWl | ◎ | / 
  ~ ̄ ̄ ̄ ̄~ ̄ ̄~ ̄″

74 名前:題:シャア大佐の真っ赤な一日(1/7) ◆TZWOODBO6Y :03/12/14 23:56 ID:???

見た目は相当の旧型だが…改造でもしてあったのだろうか、
今現在の圧縮形式でも再生可能のようだ。
プル達も喜ぶだろうし、持ち帰ることにした。

                 
                    
                      
                  ((=(lil))   .__
                   ┘└、  (  ̄ ̄l
                   | ||  |  //     l
                  ∠二)、ヽ /___|]
                  ゝ_ノ ̄ ̄   ゝ_,,,ノ BURRRRO.....

       γ⌒⌒⌒ヽ
      ( ミ""メ""ミ )
    ,____▼∀▼ ソ コレハイイモノダ  
  / /   ∪ ∪ ./i     
  | 三 |二二二二| 三 |;;;;|
  | ◎ |li≡≡ilWl | ◎ | / 
  ~ ̄ ̄ ̄ ̄~ ̄ ̄~ ̄″

75 名前:題:シャア大佐の真っ赤な一日(1/7) ◆TZWOODBO6Y :03/12/14 23:57 ID:???

皆に見せる前に、私も長らく聴きたい音楽があったのでまず私が自室で使用する。
…やはりこの曲は名曲だ。
まあ、アクシズ内にあるCPU端末でも聴けん事も無いがやはりステレオは音質が違う。
しかもこれはステレオの中でもかなり高性能の部類だ。
どうやら古いのは見た目だけのようだったな。
                                           |
                                           |
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 ||―‐(⌒⌒)---||         .                      |
 |,ノ´ ̄´⌒⌒⌒`ヽ、         ,__________  ..|     
  ノ          ヽ、____./ /     / /i  | 
 ヾ  ノ            ヽ,    | 三 |二二二二| 三 |;;;;|.....|
   ゝ.  「| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄「| .| ◎ |li≡≡ilWl | ◎ | /   \
    ヽ,,ノ|」――――――|」 ~ ̄ ̄ ̄ ̄~ ̄ ̄~ ̄″     \   

               /  ビィームカガヤークflash backニィ〜 \   
              /ヤツノカゲ♪シャア!シャア!シャア!チャチャッチャチャーン!! \
     .    ,r'⌒⌒⌒'、
      〃∩( ミ""メ""ミ )
      ⊂⌒ヾ,▼∀▼ノ 〜♪
        `ヽ_つ ⊂ノ  
          

 

76 名前:題:シャア大佐の真っ赤な一日(1/7) ◆TZWOODBO6Y :03/12/14 23:58 ID:???

…だがその時!!
                                           |
                                           |
                                           |
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                                           |
 ||―‐(⌒⌒)---||         .                      |
 |,ノ´ ̄´⌒⌒⌒`ヽ、         ,__________  ..|     
  ノ          ヽ、____./ /     / /i  | 
 ヾ  ノ            ヽ,    | 三 |二二二二| 三 |;;;;|.....|
   ゝ.  「| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄「| .| ◎ |li≡≡ilWl | ◎ | /   \
    ヽ,,ノ|」――――――|」 ~ ̄ ̄ ̄ ̄~ ̄ ̄~ ̄″     \   

                 /  ナガシターチシーブキー \   
             
     .    ,r'⌒⌒⌒'、
        ∩( ミ""メ""ミ )
      ⊂⌒ヾ;▼Д▼ノ Σガチョーン
        `ヽ_つ ⊂ノ  
          

         ガチャ   _________________________
     /⌒⌒ヽ   /
    (Gミ彡ソミ) .. | あれ〜?なんかでけえ声で歌ってると思ったらそんなんが?
     ノノヽ__ソ||゚ノ < 拾ってきたの?…にしてもさあ、その趣味の悪いダサイ音楽やめなよ。
             | 正直俺までハズイよ〜。
             \__________________________

※ アクシズは全て自動ドアだと思われるので、この効果音「ガチャ」はおかしいんですが…。
   演出上、ということで。

77 名前:題:シャア大佐の真っ赤な一日(6/7) ◆TZWOODBO6Y :03/12/14 23:59 ID:???
                                           |
                                           |
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                                           |
                                           |
 ||―‐(⌒⌒)---||         .                      |
 |,ノ´ ̄´⌒⌒⌒`ヽ、         ,__________  ..|     
  ノ          ヽ、____./ /     / /i  | 
 ヾ  ノ            ヽ,    | 三 |二二二二| 三 |;;;;|.....|
   ゝ.  「| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄「| .| ◎ |li≡≡ilWl | ◎ | /   \
    ヽ,,ノ|」――――――|」 ~ ̄ ̄ ̄ ̄~ ̄ ̄~ ̄″     \   

                 /  アトデアトデフケ〜♪ \   
             
     .    ,r'⌒⌒⌒'、
        ∩( ミ""メ""ミ )
      ⊂⌒l|l▽Д▽ノ ………
        `ヽ_つ ⊂ノ  
          

         ガチャ   _________________________
     /⌒⌒ヽ   /
    (Gミ彡ソミ) .. | あれ…どした?ねえ、ねえ、ねえ、………俺、ヤバイ事言った?
     ノノヽ__ソ|;゚ノ <
             \__________________________

78 名前:題:シャア大佐の真っ赤な一日(7/7) ◆TZWOODBO6Y :03/12/15 00:00 ID:???

〜それから〜
                  
                 [通常の3倍の部屋]
                  .________.
                  |             |
                  |             |
                  |             |
                  |             |
                  |             |
                  |             |
                  |             |
                  |             |
                  |             |
____________|_______________|______________

    / ̄ ̄フ^'、    ∫   _________________________
   ∠ソrνyy'ソ   ∬  /
     ヾvvソ;゚ノ  ρ  < おい!シャア!何があった!もう3日も出てきてないぞ!     
     /,/ ( つ⊆二⊇  | いくらお前だからって流石に俺も心配になるぞ!
    (((((( ,/)   .     |  まさかまたよからぬ事を企んでいるのか!?
      しし'   .. .. . .|  …あ、いや、とりあえず何か食え!スパムが嫌なのは分かるが!!
              .  \__________________________

◎プルGの日記

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
もう二度と俺、人が聴いてる音楽を「ダサイ」なんて言わない。
だから出てきてくれよ。ワルカッタヨ…。

  

83 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/16 00:09 ID:???
>>82
 / ̄ ̄フ^'、   
∠ソrνyy'ソ      
  ヾ ゚д゚ノ< アムロ〜振り向かない〜で〜♪ 宇宙の〜彼方に〜輝く星ぃ〜はぁ〜♪          

84 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/16 00:17 ID:???
そして夜中に機械いじりながら、朗々と歌い上げるわけだ
ヾ `Д´ノノ<アムロ〜振り向くなぁアムロおおおお〜〜♪


‖;´Д`ノ<うるさいよぅ、眠れないよぅ


85 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/16 00:33 ID:???
このオッサン2人はどうしようもないなあ(w
プルたちはサイレントヴォイスをコーラスするのかな
んんんあああああああっ
聞きたい聞きたい!
アムロとシャアとプルズの合唱が聞きたいよー!!

86 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/16 00:35 ID:???
アムロ本人が歌うと
力いっぱい自分を励ましてる歌になるな
疲れてるのか?w

87 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/16 00:39 ID:???
ノノ *`∀´ノ ‖*´ー`ノ  ‖*^ワ^ノ <星が〜降りしきるペントハウスで〜

88 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/16 00:47 ID:???
みんなで合唱したら、

ヾ;゚д゚ノ‖*^ワ^ノ|||▽Д▽ノ<スパム、スパム、大好きスパム、ステキなスパム、ラブリースパム、ワンダフル・スパム〜♪



89 名前:ハタラクマスコット1/2 :03/12/16 02:07 ID:???
俺の名前はハロ5−タイプT、通称トラハロ。
・・・まあ、好きなように、呼んでくれ。

視認性に優れた黄と黒のカラーリングと、いくつかの特殊な機能を
持ってはいるが・・・まあ、他のハロと大した違いがあるわけじゃない。

アクシズで働く他のハロと同様に、人間達を守るのが俺の仕事だ。
具体的には、居住区を巡回し、人間にとって危険な兆候が無いか
調べ、危険があれば、可能な限り、それを排除する。
排除が不可能な場合は、直ちにマスターに警報を送信、
その場に留まり、危険区域に入り込もうとする者に警告を発する。
・・・なかなかハードではあるが、それ以上にやりがいのある、
素晴らしい仕事だ・・・俺は、この仕事に誇りを持っている。

いつものように巡回をしていると、今朝方、A−2ブロック、
第二展望台で、危険なひび割れを発見した。
全天を覆う一面の星の海、そことの境界は、強化ガラスの
ご機嫌しだいで、簡単に破られてしまうだろう。

俺達とは違って、人間は、空気が無いと生きていられない。
それでなくても、この宇宙空間では、壁に小さな穴があいただけで、
部屋中の物が全て、空気と一緒に噴出して行ってしまう。
行きつく先は、漆黒の闇の彼方・・・何万マイルも続く、
永遠の死の空間だ。
いつ、空気が無くなってもおかしくないここは、
相当なレベルの危険区域というわけだ。

だが、今の所は問題無い・・・全天の星は、とても、とても美しい。
ほんの小さな穴があく「かもしれない」というだけで、
この景色を見られなくなるとは、人間は、本当に可哀相な生き物だ。
俺達が、しっかり面倒をみてやらないといけない。

90 名前:ハタラクマスコット2/2 :03/12/16 02:08 ID:???
Pi !
おっと、お客さんのようだ・・・認識票チェック・・・プルKと確認。
・・・まったく、世話の焼けるお嬢さん達だぜ・・・

待ちな・・・ここは危ない、下がるんだ・・・
「ぷるK、アブナイ、アブナイ!」
「えっ?・・・ああ、びっくりした・・・トラハロでしたか、
ここって、危険区域なんですか?」

そうだよベイビー・・・ここは危険だ、早くお家に帰りな・・・
「キケン、キケン!、カエレ、カエレ!」
「良い場所を見つけたと思ったんですが・・・残念です」

こうしている間にも、ガラスが割れてしまうかもしれない、
一刻も早く、彼女をここから遠ざけなければ!
「ガラスワレテル、アブナイ、カエレ!」
「わかりました・・・みんなにも言っておかないといけませんね・・・
トラハロ、ご苦労様」

行ったか・・・やれやれ・・・これで一安心だ・・・

駆けて行く足音が、急速に遠ざかる。
静かになった空間、降るような星の海に、独り。
こういう時間は、なかなか悪くない。
俺達が暇でいるって事は、平和だっていう何よりの証拠だから。

宇宙を眺める目の端に、長く尾を引く、一筋の流星。
願わくば、このまま何事も無く、日々が過ぎて行くように・・・

しばらくの時を置いて、低くうなる、エレカのモーター音が近づいてきた。
マスターが、補修用の機材を運んできたのだろう。
彼が来れば、ここには、俺の仕事はもう何も無い。
直ちに、次の危険を探しに出かける。

危険だらけのこの場所では、やるべき事はいくらでもある。
俺の仕事は、まだ始まったばかりだ。

俺の名前はハロ5−タイプT、通称トラハロ。
・・・まあ、好きなように、呼んでくれ。

〜終〜

94 名前:クリスマス(前編) :03/12/16 17:45 ID:???
「アムロ、もうすぐクリスマスだがお前は何か用意したか?」
「いや、まだ・・・。そういうシャアはどうなんだ?」
 アムロは言ってからしまったと思った。こいつが用意していないはずが無い。シャアはにやりと笑う。
「もちろん用意したとも。貴様と一緒にするな」
 やはりだ。こいつはいつも勝てると思ったときしか勝負を仕掛けてこない。
「この間これを拾ったのだ」
 と言って、どこから大きめの段ボール箱を取り出す。
 中にはさまざまな字や絵や写真に彩られた薄いケースと、一抱えくらいある箱状の装置があった。
「これは?」
「DVDデッキだ。ソフトも大量にあった」
「DVD?」
「簡単に言えば旧世紀の記憶装置だ。『Digital Video Disc』もしくは『Digital Versatile Disc』という意味だ。この場合映画だから前者だな」
「ほう、そんなのがあったのか。しかし、旧世紀の物なんか使えるのか?」
 アムロが不安そうに尋ねるが、シャアは自信たっぷりに、
「もちろんだ。DVDはそう簡単には劣化しないし、このデッキの接続端子も最新のものに交換してある」
「はあ、しかし、どこにそんな物が?」
「仕官用の居住区だ。だれか知らんが懐古趣味の奴が集めていたんだろう」
「ふむ。アクシズには娯楽が少ないからプルたちも喜びそうだな」
「ふ、そうだろう。もっと私を褒め称えるがいい」
 ふざけたようにシャアが腰に手を当てて胸をそらす。アムロはその様子を完璧に無視して、
「どうでもいいが、シャアは何か集めたりしたことはあるのか?」
 と、何気なく聞いた。シャアは内心ぎくりとしたが、なんでもない風を装って、
「ああ、私は特に何かを集めたりというようなことは無かったな。そんな暇も無かったしな」
 言えない。さすがに美少女物のジャパニメーションやゲームをむやみやたらに集めまくっていたなどと言うわけにはいかない。
 おまけに、誰にも見つからないように常々持ち歩き、MSのコックピットに持ち込んでは、失くしたくないゆえに「私は生きて帰る主義だ」などと言っていたなんて絶対に言えない。
「そういうアムロこそ、何かを集めたりとかは、してなさそうだな。機械一筋か」
「なんだかむかつく言い方だな。まあ、事実だが」
 しばらく二人とも自分の趣味について考えていたが、シャアが思い直したように、
「まあ、アムロも何かプレゼントを考えておくんだな」
 とからかうように言って、その話は打ち上げになった。

 一人になったアムロは悩んでいた。
「しかし、俺はどうしようかな?」
 とりあえずクリスマスで連想するものをあげていく。
「クリスマスか、ツリーはもうプルたちが作るとか言っていたし、ケーキはプレゼントに入らないだろうな。クリスマス、トナカイ、サンタ……そうだ!」
 そしてアムロは思いついた。プルたちには喜ばれ、シャアに対しては嫌がらせになるすばらしい名案を。

99 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/17 02:32 ID:???

      ,. -─‐- 、
    ,全+第一 r\
   /  。 。    ヽ `ヽ
   ; , -─- 、   ヽ._ i  チカヅクトケガスルゼ
   !/     ヽ、._, ニ |
.   {              ,'
    ヽ          /,ン
.     \.___r',/

     トラハロ

113 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/19 00:59 ID:ctBVpo9H
A:アムロに抱きついてダッコー。シャアに蹴りを入れてるのは彼女か?
B:プチモビ内で呆れている。
C:少女服正面、カメラ目線。
D:弾劾裁判右側、演歌チックに謳う。
E:少女服左側。 <…
F:弾劾裁判左側、朗々と謳う。
G:プチモビに乗っかって何やら面白がってる。
H:弾劾裁判中央、嬉々として謳う。何故かゴーグル付き。
I:Jの隣でクールにすましてる。
J:頬を赤らめて敬礼。
K:アムロにくっついてるのかAを止めてるのか?胸に『ぷるK』のゼッケンが。
L:少女服右側。お父さんといっしょ。

・・・・・でいいのでせうか?
正直、DとH、BとIがちと微妙・・・・・

114 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/19 01:18 ID:GsTXHFLC

      \ ___个__   /
      /\ __┌ ┐_\/
    /   /     \/    \
   /   ∠____│___│
    l::_ /   <>  │ <> | 
  ∠_ノ:\____/\ __/> 
    |::::::::::::::   \___/    |
     ヽ::::::::::::::::.   \/     ノ
そんなことないさ・・・

117 名前:第一話 1/2 :03/12/19 03:11 ID:???
はじまりは、ほんの偶然からだった。

アムロが探索し、持ち帰ったジャンクの山を格納庫に運ぶのはプルJの仕事だった。
『ほんと、よくこんなに見つけてくるよね・・・』
その日もいつも通り半ば呆れながら、プチ・モビの機体を滑らし、手際よくジャンクの山を片付けていた。
シャアを目で追っている日頃の習性からだろうか、ジャンクの中にプルJの目に止まる赤色のトランクがあった。
「大佐のトランク?・・・なわけないか」
とは言ってみたものの気になるプルJ、一通り片付けが終わった後で、そっとトランクに近づき、手に取る。
そのトランクには"S・A"と書かれたプレートが埋め込まれていた。
「えっ?これって大佐のイニシャルじゃ・・・まさか、ほんとに・・・?」
この時プルJは、言いようの無い不快感を感じていた、まるで見てはいけないものを見てしまったかのように。
彼女NTとしての直感がそう告げたのだろうか、そしてそれは、後に最悪の形で現実になる。
「プルJ、何してる?いくぞー」アムロが格納庫のドアから声をかけた、
「あ、すいません大・・・アムロ、すぐ行きます!」アムロの声に我に返ったプルJは、
トランクを元に戻すと、アムロの元へと走っていった。

夕食時、いつもの喧騒に包まれながらもプルJは上の空だった、トランクの事が気になっているのだ。
「あれー?J食べないの?もらっちゃうよ!」
「え?・・・あっ、こらっ!!」
言うが早く、まだ半分残っていたメインディッシュ"スパムのパイ包み焼き"をかっさらうプルA、
「じゃー俺、サラダもーらいっ」と抜け目無いプルG
「食わないならちょーだいっ!」トーストをかすめ取るプルD
「貴様らっ!返せー!!」半泣きになるプルJ
食卓は戦場、食うか食われるかなのだ、とはいえこんな時はアムロママのカミナリが落ち、
事なきを得るのだが、不運にもアムロが席を立っていたため、騒ぎが収りそうにもない。
「おやめなさい!」「あたしのサラダあげよっか?」「かーえーせっ!」
「・・・返してあげなよう・・・」「もう食べちゃったよっ!」「自業自得だな」

118 名前:第一話 2/2 :03/12/19 03:15 ID:???
「 や め な い か !!」

騒ぎに終止符を打ったのはシャアだった、よく通る彼の声はこういう時に便利だ。
「ここにあるのはアムロが考えて作った料理だ、一人に十分な量が割り当てられている、
なのに君達は人の料理を取るような真似をしている、恥ずかしいとは思わないのか!」
シャアの豹変に驚くプル達、いつもは自分達に振り回されるばかりなのに。
「それに・・・私たちは家族だろう、Jが可哀想だとは思わないのか?」
静と動を使い分けるシャアの巧みな弁術に圧倒され、水を打ったように静かになる食堂。
「ごめんねJ、替わりにプリンあげるから」すっかりしょぼくれたプルA
「いいよ、もう済んだ事だし、私もどうかしてた」
「でも良かったねJ、大佐にかばってもらえて」
「ばっ・・・!なにを!!」
プルEにからかわれ、言葉にならない反論をするプルJ、頬を染めるどころか耳まで真っ赤だ。
アムロが用を終え戻ってくる頃には、食堂はいつもの喧騒に戻っていた。

『たまには、いいものだな』
食堂から自室に向かう通路で、シャアは久しぶりの感覚に酔っていた。
アクシズでの生活に馴染み、すっかり三枚目半が板について、得意の弁舌をふるう機会も無かっからだ。
アムロにはアクシズでの生活における圧倒的不利から、論戦を挑んでも勝てる見込みは無く、
プル達のような子供に本気で論戦を挑むのは、彼のプライドが許すものではなかった。
『とはいえ、少し言い過ぎたかもしれん・・・』しょぼくれたAの顔を思い出すシャア
「大佐!」
そんな取り留めの無い考えを破ったのは、駆け寄ってくるJの声だった。
「先ほどは・・・その・・・ありがとうごいます!」
「いや気にすることはない、当たり前のことを言っただけだよ」
実際、彼にはそれ以上の意識は無かった、だがプルJにとっては、
自分をかばって貰えたという意識しかない、そしてそれがたまらなく嬉しいのだ。
「もう遅い、そろそろ寝る時間だぞ」
「あの・・・大佐・・・」焦るプルJ
『もっとお話したい・・・』そう思っても話題が思いつかないのだ
「どうした?」怪訝な顔をするシャア
ふと脳裏に浮かんだのは、昼みつけたトランクの事だった。
「大佐・・・今日私、妙なものを見つけたんです」

この時彼女は忘れていた、トランクを見つけた時の不安感を、
恋する乙女の心は、NTとしての直感さえも、時には曇らせてしまうのだろうか。

第二話に続く・・・と思う

121 名前:第二話 1/2 :03/12/19 14:15 ID:???
『ほう・・・これは』
自らのイニシャルが刻まれた、赤いトランクケースを手に取るシャア
「やはり、大佐のものですか?」
「いや違う、いくら私でもここまで趣味は悪くない」苦笑を浮かべ、ケース表面を撫でる。
その手がプレートにかかった時、彼の表情がわずかに硬くなった。
「そう・・・ですか?」
表情の変化に気付かないプルJ、ちなみにトランクを『赤くてかっこいいのに』と思ったのはヒミツだ。
「とはいえ、私に無関係という訳ではないだろう。J、よく報告してくれた、ありがとう」
「私もそう思ったんです!・・・だから・・・」誉められ頬を染めるプルJ
笑顔を浮かべ、プルJの髪を優しく撫でるシャア
「さあもう戻ろう、アムロに見つかったら何を言われるかわからん」
「はい!大佐!」
いつになく優しいシャアに、プルJは有頂天になっていた。
トランクのプレートには、イニシャルの下に小さく、
「サイコミュ・システム研究所」と刻まれていのだが、
こんな状態の彼女に、気付けというのは酷な話かもしれない。

「やっぱさ、シャアってJひいきだよ」
「そーかな?シャアはみんなに優しいよー」
「でも今日のあれ見たろ、ゼッタイひいきしてるって」
「それは怒られたからそう思うだけでしょー」
就寝前の夜話、今日の話題は夕食での出来事だ。プルAとDの論戦は続く
「ちっ・・・違うよ!だってみんな、他にも心当たりあるだろ?」
「そりゃ、少しはあるけど・・・」
「だろ?やっぱひいきしてるって!」
「俺はDに賛成!」
二段ベットの上からGが割り込んだ
「Eもそう思うだろ!」
「・・・アムロの方が優しい」
「だよな、やっぱり!」と、得意げなプルG

122 名前:第二話 2/2 :03/12/19 14:21 ID:???
この時期、彼女らは四人一組一部屋で眠りにつく形を取っていた、
メンバーは定期的に入れ替わっていたが、この日この部屋にいるのは
A、D、E、Gの四人である。

そしてこの部屋に理論派組がいなかったのが、プルGとプルDの幸いだった、
彼女ら二人は、プルAに先に謝られ、プルJに謝るタイミングを逸した気まずさから、
シャアをやり玉に上げてるに過ぎないのだが、自覚するには彼女らはまだ幼かった。
「シャアも優しいけどさ、やっぱ平等じゃないじゃん」
「そうそう、アムロの方がみんなに優しいって、プリン作ってくれるんだぜ」
「プリンー!!やっぱアムロかなっ!」
「・・・シャアもアムロを見習えばいいのに」
プルDとプルGのコンビが勢いづいてしまえば、プルAとプルEには止められない。
そして話題は、二人のどっちが好きかという方向になっていた。
「明日みんなにも聞いてみようぜ!」
Gのこの一言が決め手になった。

「・・・どうだシャア?」
シャアはサザビーのコクピットにいた、硬く目をつむり、額には脂汗が浮かんでいる。
「ダメだ、まだフィードバックが強すぎる」めまいに耐えながら答えるシャア。
「だが、これ以上感度を落としたら、システムダウンするぞ」
「ええい、こうもままならんとはな!」
「もう諦めろ、いくら俺でもサイコミュ・システムの調整には限界がある」

サザビーの再生作業、その中でもっとも難航していたのはサイコミュの再構築だった。
NT専用機は、その機体制御の多くを、サイコミュ・システムによる搭乗者との精神感応によって行っていた。
サザビーとて例外ではない、多くの代替部品をザクV(幸運にもNT用カスタム機であった)
から得たとはいえ、代替部品では限度がある。
サイコフレームはともかく、それを統括する制御用サイコミュの損傷が酷く、
それはアムロの手にあまる物だった。

「私にもプライドがある、今更ドムなどには乗れんよ」
「なら外周作業は俺に任せればいいだろう?無理をするな」
サザビーの前にたたずみ、休憩を取る二人
「アムロ、貴様一人に全てを任せるほど、私は落ちぶれてはいない」
「いじけるのは勝手だ、だが現実を見ろ、シャア」
顔を伏せるシャア、調整時のフィードバックは相当なものだった、疲労は隠せない。
しばらくの沈黙の後、シャアが口を開いた。
「・・・アムロ、もしお前に何かあったらどうする?まだあの子たちに救助活動は無理だ。
次もこの前のように上手くいく保証は無い、マトモに動くMSは少しでも多く必要なはずだ」
疲労は人の心を弱くする、そして弱くなった心は裸なる。
「アムロ、お前の負担を減らしたいんだ、お前は我々の大黒柱だ、
何かあってからじゃ遅い・・・この生活を失いたくはない・・・」
「シャア、そこまで・・・すまない、言い過ぎた」
またもしばらくの沈黙、今度はアムロが先に口を開いた。
「もう少し頑張ってみよう、シャア、まだ試してないフィルタユニットがある」

弱くなった心は何かにすがろうとする。

顔を上げるシャア、その視線の先には、昨晩手に入れた赤いトランクケースがあった。
「アムロ、新しい制御用サイコミュがある、試してみないか?」

131 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/20 02:28 ID:???
       ,r'⌒⌒⌒'、
       ( ミ""メ""ミ )
       ヾ ▼∀▼ノ    お茶を一杯
   _    / ヽ¥ /ヽ_..∬
  |\ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 旦.\
 ./..\\      8      \
/   \|=================|
\    ノ             \
  \                .\
    \               ..\
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132 名前:スマン :03/12/20 02:30 ID:8GuOGiQb
        ,r'⌒⌒⌒'、
       ( ミ""メ""ミ )
       ヾ ▼∀▼ノ    お茶を一杯
   _    / ヽ¥ /ヽ_..∬
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135 名前:第三話 1/3 :03/12/20 03:43 ID:???
夕食前の集合時間、姉妹全員が一箇所に集まる貴重な時間。
仕事の帰りの遅い大人二人を待ちながら、彼女らはお喋りに熱中していた。
「ぜったいアムロだって!」「シャアの方が面白いよー」
「・・・なんでくらべるの・・・?」「あんなロ×のどこがよろしいの?」
「大佐を馬鹿にするなっ!」「・・・赤ジャージ・・・」「それはわたしもちょっと・・・」
今日の話題は、プルDとプルGが持ち込んだものだった
「でも昨日の態度はひいきしてるだろ!」
「そうかな?けっこうかっこいい所もあると思ったけど」
「わたしは二人とも好きだけどなー」
"シャアとアムロのどっちが好きか?"という問いに、彼女達の意見は割れていた
「おまえたちの気持ちはわかった!」
堂々巡りに痺れを切らしたのは姉妹きっての理論派、プルIだった。
「言いたい事を言うだけじゃ結論は出ない、少しは考えよう」
「じゃあどーするの?」「多数決でも取るってのか?」「そーだそーだ」
口々に文句をいうプル達に、プルIは言い放った。
「そう、多数決を取ればいい」

136 名前:第三話 2/3 :03/12/20 03:44 ID:???
「ではこれより、信任投票を始める!」
「「「「おーっ!」」」」
プルIの音頭に合わせて、プル達は一斉にお手製の"投票用紙"に記入をはじめた。
彼女の出した結論はこうだった『投票をして、全員の総意を確認する』
呼び名が人気投票ではなく信任投票なのは、彼女の性格のなせる技か。
厳密には投票で結論が出るものではないのだが、ただ言いたい事を言い合うよりは
自分達の総意がどこにあるのか確認するべきだと、彼女は考えたのだろう。

全員が記入を済ませ"投票箱"へと入れると、よくかき混ぜた後、プルIが一つずつ開票していく。
「シャア、アムロ、アムロ、・・・無効、アムロ・・・・・・」
かたずを飲んで開票を見守るプル達
「無効、シャア、アムロ、シャア・・・無効2、アムロ5、シャア5、以上!」
「それって・・・同点ってこと?」「なっとくいかないー」「無効入れたの誰だよ!」
「Jは絶対にシャアよね」口々に騒ぎ出すプルたち。

投票は無記名で行われたため、誰が誰に票を入れたかはわからないようになっていた、
ただ、用紙にはコメント欄があり、そこにみな個性的なコメントを記入していた為、
実のところバレバレだったのだが、その内容については省略しておく。

「詮索するような事じゃないだろ、結論が出たんだからこれ以上騒ぐな」
騒ぎを制しようとするプルI、そこにプルAが割り込んだ
「そうよ、わたし達はアムロもシャアも好き、それでいいよね?」
「A・・・!?」驚くプルI
「みんな、シャアもアムロも嫌いにならないよね・・・」
彼女は責任を感じていた、昨晩の自分の行為が今の騒ぎを引き起こしたのだと、
目に涙を浮かべ、プルAはなおも続ける。
「もうやめようよ・・・ね・・・?」
いつも明るい姉のその姿に、プル達は返す言葉も無く、ただ静かに頷くばかりだった。

この時、彼女達は言い知れぬ不安を感じていた、
プルAはそれを昨晩からの責任感と重ね、このような行動に出たのだが、
この不安の正体は、後に起きる悲劇への予感だったのかもしれない。

137 名前:第三話 3/3 :03/12/20 03:47 ID:???
アムロとシャアが戻ってくる頃には、食堂はいつもの喧騒に戻っていた、
ついさっきの出来事を二人に話すほど彼女達も幼くはない、
何気ない挨拶を交わし、席についたアムロが声を上げた。
「みんなに大切な話がある・・・シャアのMS、サザビーが直りそうなんだ」
「でもこの前『サザビーは治りそうもない』って言ってたでしょう?」と意外そうに問いかけるプルF
「確かに・・・」頷くアムロ
「この前の事件でサイコミュ回路が焼き切れて、正直諦めかけてたんだが・・・
シャアが新しいサイコミュを見つけてきたんだ、まったく悪運の強い男だ」
「偶然にも、私と相性のいいサイコミュだった、たいした調整も無く使えたよ」
「シャアには悪いが、外壁作業は俺だけの仕事じゃなくなる」
「人を不精者呼ばわりするのは、やめてもらいたいものだな、アムロ」
二人ともひどく上機嫌だ、言葉に刺はあるが目は笑っている
「じゃあさ!アムロがおやつ作る時間、増えるかな?」目を輝かせるプルA
「そうだな、うんと美味しいお菓子、作れるかもしれないな」
「やった!」「アムロ大好き!」「早く食べたーい」期待を膨らませるプル達、
『やれやれ、プル達には、私のサザビーよりおやつの内容充実が大事件のようだ・・・』
飽きれるシャアをよそに、プル達の喧騒は終わることなく続いていた。


第4話に続く

139 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/20 10:13 ID:???
「なあ、アムロ。やっぱりカメラは必要だと思わないか?」
「却下」
むぅ、この男はいつもいつも私の考えを無視して、自分の判断ばかりが正しいと思い込む。
「しかしだな、やはり彼女らにも思い出作りというのは大切だと思うんだが」
「まぁ、それについては否定しない。ここから開放されて以降、どうなるかも分からないしな
 万一分かれ離れになった時に、姉妹の思い出の写真1枚無いんじゃな…」
そうだろうそうだろう。私だってきちんと考えて発言しているのだ。そんなことを考えながら
胸を張っていると、
「分かった。ただしお前にカメラを持たすようなことはしない。ハロにカメラ機能を追加して
 プルたちの音声入力でのみ撮影できるようにする。下心が無いなら異論は無いな?」
「もちろんだ。見くびってもらっては困る。」

そう。その時は下心なんて無かった。本当だ。誓ってもいい。
…しかし、毎日足元を転がるカメラつきハロを見ていると、着替え中らしい部屋の中から
ハロの声が聞こえると、ちょっとだけ、イヤほんとにちょっと、もう小指の先くらい、イヤもっと少々
気にかかったりしてしまう。そもそも彼女たちだって立派なレディであって、そういうことに
完全に枯れきったアムロ(失礼)ならともかく、全くむらむらこないほうがむしろ彼女たちにとって
失礼ではないのか?否、失礼なはずだ(反語表現)

失礼、少々取り乱してしまった。
つまり私が言いたいのは、「ハロ一台くらい私の声紋データに書き換えてもばれはしねーよな」ということだ。

そしてアムロの目を盗んでデータの書き換え方を調べ、書き換え、ついに我がシャア専用ハロが
完成したことを、私シャア・アズナブルは喜びに耐えない。

早速使ってみることにする。目標はプルDとプルGが使っているシャワーだ。
「言ってこい、ハロ。撮影目標はプルDとプルGだ。」
「リョウカイ!!イッテキマス!!」
「ば、馬鹿、声が大きい!」
幸い廊下>更衣室>シャワールームと距離があったおかげでプルたちには気づかれなかったようだが、
そのままコロコロ転がっていったハロは、プルたちの前で
「サツエイモクヒョウカクニン!!ハーイ、ワラッテー!3,2,1!」
大声で叫びやがった。

「弁解の言葉は?」
「ありません」
正座してアムロの説教を受ける私。ええぃ、なぜネオジオン総帥たる私が説教など…イタタ、足しびれた
「幸い、プルJが間違って撮影支持をしてしまったと言ってごまかしてくれたから、後は俺たちが口をふさげば
 何事も無かったことになる。しっかり反省しろ。」
「ありがとうございます。」

どれくらいかかっただろう。やっと開放されたときには足の裏の感覚がまるで無くなっていた。
自習室を出ると、プルJが待っていた。気まずいやら何やらで、
「あ…その、今回は助かった。すまん。出来心だったんだ。その何というか男の生理というかなんと言うか
ごにょごにょごにょ…」
照れる私にプルJは2枚の紙を握らせ、走って去っていった。見ると、一枚にはメッセージが書いてあった
「いいですか。大佐。これからはこれを肌身離さず持っててください。変なこと考えそうになったら
 これを見て自制すること。さもないと、ばらしちゃいますよ」
そして、もう一枚はプルJの写真だった。もちろん着衣。エロティックさなどかけらも無い。真剣な目つきで
こちらをじっと見つめている。

その晩、私は自分の下劣さを反省して泣いた。本気で泣いた。アムロは、そっとしておいてくれた。

148 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/20 23:23 ID:???
         ,イ    │
       //      |:!
      //,. -/r‐- 、| !                          /
     /,/ ./ |  _」 ト、           _ _ _          /
    /.\`/  |二...-┘ ヽ      / "~   ~"'ヽ          プ
.   i   ,.>、;/ー- 、    l     /    , ,    : :ヽ        ル
   i   ,.>、;/ー- 、    l    /"" ,,. ,〃 ヽヽ,, "" :i       ツ 
   ! ∠.._;'____\   |    i   /',_ _,  ,__ ,,\ ;; :!       l
.   !イ く二>,.、 <二>`\.、ヽ  .!  /_(i::::! `!:::j)_. i ::: :!       
 /'´レ--‐'ノ. `ー---- 、 |\ ヽ、!:::::ii "" '  "" ii:::./       ゲ
 \  `l  (!"      Jfヽ!  `''-;ヽヽ!!\  ー  /!!/        ッ
   `‐、jヽ ヾニニゝ   ゙イ" }_,,. ‐''´   !!ゝ ,!:::: イ--.:!!         ト
     `´\  ー   / ,ィ_}  ̄`\メiメ"メ"メ"メ""メヤ         だ 
.        \、__ i⌒i/, -'"~  `ヽ、メメ メメメ メ メメi;;       ぜ
       ,.‐'´   i--i |       \メiメ メメメメメャ       ! 
 /) /) `〈ヽ, -'"~T  ヽ、 , -'" ~ `ヽ、メ メメ メ メ メメ     
/  ⌒  ヽ / ( ̄ T   iヽ、__     \.iメ メメ メメメ
| ●_ ●/    ( ̄T   |   `ヽ、    }メ メメメメi'
(〇 〜 く       ̄ `ヽ、/__        /メ メ メメi'
/   / `ヽ、/|     L   `ヽ、 __ノメ メメ メメァ     \
|  /    /  |     \ \ Tメ メ メメ メ メメア        \
             ,イ    │                   


他のスレで大佐を見つけました

149 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/20 23:24 ID:???
バレたら蓑虫と人間の中間の生命体にされるんだな



     ||
   ⌒||⌒ヽ
  ιミ ||  ι)
  (▼ソ || ミ丿
   ミ≡≡≡j
   ミ≡≡≡j
   ミ≡≡≡j
   ヽ)ヽ)


150 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/20 23:27 ID:???

     ||
   ⌒||⌒ヽ
  ιミ ||  ι)
  (▼ソ || ミ丿
   ミ≡≡≡j
   ミ≡≡≡j
   ミ≡≡≡j
   ヽ)ヽ)

アクシズでみつけた古い「ポケモン」というアニメの真似をしただけなのに・・・

155 名前:Iの発見(1/11) :03/12/21 02:47 ID:???
「……状況を確認しようか」
苦々しく、しかし殊更落ち着いた口調で、プルIが言った。
応じて頷くのは、プルBにプルJ。プルIを含め、皆姉妹の中でも冷静な部類に入る。
この面子が揃ったのは、幸運か、不幸か。
いっそ、プルAかプルGあたりの騒がしい連中がいてくれた方が助かったのかもしれない。
冷静は裏を返せばテンションが低いということであり、無遠慮な騒々しさも無批判の前向きさにつながる。
プルIは僅かな間だけそんなことを考え、埒もないことだとかぶりを振った。
目の前には、MSならともかく人の手には余る巨大な岩塊。周囲には夥しい量の破片が漂う。
彼女らを挟んで反対側には、いずこへ続くものか暗い通路がただただ伸びていた。
空気があったのは、幸いだ。さもなくば、臓器をぶちまけた少女の死体が三つ漂うことになっただろう。
しかし、である。
「周辺区域を探索中、崩落に遭遇。急ぎ退避したまではよかったが、健気にも機能を保持していた隔壁が緊急作
 動。その後も崩落は収まらず、ついには巨大な岩盤が道を閉ざした――現在、我々は孤立している」
これを不幸と言わずして何と言うか。
隔絶されたアクシズの中で更に孤立するなど、笑い話にもならない――シャアは別として。
「いちいち説明されなくてもわかってるよ。もう少し、アムロの忠告を真剣に聞いておくべきだったな」
溜息をつきつつも、半ば他人事のように応じるプルB。
日頃から単独行動を志向しがちな彼女は、この状況下にあってもさほど動じた様子もない。
もっとも、さすがに安穏とした顔をしていられるほどおめでたい性格でもなかったが。
「そんな悠長なことを言っている暇はないだろう。早く、何とかしないと……」
プルJの言葉には、早くも隠し難く焦燥の色が濃かった。
冷静とは言っても、彼女の場合は腹の底から落ち着いているのではなく、軍人の規範としてみだりに騒ぎ立てな
いというだけのことだ。実のところ姉妹中でも特に精神的に大人びているというわけでもなく、不測の事態には
焦りもするし動揺も隠せない。それを取り繕う手法も手馴れたものとは言い難く、特にシャアに絡む諸々の騒動
などでは裏目にでがちで、結果姉妹のいい玩具となる原因ともなっていた。
「まあ、待て」
軽く掌で二人を制し、プルIは続ける。
「こういった状況だからこそ、焦りは禁物だ。よく考えて動かねば、直接的でないにせよ、命に関わるぞ」
「考え過ぎて、時機を逸するってのもあるんじゃないか?」
ほんの少し意地悪な口調でプルBが反論した。
これが、同じ冷静系でもプルIとプルBの間にある明確な差だ。
初めから計画的に算段を整えてことに臨むプルIに対し、プルBは途中途中の問題には冷静に対処するが基本的
に見る前に飛ぶタイプなのだ。
もっとも、今回の場合プルIはプルBの反応も折込済みだったらしく、軽く肩をすくめただけで反駁はしなかっ
た。
代わりに、プルBの発言を無視して説明を続ける。プルBは、少しだけ気分を害したが、プルIが他人の発言を
無視するということは彼女が相応に切迫している――つまり、どのみち長丁舌を振るうつもりはないはず――と
の認識に立ち、とりあえず口をつぐむことにした。
「現状で考えられる脱出ないし救出の方法はふたつある。ひとつは、分断された姉妹たちがアムロかシャアに救
 援を求めることを期待し、やがて来るであろう彼らの助けを待つこと。もうひとつは、いずこかへ繋がるであ
 ろうこの通路を進み、別ルートから我々の生活圏を目指すこと」
プルIの言葉を受け、プルJが発言する。
「この状況で下手に動くのは得策じゃないと思う。大佐たちに急報が飛んで救助に取り掛かるまで、長く見積も
 っても一時間程度だろうし。私は、待つべきだと思うな」


156 名前:Iの発見(2/11) :03/12/21 02:49 ID:???
「その場合、問題がふたつある」
間髪入れず、プルIはプルJの見通しに対し冷徹な意見を述べる。
「ひとつは、隔壁前に居座る巨岩を突破するのにアムロがどれほどの時間を必要とするか不明であること。そし
 て、その作業が周辺区域から空気を奪うという二次効果をもたらさないという保証がどこにも無いことだ。加
 えて言うなら、我々はノーマルスーツを持ち合わせておらず、この区域が先刻の崩落で空気漏れを起こしてい
 ないとする確定的な情報も無い」
「もしもの場合の備えも無ければ、悠長に構えている時間があるとも限らない、ということだな」
確認するようにまとめるプルBに、プルIは静かに頷いて同意する。
「結局、行くしかないのか……」
呟いて、通路の先にある暗闇を見つめるプルJ。
その様子を見て、プルIは少しだけ可笑しそうに人の悪い笑みを浮かべた。
「そう思われるように、論を展開したからな」
プルJは、またいつものごとく掌の上で遊ばれたのかと思い、形のよい唇を尖らせて非難がましくプルIを睨み
つける。
もっとも、プルIはこの手の言葉遊びが好きではあったが、良識があるというか、限度というものをわきまえて
いて、そのバランス感覚は天才的と言ってもよい。プルJも、やられた、とは思っても、そう本気で怒りを感じ
るほどではなかった。状況が状況なので、勘弁して欲しい、とは思わないでもなかったが。
「まあ、Iの判断なら抜かりは無いんだろう? それならそれで、さっさと行動を起こすべきだな」
などと言いつつ早くも通路を進もうとするプルB。
「独自に脱出を試みるのにも、問題はあるんだが」
先走るプルBに、プルIはこめかみのあたりを軽く押さえつつ注意を喚起する。
「と、いうと?」
出鼻を挫かれた形になり不満そうなプルBに代わり、プルJがプルIを促した。
「我々が独自行動をとっている、と姉妹たちに知らせる手立てが無い。あるいは、我々の生存だけならプルHあ
 たりが感じ取ってくれるかもしれないが……我々の意図を的確に伝えることができなければ、思いもよらぬ二
 次災害を招くかもしれない。特に、アムロやシャアが無茶をする可能性は極めて高いな」
これはこれで、説得力のある見解であり、頷かざるを得なかった。期せずして、三人の脳裏に特別な事態でなく
ても無茶をする人柄の赤い人の姿が浮かび、思わず揃って微妙なツラを並べてしまうというオマケも付いた。大
佐に憧憬を抱くプルJとて、その行動の益体の無さに関しては弁護するのも難しいことを認めないわけにはいか
なかったから。
「状況は認識したし、納得もしたよ。で、結局どうする?」
幾分うんざりした表情で問うプルBに、妙な想像をさせてしまい正直スマンかった、と顔に書いたプルIが答え
る。
「プルBとプルJは、とりあえず通路を先に進んで欲しい。分岐点や迷うところがあれば、その場で待機してい
てもらう。私は、我々の意図を伝えるよう工作してから後を追う。くれぐれも、不用意にハッチを開けたり岩塊
を蹴り飛ばしたりしないようにな」
「やらないよ、Dじゃあるまいし」
プルIの忠告に、苦笑しつつ応じるプルB。
「工作を三人でやってから出発した方がいいんじゃないか?」
作業効率を考えてか、あるいは一時的とはいえここで更に離れ離れになるのを嫌ってか、プルJがそう訊く。
プルIはかぶりを振って答えた。
「いや、人数がいても工作に要する時間に大差は無い。それよりも、通路の安全を先行して確認してもらった方
 が時間の短縮に繋がる。そして、どちらの作業がより危険を伴う可能性が高いかといえば、後者だ」
冷静にそう諭されては、プルJも反論の術を持たない。
溜息混じりに頷いて、サッサと通路を進むプルBの後を追った。
「すぐに追ってこなきゃダメだぞ! 待ちぼうけはゴメンだから!」
去り際プルJが残した言葉に、プルIは軽く肩をすくめる。
「もちろん。せっかくシャアが起こしてくれた命だ。これ以上減らさず、皆で生き延びさせてもらう」


157 名前:Iの発見(3/11) :03/12/21 02:52 ID:???
割り当てられた作業をアムロに怒鳴られず生活に支障が無い程度にこなした後、例によってプルたちの姿を求め
アクシズ内を徘徊していた赤い役立たず、もとい、元総帥の下に慌てふためくプルA及びプルGにより事件が通
報されたのは、崩落より三十分ほど後のことであった。
要領を得ないプルAの説明からでもすぐさま非常事態を悟ったシャアは、とりあえずプルGにそのままアムロの
下に走るよう言いつけ、プルAに現場への案内を頼んだ。
現場に到着したシャアは、さすがにダメ親父とは程遠い顔つきで短く唸る。
目の前にそびえる隔壁は、アクシズ内部での戦闘を想定して設置されていたものに違いなく、その機能と強度は
単純に機密状態を維持するためのものではないと知れたからだ。これは、要塞アクシズをブロック単位に陣地と
して用いるための備えであり、艦砲でもなければ易々とは突破できないはずであった。
アクシズの奇妙な用意のよさを恨めしく思いつつも、シャアの指示及び行動は迅速だった。
「プルA、悪いがアムロに再度状況を知らせに行ってくれ。コレクションの中から、飛び切り強力な切断工具を
 持ってくるよう伝えてな。このレベルの隔壁ともなると、生半なレーザートーチぐらいではどうにもならん」
「うん!」
答えるのが早いか、プルAは脱兎のごとく駆け出して行く。
シャアは、その様子を見ながら――丈の短いキュロットの端からチラリと覗いた白い下着に目を奪われていたの
ではないと信じたい――比較的落ち着きを保っているプルFとプルKに声を掛けた。
「プルF、プルK、みんなをまとめてノーマルスーツを着てくるように。用心のためだ。後は、アムロに従って
 協力してくれ」
「わかりました」
プルCを慰めるプルFがそう答え、泣きじゃくるプルLを抱いているプルKも頷いて承知を示す。
「プルH」
プルHは気丈にも震える笑みさえ浮かべ、シャアが言う前に答えた。
「はい。呼びかけてみます」
「賢いな、プルHは……」
こんな事態にも自然と演技じみてしまう所作でプルHを褒めて、シャアは踵を返した。
「シャア! どこに行くんだよ!?」
食って掛かるプルDに、シャアは、やはり観客を前にした俳優のような立ち振る舞いで答える。
「私は、アムロと違って工作作業だけやっているわけにもいかんのだ」
それだけ言って、さすがに唖然とするプルたちを残し、シャアは消えた。

158 名前:Iの発見(4/11) :03/12/21 02:54 ID:???
人には、それぞれ才覚というものがある。
ありきたりなものから特殊なものまで千差万別である上に、その人間の置かれた環境や状況によって発現の有無
や程度、あるいは方向性などに差異が現れるため、正確に系統立てることは難しいが。
たとえば、ブライト・ノアは堅実かつ粘り強く組織を運営する手腕に長けていたし、パプティマス・シロッコは
他人にやる気を起こさせる強烈な才覚をもってカリスマとまで呼ばれた。
アムロ・レイが限られた物資や手駒で状況をどうにかする才に長けているように、シャア・アズナブルは常識に
沿えばあり得ないことを目論み実行する天才だった。ために、人は彼を英雄の器と評する――もっとも、その才
が有益に用いられ役立つかどうかは、また別の問題であったが。
プルIがプルB、プルJに語って聞かせた懸念と判断を、シャアは分厚い岩盤と隔壁を隔てた向こう側で、一瞬
のうちに読み取っていた。恐らく、アムロも同じ結論に至らざるを得ないだろう。
そうなると、シャアがやるべきは隔壁の破壊ではない。迷子の三人を別ルートから捜索するのが、シャアに与え
られて然るべき仕事である。それを、一足跳に、明確にそれとわかる説明も無しに実行に移してしまうのが、シ
ャアの悪癖ではあるのだが。
ともかく、シャアは崩落現場を離れるや、プルたち向けのノーマルスーツを三着引っ掴み、マップすら作成され
ていない迷路のような区画に飛び出していた。多少の理論的推測も混じってはいるが、根本的なところで彼自身
のカンに頼った、なんとも頼りない探索の開始である。
それだけなら、単なる無謀であり無思慮であり無茶であって、才覚とは言わない。シャアの特異な点は、そうい
った欠陥だらけの計画や作戦を成功させてしまうか、少なくとも充分利用価値がある程度の成果を残してしまう
ところにあった。性質が悪いと言うべきか、シャア自身そのことを認識して行動している部分がある。
だから、不意に突き当たった居住ブロックの廃墟で出会い頭の驚愕を示したのは、シャアではなくプルJの方で
あった。
「大佐!?」
まさか、こんなところでシャアに会うとは思ってもみなかったプルJが、素っ頓狂な声を上げる。
対するシャアは、内心三分の一だけホッと胸を撫で下ろしつつも何食わぬ顔で当たり前のように訊いた。
「無事だったか。プルBとプルIは一緒じゃないのか?」
「は、はい! プルBなら、向こうでノーマルスーツを探しています。プルIは、少し遅れていて……」
そう切り出し、プルJはかいつまんで事情を説明した。
プルIと別れた二人は、分かれ道も無く延々続く通路を進み、十分ほど前にこの居住区に到達した。
そこで、プルBはプルIが到着するまでの時間を無為に過ごすよりも居住区の探索に充てる方が現実的だ、と主
張したのだ。
この先、彼女らの生活圏に至るまでにノーマルスーツが必要となる場所を通らねばならないかもしれない。
どのみち手分けして探すことになるだろうから、さっさと取り掛かるべきだ、というのだ。
プルIの指示からは少し外れるが、プルBの意見はもっともであったし、軍人たるもの現場にあっては臨機応変
に対応せねばならない。
そう考え、プルJもプルBの意見を支持したのだった。
そうして居住区をさまようこと数分。プルJは、思いがけずシャアと再会を果たした、というわけである。
「なるほど」
話を聞き終えたシャアは、軽く頷いてから続けた。
「プルJ、道を教える。悪いが、先に戻ってアムロに無事を報告してくれないか? 私は、プルBを探してから、
 プルIが来るのを待って連れて戻る」
「そんな! 私もご一緒します」
大仰なジェスチャーを交えて残留を主張するプルJに、シャアは少し嬉しそうに僅かに残念そうに、そしてそれ
以上に気取った仕種でかぶりを振る。
「いや、一秒でも早く待つ者を安心させてやらねばならんよ。それに、プルJには崩落現場で悪戦苦闘している
 であろうアムロを止めてもらわねばな。頑張り過ぎて二次災害でも起こされては目も当てられん」
アムロに限ってそれは無いような気がしないでもなかったが、確かに安否を気遣ってくれているであろう姉妹た
ちに早く無事を報告したいという思いはあったし、その上憧れの大佐に、頼まれてくれるかプルJ? と言われ
ては、プルJも首を縦に振るしかない。
これも大佐が信頼して下さっている証し、と思うことにして、プルJは言いつけに従いシャアが教える道を頭に
叩き込み駆け出した。

159 名前:Iの発見(5/11) :03/12/21 02:56 ID:???
「つまり、私の指示は無視された、ということだな?」
微妙に唇を引きつらせ、プルIは結論だけをひとりごちた。
恐らく岩盤を破壊されたとしても影響を受けないと思われる位置の壁に、岩の欠片を用いて塗装を削り落とすこ
とで連絡事項を簡潔に記し、そこが注目されるように浮遊物を適当な位置に配置する。その作業を終えてプルB、
プルJの後を追ったプルIは、一本道の長い通路を越えて居住ブロックに辿り着いていた。
そこまでは、いい。
問題は、その入り口にプルBもプルJも立っていない、という事実である。
プルBたちの思考は、わからないでもない。先行して探索するというのは、いい判断だろう。とはいえ、どちら
か一方はプルIを待っているべきであった。うっかりそれを忘れてしまうあたりが、彼女らの経験の浅さを示す
証左と言えようか。
「まあいい。文句は、後からたんまりと聞かせてくれる」
自分を納得させるためだろう、溜息と共にそんな台詞を吐き出して、プルIはこのような場合を想定して一応は
考えておいた方針に従い行動を開始することにした。
手当たり次第にその辺の建築物を物色する、という、プルIでなくとも溜息のひとつも出ようという、いいかげ
んな行動ではあったが。
幸い、というべきか、さほど広い居住ブロックというわけでもない。通路が一本道であったことからも、割合辺
鄙な場所だと推察された。プルBたちも、すぐに見つかるだろう。
また、そういう立地条件のためであろうか、保存状況はかなりよい部類であるようだ。
未だ居住に適しているかどうかは即断できないが、もしもの場合のため確保しておくシェルターのひとつにも加
えられるかもしれない。そうでなくとも、何かしら有用な物品なり発見できる可能性はそれなりにありそうだっ
た。
生憎、アムロの好きそうなメカニクスの類は見るからに期待薄だったが。
とりあえず、手近な位置にあるクリーニング店の看板を掲げた家屋に入る。
白いシャツを中心に、かなりの量の衣類が発見された。一部には、実用性とは無縁の装飾がなされたものもある。
プルCなら歓喜するかもしれないが、それだけだ。ノーマルスーツの類があるようには見えなかったし、プルB、
プルJの姿もない。今のところは無用の場所と判断し、プルIはさっさと店外に引き返した。
次に足を踏み入れた場所には、文具や素朴な玩具、実用性不明の小物が並べられていた。雑貨屋の類だろうか。
棚の半分ほどは空だった。そこにあったものは所有者が退去する際に持ち出したに違いない。先ほどの店もそう
だったが、財産であるはずの商品を半ば残していっていることから、住民は相応に慌てて、つまり至急の必要に
迫られて、この場所を去ったのだと推察された。
「下手をすれば、死体のひとつも浮いていた場所、かな?」
自身の置かれた現状とも合わせ、皮肉混じりに呟く。
そういった所作を、可愛げのないことだ、と半ば他人事のように判じつつ、プルIは次の建築物を目指す。

160 名前:Iの発見(6/11) :03/12/21 02:58 ID:???
今度の家は、何か会議所のような造りをしていた。
入ってすぐに小さなカウンターがあり、一見して民家ではあるまいと判断できる。
しかし、奥には長机をふたつつなげた会議スペースらしきものになっており、壁際には幾つかの書類棚とロッカ
ーが並ぶだけ。
そして、更に奥に続く扉――自動ドアなどという洒落たものですらない――がある。
他には、壁の上部に掲げられた、小さなネオジオンの旗が目立つ程度。
どうやら、ごく小規模の自治組織か、あるいは政治組織の末端に位置する事務所といった類のもののようだ。
ふむ、と軽く頷いて、プルIはロッカーに手を掛ける。鍵は掛かっておらず、中には黴臭い作業着と、そして軍
服があるだけだった。
「これは?」
奇異な点が、ひとつ見つかった。
プルIが目にした軍服は、ネオジオンのものではない。
旧ジオン公国軍の制服、それも仕官用のものだ。
「呉越同舟の輩、か」
プルIは、唸るように呆れ気味の声でそう呟く。
恐らく、ここにいた連中はシャアのシンパというよりは、他に行く場所も無く、シャアの叛乱に期待するより他
無かった、ジオン公国の亡霊たちだったのだろう。
奥の部屋に進んだプルIは、その仮定がほぼ正鵠を射ていることを確信した。
そこには、表の部屋のネオジオン旗より遥かに立派な、ジオン公国の国旗が掲げられていたのだ。
その部屋には、他にもプルIの興味を惹かずにはいないものがあった。
立派な装丁の書物が、かなりの数保管されていたのだ。
プルKのような本好きではないが、プルIも相当の読書家である。
ただ、彼女の場合ありていに言えば散文的で、あくまで情報を入手する有効な手段のひとつとして本に接してい
る感があった。
自然、手に取る書物の傾向も読み方も異なっていて、お気に入りの情緒的な文学作品を何度も繰り返し読み耽る
プルKに対し、プルIは入手できる限りの学術書や実用書籍の類を、殆どの場合一回だけ通しで精読するだけだ。
その彼女にとって、アクシズ一家の図書室に新しい書物が増えるのは歓迎すべきことであったし、特に今回の場
合発見場所が発見場所だけに、充分プルIの趣向に応え得る系統の内容であることが期待できる。
「図書館……いや、それにしては規模が小さいな。共同の書斎と見るべきか」
自分が置かれている現状を考えると少しだけ後ろめたい気持ちもあったが、興味はそれを上回った。
プルBたちも勝手をしているのだから、と無理な自己弁護を胸中呟いて、プルIは並べられた本の背表紙を確認
する。
一年戦争略史。
空間機動戦闘戦術の研究。
そして、ギレン・ザビの手による、優性人種生存説――
そのタイトルを目にした瞬間に、プルIは顔をしかめ本棚から目を逸らした。

161 名前:Iの発見(7/11) :03/12/21 03:00 ID:???
プルIは、自分が何者であるかを完璧に理解していた。
情報として、欠けるものは何もない。
当然だ。
そうした場合にどのような影響があるか、それを知るための試験体であったのだから。
但し、その結果を正確に知ることは、研究者たちには出来なかった。
何故ならば、その試験条件はプルIに「欺くこと」を覚えさせずにはおかなかったのだから。
そして、プルIの場合その技術は他の何にも増して完璧だった。
遺伝子的な要因が絡んでいるのか、あるいは彼女が置かれた状況がそうさせたのか、それは当の本人にもわから
ない。
確かなことは、それがプルHの感応能力さえをも欺く、最高水準の嘘であったこと。
及び、それが彼女の命脈を繋ぐ重要な処世術であったということだ。
反乱軍に対する悪感情を知られれば、拘束か、悪くすれば消去の運命が待つだろう。
さりとて、何も成果がもたらされねば研究そのものが無意味と断ぜられ、結局はプルIによくない状況をもたら
すはずだ。
適度に研究者が期待するような情報を与え、かつ、断定するには情報が少な過ぎると思われるように仕向ける。
そうすることによって、プルIはようやく自分の占める位置を確保してきた。
行為自体は、さほど特異なものでもない。
程度の差はあれ、どこにでも――あるいは、恋人たちの間にさえも――存在する、駆け引きのひとつだ。
問題は、それが文字通り自分の身命を賭すものであったことと、そして、それをするには彼女はやはり幼な過ぎ
たということである。
自我の確立もままならぬまま、純粋とは言い難い種々の思惑の只中に放り込まれる。
それは、プルたち全員が等しく経験した歪んだ小社会の悪意であり、彼女たちが極端な性格を獲得するに到った
要因の一つだ。
プルIの場合、更に自身が紡ぐ欺瞞がこれに彩りを加える。
良し悪しの問題はおくとして、それはあまりに完璧であった。
そうして、悪意の海を欺瞞の船で渡るうちに、プルIには何が「本当」なのかわからなくなった。
性格も趣向もプルHとは対極に位置するプルIであったが、その本質的な危うさ、自己に対する認識の脆さでは、
二人は鏡に映した一人のようでもあった。それを、プルHは「感じ」て、プルIは「認識」する、という違いは
あったけれども。
その彼女にとって、ギレン・ザビにより提唱された、あまりに理知的、論理的な暴論は猛毒だった。
一度目を通したことはある。研究者たちが、それを強いたのだ。
あの時も、プルIは研究者たちが期待しているであろう感想を披露して見せたものだ。
時代は動いている。大筋において同意するが、現実的には幾つも訂正が必要だ、と。
そうしておきながら、腹の底では吐き気とも眩暈とも知れぬ言いようの無い薄気味悪い嫌悪感に苛まれた。
――これが、私の起源、か。
それは、ある種の絶望を抱かせるのに充分な衝撃だった。
その日から、プルIは以前にも増して理知的な志向を強め、一方で論理的な韜晦の術に長けていった。
まるで、自分自身をも欺こうとしているかのように。

162 名前:Iの発見(8/11) :03/12/21 03:01 ID:???
逃げ場を求めるように彷徨うプルIの視線の端に、ふと、見慣れない赤い装丁の本が入り込んできた。
モビルスーツ時代のエースたち。
これは、読んだことの無い本だ。
本棚に収められてもおらず平積みにされているうちの一冊で、ムックかマガジンのようなソフトカバー装丁であ
る。
ザクと思われるモビルスーツの絵が描かれた表紙からは、幾分大衆向け、あるいは子供向けのものと推察された。
平常のプルIならば、積極的に手に取るような種類の本ではないだろう。
だが、その時の彼女は、精神的な問題からだろうか、惹かれるように安っぽい表紙をめくっていた。
巻頭カラーに、いきなり赤い彗星登場。
"MS単機で五隻の戦艦を撃沈!"
"MS時代の幕開けを飾る華々しいデビュー"
"抜群の空間機動能力! 『通常の三倍』の秘密とは!?"
誌面に踊るアオリの数々に、思わず噴出しそうになる。
その「なれの果て」を現実に知っている身としては、なおさらだ。
しかも、奇妙なデザインのマスクと鉄兜など着けて微笑を浮かべ敬礼を決める当時の写真などが添えられている
ものだから、これはプルDあたりが見たら爆笑ものに違いない。
しかし、そういった笑いを誘う――いや、一般の読者からすれば別に笑うところでもないのだろうが――構成の
中にも、プルIの目を引く記事があった。
赤い彗星の凋落、と銘打たれた、大き目のコラム記事だ。
一般に、ジオン軍におけるシャアの凋落は、ガルマ・ザビの戦死に始まると言われる。
引責から一時謹慎を受け、前線に復帰後もジャブロー作戦に多少の功はあったものの作戦自体が失敗に終わった
こともあり特に評価はされていない。突撃機動艦隊所属となっていたためソロモン戦には不参加、ア・バオア・
クーでは混戦の中で撃墜され行方不明。確かに、いいところ無し、ではある。
その、ケチの付き始めであるガルマ・ザビの戦死に関し、シャアの出自による何らかの悪意があったのではない
か、というのがコラムの要旨だった。
それは、その本全体がそうであるように、多大な憶測に彩られたヨタ話のひとつのようにも思われる。
しかし、プルIは冷水を浴びせられたように呆然と立ち尽くした。
シャアにとって、ザビが仇と呼んでも不思議ではない存在であることは事実なのだ。

163 名前:Iの発見(9/11) :03/12/21 03:03 ID:???
不意に扉が開いたのは、その時だった。
プルIは、彼女らしくも無く慌ててしまい、手にした本を取り落とし、入り口へと目を向け、驚愕に目を剥いた。
そこには、巻頭カラーで特集されていた男の現在の姿があったからだ。
「プルI、ここにいたか」
安堵の表情を浮かべつつ言って、歩み寄るシャア。
「あ、ああ……うん」
普段のプルIなら、幾分醒めた言葉で何がしか切り返すところだろうが、今はそんな声を出すのが精一杯だった。
「ほう、これはかなりの蔵書だな。どんな本を読んでいたのかな?」
非常時に悠長に本を読んでいたことをとを責める素振りも無く、シャアはプルIが取り落とした本を拾う。
"白い悪魔、赤い彗星を撃墜!"
「……焚書指定にしていいかな?」
たまたま開いていたページの記事がお気に召さないらしく、唇を引きつらせて問い掛けるシャア。
「ん……ああ」
プルIは、歯切れ悪く生返事を返すだけで、応とも否とも言わない。
いつもなら、史料を焼くのは愚か者のすることだ、だとか、隠蔽したところで事実が変わるわけでもあるまい、
だとか、キツイ一言が返ってくるところだけに、シャアは不安がってプルIの肩を揺する。
「どうした、プルI? どこか悪いのか?」
それは、優しい善意からのものだと理解できたが、その時のプルIには非常に困った行動だった。
シャアを、正視できない。
今更ながら考えると、この男が本当は何を考えているのか、断言できる材料を持ち合わせていないことに気付く。
それは、プルIを酷く不安にさせた。
シャアは見る限り本当に心配してくれている様子で、しかしプルIはそれを素直に受け止めるには混乱し過ぎて
いる。
プルIは、とりあえずシャアを蹴り上げて有耶無耶にしてしまえるような性格ではなかったし、理性的に切り抜
けるには準備も考察も足りなかった。
それでも、プルIが明確な言葉を返すまでシャアは安心せぬだろうと理解できたし、下手をすれば肩に掛けた手
を離さないのではないかとすら思える。
どうせ、このままでは埒があかない。
何とか自分自身にそう言い聞かせることに成功したプルIは、意を決しシャアを見据えて声を絞り出した。
「ひとつ訊きたい」
ようやく、いつもの調子とは程遠いにしても、まともな言葉を聞くことができ、シャアは安堵の息を漏らしつつ
促す。
「何かな?」
気障ったらしくそう言って、プルIの言葉を待つシャア。
しかし、そのポーズは続く彼女の言葉で脆くも崩れることになる。

164 名前:Iの発見(10/11) :03/12/21 03:06 ID:???
「シャア……ザビ家は、今も敵か?」
その問いは、シャアの胸を深く抉った。
それは、キャスバル・レム・ダイクンの心臓に刺さった小さな刺のようなものだ。
稀に痛みを与えるだけの刺かもしれないが、治療しようにも危なっかしくて手の施しようがない。
彼の生き方は、ありきたりの幸せを奪われるところから始まった。
そして残された幸せを捨て、手に入れた幸せも何時の間にか現実を切り抜けるために利用し、結局は失い続けて
きた。
そうするうちに、彼は幸せに嫌われた。
今やシャア・アズナブルは、その果てにある哀れな動く屍に過ぎない。
「プルI、私に言えることはひとつだけだ」
その屍に、運命はまたしても幸せを突き付けた。
今更そんなものをもらっても困る。
しかし、それがいざ目の前にあれば、どうしても失いたくない。
それが、ヒトのエゴか。
「ここには、敵はいない。戦うべき相手も、理由も、何もかも星の彼方だ。その彼方に、今何が残っているのか
 は、私にもわからんよ」
心の中でだけ、今はな、と付け加える。
人がどれほど移ろい易いものか、運命がどれほど皮肉なものか、すべてを知り得ぬまでもシャアは人一倍感じる
立場にあった。
その経験が、彼を悲しくさせた。
幸せに嫌われるだけなら、いい。
恨んでしまえば、それで済む。
だが現実には、幾百の恨みの中に、ほんの僅かずつ幸せが忍び込む。
そうしておいて、幸せはいつか自分を嫌う――あるいは、自分が幸せを嫌うのか?
いずれにしても、シャアは肝心なところで割り切ることができない。
適当なところで済ませてしまう、ある程度のところで満足する、それが出来ない男だ。
彼は、世故長けているようでいて、その実どこまでも純粋だった。
そうであるからだろうか、プルIにはシャアの想いが手に取るようにわかった。
仔細まではわかりようが無い。
しかし、その根底にある何かを、確かに感じることができた。
それは、プルIにとって今日最大の衝撃だった。
これまでの、常人よりは短く偏った人生全体を通してでも、有数のものだろう。
何か、自分ではない自分、新しい自分を発見したような、そんな感じさえする。
そんな感じ?
そうか。今、私は認識によってこの場に立っているのではない――私は、感じている。
その発見は、プルIをこそばゆいような、愉快なような、不思議な気持ちにさせた。
「戦いは、捨てられぬか」
慰撫するような、常に無い柔らかな声で問うプルI。
「忘れさせてくれるのかな?」
それがまるで儚い希求であるかのように言って、シャアはごく自然にプルIの首筋にかかる髪を梳いた。
ああ、なるほど。
この男は、こうやって女を口説くのか。
冷静にそんなことを思いつつ、それでもプルIはシャアに軽く背を預けた。
酷く頼りなげな男の腕に、何とは無く寄り掛かってみる。
そこは、翼を休めるのには、そう悪いところではないような気がした。
「そう望むのなら、それを請け負ってもいい――」
ほんのりと僅かに上気した顔に微笑を浮かべ、プルIがそう切り出した時。
ギギィ、とイヤな音を立てて二人を外界から隔離していた魔法の扉が開いた。

165 名前:Iの発見(11/11) :03/12/21 03:09 ID:???
先頭には、真白のノーマルスーツ姿も勇ましいアムロ・レイ。
その背後には、「あーっ! 浮気現場はっけーん!」などと叫ぶプルAを筆頭に、合流したプルBも含めたプル・
シスターズがオールスターで付き従う。
固まる赤い彗星。
あらぬ方を見やるプルI。
「な・に・を・している? シャア?」
白い悪魔、発現。
「な、何も問題は無いぞ。アムロ、私を誰だと思っている?」
慌てふためき、裏返った声であらぬことを口走る赤い彗星に、アムロは冷たく言い放つ。
「三十路半ばのロリコン変態オヤジ」
退路を断たれたシャアは、苦し紛れに弁明する。
「ちぃいっ! しかし、状況は最大限に利用する! それが私の主義だ!」
――もとい、墓穴を掘った。
「させるかぁっ!」
気合一閃、白い悪魔は赤い彗星に躍り掛かる。
両足タックルからマウントポジションをキープ。
ひとつっ! ふたつっ! みっつっ! と数えつつ、シャアにパンチを叩き込むアムロ。
アクシズ漂流家族の、いつもの風景。
その中に、ひとつだけ珍しいものが混じっていた。
それに気付いたプルIは、ニヤリ、と人の悪い笑みを浮かべる。
そうだ、状況を放置しておくと、私は少々愉快ならざる事態に陥る可能性が高い。
ならば、先手を打つのが好手というもの。
「何を怖い顔をしている、プルJ?」
「な、何でも……いや、その、大佐と、何が」
しどろもどろに問うプルJの態度に、プルIは勝利を確信した。
「何か誤解があるようだな」
ククッと忍び笑いを、わざとらしく見せ付けるように漏らすプルI。
「私は、シャアが望むのなら、我が叡智の全てをかけて『シャア更正特訓メニュー』を組んでやろうと言ってい
 たのだが?」
「と、特訓?」
プルJ、呆然。頭の上に、カラス舞う。
「うおーっ! 特訓か、燃えるねぇ! いっそのこと、スゴイ男になるまで鍛え上げてやろうよ!」
何故か妙に乗り気のプルD。根本的なところで、語感から来る勘違い中の模様。
「んん? プルJ、いったい何を勘違いしていたのかな? 是非とも拝聴したいものだが」
ギレン・ザビもかくや、という意地悪さをもってプルJの頬を突つくプルI。
その行動は、姉妹たちの関心をプルIからプルJに移すのに充分な効果を持っていた。
ゆるゆると微笑むプルHの目を誤魔化せたか否かは、ちょっと微妙なところであったけれども。
プルIのからかいは、珍しくプルJがキレるまで続いた。

188 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/23 12:23 ID:???
「つうっ…!」
アムロは、うめいた。明らかに自分のミスだ。油断していたとしか言いようが無い。
確かにプルたちのMS操縦もうまくなった。。特に今回連れてきたプルIは、
もともと教育レベルが高かったこともあり、かなりのレベルまで達していた。
だから少しづつデブリ捜索の様子も見せておこうと思ったのだったが、
まさかよりにもよってプルにこんなものを見せる羽目になるとは…

先日センサーが捕らえた大型デブリの正体は、エンドラ級戦艦だった。
アムロとプルIは、MSデッキのハッチをこじ開け、内部に侵入した。
そこにあったのは、全くの無傷でその威容をたたえている量産型キュベレイだったのだ。

「プルI…すまない。まさかこんなものがあるとは」
「何を謝る必要がある?立派なお宝の発見ではないか。このまま使うもよい、ドムよりは役に立とう?
 解体してサザビーの修理パーツに廻しても良いかも知れん。あの男、サザビーの調子が悪くなると
 すぐ文句を言うだろう?」
「プルI、本当に良いのかい?」
「良いも悪いもあるまい。使えるものを使わずに生き延びられるほど悠長な状況か?
 まあAだのLだのに泣かれても厄介だ。外装を剥いでフレームだけ持って帰れば姉妹らには分かるまい。
 人肉と知らなければ貴族も人肉を食うという言葉もあるしな。」
「君は知っているじゃないか。それでも大丈夫なのかい?君の言うやり方だと、君一人が背負うことになる」
「そんなことは関係ない。私は使える道具を使わない手は無いと言っているんだ。
 私に考えを変えさせたいなら理論立てて私の考えを否定してみせろ!」
珍しくムキになるプルI。
「アクシズにキュベレイを持って帰って、本当に、良いの?」
アムロはもう一度、ゆっくりと問いかけた。
アムロの声には何の邪念もない。ただただ優しさだけを純度100%ですくい上げたらこういうものになるのだろうかと
思えるほどに純粋だった。その純粋さは、おそらく世界で唯一今のプルIの心を開くことができるものだったのだろう。
「嫌に決まっているじゃないか!見たくも無いに決まってるじゃないか!!
 あの頃のことを思い出す!!!あの頃の実験の傷が疼く!!!!
 あの頃に連れ戻されるかとも思ったさ!使いたいわけなんか無いさ!!
 でも、それでも、だからといって、私一人のわがままで家族に迷惑がかけられるか!!
 うわぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
アムロは嬉しかった。いつもどこか心を閉ざしていたプルIが胸のうちをさらけ出してくれたことが心底嬉しかった。
「俺とシャアはさ、最初二人きりでアクシズにいた時は間違いなく死ぬと思ってたんだよな。
 なんだかんだで俺とあいつがここまで協力してやってこれたのはプルたちのおかげなんだ。
 本当、感謝してます。ありがとう。
それでさ、今、プルIが心の底から俺たちを家族って言ってくれたことはもっと嬉しかったんだ。うん」
言いながらνガンダムはキュベレイの顔面をむんずとつかみ
「だからさ、こんなたかが電子機器の塊が、うちの娘を泣かすって言うのなら、さ」
ハッチのところまで引きずり回し、
「その時点で、粗大ゴミ決定なんだ。」
言いながら、アクシズとは逆方向に投げ捨てた。
「…アムロは、もっと論理的な人だと思ってた…」
目尻を赤くしながらプルIがつぶやく。その声と表情は、いつもより少し年相応の子供らしいものに見えた。
「どこの親だって、子供のことになればこんなもんさ。多分。」
「…私も、母親になれば分かるのかな…」
プルIは、母親になった自分を夢想した。無駄な思考に心あそばせるのは、存外心地よいものだな、と思った。

-Fin-

196 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/23 23:43 ID:???
>188
-――――――――――――――┐
-―――――――――――――┬┘
                        |   
       猿銅鑼級         |
     _________    |   
    |       |        .|   |  
    |       | ,r'⌒⌒ヽ..|   |  
    |  ⌒⌒ヽ|( rνyy'ソ.|..   |   
    |( I ノ|ノ)从) ヾ ゚ー゚ノつ ミ | 
    |ノノ*`∀´ノ| /⊃]¶[ ノ .|   |  量産型キュベレイ
      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   .|   

 その機体が、娘に戦いを強制するのなら!

197 名前:月光蝶 :03/12/24 00:10 ID:???
計画発動。
アクシズ一家、新居に引越しです。
ttp://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/1897/log/dame/dame.html
旧ログサイト

ttp://axis2000.hp.infoseek.co.jp/log/dame/dame.html
新ログサイト

【お引越し記念SS】

12人も人が増えて手狭になったので、元拠点にしていたドック付近から、同じ
ブロック内の別の建物に引っ越す事になった。

プルD:「なーアムロ、これどこに置くんだ?」
アムロ:「それは右の倉庫だ」
プルB:「I、少しは本を減らしたらどうだ」
プルK:「本はいいものですよ、B」
プルI:「スペースはたっぷりある。今整理しておけば、後で苦労が無いのだ。お前も少しは整理能力を磨け」
シャア:「J、それはこっちだ」
プルJ:「はい、大佐」
プルG:「なんだい、その怪しい赤い箱?」
シャア:「・・私物だ。昔のものだよ(−−;;;」
プルJ:(大佐・・また昔の・・こ、恋人の事を!?)
プルJを除く一同:(・・おおかたロクでもないものでも入っているに違いない)

謎の実体が知れた時、プルJとシャアの間にちょっとした痴話喧嘩が起きる事になるのだが、それは後日の事。

単なる、お引越しの際のちょっとした椿事。
今日もアクシズはこともなし。


では皆さん、次は(実は予定していたが書ききれなかったため季節がずれた)エピソードで(笑)。


198 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/24 12:34 ID:???
アクシズ一家のお引越し、乙ー。

199 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/24 17:05 ID:???
>>197
新サイト200ゲトヤター。引越し乙です。
赤い箱の中身はなんだろうワク(・∀・)ワク

200 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/24 17:48 ID:???
           ,,-―- 、                    ,,-―- 、
          /ロ≠、   ヽ                  /ロ≠、   ヽ
         .i Aノノ|ノ)从ノ                  .i  Bノ|ノ)从ノ
         ヾ、イ┃ ┃|l <200ゲットしつつ       ヾ、イ┬ イ|l <おやすみなさい
           ‖、_ヮノ !                    ゞl|、 ー イ!
           /  _ソ⌒⌒⌒`〜、_             /  _ソ⌒⌒⌒`〜、_
        ( ̄⊂人 //⌒   ノ  ヽ)         ( ̄⊂人 //⌒   ノ  ヽ)
       ⊂ニニニニニニニニニニニニニニ⊃       ⊂ニニニニニニニニニニニニニニ⊃



201 名前:クリスマス 中編 1/1 :03/12/24 20:28 ID:???
 クリスマス当日である。
 猫も杓子も馬も鰻もどこか浮かれるお祭の日である。
 イエス・キリストの誕生日だと言われているが、実際は西洋の冬至であり、本当の誕生日など定かではないのだが。
 宇宙世紀ではクリスマスに宗教的な意味はあまり残っていない。
 何か昔の偉い人だかなんだかが生まれたとか死んだとか、大抵の人はそのくらいの意識である。
 とはいえ髭のオッサンが子供にプレゼントを持ってきてくれる日、ということは残っている。
 こういう習慣は多分これからも永遠に残るだろう。
 まあ、とりあえずはクリスマスである。たとえ宇宙の闇を邁進中のアクシズの中であっても。
 クリスマスといえば何は無くともまずは酒、ではなくパーティである。
 やはり、それはアクシズの中でも変わらない。

『メリークリスマス!』
 威勢のいい掛け声とともに14個のグラスが掲げられる。
 本日の食事はアムロが苦心を重ねて作ったケーキとシャンパン(ただし、B作戦の時の失敗を教訓に一人一杯まで)
 それにメインディッシュのスパム・スパム・スパム・スパム・スパム・スパムである。
 他にもさまざまな缶詰のフルーツやアムロ特性プリンなどが食卓を飾っている。
 そして部屋の片隅にはプルたちが協力して作った豪勢なクリスマスツリーが置かれている。
 楽しく幸せなクリスマスパーティである。
「我々はやはりスパムだけか…」
「わがままを言うな。みんなが喜んでくれているんだからそれで良しとしようじゃないか…」
「あぁ、そうだな…」
 訂正、大人二人は少し侘しいようだ。
 途中、Jがシャアのほうをちらちらと見たかと思うと顔を赤くしてうつむくというような事をしているのに気づいたアムロが
 シャアに何をしたと問い詰めたり、その様子に気づいた他のプルたちがJをからかったりといった事が起きたが、おおむね平和に時は過ぎていった。

202 名前:クリスマス 中編 2/1 :03/12/24 20:30 ID:???
 パーティも終盤になり、アムロとシャアがプル達にプレゼントを用意したと告げた。
「でもさー、プレゼントはサンタさんがくれるんじゃないの?」
 アムロがわずかに微笑する。
「もちろんそうさ。だが、見ず知らずのサンタばかりに任せていたら俺たちも大人としての立場がなくなるからな」
「そういうことだ」
 シャアもそう追随する。
 ちなみに、実際のところは自分たちが苦労して用意したプレゼントをサンタなどというどこの誰とも知らないような奴の手柄にされるのが悔しかった為だ。
 とりあえず、個人向けのプレゼントはサンタとして用意し、全員に向けてのプレゼントを用意したのだ。

 シャアの分は割愛する。
 ネタも割れてるしね。
「なにィ!」

「さて、俺の用意したプレゼントは実は格納庫においてあるんだ。みんなで見に行こう」
「へー、何を用意したの?」
「それは見てのお楽しみさ。シャア、お前も来いよ」
「? なぜ私が?」
「いいからいいから」
 格納庫に到着し中に入りその『プレゼント』を見るやプルたちは爆笑し、シャアは崩れ落ちた。
 格納庫の中には白い縁取りを加えられサンタカラーとなったサザビーが雄雄しく鎮座していた。
「ア〜ム〜ロ〜…」
「うわっ!」


              r'⌒⌒⌒ヽ
           (⌒\(ミ""""メ"ソ 
            \ヽヾ#▼∀▼ノ
             (m   ⌒\
              ノ    / /
              (   /νyy')
           ミヘ丿 ∩Д゜;ノ
            (ヽ_ノゝ _ノ

206 名前:クリスマス 後編 :03/12/24 23:58 ID:???
 そろそろプルたちも寝静まったかなというような時間。
 二人の大人は眠気覚ましのコーヒーを飲んでいた。
 アムロが時計を確認して立ち上がる。
「シャア、もうそろそろ良いだろ。着替えよう」
「ああ、そうだな」
 シャアも時計を確認し自分の部屋に向かう。
 部屋に戻ったシャアはベッドの下に隠しておいたサンタ服を取り出す。
 万が一プルたちが目を覚ましたときの為の偽装である。
 わずかにため息をつくと服を脱ぎ始めた。
 ここで一応彼の弁護をしておくと、彼がドアにロックをしなかったのは事故である。
 サザビーの無残な姿を見せられ落ち込んでいて注意力が散漫になっていたのかもしれない。
 それに、ここには14人しか住んでいないのだからロックをしなくても何ら問題はなかったのである。
 シャアが服を脱ぎ終わり、サンタ服のズボンを今まさに穿こうとしたとき、ウィーンという音とともに自動扉が開き、プルJが入ってきた。
 シャアはズボン穿きかけのかなり情けない格好で固まっているのだが極度に緊張しているらしいJは気づく様子がない。
「あ、あの、た、大佐。あのこれ、えーと…」
 Jは一人でパニックになっている。シャアは相変わらず固まっている。
「えーと、あの、た、大佐はプレゼントをもらえないって聞いて、えっといや、あの…」
 どんどんパニックになっていくJ、そしてさらに硬度を増していくシャア。
「と、ととととにかく、こ、これあげます!」
 そう叫ぶとシャアの手にカードのようなものを押し付けて部屋を飛び出していく。シャアはまだ固まっている。おそらく超人硬度は10を超えている。
 10秒後ようやく動ける程度まで硬度が下がったシャアは手の中の物に目を落とした。
 それは「Merry Christmas」と書かれた可愛らしいカードと、Cあたりから借りたらしい少女服を身にまとったJの写真だった。
 胸に暖かいものがこみ上げ、シャアの顔に微笑が浮かぶ。今までもらったプレゼントの中で最も価値があるような気がした。
 カードと写真を大切にしまい、着替えを済ませ、プレゼントを置きに行こうと部屋を出ようとしたところで血相を変えたアムロ(サンタ服着用)が飛び込んできた。
「シャア! 貴様Jに何をした! 真っ赤になって貴様の部屋から飛び出してくるのをこの目で見たぞ!」
 シャアは一瞬きょとんとしたが、すぐに先ほどのJの様子を思い浮かべ納得し、微笑ましいものを感じた。
 アムロはシャアがニヤリと(アムロ主観)笑ったことを当然見逃さなかった。
「今日という今日はもう許さん!」
「ぶべら!」

            ◯
             ヽ ̄\ 
             /☆ ヽ
        丶    (二二二)
         ヽ\\ヽ(m# ^^^^|/m)//
         \ (m ヽ(#゚ー゚ノ/m)/
          丶\(m\  m)//
           (m\(m (m m)/
              ( (m /ノハλ)
           ミヘ丿 ∩#∀▼||l
            (ヽ_ノゝ __ノ

207 名前:コンバット :03/12/24 23:59 ID:???
酒かっくらいながら書いたんでどこか変なところがあるかもしれませんがご容赦を。
本当は中編で終わらせるつもりだったんですが、アクシズ一家集合写真の少女服を見てほほを染めるJを見て急遽追加しました。
ちなみにJは他の姉妹が寝静まった隙をついて部屋から出てシャアの部屋の付近で20分ぐらいシャアを待ち伏せしてました。
それで、アムロは着替え終わってシャアを呼びに行こうとしているところで部屋から飛び出してくるJを目撃、Jが見えなくなるまで隠れてやり過ごした後でシャアの部屋に急行しました。

211 名前:Iの憂鬱 :03/12/26 12:18 ID:???
先日に起きた、アクシズ内での遭難の一件以来
あの赤い大人の事が頭にこびり付いて離れない。
更に付け加えれば、奴の姿を見かける度に心拍数が上昇し
奴にたいする小言の類が全く思い付かなくなる。

これでは大佐バカの堅物と一緒ではないか。


これが俗に言う『恋愛感情』とでもいうのか?
だとすれば愚かな話だ。
人為的に造られた我々にとっては
そもそも感情というものすら必要とはされていない筈なのだ。
今回、我々にその感情が生まれてしまった事は
もうどうしようもない事だが、あろうことか、この私が。
あの甲斐性無しで女泣かせでロリコンで〜(以下略)〜なダメ親父に…。
『恋愛感情』など抱こうとは。


…これは今まで体験した事も無い事態に遭遇した事により
頭が一時的な混乱状態に陥ってしまったが為の
愚かな勘違いである事を願いたいな。
まあ、神などを崇拝する性質ではないが。

212 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/26 20:16 ID:???
>>211
『・・・というような報告が、13号から入っている』
『由々しき問題だな、虎4よ』
『うむ。ここは、やはり奴を呼ぶべきか』
『奴か?だが奴は目立ちすぎる』
『変装すれば問題あるまい。われわれの大事なユーザーの1人に、悪い虫がつかぬようにな』

電波による会話は終わった。

−そして。
「ハロハロ、I、ゲンキカ」
「I、最近なんか妙にハロと仲良くないか?」
「いや、判らんな。それにハロなんて一杯居るであろうから、たまたま出て来る確率が高かっただけじゃないのか」

精鋭・黒ハロ部隊。
隠密・諜報能力に長け、変装すらこなす謎のハロたちは、赤い男の誘惑の魔の手から
プルたちを守るため、今日も影に日向にプルたちを見守っていた・・・。



・・・というような事実はまったく無い。
多分・・・・。


213 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/26 22:20 ID:???
ある意味機械に管理される人類ってことで、
ホラーチックでも有るような無いような…w

214 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/27 00:46 ID:???
ちうか黒って某玉葱ですか(w

215 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/27 01:17 ID:???
そういえばアムロの中の人はタマネギですたね

216 名前:有効活用(1/4) :03/12/27 03:29 ID:???
プルIは、固まっていた。
絶対零度下にさらされたバナナのごとく、それはもう見事に固まっていた。
周囲では、姉妹たちがきゃいきゃいと騒いでいる。
枕元に吊り下げた靴下に入れられていた、それぞれのクリスマス・プレゼントの見せ合いっこだ。
日頃から何かと騒がしいプルたちではあったが、こういう機会ともなればお喋りにも一際華が咲く。
だが。
プルIは、固まっていた。
液体窒素に漬け込まれた薔薇の華のごとく、それはもう見事に固まっていたのだ。
「なあなあ、Iのはー?」
赤い彗星特性ブロマイド(手製と思われる額付き)を頂いたプルJをはやし立てていたプルGが、無邪気に声を
掛ける。
――訊くな!
内心そう叫びつつ、何食わぬ顔で少々凝った造りのモバイル端末を差し出すプルI。
見たところそのままアクシズ内に設置されている種々の端末とも接続出来る仕組みになっているようで、情報マ
ニア――プルGの主観による称号――のプルIにとっては非常にありがたいものであろう。
「へー、カッコイイじゃん!」
「そうね。プルIには、特にお似合いかしら」
口々に好意的な感想を述べるプルA、プルK。
その様子を見ながら、プルIは、どう誤魔化したものか、と思案する。
だが、無情にもその努力は、プルA、プルKの腰のあたりに割り込む感じで、にゅっ、と頭を突き出したプルE
の一言で放棄を余儀なくされた。
「……もうひとつ」
――来たか……
もはやこれまでと、プルIはうなだれる。
やっぱり、サンタは二人いるのかもしれない。
彼女たちは、それぞれふたつの贈り物を受け取っていた。
そして、プルIの場合もう一方のプレゼントが頭痛の種であったのだ。
色々と。
「……もうひとつのは?」
重ねて問うプルEに、プルIは観念したように俯いたまま、小さなカードを差し出した。
またもやシャアのブロマイド?
全員が、そう顔に書いてカードを覗き込む。
が。
事実は彼女たちの想像の斜め上――レベル的には、むしろ下――を行っていた。
「ええーっ!?」
「な、何だこれは!」
プルCの叫びに耳を押さえながら、プルIは投げ遣りな調子でプルBの問いに答える。
「見ての通りだ。それ以上のことは、訊かれても困る」
そこには――

シャア・アズナブルに命令券(1回限り有効)

――と、流麗な文字で記されていたのだった。
「また、益体のない……」
プルFが呆れ顔で言えば。
「というより、無謀ね。無茶な要求をされたら、どうするつもりなのかしら?」
プルHは、楽しそうに首をかしげる。
「裏面に『シャア・アズナブルに実行不可能な命令は出来ません』『他の人への譲渡は出来ません』と注意書き
 がある」
「じゃあ、真面目に働け、はダメかー」
カードを検めていたプルBが告げる限定条件に、プルDがある意味酷い感想を漏らす。
「プリンをたくさん……って、シャアじゃなぁ」
嘆息するプルAにつられて溜息をつき、プルGが言った。
「っていうかさぁ、プレゼントする相手が違うよな。Jがもらってれば、色々有効活用できたのに」
「おおっ、それいいねぇ。『結婚しろ!』とかさぁ」
「ばッ! 何を言い出すんだ!」
無責任に話を進めようとするプルDに、プルJがあたふたと取り乱す。
「……結婚……できるの? シャアに?」
さりげなく失礼なことを呟き首を捻るプルEを横目で見ながら、プルIは正直どうしたものかと頭を悩ませた。

217 名前:有効活用(2/4) :03/12/27 03:32 ID:???
シャアとて、馬鹿ではない。
うつけ、という表現なら、しっくりくるような気もするが。
それはともかく、いまどき小学生でもしないようなプレゼントを贈りつけるに至ったのには、それなりに事情と
経緯がある。
そもそも、外界から隔絶されたアクシズのこと、プレゼントを用意する、と言っても、どこかの店で洒落たアク
セサリーでも、というわけにはいかない。アムロにせよ、シャアにせよ、プルたちに贈ったものは全て、どこか
から拾ってきたものか、彼らのお手製であるか、あるいはその組み合わせなのである。
今回の場合特に、アムロを出し抜くという二義的な目的もあったから、シャアはアムロに気付かれぬよう、もち
ろん彼の手を借りずとも済むように、極秘裏にプレゼントを用意せねばならなかった。いかにシャアとはいえ、
これは結構な難事業である。
最初からアムロと相談し協力して事を運んでいれば苦労も少なかったのだが、そこで敢えて困難な単独行動を選
択するあたりがシャアの稚気かもしれない。
ともかく、シャアは遊び惚けるフリをしながら、せっせとプレゼントの収集に勤しんだ。
アムロが知れば、半分でもいいから別のことに情熱を傾けてくれ、と血涙を流すこと請け合いではある。
努力の甲斐あって、シャアは相応に良い品々を入手できた。
プルAには、デフォルメされた猫が描かれたふかふかのクッション。詰め物の入手には、なかなか苦労した。
プルCには、本物の職人の手によるものと思われる見事なレースのハンカチーフ。居住ブロックでたまたま未使
用のものを入手できたのは僥倖だった。
但し、こういった幸運は、さすがに12回もは続いてくれない。
プルBに贈った、機能美が美しいと言えなくもないポシェットあたりから、段々怪しさが漂い始める。
プルJが受け取ったブロマイドとて、他に手に入ったのが軍用品ばかり――さすがに、彼女らにそれを贈るのは
憚られた――であったため、やむを得ず手持ちのものを参考に何とか作成出来た写真立ての付け合せとして、ひ
ょっとしたら喜んでくれるかも、とかいう淡い期待で添付したものに過ぎない。それがプルたちの観点から見れ
ば、主従が逆転して捉えられてしまうあたり、喜んでいいものか悲しんでいいものか。
そして、極めつけがプルIに贈られた「命令券」なのである。
もともとは、そんなふざけたアイテムではなかった。
だが、シャア独自の調査――いろいろ、やってるらしい――の結果、贈ろうとしているものがアムロとダブって
しまったのが痛恨だった。しかも、シャアはとりあえず動作する既製品を拾って来たに過ぎないが、アムロが用
意したものは彼の技術力を活かしたカスタム品である。機能差は、歴然としていた。
機能的に劣る同一種のものを贈るなど、シャアの矜持が許すわけがない。
当然、シャアは代替品を探し回ることになった。
しかし、ここにきて運に見放されたように結果は芳しくない。
また、プレゼントは既に用意済み、とアムロに言った手前、あまり派手な行動は出来なかった。
追い込まれたシャアは、必死に考えた。
プルIが、何を喜ぶか。
その結論がアレというのは、ちょっとアレだが。
とにかく、シャアはシャアなりに真面目に考えての結果なのである。
何を要求されるかわからない、という恐怖がないではなかったが。
従って、プルIが件のカード片手にシャアの前に現れたとき、彼は多少の無理難題でも従容として受け入れよう、
と真摯に思い覚悟を決めたのであった。

218 名前:有効活用(3/4) :03/12/27 03:39 ID:???
ほんの少し、時間は遡る。
プレゼントの品評会が終わった後、プルIは思うところがありアムロの下を訪ねた。
命令券を有効活用するためには、アイテムが必要であると考えられたからである。
「カメラ? ハロに付いてるのじゃ、駄目なのかい?」
「コピーが利かないものがいい。古い形式の、スチール・カメラが最適だな」
唐突な上に奇妙なプルIの要請に首を捻りつつ、アムロは部屋の隅に積み上げているガラクタ――少なくとも、
プルIの目にはそうとしか映らない――の山をゴソゴソと掻き分け、やがていかにも頑丈そうな三脚まで付属し
た無骨な造りの一品を探し当てた。それは、情報の信用性が特に重視される現場で使用されるだけの、元々あま
り需要の多くない品だ。
「証明用のポラロイドでいいかい? これなら、コピーは出来ない造りになってるはずだけど」
「申し分ない。印画紙は?」
「あまり、数はないよ。その中に何枚かは入ってるはずだけど、替えはない。まあ、どうせ必要なものじゃない
 から、使い切ってしまって構わないけどね」
「ありがとう。これで、作戦の遂行が楽になる」
そう言って頭を下げ、プルIはアムロの下を辞した。
そして、その足でプルJの姿を求める。
程なく目当ての人物を探し当て同行を求め、今度はプルIを悩ませる切っ掛けを作った張本人、シャア・アズナ
ブルを探す。これも簡単に発見が叶い、準備万端に整ったのであった。

「少しいいかな、シャア」
「何かな、プルI……はっ! それはまさか『命令券』?」
いつになくわざとらしい三文芝居を展開するシャアの様子に軽くこめかみのあたりを押さえつるプルI。プルJ
も、さすがに微妙な表情を隠すことが出来ない。
「そういうことだ。では、命令をさせてもらうぞ?」
猿芝居は無視すると決め込んだプルIの問い掛けに、シャアは唾を呑み込み頷いた。
「ああ。どんな望みでも言うといい。私に出来ることなら、な」
プルJまでいるというのは少々気が重いが、この際多少の失敗もやむ無しと覚悟を決める。
そのシャアに向かって、プルIは厳かに宣言した。
「では、プルJと二人並んでファインダーに収まってもらおうか」
予想外の言葉に、呆気にとられるシャア。
真っ赤になって反応したのは、プルJだ。
「ちょっ! ど、ど、ど、どうしてそんな!? 私は……」
猛烈な勢いで動揺するプルJを無視し、プルIは黙々とカメラを展開した。
アムロが手慰みに改造でもしていたのか、完全自動調整で撮影してくれるようだ。
「いつまでもゴネていないで、ほら、さっさと並べ」
「で、でも! その!」
「プルJ」
プルIは、ほんの少し人の悪い笑みを浮かべ、プルJに小声で囁きかけた。
「世界でたった一枚だぞ? 他では手に入らんぞ? この機会、逃していいのか?」
「あ、う……」
さすがに絶句するプルJ。
プルIは、やれやれ、とかぶりを振って、ほとんど運ぶようにしてプルJをシャアの隣に連れて行く。
そして、邪魔にならぬようカメラの脇まで退いてから、悪戯っぽくシャアに声を掛ける。
「ほら、シャア。せっかくだから、肩なり抱いてみせろ」
「あ? うむ」
その言葉で我に返ったシャアは、ようやくプルIの意図を悟り言われるまま包み込むように優しくプルJの肩に
軽く手を添えた。
「!!」
プルJが限界まで赤くなるのと、フラッシュが瞬きシャッターが切れたのは、ほぼ同時だった。

219 名前:有効活用(4/4) :03/12/27 03:45 ID:???
「よかったのかな? あれで」
農耕ブロックのトマトよりも赤くなったプルJが引っ手繰るように写真を受け取り駆け去ってから、シャアはプ
ルIに尋ねた。
「もちろん。姉妹の幸福は、私の幸福だ。なかなか愉快な情景も見せてもらったしな」
プルIは軽く微笑み、肩をすくめてそう答える。
「賢い……いや、優しいな、プルIは」
シャアも、屈託のない笑みを浮かべ、そう言った。
プルIが、せっかくの権利を人を喜ばせるために使った、そしてそれによって彼女自身も喜びを感じている。そ
のことが、シャアには堪らなく嬉しく、そして大切に思えたのだ。
――私の愚かな贈り物を、この娘は立派に役立ててみせた。
そう思えば、少々情けなく呆けてしまったことすらも、愉快に思えるのだった。

後から思えば、ここで会話を打ち切っておけば、彼は幸せなまま今日という日を終えることが出来たのだ。

気を良くしたシャアは、迂闊にもこんなことを口走った。
「ついでに、プルIとも記念撮影をしていいかな?」
思わず、ドキリ、として、プルIは彼女にしては珍しく歯切れ悪く応じる。
「わ、私? 私は、別に……」
シャアとのディベートなど、日常茶飯事だ。
どうでもいい問題だったり、深刻な話だったり、やり込めたり、諭されたり、色々あるが、議論の中で思考を澄
ませること自体が、プルIにはたいした娯楽だった。
だから、シャアと向き合うことなど、何でもない。
しかし、こういうのは駄目だ。
こういう優しい顔をするときのシャアと向き合うのは、よくない。
何かが根底から崩され、勝てる見込みがまるでない、議論にすらならない、そんな気がするのだ。
「プレゼントだよ。サンタではなく、私からのね」
「ひ、必要ない! ええい、私はいいと……」
先刻のプルJをとやかく言えないレベルで赤くなって逃げ惑うが、シャアはほとんど遊んでいるように軽やかな
身のこなしで追随し、なかなか振りきることができない。
おまけに、アムロが余計な機能を付加したようで、カメラはオートフォーカスどころか二人をロックオンして絶
えずレンズを向けている。
「つまらないものかもしれないが、記憶にはなる。それは、いつか想い出と呼べるようになるかもしれんのだよ」
よくわからない理屈を振りかざすシャアがプルIを腕の中に捕らえたとき、フラッシュが瞬いた。
プルIは、思わず光源に目を向けて、一瞬、固まってしまう。
これがまた、被写体が目をつぶるのを防止するためにプレ・フラッシュを焚くタイプのものであったから。
結果、シャアの腕に抱かれカメラ目線で真っ赤になっているプルI、という、いろんな意味で余人には見せられ
ない一枚が完成したわけである。

そして――
ちょうど、プルIの様子を気にしたアムロが最後の光景を目撃していたわけで――
ヘソを曲げたプルIは、シャアの弁護をサボタージュしたわけで――
さすがのシャアも、ここで言い訳するほど野暮ではなかったわけで――
つまり、今日もシャアには拳の雨が降った、ということである。

なお、件の写真は事件直後プルIにより接収された。
その行方を知る者は、彼女一人である。

225 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/12/28 00:17 ID:???
シャア『プルたちが私のことをどう思ってるか教えてくれ』
アムロ『そうだな…
      (死んじゃえ←1234567→ラブ)
      プルA…4    プルB…3   プルC…3
      プルD…4    プルE…4   プルF…5
      プルG…5    プルH…6   プルI …6
      プルJ…7●~  プルK…4   プルL…5
                        …というところだな』

ふ、次はプルJか。もてる男の贅沢な悩みだな。
          r'⌒⌒^'、
   r'⌒⌒⌒'、 (/y'y'ソν)
  (ミ"""メ""ミ) (゚ー゚# ソノ 珍しくコンピュータに張り付いて軌道計算してると思ったら…!
   ヽ▼ー▼ノ / V (⌒i
   / ¥ \     | |
  /    / ̄ ̄ ̄ ̄/| |
__(__ニつ/ シャア専用/__| .|____
    \/____/ (u ⊃=3


        丶     r'⌒⌒^'、
         ヽ\\ヽ(m#νy'ソ/m)// ゲームを作って遊ぶ暇があったら働け!
         \ (m ヽ(#゚ー゚ノ/m)/
          丶\(m\  m)//
           (m\(m (m m)/
              ( (m /ノハλ)
           ミヘ丿 ∩#∀▼||l ええい、バランス調整しないとガンダム番長戦がきついぞ!
            (ヽ_ノゝ __ノ  (まだゲームのつもりらしい)


238 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/01 00:24 ID:???
,r'⌒⌒⌒'、      
( ミ""メ""ミ )
ヾ ▼∀▼ノ  < 新年おめでとう諸君。…さて、どうやってお年玉を誤魔化すかね?アムロ。

239 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/01 00:47 ID:???
>238
   r'⌒⌒^'、
  ( rνyy'ソ    △    お年玉…?
   ヾ.#゚ー゚ノ   ▽ν ▼  お前が教えたのか?
   ┃∞∞∩∞△ 鎚▲
   つ        ▼


240 名前:即興 :04/01/01 00:56 ID:???
「お年玉は無いが、新年を祝うにふさわしいだけのご馳走は作ったつもりだ。
あと、シャワーその他の設定をいじって、同じだけのトークンでもシャワータイムが長くなったり
新年おめでとうモードにはしてみたつもりだ。とりあえず3日間はこれで行く。」
「あ、そうそう。その分俺たちのシャワータイムは短くなるからその辺よろしく。
水もそんなに贅沢に使える状況でもないしな。」

「君はなんでそう私に相談も無く…」

「じゃあ、やめるか?設定いじるだけだからすぐ元に戻せるが?」

「いや、そのままでいい…」
「しかし結局私が賛成すると思ってやったのだろうが、もう少し相談してから
そういうことはするべきではないのか?アムロ」

「お前に言うとプルたちにばれる。おそらくは3時間も持たずに。」
「そりゃそうだ。プルたちに何かしてやる計画を立てると、すぐにプルが喜ぶ姿を想像して
にやにやしてるんだから。プルたちがNTでなくたってすぐに分かるさ」
あ、落ち込んだ。まあいい。明日(もう今日というべきか?)の朝、プルたちが喜ぶのが楽しみだ。




そして朝。
「なあ、シャア。俺はパッと驚かして、喜ぶプルたちを見るのを楽しみにしていたんだが」
「それはそれは」
「なんで皆さん、すでに全部知っているのかな?」
「私に教えたからだろう?」
「この…」

,r'⌒⌒⌒'、  
( ミ""メ""ミ )
ヾ ▼∀▼ノ  <私の勝ちだな。貴様のがんばりすぎだ。プレゼントを知ったときのプル達の笑顔はそりゃあ極上だったぞ

その後、総帥がどうなったかは知ったこっちゃありません。

241 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/01 01:13 ID:???
   r'⌒⌒^'、  \
  ( rνyy'ソ  \\  お前にも落とし玉
   ヾ,#゚ー゚ノ    | |
     ]¶[  )    | |
      / /    人
     ヽ/    <  >⌒⌒ヽ ∩
    △/  //(V#"メ"""ミ) /
  ▽ν ▼ 彡  ヾ▼Д▼ノ / <これでは道化だよ!
  △ 鎚▲       ¥  /
    ▼


248 名前:Scars on Stars (前編)1 :04/01/04 09:23 ID:???

「ええぃっ!ネオ・ジオンの赤い奴は化け物かっ!」
「MSの性能の差が戦力の決定差であるとは言わんが、そのMSにこだわったのが貴様の敗因だ。」
 プルBの叫びに対してプルIは冷たく言い放った。
 Iの乗るサザビーはBの乗るνガンダムを文字通り粉砕したのである。

 アクシズには兵士達が戦闘訓練に使っていた古い型のシュミレーターがあった。
もちろん、それは廃棄され既に使用不能となっており、またプル達も訓練を思い出させる
それには近づきたがらなかった。
 しかし思いもよらぬ平和な時間を過ごし大人達がMSを使って作業するのを見ている
うちに彼女達の気持ちも変わってくる。やがて自分達もMSに乗りたいと言い出した。
 一応の訓練を受けているとはいえ子供であるしMSも足りない。そこで大人達は
シュミレーターでの基礎訓練を試みた。廃棄されていたそれはアムロの手によって
修理・改造されプログラムが書き換えられ復活した。
 さて、もはや戦う必要の無いことを理解した子供達にとって、また娯楽の少ないアクシズ
において、そのシュミレーターがゲーム機と成り果てるのは当然の結果だったのかも
しれない。更にB・D・Gらボーイッシュチームの要請により2機のシュミレーターを
接続して対戦モードが出来るようにしたからたまらない。最近のアクシズでのブームは
12人の姉妹全員を巻き込んだMS戦トーナメントであった。
 シュミレーターにはνガンダムとサザビーから取り出した戦闘データも組み込まれている。
プル達のお気に入りはもちろんνガンダムだった。(プルJのみサザビー。)
 そしてたった今、プルIが頂上決戦を征したのである。

249 名前:Scars on Stars (前編)2 :04/01/04 09:24 ID:???
「おいおい、いつまでやってんだ?シュミレータの使用は一日1時間までの約束だったろう。」
 先ほどの対戦結果についてプル達がまだわいわいとやっている頃アムロがやって来た。
夕食を終えた途端に飛び出して行って戻らないプル'sを呼びに来たのだ。
「アムロ!Iったら酷いんだよ!サザビーでνガンダムを粉々にしたの!」
 プルAの台詞に後から部屋に入って来たシャアは心底満足そうな笑みを浮かべた。
「さもあらん。サザビーはネオ・ジオンの象徴たる総帥専用機だからな。スペックでは
νガンダムなんぞ恐るるに足らん。パワーダウンさえしなければ私が勝っていた。」
「俺に言わせれば詰め込み過ぎだな。だから終盤でパワーダウンしたんだ。」
 すかさずアムロからツッコミが入る。プルDとプルGがその後を継いだ。
「こんだけの重装甲・高出力・大火力で勝てないなんて、シャアってやっぱりヘタレだよな。」
「火力ならνガンダムも負けてないぜ。種類も豊富だし威力も強烈だ。」
「でも、お二人ともそれを全部使い切ったというのが凄いですね。」
「最後は殴り合いだったんでしょう?生身でもMSでもシャアはアムロに勝てないのね。」
 プルKが取り成そうとするもプルFから再びツッコミが入る。ついにシャアの堪忍袋の尾が切れた。
「ちぃーっ!そこまで言うなら私の実力を見せてやる!アムロ!勝負だ!」
「え?俺?」
「おまえ以外に誰がいる?おまえと私は宿命のライバルなのだからな。」
「うわぉ!赤い彗星と白い悪魔の対決?!」
「見たい!見たい!!」
「シュミレーターは苦手なんだけどなー。」
 そう呟いたアムロを無邪気なプレッシャーが包む。周囲を見回してみるとプル'sの
期待に満ちた眼差しがあり断れそうな雰囲気ではない。シャアはやる気満々である。
「わかったよ。でも明日のシュミレーターの使用分は無しだからな。」
「「「「「「「「「「「「「は〜い♪」」」」」」」」」」」」

250 名前:Scars on Stars (前編)3 :04/01/04 09:25 ID:???
 早速シュミレーターに乗り込み慣れた手つきでコンソールを操作する大人2人。
「アムロ、νガンダムの雪辱を果たしてやって。」
「大佐、ご武運を。」
 かくして世紀の対決は始まった。が…

「「「「「「「「「「「「「え〜っっっ!?!」」」」」」」」」」」」
 アクシズにプル達の悲鳴が響き渡った。
「ふふふふ、はははは!私の勝ちだな。」
「情けない!シャアにやられるのを見ているだけだった。」
 戦闘開始直後からサザビーの猛攻に晒されたνガンダムは、ついにコクピットに
ビームの直撃を受け沈黙した。
 これはプル'sには全くの予想外であった。プルJでさえ、アムロが負けるとは
思っていなかったのである。
「私の実力がわかったかね。諸君。」
 意気揚々のシャアに対してアムロは憮然として応えた。
「シュミレーターは実際の感覚と違うからやりにくいんだよ。だからニタ研でも
手抜きしてるって言われて―」
 一瞬の奇妙な間。しかしアムロは滑らかに言葉をつないだ。
「とっととお払い箱になったって訳さ。」
 そう言ってアムロは苦笑しながら頭をかいた。その言葉も表情も仕草もいつも通りである。
 しかしプル達には分かってしまった。そしてシャアにも。

 アムロが嘘をついた。

「俺はもう少し仕事をするが、皆はちゃんと寝るんだぞ。」
 そう言いながらアムロは部屋を出て行った。その後姿をプル達は言葉も無く見送っていた。

258 名前:Scars on Stars (後編)1 :04/01/04 22:23 ID:???

 少し遅れてシャアが台所に入るとアムロは緩慢な動作でコーヒーメーカーに粉を入れていた。
「飲むか?」
「頂こう。」  
 二人は椅子に腰掛けコポコポと音をたてるコーヒーメーカーを何も言わず見つめていた。
 沈黙を破ったのはアムロだった。
「なぁ。」
「何だ。」
 アムロはやや躊躇いながら訊いた。
「あのヤクト・ドーガに乗ってた男だが…。」
「ギュネイか。」
 シャアは少し考えてから答えた。
「強化人間だが強制はしていない。奴は這い上がるために自ら強化を望み、自らの
意思で戦った。精神的にも安定していた。戦場でもさほど混乱はしてなかったろう?」
「ああ。」
 また少し沈黙した後、アムロは呟いた。
「彼女達はそうじゃなかったんだよな…。」
 一瞬、シャアには彼女達というのが誰を指すのか分からなかったが、ティターンズの
強化人間達だと判断した。
 記憶操作と戦闘システムによって戦う事を強制され、戦場に散っていった少女達。
 ティターンズの強化人間への扱いを考えればNTであるアムロ・レイがどのような
扱いを受けたかも推して測るべきだが、本人はそれ自体にはたいした感傷を持っては
いないようだった。実際、彼にはその結果の方が重大だったのだ。
「連邦はあの後には強化人間を作らなかったんだな。」
「コストの割に成果が上がらないとの判断でな。ニュータイプ研究所も縮小された。」
 そう言ってまた黙る。シャアはアムロの次の言葉を待った。
「連邦のニュータイプ研究の基礎データは俺なんだ。」
「そうだろうな。」
「ホンコンでフォウ・ムラサメのサイコガンダムと遭遇した後その事をカミーユに
話そうと思ったんだが、一度機会を逃してから言いそびれてしまって。」
 アムロはのろのろとカップにコーヒーを注ぐと、それをシャアの前に置いた。
「俺のデータが無ければ強化人間は作られなかった。彼女達が苦しむこともカミーユが
あんな思いをすることも無かった。彼が心を壊すことも無かったかもしれない。」
「それでカミーユに送金してたのか。」
「知ってたのか。」
「彼のことは私も気になってはいたのでね。父親の個人年金という事になっていたが
両親の財産は凍結されていた筈だからな。金の出所を調べさせた。」
「それくらいしか俺に出来る事は思いつかなかったから…。」


259 名前:Scars on Stars (後編)2 :04/01/04 22:24 ID:???
 
「ア・バオア・クーでの戦いから7年も経って、ようやく俺は貴方の言葉を理解した。」
 アムロの口調も表情もいつに無く硬い。おそらくは無意識に彼は右腕の傷痕を触っていた。
「もし…。」
 その先の言葉は分かっていたがシャアは何も言わなかった。同情や慰めが欲しい訳
ではないだろう。懺悔したいわけでもない。アムロという男が今更泣き言を言うような
人間でないことをシャアは十分に承知していた。
 ただ、ふいに起こった細波に心の奥底に溜まった澱が少し舞い上がっただけのこと。
 やがてアムロはふぅと息を吐いて苦笑した。
「なんで俺はおまえなんかにこんな話してんだろうな。ブライトにも言わなかったのに。」
「それが正解だ。彼は心配症だからな。」
 シャアはアムロの顔を盗み見た。アムロはもう何事も無かったようにコーヒーを
すすっている。シャアの感覚も目の前の人物は平静だと告げている。
 しかしシャアはこちらを覗う小さな気配に気付いていた。ここはやはり安心させて
やるのが大人の役目というものだろう。
「もし、君があの時死んでいたら」
 シャアがアムロが言葉にしなかった思考を口にする。アムロはシャアの方を見た。
「WBのクルーは助からなかったろうな。」
 そしてシャアは唇の端を上げた。
「そして私のアクシズ落としは成功していた。おまえは私にとって正しく疫病神だったよ。」
「そんな事させられるか。」
 アムロも口元に笑みを浮かべた。
「だいたい、どっちが疫病神だよ。おまえのおかげで俺は人生狂いっ放しだ。」
「ほう。ではやるかね。再戦ならいつでも受けて立つぞ。」
「勝ってるうちに止めといた方が良くないか?」
「プル達にまぐれ勝ちとは思われたくないのでね。」
「その言葉、後悔するなよ。」
 二人は顔を見合わせると、にやりと笑い合った。


260 名前:Scars on Stars (後編)3 :04/01/04 22:26 ID:???

「………。」
「アムロ、笑ってるね。」
「良かった。いつも通りだ。」
 台所の外の壁に張り付いていた(自主的)偵察部隊プルE・L・Cは互いに小さく
頷き合うと、そろそろとその場を離れ寝室に向かった。
「おかえり。どうだった?」
 帰って来た3人に向かってプルHが笑顔で問いかけた。部屋には姉妹全員がそろっていた。
「うん。なんか再戦やるって言ってたよ。」
 プルCも笑顔で返す。
 偵察など出さなくともプル達にはもう大丈夫だと分かっていた。アムロはむやみに
プレッシャーを撒き散らすことはしないが、かすかに重苦しい感じは伝わっていた。
今はその感覚は和らぎ、いつもの穏やかなものに戻っている。
「止めときゃいいのにね〜。」
 室内にプルsのくすくす笑いが満ちた。


 後日
 シャアの乗るサザビーはアムロの駆るνガンダムから6枚のフィンファンネルでの
一斉射撃を受けて撃沈された。


312 名前:お裁縫の時間 その1 :04/01/10 21:03 ID:???

 シャアが部屋に入ると、アムロとプルCは並んでソファに腰掛け縫い物をしていた。
機械のように指を動かすアムロに比べ、プルCの手つきはやや危なっかしい。
「プルCはアムロの手伝いかい?偉いな。」
「えへ…。これ、わたしのワンピースなんだよ。裁断から自分でやったの。」
「ほう。すごいじゃないか。アムロが縫ってるのもプルCのか?」
「これはプルIのだ。この前、プルIがまとまった量の服を見つけてくれたろう。
子供用のは流石に無かったが、大人用のシャツをプル達が着れるようにリフォーム
しようと思ってな。」
 シャアはさりげなくプルCの隣に腰掛けると、さりげなくCの腰に手を回した。
アムロがこれまたさりげなくシャアの手首をねじり上げる。
「(イテテ、貴様がいなければ!)また12人分作るのか?大変だな。」
「今度は普段着だからシンプルな形だし、プルCも手伝ってくれるからそうでも
ないさ。プル達は体型も同じだし、デザインも2種類から選んでもらうから後は
同じ型紙で作れる。」
「それはいかんな。12人それぞれに個性があるのだ。画一的なのは良くない。」
「そうだが、それぞれに合わせるとなると大変だぞ。」
「及ばずながら私も手伝おう。」
「何をする気だ?シャア。」
「私、シャア・アズナブルが身体測定しようというのだ!アムロ!」
「エロだよ、それは!」


316 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/12 01:30 ID:???
そろそろAGEとくか・・・
職人さんがんばってください
期待してます

317 名前:ジオング :04/01/12 01:32 ID:jUDl4CWx
オニギリワッショーイ

318 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/12 09:37 ID:???
スパムオニギリワショーイ


319 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/12 10:35 ID:???
この前初めてスパム食ったよ。
友人宅でメキシカン・パーティーしてる時に
トルティーヤっていうの?小麦粉伸ばして焼いたヤツに入れていた。
レタスとかトマトとかアボガドソースと食ったらかなり美味かったよ。
シンプルな味だからかなり工夫で味変えられそう。
今度試してみよう。

320 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/12 10:37 ID:???
>>318
「ん? アムロ、何だこの米の塊は」
「おにぎりだ」
「オニギリ?」
「そうか、シャアはおにぎりを食べた事が無いのか」

「おにぎりというのは、塩で味をつけたご飯を三角形に固めたものだ。おむすびとも言う」
「ほう」
「まあ、形は三角形とは限らないんだけどな」
「それで」
「で、中に具を入れることもある。塩辛いものが一般的だ」
「このオニギリにも具は入っているのか?」
「ああ。スパムな」
「スパム………」


アクシズに米があるかどうかは別として。

321 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/12 11:34 ID:???
>>320
「しかしよく米などあったものだな。畑にそんなものはなかったと記憶しているが」
「稲が畑に生えているものかよ。…レトルトさ」
「…そうか」
「…種もみでも見つかればいいんだがな」

332 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/14 23:04 ID:???
サザビーは色変えネタがあるけどνはないのかな?
やっぱりオリジナルのままかな?

333 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/14 23:37 ID:???
νの色をこっそり塗り替えても・・・


        丶     r'⌒⌒^'、
         ヽ\\ヽ(m#νy'ソ/m)//
         \ (m ヽ(#゚ー゚ノ/m)/
          丶\(m\  m)//
           (m\(m (m m)/
              ( (m /ノハλ)
           ミヘ丿 ∩#∀▼||l
            (ヽ_ノゝ __ノ 

こうなるのがオチ

334 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/15 20:16 ID:???
         サイキン ナグラレテバカリノ キガスルノダガ・・・

  r'⌒⌒^'、   r'⌒⌒⌒'、
 ( rνyy、ソ  (ミ.,""メ"'、ミ) 
  ヾ; ゚〜゚ノ   ヽ▼ω▼ノ 
  ( つ旦 )  ( つ旦⊂)

ジゴウジトクダロ

342 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/17 04:16 ID:???
(▼∀▼)∩「・・・良いかねみんな、お祝いの時は『赤飯』・・・
つまり、白いごはんをわざわざ赤くするわけだが、
これは赤いご飯の方が、通常の白いご飯よりも3倍偉・・・ハッ!」


        丶     r'⌒⌒^'、
         ヽ\\ヽ(m#νy'ソ/m)//
         \ (m ヽ(#゚ー゚ノ/m)/
          丶\(m\  m)//
           (m\(m (m m)/
              ( (m /ノハλ)
           ミヘ丿 ∩#∀▼||l
            (ヽ_ノゝ __ノ 

♯゚д゚ノ「子供に嘘を教えるんじゃない!」
(▼∀▼;)「ええいっ!完璧な作戦にならんとは!」

343 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/17 06:00 ID:???
プルたちが年頃になってくると
赤飯を炊くんだろうか・・・
性教育もばっちりだしね

344 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/17 08:04 ID:???
キャシーとアm(ry

345 名前:ソープオペラ ep.1 :04/01/17 10:09 ID:???
あの人が死んで、もうどれくらいになるだろう…
写真は、全て焼き捨てた。
面影はもう記憶の中にしかない。
それも少しずつ薄れ、いずれは自分の中から完全に無くなっていくのだろうか。
それはとても悲しいことだ、と思いながら目が覚めた。
寝起きにこんなことを考えるなんて、相当嫌な夢でも見たのだろう。
ベッドから降り外を見ると、もう太陽が頭上に上がっている。
休みの日でもいつもと変わらない時間に起きていたのに、ホント、珍しいこともあるものね…
外では、隣家の住人が洗濯物を干していた。
アズナブルさん…だったかしら?
最近越してきた若夫婦。心にチクリと来る感触を抑えつつ、部屋を出た。
亡き夫−キャスバル−の思い出を、胸の奥にしまい込みつつ。



「ただいま。今帰ったよ。」
「お帰りなさーい♪」
妻が走りより、抱きついてくる。
妻はいつまでたっても新婚当時、恋人時代の熱を忘れない。
「す、すいません。…お邪魔してます。」
逆に、こちらが申し訳なくなるほどおとなしい様子で裏に控えている人がいる。
「あ、いらっしゃい。えーと…」
思い出せない。そんなバカな。彼女も私の大切な娘…
…娘?何だそりゃ?…
「どうしたの?」
「ごめん、何でもないよ。」
思い出した。セリア・パッフィン。妻の親友だ。
妻が寄宿学校に通っていた頃のルームメイト。
…寄宿学校?…
違和感。何かが違うような、何も間違っていないような、
「今日は大佐の誕生日でしょう?セリアに手伝ってもらって、ご馳走を作ってたのよ。」
え?
「今日は貴方の誕生日でしょう?セリアに手伝ってもらって、ご馳走を作ってたのよ。」
「そりゃ楽しみだ。」
何かを聞き間違えた気がする。
何だ?いったい、何が起こっている?
「どうしたの?…なんだか、怖い顔してる…」
「ん?ああ、すまない。ちょっと仕事のことを考えてな。切り替えなきゃいかんな。」
気にすることは無い。些細な違和感の一つや二つ。
私の腕の中に妻がいる。それだけは間違いの無い現実なのだから。

346 名前:ソープオペラ ep.2 :04/01/17 10:11 ID:???
自分の姿を見下ろした。
白いサマーセーターに薄いピンクのスカート。紺のエプロンをして、足元にはスリッパ。
この格好は?ノーマルスーツは?
…ノーマルスーツって、なんだ?…
どうも寝ぼけていたらしい。我ながら、火のかかった鍋を目の前にして寝ぼけるとはいい度胸をしている。
仕方が無い。寝不足なんだ。
昨日は遅くまであの人と深夜映画を見ていたから。
そして、映画を見終わった後…
急に恥ずかしくなって、鍋を大げさにかき混ぜることでごまかした。
「ただいま。今帰ったよ。」
玄関から声。
聞こえた瞬間、玄関に駆けつける。後ろからセリアの悲鳴が聞こえるけど気にしない。
「お帰りなさーい♪」
飛びつく。あの人は、いつでも私を受け止めてくれる。
「今日は大佐の誕生日でしょう?セリアに手伝ってもらって、ご馳走を作ってたのよ。」
大佐?誰だ、そりゃ…
シャア大佐、シャア・アズナブル…
そうだ、シャア・アズナブル。私の、私自身より大切な人。
でもなんで大佐?
「今日は貴方の誕生日でしょう?セリアに手伝ってもらって、ご馳走を作ってたのよ。」
「そりゃ楽しみだ。」
言いながらも、眉間にしわを寄せるシャア。
そんな表情を見ると、無性に切なくなる。
貴方には、私がいるのよ?
「どうしたの?…なんだか、怖い顔してる…」
「ん?ああ、すまない。ちょっと仕事のことを考えてな。切り替えなきゃいかんな。」
言いながらシャアは私を抱きしめる。
まるで初めてのような幸せが、私を満たしていた。



システムにつながった瞬間、意識が遠くなるようなめまいに襲われた。
気がついたら、どこの家だろう?玄関にいた。
目の前では抱き合う男女二人。
この二人は、周りに誰がいようと平気で自分たちの世界に入ってしまうから困った物である。
「す、すいません。…お邪魔してます。」
挨拶も、本当にお邪魔なんじゃないかと言う思いから、ついつい小声になる。
まあ、コレだけのバカップルぶりを発揮しても絵になるところはうらやましい限りではあるが。
本当、美男美女のカップルと言うのは得だ。
見た目なら私だって負けないつもりではあるのだが。相手がいないだけで。
大体Jと私の見た目に違いなんてあるはずが…
…Jってだれだ?
そうだ、ジェーン・アズナブル。私の親友だ。
で、何でジェーンと私が瓜二つなんだ?

347 名前:ソープオペラ ep.3 :04/01/17 10:12 ID:???
「危ない!!」
イレーネの体が、宙に浮いた。
一瞬前までイレーネがいた場所を、自動車が通り過ぎていく。
「まったく、なんて運転だ。大丈夫ですか?」
「え、は、はい。」
やっと事態が飲み込めた。私はどうやら轢かれかかったらしい。それを、この男性に
助けてもらって、今も彼の胸の中に…
「も、もう大丈夫ですから」
「ああ、これは失礼。」
私は、この人を知っている。
シャア・アズナブル。隣に越してきた若夫婦のご主人だ。
「本当に、ありがとうございます。お隣にこんな頼りになる方が越してくるなんて思ってもいませんでしたわ」
「そんな、当然のことをしたまでで…って、あれ、お隣の?」
「イレーネ・アップルウッドと申します。シャア・アズナブル。どうぞよろしく」
私は、この人を知っている。
シャア・アズナブル。初対面の彼を、私は知っている?
「もしよろしかったら、一緒に帰りませんか?このあたりは危なそうだし、送っていきましょう」
シャア・アズナブル。キャスバル・ダイクンと似た面影を持つ男…
懐かしい感覚に身を委ねたい、そんな感情は捨てたつもりだったけど…
「すごい音が聞こえたけど、どうしたの?」
「ああ、こちら、お隣のイレーネさんなんだけれど、彼女が車にぶつけられそうになってね。幸い、何も無く済んだよ。」
「まあ、大丈夫ですか?」
「…ええ、おかげさまで。それでは、まだ寄るところがありますので失礼します。本当にありがとうございました。」
寄るところなんて、嘘だ。逃げるようにその場から立ち去った。
理由は、分かっている。その場にジェーンがいたからだ。
…シャア一人なら、多分申し出を受け入れていた。



「あの時あったのも何かの縁でしょう?今後は、仲良くしていきたいのよ」
「こちらこそ。今まで隣同士だったのに、何の交流も無かったのが変なくらいですもの。」
屈託の無い笑顔。
私も、キャスバルがいた頃はそんな表情が出来たのかしら…
「このあたりって、結構家が少ないでしょう?たまに不安になったりするんですよ。
…夜はあの人が帰ってくれば、寂しくないんですけど…」
あの人。シャアのことか。
彼は不思議な人だ。
キャスバルが死んで以来、強く生きようと誓ったのに、実際、今まではそう生きてこれたのに、
彼の目を見たとき、一瞬何もかもが遠い世界のことのように思えた。
あの人に甘えていた頃の、弱い自分が首をもたげた。
どうしてだろう…
「もし良かったら、今度、食事に来ない?」
「え?」
彼女は困惑したが、声に拒絶の色は無かった。
「私もずっと一人で寂しいのよ。よろしかったら」
「ええ、それでは近いうちに伺わせていただきます。」


348 名前:ソープオペラ ep.4 :04/01/17 10:13 ID:???
他人のために腕を振るうのは久しぶりだ。
もともと料理は嫌いではなかったが、それでも自分のためにしか作らないのでは腕もなまる。
…かと思っていたが、なかなかどうして上手く出来たものだ。
これなら、どんな相手が来ても満足してもらえるだろう。
ふと、思った。
どんな相手でも、と想像して、思いついた顔は女性ばかり。
唯一の男性は父親のアムロ・レイだけだ。
アムロ・レイ?苗字が違う…
唯一の男性は父親のアムロ・アップルウッドだけだ。
まあ、私の交友関係は女性に偏っていたんだから、当たり前だろう。
特に不自然なことは無い…
ノックの音が聞こえた。
「こんばんわ」
「いらっしゃい、お待ちしてましたわ」



「ちょっと、飲みすぎたんじゃないのか?」
ジェーンを抱きかかえながらイレーネに笑いかける。
「すまないが、今夜はこの辺で退散させてもらうよ」
「ごめんなさいね。引き止めてしまって。」
「このままじゃコイツ、すぐにベッドでバタンキューだろうな」
「あら、それは大変。」
「今度はこちらからご招待差し上げたいものです」
「…貴方一人のときに?」
彼女が艶っぽく笑った。一瞬二人の視線が絡み合った。
「ごめんなさい。私もすこし飲みすぎたみたい。」
「それでは失礼します。じゃあ、また」
玄関を出るとき、また二人の視線が絡み合った。

349 名前:ソープオペラ ep.5 :04/01/17 10:13 ID:???
テーブルに目をやると、時計がひとつ。
男物だ。とすると、彼の忘れ物だろう。
届けてやろう、と思って、躊躇する。
わざと忘れたの?
取りに来るの?
テーブルを整え、ワイングラスに改めてワインを注いだ。
何をしているんだろうと思っていると、ドアが開いた。
「失礼、忘れ物をしてしまって。」
「これのことかしら?」
手首に巻いた時計を見せる。
「取りにいらして」
シャアはイレーネの手を取り、そして引いた。
…無言…
「彼女は、もう寝たのかしら?」
「あいつは可愛い。あいつを愛している。今この瞬間も、その気持ちは変わらない。けれど…」
「君は美しい」
…笑いなさい、イレーネ。
ここで笑えば、シャアも笑う。そうすれば、きわどいジョークで終わる。
姉妹を、裏切らないですむ。
…姉妹?
それでも、私は…
イレーネは、シャアを見上げた。
「ありがとう」
二つの影が、一つになった。



翌朝、目が覚めると一人だった。
外を見る。もう太陽は高い。
ジェーンが洗濯物を干していた。
涙が出てきた。
シャアがそれを手伝いに出てくる。
涙が、止まらなかった。
気がついたら、手の中にナイフがあった。
もう、疲れた。
強くあることも、他人のために耐えることも、何もかも。
きっと、こうすれば楽になれる。
ナイフの刃を、喉に添えて…

350 名前:ソープオペラ〜終幕〜 :04/01/17 10:15 ID:???
「そこまで。ストップだ」
アムロ?どうしてこんなところに?
「質問だ。君の名前は?」
「…プル。プルI。」
「正解。それじゃ、ここが異常だってことは分かるね。
「ああ、そうだ。私たちは発見した周辺監視システムを使おうとして、システムに取り込まれた。
この空間はシステムが作り上げた架空の空間と言うことか。」
アムロがシステムに干渉してきたおかげか?
この世界にいないはずのアムロにであったおかげで、この世界が異常だと気づけたということか?
「それに気づけば上等だ。後は元に戻ることを強く願えば現実に帰れるはずだ」
「Cは先に帰っている。俺はシャアとJをつれて戻るから、先に戻っていてくれ。」
「了解した」

どうやら捜索で見つけた周辺監視システムには、サイコミュ的な回路が搭載されていたらしい。
NTの思念波を周囲に拡散させることで監視をする。確かにこれなら並みのレーダー以上の効果は得られるだろう。
しかし問題は、自我を持たない量産型強化人間(私たちの姉妹であったかもしれない)でしか扱えない、
特別なしろものだったという事だ。
自我をもつ者が、しかも複数で同時に使えば…あんなことになる。
意識は共有され、交じり合い、そうありたい自分、他人に見られている自分、印象に残った映画。
色々なものが混ざり合った不思議な世界。
「へぇ〜、で、Cはどうだったの?」
「私は、ただのお客さんみたいな感じだったわ。だってJとシャアが一緒にいるのよ?」
「ははは、そりゃそうだ。それこそあの二人だけで取り込まれてたら、今頃Jはどうなってたことやら」
助かったから笑い話ですむけれど、あの世界で死んだら、私は現実に帰ってこれたのか?
「で、Iはどんな役だったの?」
いきなり話がこっちに飛んできた。
シャアを誘惑した浮気相手で、自殺未遂の意気地なしでしたなんて誰が言えるか!
「そんなことより、このシステムをどうするか考える方が先だろう。
とっとと解体してしまうのが一番だと思うがな。」
「えー、つまんないよー」
「私たちも使ってみたいー」
「止めておけ。私のようにろくでもない目にあうのがおちだ。」
しまった、と思ったときにはもう遅い。
「ろくでもない目?」
「私のように?」
「それはぜひ、聞かせていただきたいですなぁ?」

「その、J…、あれはあくまで架空の話であって、私の願望だとか、そういうものではけして…」
「私はあの世界で幸せでした。大佐は、お嫌でしたか?」
「…嫌なら夫婦の設定になんかならない、だろう?」
気がつくと、Jはおそらく無意識のうちにシャアの手を握っていた。
Iに手を出したことを知られたらただじゃすまないだろうなと思いつつも、Jの手の感触に浸り続けた。

351 名前:ソープオペラ〜番外〜 :04/01/17 10:23 ID:???
長いばっかりで分かりづらくてすいません。
勝手にCとIの名前を捏造してしまってすいません。
他の方たちの作品と全然雰囲気ちがってすいません。
Iのイメージ壊れたって方がいらっしゃったら本当にすいません。

このスレの139が保管庫に保存されてないよぅ。って主張をするためだけに
こんな物書いてしまってすいません。

357 名前:お裁縫の時間 その2 :04/01/18 00:16 ID:???

「今日はプルCはいないのか?」
「仮縫いが出来たのでプルIと試着してる。…覗きに行くなよ。」
「優れたNTとはいえ、むやみに心へ立ち入られるのは不愉快だな。」
「その台詞の前にそのにやけた顔をどうにかしろ。ああ、来たな。」
「アムロ、どうかな?」
 部屋に入って来たプルCは、はにかみながら二人の前でくるりと回ってみせた。
続いて入って来たプルIはその隣にすっと立った。
 プルCのワンピースはラウンドネックに胸元から切り替えギャザーとなっており、
ふわりと広がった裾が少女らしい。プルIの着ている方はVネックで、飾りの無い
スッキリした物だった。
「似合ってるよ、二人とも。イメージ通りかな?」
「良いようだ。少し大きい気もするが。」
「プル達の歳だとすぐ成長するから余裕を持たせてある。ウエストを絞ってないから、
背が伸びてもチュニックブラウスとして着られるよ。…シャア?どうした?」
「うむ…似合うことは似合うのだが…。」
「何だ?」
「だぶだぶの男物のシャツをそのまま着ている方が萌えるとは思わないか?」
「おまえ…逝ってこい。」

370 名前:淑女協定(予告編) :04/01/18 05:25 ID:???
「まさか、こんな……!」
プルJが驚愕する。

「ま、待て、プルJ。これには、わけがあるんだ! いろいろと!」
プルIが慌てる。

「うふふ……どうするつもりかしら? クワトロさん?」
そして、プルHが笑う。

「シャアーーーーッ! シャアはどこだぁーーーーーーッ!!」
吼える白い悪魔。

「久々に、アレ、いっとく?」
「アレ?」
「ああ、アレね」
そして、始まる――

「ま さ か の 時 の

      ⌒⌒ヽ    ⌒⌒ヽ    ⌒⌒ヽ
    (γ ノ|ノ)从 ) (γ ノ|ノ)从 ) (γ ノ|ノ)从 )
     ‖* ̄_ ̄ノ  ‖*´ー`ノ  ‖*^∀^ノ
     丿~ † ~ヾ  丿~ † ~ヾ   丿~ † ~ヾ
     ん  八  ) ん 人  )  ん 人  )
     んU〜Uゝ  んU〜Uゝ   んU〜Uゝ

               ア ク シ ズ 弾 劾 裁 判!」

「見える! 私にも、敵が見えるぞ!?」
赤い彗星の運命や如何に!?

かみんぐ・すーん?



……ってか、出していいのか、こんなの?
お気に召さない方は読み飛ばして下さいね?

371 名前:淑女協定(1/11) :04/01/18 05:41 ID:???
世の中に溢れる偶然の大半は、悪意によって彩られているに違いない。
部屋の入り口で硬直しながら、プルIは酷くぼんやりとそんな埒もないことを思っていた。
そう、偶然なのだ。
彼女の部屋の、建付けの悪くなっていた天井際の棚が載せられた書籍類の重みに耐えかねて崩れてしまったのも、
その音を耳にして駆けつけたのがプルJであったことも、あまつさえ、誰も注意を払わないであろう場所にこっ
そりと隠していた秘密の写真が、ひらひらとプルJの眼前に舞い降りてしまったことも。
全ては悪意ある偶然の産物に過ぎないのだ。
しかし、偶然であろうがなかろうが、起きてしまった事実は事実。
その事態に対処せねばならない現実があることに変わりはないのである。
然るに、プルIは写真片手に震えるプルJに、物怖じしない性質の彼女にしては珍しく、腫れ物に触れるように
恐る恐る声を掛けた。
「ぷ、プルJ? あの、それは、だな……」
そこまで言って、ふと、その先をどう説明したものか迷う。
その逡巡の隙を突いて、プルJがキッとプルIに激情を湛えた視線を向けた。
「みんなが最近、変だ、って言ってた」
噛み締めるようなプルJの言葉に、プルIは動揺を極力抑えるよう努めつつ訊き返す。
「変? 私が、か?」
心持ち硬く頷いて、プルJは続けた。
「最近、大佐と言い争うことが少なくなってきたし」
確かに、ここのところプルIはシャアとのディベートを避けがちではある。
多少のことなら大目に見ようという寛大な精神をプルIが獲得したこともあるし、なんと言うか、どうにも気恥
ずかしさが先に立つこともあった。
「前より大佐をやり込めることが少なくなったし」
それは、私が言葉の裏まで読むようになったからだ。
プルIはそう主張したかったが、裏を返せばそれはプルIが論敵であるシャアの意を汲んでいるということでも
あり、追及の手を緩めるということは相手に甘いととられても仕方のないことなので、言いあぐねてしまう。
「何より、大佐を見る目が時々すごく優しいって」
あ、あ、あ――それは、それは誤解だ。
最早その程度の言葉しか思い浮かばず、プルIは姉妹中随一の怜悧さを自認する自分の頭脳の不出来さを呪った。
だいたい、誤解を主張するにしても、その論拠は?
私に、それが提示できるのか?
どうにもならない感情と思考の狭間で、プルIは静かなパニックに陥っていた。
「まさか、こんな……!」
激情に駆られ、手にした写真を叩き付けようと大きく振りかぶるプルJ。
プルIは、咄嗟に押し止めようと身振りを交えながら慌てて声を上げる。
「ま、待て、プルJ。これには、わけがあるんだ! いろいろと!」

372 名前:淑女協定(2/11) :04/01/18 05:42 ID:???
少しは冷静さを取り戻したのか、あるいは他の理由からなのか、ともかくプルJは振り上げた手を静かに下ろし、
写真をベッド脇のサイドテーブルにそっと置く。
「そ、その、それは、嫌がる私をシャアが無理矢理……」
しどろもどろに言葉を紡ぎながら、プルIは自分の発言に全く説得力がないと認めざるを得なかった。
拒否するプルIをシャアが強引に押し切って撮影された、というのは嘘ではない。
しかし、そこに焼き付けられている自分がどのような顔をしているか。
また、その写真を後生大事に所持し続けていたのは何故か。
問われれば、さすがのプルIも返答に窮する。
結局、プルIはプルJの瞳がじわじわと潤むのを止めることはあたわず、絶望的な思いで言い淀むしかなかった。
ややあって、プルJが静かに動いた。
「……ごめん」
その呟きを残し、逃げるように駆け出すプルJ。
「ま、待てっ、プルJ!」
慌てて止めようとするが、プルJは既にプルIを押し退けるようにして廊下に飛び出してしまった後だ。
差し伸べようと持ち上げた手を引き戻しつつ、ゆっくりと拳を握り込む。
「何が、何が『ごめん』だ! それは、私の台詞だ!」
叫んで、感情任せに背にした壁に拳を叩き付ける。
「私は、こんなことを望んでは、いない」
うわごとのように言いながら、何度も、何度も、壁を打つ。
それが酷い痛みをもたらすから、涙が溢れるのだ。
そう誤魔化してしまいたかった。
そうするうちに、ふと、事の発端である問題の写真が目に留まる。
苦々しい思いを胸に、プルIはそれを手に取り両手で掲げた。
「こんなもの!」
激情のままに力を込める、プルIの両の手が震える。
「こんな…もの……」
結局、引き裂くことは出来ずに、プルIは写真を手にしたまま強く胸を押さえた。

373 名前:淑女協定(3/11) :04/01/18 05:43 ID:???
さて。
世の中に溢れる偶然の大半は、悪意によって彩られているのである。
少なくとも、そこには悪質な冗談の成分が高濃度で含まれているに違いない。
プルJとプルIが、その小さな胸の内を千々に乱れさせ互いに懊悩の渦中にあった正にその頃。
すぐそばにプルEが居合わせたのは、彼女たちにとって実に厄介な偶然であっただろう。
プルEは、時ならぬ騒ぎに何事だろうかとそちらに注意を向けた。
しかしながら、プルJは呼び止める間もなく駆け去ってしまったし、プルIの部屋からは非常に恐ろしげな壁を
殴る音が盛大に響いてくる。そこに敢えて足を踏み入れようとするほどの勇気を、生憎プルEは持ち合わせてい
なかった。
こういうときは、どうするか。
そう、自分よりも勇気と行動力に溢れる人物に事態を伝え、何とかしてもらうのが妙手である。
そこまでは、なんら問題なかった。
問題は、彼女が極端に話し下手で、かつ、事態を断片的にしか把握していなかったという事実と、そして、伝え
る相手に仲良しで話しやすいプルGを選んでしまったところである。
これだけ条件が揃って、騒動が拡大しないわけがない。
「……聞いて」
しばし彷徨った後でプルGを発見したプルEは、彼女の袖を引っ張りながら切り出した。
たまたまプルHが一緒にいたなどという偶然は、気にも留めない。
「ん? どったのE?」
促すプルGに従い、プルEは知っている限りの情報を伝える。
「プルJが泣いて……嫌がるプルI……シャアが、無理矢理……部屋で暴れて……怖い……」
「なっ! なにぃーーーーーーっ!?」
いっそ清々しくなるほど見事に、一人伝言ゲーム成立。
「ちくしょう! シャアのヤツ、ついに……!」
愕然としつつも、瞳に憤怒の炎を燃やして握り拳など作るプルG。
プラネタリウムの一件以来、プルGも幾らかシャアをかっていた。
シャアは、悪い大人ではない。アムロほど実直ではないだけで、本当はすごくいいヤツなんだ、と。
自分自身がどうこうとまでは思わないが、プルJの『大佐ラブ』にも一定の理解を示してきたつもりだ。
それが、こんな形で裏切られるなんて。
まんまと騙されて気を許してしまったプルIも、慕いに慕った挙句泣き寝入りをする羽目になったプルJも、プ
ルGには不憫でならない。
せめて、シャアには然るべき報いをくれてやらねば、何よりもプルG自身の気が済まなかった。

374 名前:淑女協定(4/11) :04/01/18 05:44 ID:???
「シャアめ、オレの手で報いを受けさせてやる!」
「待って!」
はや駆け出そうとするプルGを、一緒にいたプルHが押し止める。
「H! 邪魔しないでくれ! もう、シャアには地獄を見せてやるしかないんだ!」
「少しだけ、待って。事態は極めて重大だわ。ここは、他のみんなにも話を伝えて、一致団結して事に当たるべ
 きよ」
「むっ……」
言われてみれば、なるほど、プルHの言うことももっともだ。
プルたち全員の総意となれば、報復にも重みと説得力が出てくる。
「わかった。じゃあ、さっそくみんなを集めようぜ!」
「ええ」
プルGの言葉に頷いて、プルHはさりげなく付け足した。
「でも、アムロに知られてはダメよ」
さすがに、プルGは頭の上に疑問符を浮かべて問い返す。
「何で?」
「ほら、私たちの意見がまとまる前に、心配かけちゃいけないでしょ? あと、プルIとプルJも除外ね。悲し
 みに沈んでいるあの子達を引っ張り出すなんて、あんまりじゃない?」
「なるほど! さすがHだな。Iと並んで策士ツートップ張るだけのことはあるぜ!」
その異名は、ちょっとなんだなぁ、と思わないでもなかったが、せっかくプルGがノッてきているのだから水を
差すこともあるまい、と、プルHはゆるゆると微笑んで頷くにとどめる。
プルEは、そうかなぁ? などと疑問を感じずにはいられなかったのだが、生来の無口からその思いを表明する
ことはなかった。
「うふふ……どうするつもりかしら? クワトロさん?」
シャアが殊更女関係で苦しむ羽目になった時代の名を持ち出して呟くプルH。巧妙に隠されてはいたが、その瞳
には悪戯っぽい光が輝いている。
かくして、事態はプルたち全体にまで飛び火して、急速に進展していくのだった。
微妙に間違った方向に。

375 名前:淑女協定(5/11) :04/01/18 05:45 ID:???
自慢ではないが、立ち直りは早い。
プルIは、常々自分のことをそう評価していた。
そして、今回もその自信に背くことなく、プルIは程なくこのままでは埒があかないと気付き、いち早く事態の
収拾を目指し行動を開始した。
とにもかくにも、プルJをなだめて話をしないことには始まらない。
それでどうなるのか、という点に関しては予断を許さないが、とにかくこのまま素知らぬ振りをするわけにもい
かないし、何よりこんな形で姉妹の絆が崩れるなどとは思いたくもないのだ。
とはいえ、何の対策も施さずにプルJと顔を突き合わせたところで、先刻の失態の繰り返しになるだけだろうと
いうのは目に見えていた。
そうなると、誰か第三者の力を借りるのが常套である。
そして、こういうとき最も頼りになるのが誰か、プルIはきちんとわきまえていた。
彼女が、MSデッキで忙しく働くアムロの下を訪れたのは、そうした理由からである。
「アムロ、少しいいだろうか?」
話題が話題だけに、幾分ためらいがちにアムロを呼ぶプルI。
「うん? 何かあったのかい?」
声を掛けられてようやくプルIに気付いたアムロが、整備していたνガンダムの肩を蹴って漂ってくる。
幸い、他のみんなは近くにいないようだ。
少しだけほっとして、プルIはどう切り出すべきか考える。
――プルJを泣かせて……違う。シャアに無理矢理……違う、違う。私の不注意、いや、そもそも問題はシャア
が……ええい、私は、どうするつもりなんだ!
立ち直りはしたが、一向に考えがまとまっていないことに気付きプルIは慌てた。
「どうしたんだい?」
常にないプルIの様子を不審に思ったのか、少し心配そうな顔で訊いてくるアムロ。
何か答えねば、と思ったプルIは、自身の思考に混乱したまま思わずこう尋ねていた。
「その、私は、プルJに、ええと、私とシャアが……シャアは、どう思っているんだろう?」
――違うーーーーっ! 何を訊いているんだ私はーーーーーーーーっ!
胸の中で激しくセルフ・ツッコミを入れるが後の祭り。
「いや、それは……」
アムロは、なんとも微妙なツラを浮かべて言葉を失う。
「い、いや! 何でもない! 邪魔をした! すまん!」
最早パニック絶好調のプルI、速射砲のようにそれだけまくし立てて脱兎のごとくアムロの下より逃走。
もちろん、そんなプルIを目の当たりにして黙っていられるほど、アムロは惚けた性格をしてはいない。
「さて、と」
震える拳を強く強く握り込み、大きく息を吸い込んで、アムロは叫んだ。
「シャアーーーーッ! シャアはどこだぁーーーーーーッ!!」
そして、鬼気迫る表情と勢いで、アムロはMSデッキを後にした。

同じ頃。
「やはり、シャアには制裁が加えられるべきだと思います!」
凛としたプルFの宣言に、周囲から賛同の声が上がる。
「そうだ!」
「制裁が必要だ!」
「放置はできませんね」
「プルJ、かわいそう……」
「断固たる処断を!」
それを受け、臨時議長役――いつも議長を務めるプルIは欠席している――のプルFが新たな議題を上げる。
「では、具体的にどうするかということですが」
その問い掛けに、プルDがニヤリと笑い応じた。
「久々に、アレ、いっとく?」
「アレ?」
「ああ、アレね」
プルDの笑みは瞬く間に他のプルたちの間にも伝播し、議題は全会一致で可決されたのであった。

376 名前:淑女協定(6/11) :04/01/18 05:46 ID:???
シャアとて、いつもいつもサボってばかりではない。
だいたい、シャアが働かねばアクシズの運営が成り立たない部分がかなりあるのだ。
整備やら料理やらの実務ではアムロに遠く及ばないが、逆に緻密な計画が要求されるアクシズ自体の運行やプラ
ント運用などの計画テーブルを作成することにおいては、まっとうに士官学校を、しかも実質首位で卒業してい
るシャアの方が上手だったりする。要は、人を使うことに関してはシャアに分があり、自ら動くことに関しては
アムロの方が秀でている、というのが実情である。
まあ、部下として使う人間のいないアクシズでは、事実上シャアが役立たずに近いというのも確かなのだが。
ともかく、今もシャアは食料や運用物資の備蓄と生産予測テーブルを突合せ、農耕プラントの稼働計画表をまと
めている最中であった。食うものは食わねばならないし、とはいえ生産に使用できる物資にも限りはあるし、割
と頭の痛い作業ではあるのだ。その上、補給が望めない現状ではアクシズの運行全体とも照らし合わせて考えね
ばならない。たかが計画、と侮る事はできないのだ。
「……ん?」
水耕プラントと土壌プラントの稼動比率、水のリサイクルプラントの運用体制について頭を悩ませていたシャア
は、不意にニュータイプ特有のプレッシャーを感じて振り向いた。
「どうした、プルH?」
軽やかな仕草で立ち上がりつつ、シャアは時ならぬ来訪者に向き合った。
こうやって、すぐに仕事を中断してプルたちに構ってしまうあたりも、彼のサボリ魔としての評判に拍車を掛け
ていたりするのだが……まあ、幸せそうだから、それはそれでいいのかもしれない。
「うふふ。今度収穫予定のトマト5個で情報を買いませんか、クワトロさん?」
悪戯っぽく取引を持ちかけるプルHに、シャアは頬を引きつらせながら応じる。
「それは高いな。プラントの運用にも、あまり余裕がない……1個にならないか?」
「せめて3個ですね。私と、プルI、プルJの分」
「……わかった。3個だ」
プルHの言い回しから激烈にイヤな予感がしたシャアは、その条件で折れた。
満足そうに頷いて、プルHはシャアに告げる。
「『アレ』が計画されています。原因は、プルIとプルJの仲違いですわ……これだけ言えば、わかるんでしょ
 う?」
聞きながら、赤い彗星の顔はみるみる蒼ざめる。
アレとは、アレに違いない。
プルIとプルJが仲違いとは俄かに信じ難かったが、思い当たるフシがひとつだけある。
「早急に、あの子達を癒してあげるべきです。そうすれば、情状酌量は認められるかも」
――有罪は確定なのか!?
そう思いつつも、シャアの頭脳(士官学校実質首席卒)はいかにして現状を切り抜けるか高速回転を始めた。
たとえ堂々巡りでも、高速回転には違いない。
「わ、わかった。忠告感謝する」
「それと」
プルHは、ドアの前で振り返り、もう一度だけ悪戯っぽく笑って続けた。
「これは、私とは関係ありませんから」
そう言い残し、扉の向こうに消える。
「何のことだ?」
シャアは首を捻ったが、すぐにプルHの言わんとするところを理解した。
つまり。
ピキーン、と感じるものがあり。
「見える! 私にも、敵が見えるぞ!?」
叫んだ瞬間。
「シャアーーーーッ! 貴様、今度は何をした!?」
白い悪魔、御登場。
「アムロッ!? わ、私は今とても重大な岐路に立たされているのだ! 相手をしている暇は……」
「うるさいっ! 今日という今日は、もう勘弁ならん!」
「ま、待て! 人の話を聞けーーーーっ!!」
ほとぼりが冷めるまで雲隠れするか情状酌量を求めての予備工作をするかを選択する以前に、とりあえず身体が
もつかどうかを心配せねばならないシャアであった。

377 名前:淑女協定(7/11) :04/01/18 05:51 ID:???
自分が、嫌だった。
あんな写真一枚見ただけで、激情に駆られてしまった自分が。
そもそも、プルIが大佐にどういう想いを抱いていようと、プルIと大佐がどういう関係であろうと、どうこう
言えるような立場ではないはずだ。
それは、理解している。
理解しているのに、心が受け付けてくれない。
いや、理解すればするほど、逆に心はその結論を拒絶する。
――大佐と私は、なんでもないんだ。
その結論を。
それを思ったとき、目の前が真っ暗になった。
アムロのハンマーで殴られたような衝撃だ。
自分にとって、大佐がどれほど大切な人になっていたのか。
それを、思い知らざるを得なかった。
きっともう、憧れという一言では済ませることができない、そんな大きな存在になっているのだと気付かされた
のだ。
その大佐は、プルIと――
一方で、プルIのことを大切に思う気持ちにも偽りはない。
プルたち姉妹は、決して引き裂くことのできない大きな絆だと感じている。
そして、そのことを最も強く主張するのがプルIだ。
プルIがお姉さん的な立場に立つことが多いのは、ともすればバラバラになりがちなプルたちを上手くまとめる
ことができるから、というだけではない。
根底には、誰よりも姉妹の絆を深く感じ何よりも大切にしていると、何をおいても姉妹たちの幸福を第一に考え
て行動するのだと皆がわかっているからこそ、いざというときはプルIに任せようという思いがあるのだ。
私たちを起こしてくれたことを感謝する。特に、私たち全員を起こしてくれたことに深く感謝する。
いつだったかプルIが言った、その言葉に彼女の真実の最も根幹的な部分が顕れていた。
そのプルIは、大佐と――
大佐のことを想えば、プルIに行き着く。
プルIのことを考えれば、大佐に辿り着く。
あまりにも大切な、ふたつ。
そもそも、天秤に掛けてよい類のものではない。
それがわかっているのに、どうしても、どうしても思わずにはいられなかった。
そして、どうにもできない自分が嫌だった。
この不毛な堂々巡りを、どうしても止められない自分が。
そんな想いを抱えながら、プルJはシミュレーターに引きこもっていた。
対戦相手は、いない。
お気に入りのサザビーに乗って、ゆらゆらと揺れているだけだ。
いっそ、本当のサザビーに乗って宇宙を彷徨うのもいい。
そうすれば、大佐は――
そうすれば、プルIは――
どうするのだろう?
どうなるのだろう?
そんなことをして、二人が喜ぶとは思えない。
でも、その後で二人はどうなるんだろう。
私は――
そんなことを考えていると、不意にエマージェンシーコールが響いた。
もちろん、シミュレーターのものだ。
ハッとして、本能的に操縦桿を握る。
何者か、と確認する暇もなく、モニターに一機のモビルスーツが映し出された。
ザク2――赤い、ザク2Sだ。

378 名前:淑女協定(8/11) :04/01/18 05:55 ID:???
ゾクリ、としてバーニアを吹かす。
だが、あまりに単純なその機動は、的以外の何ものでもなかった。
ガンガンガン、と打撃音が響き、コックピットが揺れる。
ザク・マシンガンの直撃だ。
肩に1発、胴部に2発、脚部にも1発。
もちろん、そんな時代遅れの武器がサザビーに通用するはずもなく、モニターにはNoDamageという表示が浮かぶ
だけ。
しかし、今の攻撃でひるんだ隙に敵機の姿を見失う。
慌てて全周囲モニターを見回すが、気付いたときには遅かった。
下方斜め、左の脇に滑り込む形で、ザク2Sが肉薄する。
「くそっ!」
毒づきながら脚部と肩部のスラスターを吹かして向き直る。
が、相手はそれすらも予期していたかのように不意に左腕と右足を捻り、もののついでとばかりに左足でサザビ
ーの胴に強烈な蹴りを叩き込んだ。
完璧な一撃だったが、今度も機体の性能に助けられ微細なダメージ。戦闘に影響はない。
そして、その反動すらも自身の機動の一部としてベクトルに織り込み、今度は急速に離脱するザク2S。
とても、一年戦争時代の、それも初期のMSとは思えない見事な動きだ。
「この!」
八つ当たり交じりに銃撃サイトに赤いザクを捉えるが――
「消えた!?」
一瞬、相手を見失う。
そして、すぐさま警告音。
今度は右上方。いったい、どんな機動をすればそんなところに出現できるのか。
だが、そこはサザビーにとって最も射撃に適した方向でもある。
舌打ちしつつも素早く銃を向けるが――
「また!」
再度視界から消えるザク2S。
一瞬にして右背面に潜り込み、ヒートーホークの一撃。さすがに、肩の装甲が吹き飛ばされる。
強引に右腕を振り回し払い除けようとするが、見透かされたように後背に逃れられ、更に離れ際のザク・マシン
ガン。それ自体による被害は皆無だが、モニター周りに打撃を受け一瞬だけ制御不能になる。
そしてまた、消える赤いザク。
ほとんど、魔法だ。
何か、プログラムに細工でもしているのではないかと勘繰りたくもなる。
だが、シミュレーターにそんな細工を施す意味などあろうはずもない。
つまり、相手はMSの全てを知り尽くして、持てる戦術の全てを駆使してあの動きを可能にしているのだ。
「まさか……」
プルJが呟くのと同時に、相手から通信が入った。
「情けないぞ、プルJ。たかが一機のザク相手に、手も足も出ないのか」
――大佐!
プルJの心臓が、早鐘のように鼓動を早める。
大佐が、来てくれた。
でも、何のために?
「プルJ、話を聞いて欲しい」
――でも、でも、大佐は……
今、大佐と顔をあわせて平気でいられるとは思えない。
現に、シミュレーター越しだというのに、プルJは一言も言葉を発することができなかった。
「だが、簡単には聞いてもらえんのだろうな」
シャアは、少しだけ間をおいて、やがて決意をにじませて告げた。
「だから、撃墜してでもそこから引きずり出させてもらう」
その宣言は、プルJの耳に酷く優く響いた。
そして、プルJは初めて目の当たりにする赤い彗星の実力に戦慄し、涙で前が見えないという事情がなかったと
しても決して勝てないだろう、と思った。

379 名前:淑女協定(9/11) :04/01/18 05:57 ID:???
「ここにいたのかい?」
観測室脇のレストスペースでようやくプルIを探し当てたアムロは、少々複雑な笑みを浮かべてそう声を掛けた。
疲れたのか観念したのか、プルIが逃げようとはしないことを確認して歩み寄る。
プルIの手には、一枚の写真が握られていた。
確か、シャアをタコ殴りにすることになった事件のひとつで撮影された、ポラロイドの一枚だ。
「だいたいの話は聞いたよ。それ、例の写真だろ?」
さりげなくプルIの隣に腰掛け、写真を覗き込む。
撮影された時ははっきりと見なかったが、改めて見ると、なるほど、いい表情をしている。
プルIも、悔しいが、シャアもだ。
これは、確かに誤解を受けてもしょうがないかもしれない――いや、そもそもそれは何が誤解なのか?
更に声を掛けようと口を開いたところで、機先を制するようにプルIがポツリと言った。
「プルJを傷付けてしまった。こんなもののために」
プルIから喋ってくれたことに微かに安堵しつつ、アムロは静かに頷いた。
「そうだね。それは、事実かもしれない」
「だけど、私はこれを破り捨てることができなかった」
――大丈夫。この子は、心を閉ざしちゃいない。
アムロは、本格的に聞き手に回ろうと思い、少しだけ深く座りなおす。
「たった、一枚なんだ。二度と、同じものは手に入らない。そう思うと、破けなかった――可笑しいだろう? 
 こんなものと、プルJを秤に掛けることなんてできないのに」
涙混じりに告白するプルIを、アムロは優しげな瞳で見守った。
こんな時に何だが、プルIも本当に感情豊かな子になってきたように思えて、酷く嬉しいとさえ感じるのだ。
その原因の第一があの男かと思うと、何か癪に障るような気がしないでもなかったが。
「でも、大切なんだね?」
あくまで穏やかに問い掛けるアムロに、プルIは小さく頷いた。
「いつの間にか、知らない間に、宝物になってた……そんな気がする」
「じゃあ、大切にしなきゃな。きっと、いい想い出になるよ。辛い思いをしたことすら、人は想い出に変えてい
 けるんだ」
いつの日か憧れた人の写った写真のことを思い起こしつつ、アムロは続けた。
「プルJとは、きちんと話せば問題ないさ。そんな軽い絆じゃないだろう?」
「うん……」
頷きつつも、プルIの言葉は歯切れが悪い。
やれやれ、もう少し根は深そうだな、などと思って溜息をつくと、意を決したようにプルIがアムロに顔を向け
た。目尻には微かに涙が残っているが、いつものプルIを思わせる強い意志を秘めた瞳だ。
「アムロ、私は……私は、シャアを好きになってしまったのか? もしそうなら、私はプルJとどう付き合えば
 いい?」
その質問兼爆弾発言に、さすがのアムロも内心頭を抱えた。
――シャア、頼むからこれ以上頭痛の種を増やさないでくれ!
そう思いつつも、アムロは真摯に答えることにした。
プルIが本気で訊いている以上、こちらも本気で答えるしかないではないか。
「なあ、I」
――ああ、チクショウ。どうして、オレはこんなことを言わなきゃならないんだ!?
「人を好きになるのにも、好きでいるのにも、色々な形があるんだ。それを型にはめてしまうのは、よくない」
――ああ、もう! シャア、もう一発殴らせろ! いや、百や二百は殴らせてもらう!
「だから、JにはJの、IにはIの、それぞれの『好き』があっていいんじゃないか? まあ、ふしだらなのは
 止めさせてもらうけどね」
幾らかおどけつつ言うアムロに、プルIは満足とも納得とも取れる笑みを浮かべ、強く頷いた。
「わかった。ありがとう、アムロ。プルJと、話をしてみる」
その言葉にホッとしつつも、プルIの笑顔が極上のものであったから、逆にアムロは胃が痛むような気がした。
だが、そのことはとりあえず強引に無視することに決めて、立ち上がって伸びをしつつ訊く。
「プルJなら、きっとまだシミュレーター・ルームだ。すぐにいくかい?」
「ああ。鉄は熱いうちに打て、とも言う。この決意が冷めぬうちに、話をしておきたい」
そう言って、プルIも勢いよく立ち上がった。

380 名前:淑女協定(10/11) :04/01/18 06:02 ID:???
「済まなかったな、プルJ」
被撃墜のためシミュレーターから強制排除されたプルJに、シャアは少し苦しげに声を掛けた。
アムロに殴られた傷が痛むからではなく、プルJの目に隠しようもなく涙が浮かんでいたからだ。
「私は、駄目な人間だな。プルJを泣かせてしまった」
そう言って、優しくプルJの肩を抱く。
僅かに、ビクリ、としたが、プルJはそれを拒まなかった。
「大佐……」
掠れた声で何事か言おうとするプルJの唇に指を当てて押し止め、シャアは続けた。
「私は、君たちのことを心の底から大切に思っている。それは、理解してもらえるかな?」
プルJは、その言葉に強く頷いた。そのことを、疑ったことはない。
「だから、私は力ずくでも君たちを幸せにする。誰一人欠けさせることなく。誰が何と言おうが」
そして、シャアは少し儚い笑みを浮かべた。
「今は、これを答えにさせてくれないか? 卑怯な言い方かもしれないが……」
プルJは、シャアの腕の中で何度も頷いた。
――大佐は、どうあっても大佐なんだ。
そのことを、実感することができた。
自分が本物のサザビーで虚空を彷徨えば――
決まっている。
νガンダムでも、ドムでも、あるいはノーマルスーツひとつでも、きっと追ってきて連れ戻すに違いない。
それが、大佐という人だ。シャア・アズナブルという人だ。
私が、好きになった人だ。
それでいい。
それでいいような気がした。
その様子を見て、シャアはようやく安堵の息を漏らす。
「よかった……安心したよ。プルJがわかってくれて。プルJに嫌われずに済んで」
「嫌うなんて、そんなことあり得ません!」
そう返したところに、ちょうどドアが開きアムロを引き連れたプルIが入ってきた。
「プルI……」
「プルJ、少し話をしたい。聞いてくれ」
いつもの調子で語り掛けるプルIに、プルJはしっかりと頷いた。
大人二人は目配せし、シャアは腕からプルJを解放して、彼女らの会話の邪魔にならぬよう二人並んで少し距離
をとる。
「プルJ、お互いの形でいこう」
「お互いの形?」
鸚鵡返しに訊くプルJに、プルIはゆっくりと頷いた。
「そうだ。私自身半信半疑だが、私がシャアを好きだとしてもお前の邪魔はしない。逆も、また然りであるとい
 い。偽善かもしれないが、好きでいることと争わねばならぬことは、必ずしも一致しない。だから、それでい
 いではないか。少なくとも今は、それでいいと思う」
プルIの言葉に、今度はプルJが頷く。
「うん……それが、一番だと私も思う。大佐は大佐、私は私、プルIはプルI。それが、今はいい」
プルJの言葉に微笑んで、プルIはプルJを抱き締めた。
「それと、ごめん。許してくれ。私たちは、姉妹だ。かけがえのない、運命を共にする姉妹だ。悲しませて、済
 まなかった」
耳元で囁くように謝罪するプルIの言葉に、プルJは胸が熱くなるのを感じた。
そして目尻に、今度は嬉しい涙を浮かべて囁き返す。
「うん……写真、手荒く扱ってごめん。世界にたった一枚だもん、大事にしないとね」
そうやってお互い少し笑いあってから、プルIが切り出した。
「紳士協定を結ぼう。いや、我々だと、さしずめ淑女協定か? お互い、シャアに直截な干渉は禁止。点数稼ぎ
 はナシだ」
「ふふ……何、それ? でも、いいよ。面白そうだね」
そう言葉を交わし、二人は本格的に笑いあった。

381 名前:淑女協定(11/11) :04/01/18 06:04 ID:???
「雨降って地固まる、というやつかな?」
いけしゃあしゃあと言うシャアを、アムロはカイ・シデンが乗り移ったのではないかと思えるほどの険悪な視線
で睨み付ける。
――そもそも、お前が余計なことをしなければ……
そう思いはしたが、プルIが豊かな感情を発露する契機になったのもこの男であることも事実なので、すんでの
ところで手や足や罵詈雑言を出すのは思い止まった。
それに、先刻から感じているプレッシャーは、間違いなくアレであろうという確信があったから。
そして、アムロの思いが通じたのか、それはすぐにやってきた。

「シャア・アズナブル! おとなしくしろ!」
「一切の抵抗は無駄と知れ!」
背後から掛けられたその言葉に、シャアは壊れかけのからくり人形のようにぎこちなく振り返った。
もちろん、そこには。


「ま さ か の 時 の

      ⌒⌒ヽ    ⌒⌒ヽ    ⌒⌒ヽ
    (γ ノ|ノ)从 ) (γ ノ|ノ)从 ) (γ ノ|ノ)从 )
     ‖* ̄_ ̄ノ  ‖*´ー`ノ  ‖*^∀^ノ
     丿~ † ~ヾ  丿~ † ~ヾ   丿~ † ~ヾ
     ん  八  ) ん 人  )  ん 人  )
     んU〜Uゝ  んU〜Uゝ   んU〜Uゝ

               ア ク シ ズ 弾 劾 裁 判!」


瞬時に、シャアの顔が蒼ざめる。
「ま、待て! たった今、示談が成立したところだ!」
「HAHAHA! 笑止! それで罪が消えるわけでもない!」
「更に余罪のオマケ付き!」
「た、助けてくれ! プルJ! プルI! アムロ!」
威厳の欠片もなく助けを求めるシャアであったが。
「すまん、シャア。淑女協定により弁護は控えさせてもらう」
プルIは、素知らぬ顔でうそぶいた。
「も、申し訳ありません、大佐」
うつむきつつ、やはり弁護を否定するプルJ。
「自業自得だ。この節操なし!」
アムロは、恨みを込めて『地獄に落ちろ』とばかりに親指を下に突き出して拳を振る。
「た、頼む! サウナ送りだけは勘弁してくれ!」
情けなくも慈悲を乞うシャアが連行されたところで、プルHがプルI、プルJの下に歩み寄る。
「さあ、いきましょ。あなたたちにも、傍聴と証言の役目があるわ」
若干冷たい目を向けつつ、プルIはプルHに訊いた。
「謀ったな、プルH?」
プルHは、うふふ、と楽しげな笑みを浮かべ、さも当然のように応じる。
「だって、こうなることはわかってたもの。楽しまないと」
そのやり取りを見て、やっぱりプルHが一番のやり手だ、とプルJは思った。

386 名前:月光蝶 :04/01/18 12:16 ID:???
何故かアクセス規制中で、自宅から全く書けません(TT).
これもある方法でリモート書き込みです。

ttp://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/1897/log/dame/dame.html
・2004/01/18 36歳スレ無削除版ログ、36歳スレ編集版ログ、お裁縫の時間1〜2、淑女協定をUP。さらに、精鋭・黒ハロ部隊のプロトタイプが遂に動き出す!?
・2004/01/17 36歳スレ無削除版ログ、36歳スレ編集版ログ、36歳スレ・無題作品04、ソープオペラをUP

・139入れました。
・ちょっと悪戯してみました(笑)。POV_RAYで描いた精鋭・黒ハロ部隊ですが、あまり上手くデキンカッタヨ。

>>358-360
月光蝶思うに、実時間と作中のイベントが平行して流れている(笑)として、
アクシズ漂流開始から経過した時間は既に約1年9ヶ月(漂流開始は0093年03月)、
冷凍から解放された時期は、金星軌道を越えるまで(約2ヶ月)の何時かと考えています。
但し、冷凍された時期が同時とは限らず、何ヶ月かのずれがあるかも。
一見そっくりだけど、シャアは完璧に、アムロもちょっと見ると見分けがつくくらい、
プルズは違いがあるらしい(笑)ので、起きて活動していた時間の長さに若干の違いが
あるのかも知れません。

最も、スレのお約束(笑)で、本スレでは時間の経過について特に煩い事は言わない
(時間が経っていると言えば経っている、経って居ないと言えば経っていない)という
感じでいいんじゃないでしょうか。
つまり伏目になるクリスマスや新年の回数に関係なく(笑)、突然12歳のプルが現れる事も
あれば、一連の月光蝶作品(「プレリュード」や、「月は地獄だ!」)のように、ごく初期の事情を
書き直す事もあっていいんじゃないかと。

>>336-338,341
V時代は流石に、生きているとしてもあまりに遠い未来のような気も。
最も、退役軍人が平均より長寿だと言うのは有名な話らしいです。
訓練で作られた体と、規則正しい生活、栄養バランスの取れた食事を長期間続けている事で、
退役後もそれなりに身を慎んでいれば、寿命は当然延びると。

MSパイロットの場合、Gに対抗するためにある程度筋肉をつけておかねばならないはずですので
(レッドアウトやブラックアウトを起こさないために必要。プルズの場合は強化されているので別格か)
シャアもアムロも、現役を続ける意志がある限り、最低限の肉体的トレーニングは欠かしていないはず。
特にシャアの場合、腕を落とさないために密かに自主トレしている可能性は大。
中・更年期を通してその習慣が続いていた場合、彼らは相当長寿を保つかも知れません。

・・さらにいうと、もしロメロ爺さんがシャアだとしたら、どんな事が起きても心配ないでしょう。
何しろ、彼は地球圏最高とも言える脱出術の達人(笑)、ザンジバルもしくはグワジン級の大爆発の中からも
無傷で脱出する不死身の男ですから(笑)。

>>370-382
久方のアクシズ弾劾裁判イイ!!(笑)。不死身でも弾劾裁判だけはダメなのか。条件反射か、アムロにやられて蒸し焼きになりかかった時のトラウマかね(笑)。

>>385
シャアが一番長く乗っていたのがザク(その次が、多分シミュレータにデータが無いリック・ディアスか百式)で、
相手が自分の設計したサザビーですからなあ。
サザビーはアポジモーターは多いが、ドム以上の重モビルスーツで、スロットルの使い方が悪いと多分鈍重ってーか、真っ直ぐにしか加速しないんでしょうし。
それと、(当然)シャアの方が耐えられるGが大きいように設定されてると思う。
強化されてるとは言え、11歳の子供に5〜6G加速させたら、体が出来てないから死んでしまうだろうし。
シャアやアムロなら9Gくらいまで平然と耐えるんじゃ(10G越えると超一流でもGロック=失神する事がある)。


387 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/18 12:36 ID:???
シミュレータでファンネル使ってるってことはファンネル再現に対応してるんだよね。
昔のシミュレータでファンネル使えるってNT専用シミュレータ?
ZZ時とかの強化人間用シミュレータってわけでもないらしいし。
それともアムロとシャアがサイコフレームでも組み込んだのかな。

これ以上矛盾に突っ込むのも野暮なのでやめとく。

388 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/18 12:53 ID:???
単純にνとサザビーのコクピットをケーブルでつなげてるんじゃないの?
CCAにジェガンをシミュレーターとしてゲーム代わりに使ってたシーンがあったし、
あれと同じ感じだと思ってたんだけど。

389 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/18 14:37 ID:???
大作乙〜。姉妹の絆やJのシャアに対する気持ちに感動した(ノ∀`)
パイロットと機体の差を考慮してもサザビーを翻弄するシャアザクカコイイ

390 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/18 16:34 ID:???
>>388
>>248で「アクシズの兵士達が戦闘訓練に使っていた古い型のシュミレーター」と書いてあるからそうでは無い。
いちいちMS格納庫まで行ってゲームやるわけにもいかんだろうし。
アレとは違うシミュレーターの可能性も否定はできないが。

391 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/18 17:46 ID:???
ソフトだけを、νとサザビーのデータをインストールしてバージョンアップしたとか。
ハードはどうなってるかは見当つかないけど。

392 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/18 19:58 ID:???
アクシズにならサイコミュに対応したシュミレーターがあっても別におかしくないような気がするが

393 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/18 20:31 ID:???
別にたいして拘ることでもないだろう。

394 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/18 20:37 ID:???
1年戦争〜ZZまでの機体を網羅した連ジオみたいなものか。富野しくやりてぇ。

395 名前:月光蝶 :04/01/18 23:20 ID:???
>>248

アムロ:「プルたちを外に出したくはなかったが、これまでの事で慣熟訓練が要るのは判っている」
シャア:「致し方あるまいな」
アムロ:「そこでだ、兵舎の跡から、6機ばかりシミュレータを発掘してある。経年劣化でだいぶ、部品が使えなくなってるが、6機分から1、2機組み上げるならなんとななるだろう」
シャア:「悪くないな。だが、古いデータばかりでは仕方ないんじゃないか?」
アムロ:「改造してνガンダムのデータを入れれば、立派に使えるさ(☆☆)」
シャア:(むっ、この眼光・・・)「サザビーのデータも入れるんだろうな?」
アムロ:「無論だ。データどころじゃない、サザビーの部品もたっぷり入れる」
シャア:「やめろ」
アムロ:「俺たちが使う以上、ニュータイプ用でないと意味が無い。まずサイコ・フレームを手ごろな大きさに切って」
解体されるサザビー。
シャア:「やめろ、やめるんだアムロ!!」
アムロ:「精神波を拾うハイパーリレーも重要だ。これなしでは反応が実物より遅くなる」
さらに解体されるサザビー。
シャア:「あああ・・・やめろ、やめてくれアムロ(TT)」
アムロ:「まだまだこれからだ・・・」
まだまだ解体されるサザビー・・・

とか(笑)。


396 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/19 00:26 ID:???
>解体されるサザビー

……カニ鍋。

スンマセン頭に浮かんでしまっただけです。
サザビーならむしろ海老なのですがw

397 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/19 01:05 ID:???
>396
カニ鍋で正解w。そんなお前さんに、初代スレよりこのネタを。

91 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/10/13 23:50 ID:???

シャア「何をしているアムロ!」
アクシズのMSデッキで作業をしているアムロを見て、シャアは叫んだ。
νガンダムとサザビーの二体がデッキに運びこまれていたが、サザビーの方は手足をもがれて無残な姿になっていた。
シャア「サザビーを分解して何をするつもりだ」
アムロ「コールドスリープ装置に使えそうな部品を選んでいるんだ。俺たちのMSから集めるのが一番効率が良い」
シャア「ガンダムの方からは部品は取らないのか」
アムロ「外での作業に必要だから、ガンダムは残す。足りない部分はサザビーのパーツを使わせてもらう」
シャア「割に合わんな。自分のガンダムが可愛いか」
アムロ「片腕を斬られて頭部がメチャメチャになっては、ここでの修理は無理だ」
シャア「そうしたのは貴様だ」
憮然とするシャアの目の前でサザビーは分解されていく。
そして、分解された赤い手足の方は白菜やねぎや春菊と一緒に鍋に入れられた。
プルK「まだ出来ないの?」
シャア「まだだ」
プルH「もう出来たんじゃないの?お腹へったよ」
シャア「まだ終わらんよ」
アムロ「そうやって鍋奉行になって仕切ることしか出来ないんだ!」
シャア「ならばカニ雑炊は貴様が作って見せろ!」



92 名前: 91 投稿日: 02/10/13 23:50 ID:???

   ||
 Λ||Λ    当方の手違いにより、「さよならサザビー」と「カニ道楽@アクシズ」の原稿が混ざってしまいました。
( / ⌒ヽ   この場を借りてお詫び致します。
 | |   |
 ∪ 亅|
  | | |
  ∪∪
   :
   :

 ‐ニ三ニ‐


398 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/19 02:00 ID:???
>>386
細かくてスマソ

金星軌道?

399 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/19 02:26 ID:???
>>398
たしか「月は地獄だ!」で金星スイングバイを行う時プルたちは既に居たので、
その時点までのどこかでスリープ解除された、ということでせう





  ∧||∧
  (  ⌒ヽ それはそうと「金星」と入れて「菌性」と出した漏れのPCのなんと夢のない事よ…
  ∪  ノ 
   ∪∪


400 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/19 03:04 ID:???
プルI「四百式!」

407 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/19 23:18 ID:???
>400

偶然見つけたEXAMシステムにプルEが取り込まれてしまった。

「こうなっては仕方ない。シミュレーターでブルーを叩き潰すしかないだろう」
「大丈夫なのか?」
「νガンダムとサザビーをケーブルで繋いでくれ。何、私たちが協力すれば勝てぬ相手ではないよ」

しかし、そこには意外な問題が。

「シャア、悪い知らせだ」
「何だ」
「EXAMの影響でシステムが酷く不安定だ。このままだと、いつまで稼動していられるか……それと」
「それと?」
「νガンダムとサザビーのデータは、今回使用できない」
「どういうことだ?」
「追加登録したMSの管理クラスタが接続拒否されている。使用できるのは、元からシステムに組み込まれてい
 た機体データだけだ」
「ふむ……どんな機体がある?」
「グリプス戦役当時までだな。それも、元が一般兵用だから、ネオジオンの機体は一般的なものしかない」
「私に、ガザCにでも乗れ、と?」
「慌てるな。仮想敵機としてエゥーゴとティターンズの機体が登録されている。Zガンダムみたいに特殊な機体
 のデータは、推測値に基づいたいいかげんな代物のようだが……百式のデータは、容量から考えてかなり正確
 なものだ」

そりゃ、壊れているとはいえ実機手に入りましたから。
ごく一部に、異常なこだわりと、ついでに権力持った人がいましたし。

「百式か。悪くないな」
「シャア、私たちも手伝おう。シミュレーター戦の上位三名、すなわち、私、プルB、プルJが随伴する」
「おいおい、俺の席は?」
「アムロは、シミュレーター本体の世話があるだろう? それに、姉妹たちの面倒も見てもらわねば」
「わかった。でも、機体は……」
「百式を」
「百式だな」
「百式ですね」

かくして、EXAMに挑む四機の百式部隊。

漂流家族アクシズ外伝−1−
『センリツのぶるー』

……とか。(笑)

408 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/19 23:31 ID:???
そうきたか(;´д`)

409 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/20 00:09 ID:???
>>407
雰囲気を出すため
髪を下ろしてグラサンかけるシャア
「今の私はクワトロ大尉だ」

410 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/20 00:30 ID:???
「クワトロバジーナ!寝る!」

411 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/20 00:37 ID:???
   r'⌒⌒^'、  \
  ( rνyy'ソ  \\  いいからさっさと行け!
   ヾ,#゚ー゚ノ    | |
     ]¶[  )    | |
      / /    人
     ヽ/    <  >⌒⌒ヽ ∩
    △/  //(V#"メ"""ミ) /
  ▽ν ▼ 彡  ヾ▼Д▼ノ /
  △ 鎚▲       ¥  /
    ▼


412 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/20 00:47 ID:???
>>407
すげぇ読みてぇ。

413 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/20 01:35 ID:???
じゃあ、シリアス編はそのうち……上手く出来るか、わかりませんが。
とりあえず、ギャグ編。



行ってみた。

「なっ! なんだ、この原色だらけのフィールドはっ!? EXAMの影響なのか!?」
「や、山がプリンです、大佐!」
「空にはスパムが浮いているぞ!」
「前方に機影! あれは……!」
「「「『お父さん』だっ!!」」」

山岳プリンの狭間から、プルLのお供『お父さん』登場。
但し、サイズがサイコガンダム。

「プルEーーーーッ! 何考えてるんだ、プルEーーーーーッ!」

みんな、走れっ! てな感じでわらわら退却する百式部隊。

「……くす」
「あ、プルE、笑ったよ」
「楽しい夢を見ているのね」
「シャア、中で何やってるんだ……?」

その頃の大佐たち。
いつのまにかアプサラスサイズに膨れた『お父さん』と鬼ごっこ。

「頼むから目を覚ましてくれ、プルEーーーーーーーーッ!!」

結局、プルEが満足するまでひたすら追いまわされました。

「これでは道化だよ……」

414 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/20 02:07 ID:???
(;´д`)


攻撃はやっぱり目からビ(ry?

420 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/21 00:01 ID:???
                      __
                 ,.、-''"´     ̄`゙゙''- 、
                  ,.-'"              ゙ヽ、
             /                      \
             /         /      i   `゙ヽ、     ヽ
           /   /  /    i   | 、ヽ`ヽ、ヽ 、  ゙、     /
            / / / / //,イ /!|、 |   l i \ヽ  ヽ,ヽ,  ゙i     ( 保守するよー
            ,'/  /./   // / l / l !゙i l!゙'iヽヽ 、. \゙i  ゙i ゙i   ゙i     )
          l i / // 〃 l l .!|  i! ゙i!、l、ヽ ヾi,、 ヽ,  | |  i |   /
            !il i l l i/i7‐-!|、,_l!  !   ヽ,ヽ>ゝl-´iゝ| l ヽ、.| !  (  プルプルプルー
           i!| l ! | ! i| l! ,,. --.、ゞ、   =,".--゙、`l i!. l/人ゝ<!l   )
          !.l | l ゙i゙、 l _,r'にi::::。l゙      "l:ニ)::。ヽi!l| |'´i゙i i| i i/  (
          ゙i.|、゙、ヾヽ ゙ ゙、::::::::l      l::::::::::ノヾ.l/|〉'ノ,'.l l/!    )
           ゙i!゙i, ハヽ ゙、 `''"´       `゙'ー' ' //|‐'l//〃   ⌒`‐‐----‐‐‐‐--‐‐---
        ,、 ,-,   ゙i.l、 l | i゙i. """   __'__   """イ,'! l/,/    ,、 ∩ ,.,
     /ノr' ノ____  ゙、゙i | ゙i .゙、     l´ ̄`i    // ト、゙/  ,..__ ゙i,゙、l ゙i | .l
     | l / レ',.--'    ´| l |. ヽ、   ゙、___,ノ   // i レ.` `-、 ゙iノ l l/ /  
   r-、|    'ー'^゙っ    | l |゙、i、_゙i'' ‐ .,,_ ,. -'"l/゙i i  |     ゙、   ' ' /
    ヽ、l    ゙'i'´     | i |,、.,∠L,. ---──┴、!|  |      .l     ゙‐-っ  
     `i      |     | i |ヽ,      ......:::::::::::ノ!l  !      l      ,.‐'"
     rl    /_  ,.. --゙、 i |'Tヽ、 .......:::::::::::::::/:::|i .ト、    〉、  


422 名前:女の子には花を(1/6) :04/01/21 02:19 ID:???
「これ、これが着たい!」
「私もー!!」
(白いニットに赤いチェックのミニスカート。うん似合うだろうね、プルA、プルG)
「あら、これもなかなかじゃない?」
「そうね。素敵」
(プルFとプルKはお姉さん風のフレアスカートか。いいだろうとも)
「かわいい…」
「…」
(そのフリルドレスにはきっとそういうと思ったよ、プルC。プルLもそっと頷いているね。予測の範囲内だ)
「私あれがいい!」
「こっちもいいな〜」
「ねえねえさっきのページのは?」
「あーちょっと勝手に先に進まないでよ!」
「なにこれ『今日のハマーン様』?えー微妙な趣味ー」
「いや悪くないと思うが」
「ええっ!!変だよー!!」
「そんなことない、お子ちゃまなんだよ、これがわかんないのは」
「ひっどーい」
「でも私はこれも欲しいな〜」
「確かに!」
(…だが、俺がそれ全部作るわけだろう!?いやわかってやっているさ勿論だがしかし!)
「…そこまでっ!」

423 名前:女の子には花を(2/6) :04/01/21 02:20 ID:???
 珍しいほどの気合のこもった一喝に、ぴたりと言葉を止めたプルたちを、アムロは見渡した。
「いいかい、みんな。確かに最近居住エリアで見つけたファッション誌一式を持ってきたのは俺だ。少しずつで
もみんなの分を作っていけたらと思って、みんながどんな服が好きかを聞こうといったのも俺だ。だが、俺に
教えてくれるときまでに意見をまとめておいて、一人ひとつずつきちんと教えてほしかったな。そういってあっ
たと思ったんだけどな?」
「はーい…」
「ごめんなさーい…」
「だっていざとなるとどれもこれも捨てがたくって…」
「まったく」
 揃ってしゅんとしたプル達に思わず苦笑する。これだからなんでもしてやりたくなってしまうのだ。
「仕方ないな。じゃあ、リクエストが決まった子から後で俺のところにおいで。生地やらなんやらの問題もある
し、とてもすぐとは言えないが、いつか必ず形にして渡して見せるからさ」
 プルたちは、ほっとしたように笑ったり、アムロに礼を言ったりしつつ、それぞれの持ち場に去る。 やれや
れと肩をまわしたアムロは、最後に残った、雑誌の一冊を手にしたプルHに気付いた。
「どうかしたかい?」
「私は、リクエストしたいものがもう決まっているので」
 プルHはアムロに近づくとぱらぱらとページをめくった。横から覗き込みながら、アムロはプルHが開いた
ページの服のひとつから目が離せなくなった。何しろ彼女だ。プルHだ。いや、そうではなくとも…、脳裏に走
る、嫌な…とは一概に言えない微妙な感覚――薄い黄色のワンピース。鳥のような。
 プルHがアムロの横顔を見つめ、微笑んだ。
「これを」
 プルHの指先がページに降りていくのを半ば託宣が下るときのような覚悟で見つめ――、
「え?」
 細い指が指したのは、アムロがこわばって見つめたワンピースの隣、すらりと格好の良いパンツスーツだった。
「えーと、これ、かい?」
「似合わないかしら」
 少し悲しそうな顔をするので、こっちじゃなくて?という台詞を呑み込んで、アムロはあわてて首を振った。
「いや、そんなことないと思うよ。もう少し背が伸びてからの方が合わせやすいかもしれないけど、今でも充分 チャーミングだ。きっと」
「よかった」
 笑った顔がなんだからしくないほど無邪気で、どうも調子を狂わせられっぱなしのアムロは、ええと、と続ける。
「この感じのなら、今の手持ちのでなんとか作れると思うけど、やってみようか」
「ありがとう、アムロ」

424 名前:女の子には花を(3/6) :04/01/21 02:21 ID:???
 物資もなにもが不足しているアクシズ生活において、服飾品の選択肢など基本的にはないに等しい。
 はっきりとした嗜好を持ち、努力を怠らないプルCや、特別なイベントの時のスペシャル服というか仮装とい
うかはともかく。
基本的に作業着かノーマルスーツか、アムロ母さんが夜なべして作ってくれた、12人のプルたち誰もが着ら
れる汎用性がある=没個性といわざるをえないなものか、となるのだから。
 その状況下においてほとんど初めて自分の「好き」な服を考えろといわれ、ある意味最も深く悩んだのがプ
ルHだったのである。
 仮装の時に着る服は悩む必要はなかった。
 これはイベントを盛り上げたり、大人たち…主にシャアをからかうためのものだったから、それに効果的なよ
うに感じたものを選べばよかったのだ。連邦軍の制服で金髪のかつらをつけてみたり、ひらひらとしたワンピ
ースで髪を二つにくくってみたり。
 特に後者は「効いた」ものだった。けっこうシャレにならないような顔も見られ(面白かった)、自分でもこうい
う雰囲気の格好は自分に合うのだろうなと思った。
 だが、ではこうした服装が好きなのかと、もし誰かに聞かれたら。
 プルHは、曖昧にうふふと笑ったり、あるいは、はぐらかすような答えを返す、そんな自分を容易にイメージ
してしまう。感じてしまう。それは「好き」とは違うような気がする。
 プルHは自分の感覚を信じている。
 その正しさをわかっているといっても良い。服装についてならば、その時折になんとなく「感じた」格好をして
それに沿って振舞えば、きっと事態は大過なくまわるだろう。
 だが。
(『私自身半信半疑だが、私がシャアを好きだとしても――…』)
 プルIのうっすらと上気した顔を思い出す。
 目覚めた頃を思えばなんて「ところ」まで来たんだろう。
 特別に誰かを何かを好きだと思うこと。なんとなく、ではなくて。
 素敵、と思った。
 きれい。
「…きれいなものを、嫌いな人がいて?」
 きれいなもの。美しいもの。好きだということ。
 …自分にも、あるのだろうか。そんな「きれい」さが?

425 名前:女の子には花を(4/6) :04/01/21 02:23 ID:???
「ん、なんて言ったんだい?」
 プルHの採寸をしていたアムロは、ひどく懐かしい言葉を聞いたような気がして、彼女に聞き返した。
「ひとりごとです。気になさらず」
 アムロは追求せず、そうかと頷いて別の質問をすることにした。
「でも、正直驚いたな。君はもっと女の子っぽい服を選ぶかと思っていたんだ。…気を悪くするかな?」
「いいえ。ただ、いろんな服を着てみたいと思っただけですから」
「いろんな服か。女の子なんだな。プルHも」
「そちらのほうが気を悪くさせるような言葉ですよ?」
「はは、ごめんよ。昔…、プルHに少し似ている女の子がいてね。その子は服のこととかは、あんまりこだわら
ないような子だったから」
 プルHは知っているかなと、アムロは小さく言った。プルHはかすかに首をかしげた。
「本当にそうだったのかしら」
「え?」
「女の子なら誰でも、好きと思える格好をしたいものではないかしら。きれいになって、好きな人に会いたいっ
て思うものではないかしら…」
 不意を突かれてアムロは思わず手を止めた。
 そうだったのだろうか?…ララァが?
 遠すぎる楽園のような、超然とした白い影ばかりが胸に焼き付いていて、そんな当たり前の感情とアムロの
中の彼女はどうしても両立しなかった。しかし。
「そんな、もんかな…」
「そんなものです。きっと。プルJや、Iにまで、私にすらそのような思いはあるのですから」
 アムロは楽しげに雨上がりの川辺を走った彼女を思った。
 子供のような…いや、本当に少女だったのだ、彼女は。
「…そうかもしれないな。そうだったかもしれない」
「…アムロ?」
「好きな服を着て、好きな人に見せたい、か…。可愛いもんだよな。プルHは誰に見せたいんだい?…あ、頼
むからシャアとは言わないでくれよ。これ以上事態がややこしくなるのは正直勘弁して欲しいよ」
「うふふ。そうですね、いつかアムロやシャアよりも素敵な男性と出会いたいと思います」
「なんだ、ふられてしまったな」
「アムロもシャアも好きですよ。大好き。ずっとこのままでいられたらいいのにって思います。私達みんな、ず
っとあなたたち二人の間にいられたらって…」
 アムロの肩がぎくりと揺れた。それにまるで気付かないように、プルHは続ける。
「でも、私たち、前に進んでいるのだから」
「!」
「生きているのだから。ね、アムロ?」
 メジャーを手にプルHの足元にひざまずいていたアムロは、思わずプルHの顔を見上げた。言葉通りに
生き生きとした瞳、はっとさせる輝きがアムロに向けられていた。
――俺に焼きついているララァは、あのララァか?生身の、ただの女の子の、ララァだろうか?
 違うなと、アムロは初めて認めた。
 アムロの『ララァ』は永遠に変わらない。永遠の鳥。
(だけど、俺がめぐりあった、あの日のララァは、きっとそうじゃなかった)
 毎日毎日、眩しいほどに成長し、変化し、自分達に影響を与えるこの子達のように。
 未来が。可能性があった、ひとりの少女だったはずだ。
 捕らえられていると思っていた。だが、あるいは…、
(勝手に彼女を神格化させて、ずっと離せずにいたのは…、あるいは、俺達の側ではないのか?)
 痛みと共に、しかし穏やかに認めた自分に驚きながら。
「…アムロ…?」
 珍しいほど何の企みもなく言葉を重ねていたプルHは、ここにきて迷ってしまった。
 微笑んだアムロの顔が、なんだか今にも泣き出しそうな、まるでまだ15の少年のような、そんな風に見えたので。
言葉に迷って、それからそっと、アムロの額にキスをした。
 ささやかな祝福のように。

426 名前:女の子には花を(5/5) :04/01/21 02:24 ID:???
 さて、プルHリクエストの服が出来上がったその夜のことだ。
 アムロは何やら考えこんだ様子のシャアと廊下で出くわすことになった。
「…どうした、シャア」
「アムロか。いや何…、そこでプHと会ったのだがね。見慣れない服を着ていてな。あれは君の手製だな?」
「そうだが。それがどうかしたのか?似合ってただろ」
「ああ、あれはあれでいいものだ。そう、似合っていた。それがまたなかなか衝撃的でな。彼女がああいった服を希望する
とは思っていなかった自分に気付かされる。プルHの趣向といえば、『彼女』の印象が強すぎたからな…」
「…誰もが生きて成長してるんだ。試しに着てみる服だって、いろいろ変化して当然だろう。ニュータイプ能力とかそういの、
関係ない」
「そう…、そういうことなのだよ、アムロ。私はな、あの子とて、ララァとて、もし生きていればそうでありえたのかもしれな
いと不意に思ったのだ」
「…」
「彼女はモノばかり与えられる事には辟易していると言っていた。私は…、ハタチの若造は、それを真に受
けた。だが」
「…」
「…プレゼントのひとつやふたつ、いや服の十や二十、あげておけば良かったよ。ララァは女神ではない。
17の少女だったのだ。ただの、生身のな。…そんなことを、今更思った」
「…本気で今更だよな」
「否定はせんよ」
「……シャア、」
 ぐしゃぐしゃと頭をかき回して、アムロはため息をついた。
「一杯やる。付き合え」
「何に乾杯だ?」
「女の子の気持ちもさっぱりわからないダメ男二人にさ。この年になって、その子たちに教わるたくさんのことに」
「なるほど。付き合おう」
 その酒の苦さも甘さも、プルたちが知ることはなく。

427 名前:419 :04/01/21 02:25 ID:???
全部で五個だったー!!す、すまん

「終わりなき旅路」でH→アムロは丁寧語と確認。
でもこれは違う気がする…
シャアとアムロとララァのことを考えてたら悲しくなったのが
このスレで癒されたので思わず書いたというのは秘密だ

アウトだったらスルーしてくださいガクリ

436 名前:立場逆転(1/5) :04/01/23 22:58 ID:???
カチャカチャ。
プラスチックやら金属やらがかち合う音が部屋に響く。
ドライバを片手にネジを回す。
賑やかながらも平穏な一日が終えようとする頃、
ようやくアムロにも自分の時間がやってくる。
朝からつい先ほどまで雑事に追われる。
一種の幸せでもあるが、ストレスが溜まらない訳でもない。

アムロにとってこの時間は自分の好きなことが出来る唯一の時間。
アクシズの内部や、宇宙空間で拾ってきたジャンクを
何か使えそうなものにレストアする。
機械をいじっている自分をアムロは好きだった。

今日は宇宙空間に漂っていた廃艦を探索して
色々なパーツが手に入ったおかげか、創作意欲がどんどん湧いてくる。
明日も朝がつらいかもしれないな。
そう思いつつもアムロは機械いじりに没頭した。


「アムロ……。」
どれくらい時間が経ったか忘れた頃、
おもむろにドアが開き、アムロを呼ぶ声がした。

「どうしたんだい?プルC?まだ寝てなかったのかい?」
いつもならプルたちはもう寝ている時間だ。
プルたちの昼間の元気は、早寝早起きによるところが大きい。

機械をいじりながらプルCの方に顔を向ける。
「これ、作ってから寝ようと思ってたから…。」
プルCの手には裁縫セットと洋服。
そう言え昼間にば刺繍をするとか言っていた。

「何か分からない事でもあるのかい?」
わざわざ部屋に来たのだから、何か聞きたいことでもあるのかとアムロは思った。
「ううん。そうじゃなくて……。みんなもう寝ちゃってるから……。」
「あぁ、そう言うことか。」
「だから……。ここで一緒にやってもいい……?」
他のプルたちはみんな寝てしまっているから電気はつけられない。
だからと言って他の部屋で一人でするのも寂しかったのだろう。
「構わないよ。こっちにおいで。」
そう言って自分が座っている脇のジャンクを押しのけて、
クッションを敷いてそこに座るよう軽くそれを叩いた。
「うん♪」
プルCは嬉しそうにアムロの隣にちょこんと腰掛けた。

こうして二人は趣味の時間に没頭しはじめた。

437 名前:立場逆転(2/5) :04/01/23 23:00 ID:???
二人は黙々と作業をしていた。
アムロは機械の塊をいじったり、ジャンクの山から部品を引っ張り出したり。
プルCは本を見ながらゆっくりと慎重に針と糸を通している。

互いに熱中しているのか会話は無かった。
だが、部屋の空気はとても柔らかかった。

二人はいい意味で相手のことを忘れて、趣味の時間を楽しんでいる。

「ふぅ……。」
アムロがペンチを置きながら一息つく。
ようやく形になった。
あとは動くかどうか確認して、悪いところを直せばいい。
ふと脇に目を向けるとプルCが一生懸命手を動かしている。

そう言えば、二人だけでいることはあんまり無かったな。
そんな事を考えながら、小刻みに揺れているプルCの頭を見下す。


思えば、こうやって誰かと趣味の時間を共有するなんてことは
アムロにはほとんど記憶が無かった。

少年時代は一人で機械をいじってばかりだった。
ホワイトベースに乗ってからは趣味の時間なんてとても持つことが出来なかった。
持てたとしても、やはり一人で黙々と機械をいじるだけだった。

ある時を境に、俺の人生は戦いに彩られている。

アムロは苦々しい自分の過去を振り返った。
しかし、今はそれを懐かしむだけの余裕がある。
現に今、趣味は違えど同じ時間を共有する人がいる。

俺は今、幸せなんだな。

そう思ってみると妙に感慨深くて、アムロは思わず苦笑した。


「さて、もう一つ作ってみるか。」
そう呟いて今度は別の機械の塊をジャンクの中から引っ張り出す。

再び、部屋は機械の音だけが響き始めた。

438 名前:立場逆転(3/5) :04/01/23 23:00 ID:???
二人が黙々と趣味の時間を満喫している頃、
シャアはアクシズの管制室で一人作業をしていた。
普段だめっぷりをひけらかしているシャアも見えないところでは、
アクシズの大黒柱足りえるだけのことをしているのだ。

アクシズの軌道計算など、シャアが得意とする仕事を一手に引き受けている。
昼間は農作業なんかをやっているシャアからは想像がつかないが、
どちらかと言うとこちらの方がシャアの本当の姿と言ったところか。

パソコンのキーボードを滑らかに叩き、
次々と出てくる数式に目を通し、プログラムを見直す。
次の軌道修正はいつ、どのタイミングで必要か。
以前に計算はしているが、日々、誤差が出る。
シャアは毎日その微々たる誤差を修正している。

「ふむ。今日はこんなところか。」
一通り作業を終え、計算プログラムを修正させる。
「近々、こいつを使用する事になるな。」
モニターに映像が映し出される。
核パルスエンジンのライブ映像。

「む、これは……。私には手を出せんな。」
管制室のモニターを見ながら一人呟く。
先ほどからモニターに写っていた核パルスエンジンのアップ。
大きくは無いがちょっとした亀裂が入っている。
機械いじりは彼の領分ではない。
「アムロに相談するか。」
シャアはモニターの画像をプリントし、管制室を後にした。

一方その頃、アムロの部屋では……。

カチカチ。
相変わらず部屋は金属やらプラスチックやらの音に支配されていた。

439 名前:立場逆転(4/5) :04/01/23 23:01 ID:???
日付もとうに変わり、アクシズにはより一層の静寂が包まれている。

「ふぅ……。」
今度はプルCが一息ついた。
どうにか刺繍は形になってきた。
裁縫を始めた頃より随分と上手くなったと自分でも思う。
刺繍で花をあしらった洋服。
もう少しで完成だ。

刺繍を続けながら、ふとアムロの方に視線を向ける。
そこには見慣れた顔ながらも、生き生きとした表情があった。
嬉しそうとも笑っているともつかない表情だけど、
今の時間が心底楽しいのが良く分かった。

そんなアムロを見てプルCはある事を思い出した。
「アムロのようになりたい。」
確か裁縫をはじめた頃に思った事だ。
こんなアムロを見ているとその思いは強まるばかりだ。
普段のお母さんみたいなアムロもそうだけど、
プルCは趣味の時間に没頭するアムロに憧れている。


「いたっ……。」
よそ見をしながら針を動かしていたものだから、
プルCは指に針を刺してしまったのだ。
とっさに洋服から手を離す。
血で洋服を汚さないためだ。
最初、失敗ばかりしていたころは血がついて
思わぬ模様がついてしまったものだった。
今ではそうした時は手を離すのがくせになっている。

「どうした?針でも刺したのかい?」

手を止めたアムロがプルCの指を覗き込む。
プルCは手を横に持ち上げたまま頷いた。

「大丈夫。大した事は無いな。こうしておけばいいさ。」

「!?」

おもむろにアムロはプルCの指をくわえた。
アムロの口内に鉄っぽい血の味が広がる。
アムロは舌で指の傷口を軽く押さえたままにした。

突然のことにどうしていいか分からないプルCは固まってしまった。

440 名前:立場逆転(4/5) :04/01/23 23:02 ID:???
日付もとうに変わり、アクシズにはより一層の静寂が包まれている。

「ふぅ……。」
今度はプルCが一息ついた。
どうにか刺繍は形になってきた。
裁縫を始めた頃より随分と上手くなったと自分でも思う。
刺繍で花をあしらった洋服。
もう少しで完成だ。

刺繍を続けながら、ふとアムロの方に視線を向ける。
そこには見慣れた顔ながらも、生き生きとした表情があった。
嬉しそうとも笑っているともつかない表情だけど、
今の時間が心底楽しいのが良く分かった。

そんなアムロを見てプルCはある事を思い出した。
「アムロのようになりたい。」
確か裁縫をはじめた頃に思った事だ。
こんなアムロを見ているとその思いは強まるばかりだ。
普段のお母さんみたいなアムロもそうだけど、
プルCは趣味の時間に没頭するアムロに憧れている。


「いたっ……。」
よそ見をしながら針を動かしていたものだから、
プルCは指に針を刺してしまったのだ。
とっさに洋服から手を離す。
血で洋服を汚さないためだ。
最初、失敗ばかりしていたころは血がついて
思わぬ模様がついてしまったものだった。
今ではそうした時は手を離すのがくせになっている。

「どうした?針でも刺したのかい?」

手を止めたアムロがプルCの指を覗き込む。
プルCは手を横に持ち上げたまま頷いた。

「大丈夫。大した事は無いな。こうしておけばいいさ。」

「!?」

おもむろにアムロはプルCの指をくわえた。
アムロの口内に鉄っぽい血の味が広がる。
アムロは舌で指の傷口を軽く押さえたままにする。

突然のことにどうしていいか分からないプルCは固まってしまった。

441 名前:立場逆転(5/5) :04/01/23 23:03 ID:???
「すまない、アムロ。少しいいか?」
唐突に部屋の扉が開いた。

「な……!?貴様!?何をやっている!!」

それを聞いてアムロは指から口を離し、

「あぁ、プルCが指に針を……。」

「言い訳など聞く耳持たん!!この間あれだけ私を殴っておきながら…。」
わなわなと震えながらアムロを指差してシャアは怒鳴り散らした。
「夜中にプルCを部屋に連れ込み、あまつさえ指に吸い付くとは!!」

「なっ!?変な言い方をするな!!俺はお前とは違う!!」
憤慨してアムロが怒鳴り返す。

「問答無用!!日ごろの恨み思い知れ!!」

飛び掛るシャア。
対して、座った状態のアムロでは分が悪かった。

散らばるジャンクの中、プルCを脇目にマウントポジションを取る。

「フフフ……。ようやくこの時がやってきた……。
 貴様のようなヤツをこの私、シャア・アズナブルが粛清しようと言うのだよ!!」

「ま、待て!シャア!!落ち着け!!」

「いざ!忌まわしい記憶とともに!!」

「うわぁぁぁっぁぁ……。」



プルCはと言うと、アムロが殴られ始めた頃に我に返りたが、
目の前の惨状に目もくれることなく部屋から走り去っていった。
あまりの恥ずかしさに、いても立ってもいられなくなったのだ。
耳まで真っ赤にして裁縫道具と洋服も忘れて部屋に駆け戻り、
顔と一緒に今のことを隠してしまいたいと布団を頭から被った。



次の日、満足そうな元総帥と顔を腫上らせた元大尉と
眠そうな目をこする少女が他のプル達の目を引いた。

今日もアクシズは賑やかながらも平穏だ。

447 名前:独り言 :04/01/24 06:38 ID:???

まぁ、ちょっとデリカシーの無い行為だったかな、とはシャアに殴られながら思った。
すっかり失念していたが、彼女らは日々成長しているのだ。怪我した指を舐められる
なんてのは、もっと小さな子ならともかく年頃の女の子は嫌がるだろう。

そして、ふと思った。自分はどこでそんな行為を覚えたのだろう、と。

自分が小さかった時だろうか?母が自分にどんな事をしてくれたかなんて、もうあまり
覚えていない。父はそういうタイプの人間ではなかった。
一番近しかったフラウは…あの頃の自分がそんな事されてたら、きっと怒り出してた。
WBでもそんな事は、されも見もした記憶は無い。
その後の何年間かは問題外として………ああ、そうか。

ベルトーチカだ。

彼女と暮らし始めた頃、慣れない包丁で切った指先の血を「こうしておけばいいわ。」
と言って舐めてくれたんだ。
あの頃は「何にも出来ないのね。」と彼女によく笑われたっけ。
殺し合いしか覚えなかった僕に、本当に生きる事を教えてくれたのはベルだった。
結局、振られてしまったけれど。もしかしたら振ってくれたのかもしれないけれど。
今、幸せでいるだろうか。たくましい彼女のことだから、きっと大丈夫だとは思うけど。


…やっぱりプルCには謝っておこう。しばらく嫌われるのは覚悟して。

457 名前:ここにないもの、そこにあるもの(1/12) :04/01/25 08:23 ID:???
 その異変は朝食後のこのやりとりから始まった。
「あの、アムロ…」
「ん? 何だいプルK」
「…そ、その……」
「どうかしたのかい?」
「…ぷっ…」
「…K?」
「くくっ…ごっ、ごめんなさいアムロ! あはっ、あははは!」
「け、K!? どうしたんだ!? 何か用があったんじゃないのか!? おーい!」

 なぜかいきなり笑いだしてそのまま走り去ってしまったK。
 そしてこれを皮切りに、同じようなことが幾度も起こったのだ。


「なあ、アムロ…」
「プルG、ちょうどいいところで会った。Kを見なかったか? 急に笑いだしてそのままいなくなってしまったんだが…」
「んぷっ」
「え?」
「くはぁっ! あははははっ! だ、駄目だぁっ! 悪いアムロっはっはっはっははははぁーっ!!!」
「G! おい、G!? 君もなのかっ!? えぇい、なんて足が速いんだ…」


「………」
「ああ、プルE…。GとKが何処に行ったか知らないかい? どうも様子がおかしいんだ」
「…お米」
「えっ? 米? 米がどうか…」
「おに………ッ」
「あ、E! 君もなのか!? 逃げないでくれ! E! Eィーーーーーッ!!」

458 名前:ここにないもの、そこにあるもの(2/12) :04/01/25 08:24 ID:???
「いったい何なんだ…? 俺と向かい合っただけで三人も逃げ出すなんて。しかも笑いながら」
 首をかしげながら誰もいない通路を歩いていく。
 νガンダムの再調整の準備をするため、回らなくてはならない場所がたくさんあるのだ。
 だがそんな中でもアムロの頭の中では答えの出ない疑問が渦を巻いていた。
「ズボンは…ちゃんとはいてるよな。裏表が逆になってたりも…うん、していない」
 ふらふらと歩きながら身なりをチェックしてみたが、原因とおぼしきものは見つけられなかった。

 すると向かいからプルCとプルDの二人が歩いてきた。
 だが彼女たちは笑わず、普通に挨拶をしてすれ違っていった。ジャージ姿だったから畑の世話だろう。

「ン…あの二人に事情を聞いてみればよかったか?」
 すれ違ってからそう思ったが、すぐに首を振って否定する。
「あの二人なら何か知っていれば表情に出るだろうからな…あの様子だと何も知らないな」
 実際のところ何も解決していないのだが、それでも一つの答えが得られたことにアムロは満足した。

 そしてこの日一日の間、アムロはプルE、プルG、プルKの三人から会うたびに笑われたのだった。

 そんなわけでアムロは夕飯が終わる頃にはすっかり凹みきっていた。

459 名前:ここにないもの、そこにあるもの(3/12) :04/01/25 08:24 ID:???
※前日の晩 〜 三人寄れば… 〜

 それは昨日の夜のこと。プルKが本を読んでいると、暇なのかプルGが近寄ってきた。
「ね、何読んでんの?」
「絵本ですよ。ちょっと変わったのを見つけて…」
「絵本〜? お子様向けじゃないかさぁ」
 口ではそう言いつつもこちらの手の中を覗き込むG。Kは見やすいように少し本を傾けて見せた。
「……何コレ?」
 そこに描かれていたのは、白い三角形の頭を持った人型のキャラクターが踊り狂っている絵。


          おにぎりワッショイ!!
       \\  おにぎりワッショイ!! //
   +   + \\ おにぎりワッショイ!!/+
                            +
.     +   /■\  /■\  /■\  +
        ( ´∀`∩(´∀`∩)( ´∀`)
   +  (( (つ   ノ(つ  丿(つ  つ ))  +
         ヽ  ( ノ ( ヽノ  ) ) )
         (_)し' し(_)  (_)_)



「おにぎりワッショイだそうです」
「おにぎり…?」
「あれ、知りませんか? 塩で味付けしたご飯を三角形に固めたものです。中に具を入れたりもします」
「アムロから聞いたんだろ、それ」
「はい」
 特に隠すでもなく素直に答える。プルたちが施された学習プログラムにはそんな知識は含まれていなかったし、それに…
「…食べたことはありませんけど」
「そりゃそーだ。そもそもお米なんてもう随分ゴブサタだからねぇ」

460 名前:ここにないもの、そこにあるもの(4/12) :04/01/25 08:26 ID:???
 そう。今このアクシズの台所には米が無い。
 目覚めたばかりの頃には確かにあったのだ。
 最初の探索でかなりの量の備蓄米を発見したアムロとシャアはこれを食べて餓死をまぬがれたし、
解凍されたプルたちも食事ができるくらいに回復してからは毎日のように白いご飯をたいらげていた。

 だが、それがいけなかった。

 文字通りの欠食児童が12人。ただでさえ育ち盛りの肉体に足りない栄養を摂取させるために
脳が強いた空腹感は宇宙嵐のごとき激しさで、瞬く間に米びつが空になってしまったのだ(比喩表現)。
 そしてプルたちの体力が元通りになった頃には食料不足が皆の生死に関わるほどに深刻化していた。
 アムロが冷凍睡眠装置をもう一度使おうとしたのも無理のないことだったろう。
 あの大量のレーションが発見されなければ今ごろアクシズ産の干物が14枚できあがっていたところだ。
 まぁ結果として当座の食料は確保できたし、農耕プラントも順調に稼働している。
 何か大きなトラブルでもない限りはあの頃のような悲惨な状況にはならないだろう。


 …ところがしかし。 どういうわけか米や調理済みライスのたぐいはさっぱり見つからなかったのだ。
 無いものはどうしようもない。これもまた事実だった。

461 名前:ここにないもの、そこにあるもの(5/12) :04/01/25 08:27 ID:???
「おにぎりか…なんか話してたら食べてみたくなってきちゃったな」
「私もです。でもアムロに言ってもこればかりはどうしようも…」
「うーん。どこかに残ってないか俺たちで探しに行っちゃおうか?」
「私たちで探せる範囲を考えるとあまり期待できないんじゃないでしょうか」
 アムロのようにνガンダムで探索に行けるわけでもなし。かといって歩いて行ける範囲はもう何度も探索し、漁り尽くしていた。
 誰も口には出さないが、食料と衣料品だけは絶対に見逃さないという自信があった。プルだから。

「…何か代用品は」
 背後からそう提案が出る。しかしGは首をひねって、
「米の代用品〜? 今あるモノでできるかなぁ。俺はちょっと思い付かないけど」
「…私も」
「パンを握ってみるとか。でも何か違うなー」
「…安易すぎ…」
「だよなぁ………ってうわぁっ!?」
 どしーん! と、ちょっと人には聞かせたくない重量感のある音を立ててイスからひっくり返る。
「Eィッ!? いつからそこにいたっ!」
「…最初から」
「…最初からそこにいましたよ?」
 そう答える二人の声がハモる。ずっと部屋の反対側にいたのだが、静かにしていたのでGは気付かなかったのだ。
 ちなみに彼女は目を閉じて瞑想していたらしい(寝てたんじゃ? というGのツッコミは無視された)。

462 名前:ここにないもの、そこにあるもの(6/12) :04/01/25 08:28 ID:???
「でもさ、何でこいつらはおにぎりを被って踊ってるんだ? 早く食べればいいのに」
 改めて絵本に視線を戻したGの疑問に、Kは半眼で答える。
「こういうキャラクターなんですよ。何も人間がおにぎり被って踊ってるわけじゃありません」
「…それはそれで」
「え?」
「………」
「えーっと…」
 相変わらず無口なEを理解するのはひとまず諦めて、枕元からスケッチブックを取りペンを滑らせるK。
 EとGは絵本からそっちに目を移す。だが、恥ずかしいのかKはスケッチブックを傾けて手元を隠してしまった。
「何描いてるのさ?」
「想像図です」
「へぇ。想像図?」
「Gの考えてる通りにしたら…」
 手は止めずにつぶやく。その手の動きはゆっくりしているように見えるが、一度も止まらない。
 と、
「こんな感じになってしまうでしょ?」
 描いていたものが完成したらしく、その動きがぴたりと止まった。
 そこをすかさずEが覗き込む(気になってたらしい)。

463 名前:ここにないもの、そこにあるもの(7/12) :04/01/25 09:01 ID:???
 その瞬間、Gはとても珍しいものを見た。
「ぷっ!」
「E?」
「んっ…、く、くくくっ……ぅくっ…!」
 プルEが笑ったのだ。薄く微笑む程度なら今までにも見たことがあるが、声を出して笑うところを見たのは初めてだ。
 手で口を覆い必死でこらえようとはしているのだが、抑えきれずに吹き出してしまっている。
(な、何事さ?)
 真面目に仕事をするシャアよりもレアなものを見てしまったGは、急いでスケッチブックを覗き込んだ。

 まっさらな白い世界の上に繊細なタッチで描かれたもの…それは。

「な ん じゃ こりゃあああああああ!!!」
「耳元で大きな声を出さないで下さいっ!」
 部屋の隅で震えている(笑ったきり顔が元に戻らないらしい)Eと、耳を押さえてくらくらしているKを尻目に
Gはそこに描かれた絵を凝視したまま固まっていた………


          スパムワッショイ!!
       \\   スパムワッショイ!! //
   +   + \\  スパムワッショイ!!/+
                            +
.     +   /■\  /G\  /■\  +
        ヾ  ゚ー゚ ∩ (’ー’‖ ヾ  ▼∀▼)ヨウジョ ワショーイ
   +  (( (つ   ノ(つ  丿(つ  つ ))  +
         ヽ  ( ノ ( ヽノ  ) ) )
         (_)し' し(_)  (_)_)

464 名前:ここにないもの、そこにあるもの(8/12) :04/01/25 09:02 ID:???
※夜、薄暗い部屋の片隅で 〜 赤い蓑虫のシャア 〜

     ||
   ⌒||⌒ヽ
  ιミ ||  ι)
  (▼ソ || ミ丿   ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。
   ミ≡≡≡j
   ミ≡≡≡j
   ミ≡≡≡j
   ヽ)ヽ)

(いつも思うことだが…今の生活の中で一番他人に見せられん姿というのは間違いなく今のこれだな)
ぶーらぶーら
(誰か降ろして…は、くれんか。今さらそれを期待するというのも滑稽な話だ)
ぶーらぶーら
(ところで、さっきプルGが私の頭に乗せていった白い三角帽子のようなものは何なのだろうか?)
くるくる…
(それにワショーだかワショーイだか…あれは何の掛け声だ?)
…くるくるくる…
(プルEでさえこれを乗せた私を見て吹き出していたが…分からんな、年頃の娘というものは)
……びよよ〜〜〜ん……
(まあいい。明日それとなく聞いてみるさ)
ぶら〜り…
(しかし…こんな体勢でも熟睡できるようになったのは喜ぶべきことなのだろうか………)

465 名前:ここにないもの、そこにあるもの(9/12) :04/01/25 09:03 ID:???
※夜、アムロの自室で 〜 ヤケ酒をあおりながら 〜

 航海日誌 宇宙世紀009X ×月○△日

・・・・・・・・・・・・・・・・・以上、今日の作業経過の報告を終わる。
 特に新しい問題が発生することもなく航海は順調に進んでいる。
 つまりは物資不足も相変わらずということだ。
 明日は主にνガンダムのバックパックの再調整を行う予定。
 各部スラスターとの調整が成功すれば、これまで侵入が困難だった狭い通路の探索も可能になるはずだ。
 状況を改善できるような発見を期待するのは楽観的に過ぎると分かってはいるが。

 なお、シャアが濡れたままシャワー室から出てきたプルAを見てハァハァしているのを発見。吊るす。
 朝食前に降ろすか朝食後に降ろすかは明日の朝の気分で決めよう。


(以下、追記)

 なぜか今日は一日中プルE、プルG、プルKの三人が俺を見るたびにクスクス笑っていた。
 短パン一丁だったわけじゃないし、何度も姿見で確認してみたが顔にススや油もついていなかった。おかしなところはどこにもなかったはずだ。
 悪意は感じられなかったので嫌われたり馬鹿にされているわけではないと思うが…。
 それともう一つ。何故かこの三人だけお昼の合成パンを握って固めてから食べていた。
 顔をしかめていたからやはりおいしくなかったようだが。何だったのだろう?

 人類の革新だのニュータイプだのといっても娘たちの気持ち一つわからないのだからお笑いだ。
 俺が本当に親の代わりを務められているのか、不安になるのはこういう時だ。

 明日もまた忙しくなる。プルたちの部屋を見回ったら眠ることにする。

466 名前:ここにないもの、そこにあるもの(10/12) :04/01/25 09:04 ID:???
※夜、プルたちの寝室で 〜 みんなの… 〜

「はぁー。なんか疲れちゃったな、今日は」
 そう言ってぐったりと寝転がるG。四肢を投げ出して大きな伸びをする。
「だらしないですよ、G」
「オマエモナー」
「………」
 一応たしなめはしたが、当のKも似たようなものだった。Eも微妙に目がタレている。
「アムロとシャアを見るたびに笑っちゃうからなー。こらえるのが大変だったよ」
「笑うのって疲れるんですね…思い知りました。それにしてもアムロとシャアには悪いことしちゃいましたね」
 結局今日は顔を見ただけで笑ってしまうような状態で、物凄く失礼な態度になってしまったと思う。
 それでもアムロとシャアの顔を思い出すだけでまた顔がひきつってきてしまうのだ。
「ああもう、また顔が」
 Kが思い出し笑いをこらえていると、その肩をEがちょいちょいとつついた。
「はい?」
「……………」
 無言で指をさすその先には、Kのスケッチブック。
「これが何か?」
「………」

467 名前:ここにないもの、そこにあるもの(11/12) :04/01/25 09:05 ID:???
 聞いてみてもそれ以上何も答えないE。すると寝転がっていたGがニヤニヤしながら、
「案外ニブいなぁ。Eはさ、Kの描いたあれが欲しいって言ってるんだよ」
「あれって…え!?」
 これですか、とおにぎりアムロ&シャア&プルGの描かれたページを開くと、Eはこくんとうなずいた。
「でっ…、でもこんなの軽く描いただけですよ? そんな大したものじゃありません!」
「……それがいい」
「Kの絵が気に入ったって素直に言えばいいのにさ?」
「私の絵…そんなに気に入ってくれたんですか?」
 Eは少しだけ頬を赤くして、小さな声でつぶやく。
「Kが…アムロと、シャアと、Gを描いたのがいい」
 そう言われたKは、心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべて、Eをぎゅっと抱き締めた。
「それじゃ、今度はみんな一緒の絵を描いてあげますね」
 Eは少しびっくりしたようだったが、そのまま幸せそうに目を伏せた。
「俺のとこだけは塗り潰しちまってもいいけどな? こっぱずかしいからよ」
 そんなことを言いながらGは二人に笑いかけ、そしてEの髪をそっと指で梳いた。


 そんな部屋の中の様子を見ていた人影が一つ。そっとドアを閉じて離れていった。

468 名前:ここにないもの、そこにあるもの(12/12) :04/01/25 09:06 ID:???
「あぁ…ララァ、見ているかい? クェス、君がここにいたらどんな顔で笑っていたのだろう」
 アムロは一人夜のアクシズを歩いている。
「マチルダさん。貴女もウッディー大尉と子供たちに囲まれた家庭を夢見ていたんですか?」
 かつて仲間達の声に導かれた時のように笑いながら。
「ベル。ベルトーチカ。僕はやっと家族を持つ喜びを知った気がするよ」
 明かりの落ちた通路をまっすぐに歩いてゆく。
「ブライト。凄いだろう? 俺は12人も娘ができたんだぜ。お前はチェーミン一人にだって手を焼いていたのにな」
 その足取りは確かなものに支えられていた。
「きっと俺もうんざりするほど手を焼かされるんだろうな……こんなに嬉しいことはない」
 アクシズは淡い輝きに包まれながら、今夜も宇宙を静かに流れていく。

494 名前:逆転の代償(1/2) :04/01/28 00:12 ID:???
シャアがアクシズよろしく俺に拳を落とした次の日。
未だ腫れの引かない顔のまま、俺はプルCを探していた。
無論、昨日の自分の行為を謝罪するためだ。
自分のデリカシーの無さに苦笑しながらも、
娘の成長を実感した父親のような気持ちになっている。

「見当たらないな。どこだろう。」
いつも裁縫している部屋を探してみたり、
もしかしたら自分の部屋にいるのだろうかとも思ったがいなかった。
アクシズの昼下がり。
基本的にみんなそれぞれの仕事があるのだが、
その仕事が終われば学校の昼休みさながらの自由時間になる。
俺は家事を終えたあとはいつも昼寝に時間を当てている。
プチモビで廃材を運んでいるプルBとプルGや、
仕事を終えたのかハロと遊んでいるプルAとプルLたちを
横目に見ながら、どこだろうかとアクシズを彷徨う。

「そうだ。シャアにでも聞いてみるか。」

シャアはプルたちの事を良く知っている。
何故か?はさておき、その事については俺も一目置いている。
あれでまともならば、いい父親になれるんだろうな。
そう思いながら、シャアが作業している農耕プラントに足を運ぶ。

プラントの入り口に人が立っているのを見つけた。
探していたプルCだ。
しかし、今日は確かプルCは農耕プラントの当番ではない筈だ。
不思議に思い、俺は声をかけるのをやめ、少し様子を見る事にした。
少し距離を開けてプルCの後を追った。

495 名前:逆転の代償(2/2) :04/01/28 00:13 ID:???
「どうした?プルC?」
畑の中で雑草を取っていたシャアがタオルで汗を拭きながらプルCの側にやってくる。
「……。」
プルCは何も言わない。
俺がプラントに入ってきた時、シャアとプルCが対峙していた。
静かに入ったからか、二人は俺に気付いていないようだ。
「何かあったのか…?まさか!アムロに何かされたのか!?」
シャアが心外にも程があるセリフをほざいた。
思わず叫びそうになったが、その後の思いがけない出来事に、
俺は寸前のところで声を飲み込んだ。

「アムロをいじめないで!!」

今にも泣きそうな顔をしながら、そう叫び、
シャアのすねを思いっきり蹴ったのだ。
声にならない叫びをあげながらうずくまる赤ジャージ。
さっと身を翻し、駆け出していくプルC。
目を閉じていたからか俺には気付かなかった。
俺は見えなくなるまでプルCの背中を見ていた。
見えなくなった頃プラント内に視線を戻すと、
膝を抱えて苦悶の表情を浮かべているシャアと、
心配そうな顔でプルJとプルIがシャアを囲んでいた。
プルCに庇われるなんてな。
ふとおかしくなって笑みをこぼした。
「だそうだ。シャア。」
自分を庇う少女に蹴られた哀れな男に声をかける。
「くっ…。いくら裁縫ばかりやっているプルCと言えど、
 あの脚力はバカにならんぞ…。」
ジャージを捲り上げ、青染みになったそこを
プルJが持ってきた濡れタオルを当てて冷やしている。
「しかし、確かにやりすぎたな。すまない。アムロ。」
「驚いたな。まさかお前が謝ってくるなんて思いもしなかった。」
プルIとプルJの間に割って入ってシャアの隣に腰を下ろす。
二人には救急箱を取ってくるように言い、席を外して貰った。

「下手に立場を逆にするものではないな。何が起こるか分からん。
 どうやら私はお前に殴られるのがここでの役回りらしい。」
シャアが体を起こしながら呟いた。
「殴る俺が言うのも変な話だが…、大変な役目だな。」
「それで彼女らが幸せならばな。私は道化にだってなれるさ。」
「そうかもな…。」
「そして、彼女らの幸せが我々の幸せだ。そうだろう?」
俺は無言で頷いた。
以前、ダメ親父を演じる事でプル達に現実を見せるとか言っていたな。
今思えば、シャアが本気を出せばああも簡単に殴れはしないだろう。
「プルCの気持ちは大事にしてやるのだな。まだ自覚はしていないようだが。」
唐突に核心に触れる。
「どうだろうな。」
俺は曖昧な返事を返してお茶に濁した。
シャアもそれ以上は何も言わなかった。
しばらくして、プルIとプルJが救急箱を抱えて帰ってきた。
俺はシャアの代わりに農作業をしてやる事にした。

そして、夕食後にプルCにすまないと告げた。
プルCは気にしないでと首をプルプルと振った。
微笑むプルCの頭を軽くなでた。
きっと今は、これで充分だろう。

501 名前:甘えッ子(1/5) :04/01/28 01:37 ID:???
どうしよう。これは一大事だ。
と、プルEは顔に出さずに思った。

目の前ではプルLが大泣きし、その隣でプルDが脚のちぎれた"お父さん"をもって呆然としている。

ちぎったのはプルDだが、いくら豪快な彼女とてそこまでするつもりはなかった。。
お調子者のプルDが、ふざけて"お父さん"を中にプルLと揉み合ってるうち、ついつい度が過ぎてしまったのだ。
アクシズでは毎日何かしらハプニングとサプライズの絶えない日々が続いているが、これは、よろしくない。
誰かが本当に大切にしているものを、ふざけて壊してしまうだなんて。お互い助け合って生き延びている彼女らにとって、そんな酷い事は滅多にない。
ましてや相手は傷つきやすいプルLなのだ。
事の顛末を眺めていたプルEにはプルDに悪気が無かった事はわかるが、彼女が調子に乗りすぎた事もまたわかる。
プルDは恐る恐る泣き止まないプルLに声をかけようとしたが、プルLから伝わる悲しみや驚きが大きすぎて、何と言葉をかけてよいかわからない様子だった。
そうするうちに、プルLは泣きながら部屋に篭ってしまった。
プルDは"お父さん"を持ったまま呆然と立ち尽くしている。
何も出来なかったのは、プルEも同じだった。

502 名前:甘えッ子(2/5) :04/01/28 01:39 ID:???
"お父さん"を直さなくっちゃ、それで、プルDとプルLも仲直りするんだ。
「…アムロに直してもらおう」
ぽつりとプルEが言うと、ようやくプルDが動き出した。
「えっ?」
「…お父さん…直すの…」
プルDは手の中の無残な"お父さん"を見下ろす。なんて事をしてしまったんだろう。
「………」
無言でプルEが袖を引っ張る。しかし、プルDは動かなかった。
「駄目だよ」
「……?」
「だって私が壊したんだもん…」
「だから、アムロに…」
「私が壊したから…」
プルDは"お父さん"を見下ろしたまま、プルEを見ない。
「私、酷い子だと思われるよおぉ」
言葉とともに、崩れるように嗚咽がこぼれだした。
なんて事をしてしまったんだろう。

503 名前:甘えッ子(3/5) :04/01/28 01:40 ID:???
プルたちはアムロとシャアが好きだ。
今まで何人もの姉妹がいながら一人ぼっちだったプルシリーズは、彼らのおかげで家族になった。
嫌われたくない、当然だ。
もっと構って欲しい、その気持ちはよくわかる。
プルEは12人の中で、一番その気持ちが強い娘だから。
無口無表情のせいで周囲にはわかりにくいが、それは単なるネオジオン時代の教育の結果に過ぎない。
他の姉妹が構われてるのを見れば同じように構ってもらいにいくし、ほんのちょっとのかすり傷をこれ幸いとアムロに差し出しにいくのも御馴染みの事。
もちろん、勘のいいアムロは笑って優しく手当てしてくれる。
シャアはとなると多少抜けていて、例えば彼女が右の親指をちょっとドアに挟んでしまったときの話。
怪我というまでではなく「ちぇっ」と舌打ちする程度の災難で済んだのだが、紳士であるシャアはプルEの右手を優雅に取って、「痛いの飛んでいけ」とおまじないまでかけてくれ

た。(彼は、このとき幼き日の妹との触れ合いを思い出していたかもしれない)
顔には出さずとも喜んだプルEは、当然左の手もシャアに差し出した。
だが、悲しいかな相手にその意図は伝わらず、奇妙な間をおいてから、シャアは左手を出し返しガッチリと握手を交わした。
「………………。」
更なるおまじないを期待していたプルEはがっかりして(やはり無表情で)シャアを見上げたが、彼の目も困惑していたので少々悪い事をした気分にすらなった。
ちなみに物足りなかったプルEは、それからわざわざアムロのところに行って、右手も左手も大きな手でさすってもらってやっと満足したものだ。
やはりアムロはわかってくれる、と後日プルHに話したら、「それはシャアにしては上出来」との客観的評価を頂いた。
(それで少し反省したプルEが、後にアムロの鉄拳制裁を喰らった際のシャアにおまじないを返してやり、シャアがいたく感激していたというのは、また別の話)

もっと甘えたい。ずっと一緒にいたい。
いい子だって、あの暖かい手をもらって、私たちを好きでいて欲しいのだ。
悪い子だと思われたら、耐えられない。
プルDの気持ちは、プルEにはよくわかる。

504 名前:甘えッ子(4/5) :04/01/28 01:42 ID:???
「……プルC」
泣き続けるプルDに、あきらめず声をかける。
「う、ひっく…うぅ?」
「プルC……お裁縫、するから…」
「あ…」
プルEはプルDの手を引いて駆け出した。
早く、早く、"お父さん"を直さなければ。二人が、泣き止んでくれるのならば。
プルCだってアムロにもシャアにも内緒にしてくれるはずだ。
彼女にも、プルDの気持ちは痛いほどわかるだろうから。
男勝りでお転婆なプルDが、この強く健やかな私たちの姉妹ですらが、こんな風に泣いてしまう理由があることをきっとわかるから。
「プルEは、優しいよね」
走りながらプルDが声をかける。
「………そうかしら」
お互いぶっきらぼうな声なのは、何故だろう。
「…うん。やっぱり、プルEは優しいよ」
「………」
振り向かなくても、声に力がこもったのがわかる。きっとプルDはもう泣きやむのだろう。
「ありがとう」
つないだ姉妹の手は、暖かかった。

505 名前:甘えッ子(5/5) :04/01/28 01:43 ID:???
その晩プルEは夢をみた。
彼女は赤ん坊で、その夢の中で生まれてはじめて目を開けたところだった。
優しげな女の人が、満面の笑顔で自分を覗き込んでいた。
( お か あ さ ん  )
その人は、自分と姉妹全員の顔をあわせて大人にしたような顔をしていた。
何か心地よい会話を交わしながら、その人は赤ん坊のプルEを、ベッド脇にいるシャアとアムロにも見せた。
三人ともプルEと目が合うだけで、とても嬉しそうにして、「かわいい」とか「いい子だ」とか幸せな言葉をかけてくれた。
たまらなくなって、「ありがとう、ありがとう」と思いながら三人それぞれに笑って(だって赤ん坊では言葉が話せない)返す。
すると、みんなますます嬉しそうにしてくれて、彼らは本当に自分のことを待っていたのだとわかった。

目覚めてからも、朝食の席につけば夢と同じ顔がプルEを取り囲んでいた。
夢と同じく、笑いながら「おはよう」と挨拶をし、「いただきます」と幸せな言葉を交わしあった。

506 名前:甘えッ子(後日談) :04/01/28 01:43 ID:???
<以下日記より抜粋>

(署名なし)
ごめんなさい。

(プルL)
"お父さん"はお洋服着て戻ってきました。
フリルのついた可愛いので、アムロが縫ったのじゃありません。
それで、お洋服をめくるとちぎれた足が元に戻っていました。
お洋服のよりずっとでこぼこした縫い目でした。
"お父さん"を受け取ったとき、プルDの指にいっぱいばんそうこうが貼ってあって、私はまた泣きそうになりました。
泣きそうになったのは、悲しいのでも怖いのでもないと思います。
わたしもごめんね。

(プルC)
私はいらないと思ったのだけど、プル…彼女がどうしても恥ずかしいからって、"お父さん"にかぶせる服も作って欲しいと言われたのよ。
だから、このことだけは日記に書いちゃいます。
恥ずかしくなんて、ないのにね。

513 名前:漂流家族アクシズ外伝・1――亡霊のブルー――(1/10) :04/01/28 23:20 ID:???
その日プルBが発見したのは、ごく小規模な研究施設と思しき場所だった。
何故そのように判断したのかといえば、複数の端末と旧式のサーバーと思われる大型コンピュータの残骸が漂っ
ていたからだ。
――アムロに教えれば、喜ぶかもしれないな。
ほんの一瞬そう思うが、プルBは自身の考えに肩をすくめ軽くかぶりを振った。
その場所、そこにあるものは、あまりに無残に破壊されていて、有用そうなパーツを見つけることはとても叶い
そうになかったからだ。
それでも、アムロなら目聡く役に立つものを見つけ出すのかもしれないが。
とりあえず、教えるだけ教えて判断は任せるとしよう。
そう結論付けて、プルBは踵を返す。
最近シミュレーターでの模擬戦にかかりきりで探索から遠ざかっていたツケか、今回の散歩では特にめぼしいも
のは発見出来なかった。
――骨折り損、かな? まあ、いいか。
もとより、アムロやシャアが物資や安全を求めて行う計画的な探索とはわけが違う。
プルBが時折一人で出歩くのは、あくまで彼女の趣向であり、確たる成果が求められる類のものではない。
だから、プルBは別段気落ちすることもなく、そろそろ戻るか、などと考えていた。
と、足を踏み出そうとした時、廃墟の片隅に浮かぶ一枚のデータディスクが彼女の目に留まった。
「なんだ?」
僅かに興味を惹かれ、ディスクを拾うプルB。
古い形のデータディスクだ。幸い、アクシズにある機械自体も旧式のものが多いため、フォーマットさえ適合し
ていれば読み取ることは出来るだろうが。
蒼い樹脂製のケースに収まり、ラベルには、ただ一文字『E』とだけ記されていた。
「Eの持ち物だったりしてな」
ほぼ絶対にありえないであろう予測を口にして苦笑する。
邪魔になるものでなし、とりあえず持ち帰って中を覗いてみるか。
そう思い、プルBはディスクを腰に巻き付けたポシェットに捻じ込んで帰路についた。

生活圏に戻ってきたプルBは、その足でシミュレーター・ルームに向かった。
入手したディスクに適合した再生ユニットが置いてある場所として、真っ先に思いついたのがそこだったからだ。
シミュレーターという名のゲームは今日も人気のようで、そこには先客がいてわいわいと騒いでいた。
「やっぱ、νガンダムだよ。サザビーとは違うよ、サザビーとは」
いったい何の話題だったのか、プルAが力説している。
そんなことを言われては、もちろんプルJが黙っていない。
「何! サザビーは、いい機体だぞ」
親シャア派筆頭の反応は、いつも通りといえばいつも通り。
これに対し、先頃同派次席に就任したプルIの反応は、いささか複雑だ。
「まあ、使いこなせればこれほど強力なMSもあるまいが……さすがに、重MSの欠点は覆い難いな。プルJが
 シャアのザクに撃墜された例もある」
「そ、それは、その、大佐がすごいだけで……」
口篭もるプルJを放置して、プルGが何の気なしに言う。
「でもさ、もっとMSのデータ欲しいよな〜」
「……そう?」
プルEは首を捻ったが、プルAがプルGに同調する。
「色々使ってみたいよね〜。やっぱり、自分に合った機体ってあると思うし」
プルGが、うんうん、と頷く。
「そうそう。幾ら姉妹でも、ジュッパヒトゲルゲにされちゃイヤだよね」
「十把ひとからげ! それは、どこかの怪人か」
微妙なツラでこめかみのあたりを押さえつつ、プルGの言葉を訂正するプルI。
と、そこでようやく彼女がプルBに気付いた。
ついでに、彼女が手にした蒼いディスクに。

514 名前:漂流家族アクシズ外伝・1――亡霊のブルー――(2/10) :04/01/28 23:21 ID:???
「どこに雲隠れしていた、プルB? それに、そのディスクは?」
尋ねるプルIに、プルBは肩をすくめてみせつつディスクを差し出しす。
この手のものの扱いなら、アムロやシャアは別格として、姉妹の中ではプルIに任せるのが一番早くて確実だ。
「拾ったんだ。中身が何かは、調べてみてくれ」
ふむ、と頷いてディスクを眺めるプルI。
「ラベルには『E』としか書いていないな……プルEの持ち物か?」
図らずもプルBと同じことを考えて一応訊くが、プルEは無言でふるふるとかぶりを振る。
「まあ、見てみればわかるか」
そう言って、プルIはシミュレーターの監視端末に陣取り、ディスクを再生ユニットに挿入して、軽やかな手つ
きでコンソールを叩く。
「圧縮されているな。展開容量が足りればいいが」
ぞろぞろ付き従うギャラリーが興味深そうに見守る中、データがサーバー上に展開される。
そして、プルIはあまりにタイムリーな解析結果に苦笑した。
「MSのシミュレートデータだな。恐らくこのマシンでも使えるだろう」
一部から、歓声が上がる。
「やった! お手柄だぜ、B」
プルBが迷惑そうにするのも構わず彼女に飛びついて頭を撫でまわすプルG。
「ねえねえ、早くインストールしようよ!」
急かすプルAに苦笑して、プルIはデータをアップロードする。
「ブルー・ディスティニー? 聞いたことのないMSだな」
僅かに顔をしかめ、首を捻るプルI。
「どこの機体?」
問うプルJに、プルIは軽く唸りつつ答える。
「RXナンバーだから、連邦の機体とは思うが。隣には、MS−08TXなどという機体も登録されている。聞
 き覚えがないが、これはジオンの機体だろう。試作機か、特殊機かもしれんな」
「実機なのか? 計画だけの、幻の機体とかかもしれないな」
腕組みしつつ訊くプルBに、プルIは半信半疑という面持ちで、しかし首は横に振った。
「それにしては、データが詳細だ。容量を見る限りはな。νガンダムやサザビーほどではないが、ガザCなどの
 データよりよほど大きい。制御用に独自のシェルを持っていたようだから、あるいはサイコミュなどの特殊な
 装備を備えているのかもしれん」
プルIの解説を聞きつつ、プルBは半ば感心し半ば呆れているといった調子で溜息をついた。
「よくわかるな。正直、ついていけないよ」
奢るでもなく謙遜するでもなく、プルIは軽く肩をすくめる。
「概要だけだ。中身までは、知らん……接続、終わったぞ。これで新機種が使えるはずだ。まあ、ナンバーから
 考えて古い機体だろうが」
「よっしゃ! やろうぜ、E!」
気の早いプルGが、プルEを誘いつつシミュレーターに向けて駆け出す。
「……私?」
首を傾げるプルE。
彼女は、それほどシミュレーター遊びに熱心な方ではない。
その割に、トーナメントでは何故か毎回上位に食い込むのだが。
今日も、単にプルGに付き合ってこの場にいただけで、プルE自身はシミュレーターに入る素振りすら見せてい
なかった。
彼女にすれば、当然プルGとは実力が拮抗している上にゲーム好きという点でも一致しているプルAあたりに声
が掛かるものとばかり思っていたのだ。
「だって」
プルGは、何故プルEなのか、という疑問に関して、実に簡潔にその理由を述べた。
「ラベルに『E』って書いてあったし」
そのどうしようもない発想に、プルB、プルJは微妙な表情を浮かべ、プルIに到ってはガックリとうなだれる。
もっとも。
「な〜るほど、それじゃ仕方ないや。んでも、次私ね!」
プルAは実に平然と納得していたが。
「じゃあ……」
別段断る理由もないので、プルEは空いているシミュレーターに潜り込んだ。

515 名前:漂流家族アクシズ外伝・1――亡霊のブルー――(3/10) :04/01/28 23:24 ID:???
ハッチを閉め、座席のサイドレストに収納されているコンソールを取り出す。
ポンポンと数度キーを叩き、機体選択メニューを呼び出すと、なるほど、確かに見慣れない機種が選択可能にな
っていた。
「……?」
小首を傾げつつ、せっかく新型が入ったのだから、と、適当にBD−1と表示されている機体を選ぶ。
実行、起動を選択してコンソールを収納。
それを合図にシート形状が微調整され、機体に合わせたスティックとペダル、スロットルバー等のインターフェ
ースが整えられ、計器類が全周囲モニターの前方に仮想表示されていく。
モニターは、前面のみを残し暗くなった。
後方、側面は小モニターがカバーしているようだが、とても充分とは言い難い。
プルIの予測通り相当古い機体。少なくとも、全周囲モニター普及以前のものということか。
フィールドは、監視端末から指定される。
今回は地上フィールド。見渡す限りの荒野が広がっていた。
環境とお気に入りMSの問題で宇宙フィールドでの対戦がほとんどなので、あまり馴染みのある場所ではない。
何故だろう、と疑問に思うが、回答は訊くまでもなくすぐに得られた。
プルEが選んだBD−1が地上専用機なのだ。
プルGの機体は、まだ現れていない。
慣れない機体だ。
とりあえず、相手の登場と同時に瞬殺はされないようにしないと、などと思いつつ、プルEは軽い緊張感を維持
するように努めて対戦の開始を待った。

「あれ? 消えた……」
プルGが機体選択メニューであれこれ悩んでいると、不意に新しく追加されたMS各機の表示が消えた。
「I! 新しいのが消えちゃったよ!」
モニターから制御端末を呼び出す。
「ちょっと待て。確認する」
小モニター上に現れたプルIは、そう言って何やらコンソールをいじり回している。
待つこと数十秒、溜息をつきつつプルIが告げた。
「駄目だ、解析不能。シェルに、何か特殊な排他制限が掛けられているのではないかな? いずれにせよ、該当
 機は既にプルEが選択している。プルGは、今まであった機体の中から選ぶしかないな」
「えぇーー!」
プルIの解説に不平を漏らしつつも、やむを得ずプルGは代替機を選択する。
「んじゃ、やっぱνガンダムだよな!」
それを聞いたプルIは、恐らくはかなりの旧式と思われる機体相手に最新鋭の機体で相手をすることもないだろ
うに、などと思わないでもなかったが、二人の実力差を勘案すればそう絶望的な差でもないかもしれない、と考
え、とりあえず何も言わないことにした。
「じゃ、始めるぜ!」
「うむ。武運を祈る」
酷くぞんざいな感じに答えプルIが映っていた小モニターが消える。
広がる荒野。
そして、そこに立つものは――
「え? 蒼いGM?」
プルGは、我が目を疑った。
「どうしよ? νガンダムでGM相手なんて、イジメだよなぁ」
困った様子でポリポリと頭など掻きつつ呟くプルG。
だが事実は、そして事態は、彼女の想像を遥かに超えていた。

EXAM System Stand by ...

監視端末のライブ映像を見ていたプルBは、なんとなく、そんな合成音声が聞こえたような気がした。

516 名前:漂流家族アクシズ外伝・1――亡霊のブルー――(4/10) :04/01/28 23:27 ID:???
土煙を上げて、蒼いGMらしきモビルスーツが突進してくる。
パイロットであるプルEの性格からも、また、予測される機体の性能差から考えても、まさか無防備に向こうか
ら突っ込んでくるとは思わなかった。
「うわっ、ダイタンだな〜、Eってば」
プルGは、そのことを意外に思い、未だ迷いを感じつつも、これに対処すべくライフルを構える。
モニターの敵機情報をよくよく見れば、RX−79BD−1と表示されていた。
そういえば、プルIがRXナンバーだと言っていたか。
となれば、このMSはガンダムの系譜である。
実力の程はわからないが……そう遠慮することもないだろう。
それに、ザクに撃破されて大いに株を墜としたサザビーのごとき失態を、プルGはお気に入りのνガンダムに犯
させたくはなかった。
ビームライフルを両の手で構え、落ち着いて照準。
熱くなるとついつい慌てて片手持ちで乱射してしまう癖があるが、まだ大丈夫。
そして、落ち着いて射撃に集中している限り、νガンダムの性能とプルGの技量が導き出す射撃精度はGMモド
キごときに躱せるようなレベルではない。
はずだった。
トリガーを引き絞った瞬間、蒼い機体が盛大な土煙を巻き上げて急角度でプルGのνガンダムから向かって左に
ターン。
光条は、虚しく空を裂き彼方へと消えゆく。
「ちぇっ! ツイてない」
今のは、こちらの動きを察知して躱せるタイミングではなかったはずだ。
たまたま相手が針路を変えるタイミングと射撃のタイミングが重なってしまっただけ。
プルGはそう思い、今度は手早くBD−1をサイトに捉え、即座にビームを放つ。
が、今度は軽くバーニアを吹かし、ごく小さな跳躍で足下に銃撃を躱す。
「げっ、マジかよ! Eのやつ、やる!」
目を丸くしつつも第三射。
これは悠々躱され、BD−1はUターン。自らが巻き上げた土煙の中に消える。
「何だ?」
訝しく思っているところへ警告音。
即席の煙幕と化した土煙の中から、有線ミサイルが飛び出してくる。
プルGは、咄嗟に感覚を広げた。アムロ苦心の――一説には、シャア苦汁の――NT対応シミュレーターならで
はの、ニュータイプとしての感覚を用いた状況把握だ。
ひとつ、ふたつ、みっつ……都合四発のミサイルが、それぞれ意思ある生き物のように四方から迫る。
「えっ!?」
不意に、ゾクリ、と悪寒が走り、プルGは思わず身をすくめた。
広げた感覚が、プルEとは違う『何か』に触れたのだ。
圧倒的な、負のイメージ。
それが、奔流となってプルGの精神を押し流す。
「あ、あぁ……E、Eッ! 何だよ、これっ!?」
うわごとのように叫ぶうちにも、放たれたミサイルは宙を踊りプルGのνガンダムに群がる。
震える身体をどうにか叱咤し、シールドをかざして正面と上方からの二発を防ぐ。
が、さすがに対応が間に合わず、右手中段と左の足元からの二発をまともに食らってしまった。
もっとも、さすがにνガンダムの装甲強度はBD−1の武装威力とは比べ物にならず、被害は思ったより少ない。
しかし。
「嘘だろ!?」
プルGが、そう驚愕の言葉を漏らした時には、既にビームサーベルを手にしたBD−1が目前にあった。
自らが射出した有線ミサイルを追って、信じ難いスピードで突っ込んできたようだ。
「うわぁぁーーーーっ!」
慌ててサーベルを抜くが、間に合おうはずもない。
そして、高出力のジェネレーターが生み出す圧倒的な粒子圧で対象を圧し切る、という思想で開発されたビーム
サーベルの威力は、多少の装甲でどうこう出来るレベルのものではなかった。
「……っ!!」
最早声も出せずに固まるプルG。
直後、νガンダムはBD−1により胴を両断され、勝敗は決した。

517 名前:漂流家族アクシズ外伝・1――亡霊のブルー――(5/10) :04/01/28 23:28 ID:???
「馬鹿な……」
シートから腰を浮かせたプルIが、食い入るようにモニターを見つめて呆然と呟いた。
「これは……こんな機動は」
やはりモニターを凝視するプルJの言葉に、プルBが頷く。
「ああ。これじゃ、パイロットがもたない」
「でもさ」
プルAは、それほど深く考えている風でもなく、ごく軽い調子で言った。
「ゲームとして見れば、これってスゴくない? νガンダムが墜とされたのは、気に食わないけどさ」
プルIは、これがゲームではなく恐らくは実際に製造されたMSのデータなのだ、という点を指摘しようかとも
思ったが、それも無意味なことと思い止まる。
どのみちここにはブルー・ディスティニーは無いのだし、こんなパイロット殺しのMSはたぶん失敗作として片
付けられただろう、という予測もあった。今更何を言ったところで、詮のないことだ。
「どっちみち、こいつは使用禁止だな。同キャラ対戦無しでこの性能は、はっきり言って反則だ」
やれやれ、と首を振って言うプルBに、プルIが同意する。
「まったくだ。今回は、対戦する羽目になったプルGこそ気の毒、というところだな」
「違いない。……ところで、そのGとEは?」
プルBの問い掛けに、プルJは少し離れた位置にあるシミュレーター・ポッドの方に目を向けた。
「ハッチは開いてるみたいだけど」
位置的には、一段高いロフト状の場所に制御端末、その真下にシミュレーター本体にあたる処理サーバー群、そ
こから数メートル離れてふたつのポッドが向き合う、というような構造になっているため、制御端末からはシミ
ュレーター・ポッドの詳しい様子はわからない。
「よっぽどショックだったのかもな。νガンダムが墜とされたんじゃ、しょうがないだろうけど」
苦笑しつつそう言って、プルBはプルGが乗り込んだ方のシミュレーター・ポッドに向かった。
ポッドは、中に篭って連続使用しないように、という配慮から、一戦終わる度にハッチが強制開放される仕組み
になっている。一度ハッチが開くと、五分間は再使用が出来ない。その五分間で、使用メンバーの入替や対戦に
関する簡単なコミュニケーションが行われたりする。これらは、細かな配慮を怠らないアムロが付加した、本来
のシミュレーターには無い機能だ。
ともかく、プルJが言った通りポッドのハッチは既に開いており、まだ閉じることが出来ない状態である。
いつもなら、対戦終了と同時にポッドを飛び出し勝利を自慢したり敗北の言い訳をしたりと五月蝿いくらいに喋
りまくるプルGの姿は見えない。
「G。終わったのなら、さっさと出てこい」
呼び掛けてみるが、反応は無い。
さすがに怪訝に思いつつ、プルBはポッドの中を覗き込み再度声を掛ける。
「何をやってるんだ、G。対戦はとっくに……」
そこまで言って、プルBは言葉に詰まった。
あのプルGが、呆然とした顔で、肩を抱いて震えていたのだ。
「どうした? 大丈夫か?」
訊きながら、軽く身体を揺する。
プルGは、一度怯えるように身を退いてから、ようやくプルBに気付いた様子で目をしばたかせた。
「あ、あれ? 生きてる?」
それを聞いたプルBが、呆れたように嘆息する。
「シミュレーターで死ねるわけがあるか。まあ、あれだけ手酷くやられれば――」
プルBが何かしら言葉を連ねようとした時。
「みんな、来てくれ!」
プルBの言葉を遮るように、悲鳴のようなプルIの声が響いた。
「プルEが、大変だ!」

518 名前:漂流家族アクシズ外伝・1――亡霊のブルー――(6/10) :04/01/28 23:29 ID:???
未だショックから完全には立ち直れていない様子のプルGの手を引いて、向かいのポッドに移動したプルBが最
初に目にしたのは、ぐったりとしたプルEを抱きかかえるプルIの姿だった。
それを見て、プルGが弾かれたように駆け寄る。
「E! どうしたんだ、E!? おい、返事しろよっ!!」
喚き散らしつつプルEの身体を手荒く揺すろうとするプルG。
プルIが、そのプルGからプルEをガードしつつ怒鳴る。
「落ち着け! プルB、プルGを引き離せ!」
最早尋常の事態ではないと悟ったプルBは、プルIに言われた通りプルGを羽交い絞めにして引き離す。
「G、落ち着けって!」
「放せよっ! Eが、Eが……!」
プルBが暴れるプルGを必死に押さえていると、プルAとプルJが駆け寄ってきた。
「な、何があったの?」
「I、Eはいったい……?」
プルAの問いに、プルIは苦々しく顔を歪めながらかぶりを振る。
「わからん。一応、息はしているし、もちろん外傷も無い」
そこで唇を噛み、プルIは吐き出すように告げた。
「ただ、意識が無い。全く反応が無いんだ――症例としては、脳障害を起こした場合に酷似している」
プルIの言葉に、プルBが反駁する。
「馬鹿な。シミュレーションごときで、脳障害だって?」
「無いとは断言出来ん」
プルIは、自分に言い聞かせるように殊更抑揚を抑えて続けた。
「強烈な精神的衝撃が肉体に影響を及ぼすという事例も無いではない。それに、私たちと、私たちの使うシミュ
 レーターの特性を勘案すれば……」
「あ」
思い当たったプルBが呟く。
「NT用シミュレーター……サイコバックか」
「そう。サイコミュニケート・フィードバッカーが何らかの悪影響を及ぼした可能性は、否定出来ない」
頷きつつ言って、沈痛な面持ちで歯噛みするプルI。
「とにかく、大佐とアムロを呼んでくる!」
「行こう!」
プルJとプルAが、頷きあって部屋を駆け出していく。
その様子と、一向に大人しくなる様子の無いプルGを抑えるのに苦労しているプルB、そして腕の中で浅く規則
的な息をして眠っているかのようなプルEを見回しながら、プルIはひとつの疑問を思わずにはいられなかった。
プルEにトラブルが発生したのなら、何故あのモビルスーツは動き続けることが出来たのか。
νガンダム撃破と同時にプルEの意識が途切れた?
そんな都合のよい偶然を考慮するのは、もう少し検討を重ねた後でもいい。

519 名前:漂流家族アクシズ外伝・1――亡霊のブルー――(7/10) :04/01/28 23:30 ID:???
程なくして、プルAに連れられたアムロが駆け込んできた。
「何があった!?」
入ってくるなり、険しい表情で問うアムロ。
プルIはプルEを抱えたまま、緊張してはいるが静かな声で応じる。
「詳しい経緯は、シャアが来てから改めて。とにかく、プルEを診て欲しい。意識が戻らないんだ」
アムロは、頷いてプルEを挟みプルIの向かいに膝をつく。
上着を脱いで丸め即席の枕とし、プルIに倣い静かに指示を出す。
「ゆっくり、寝かせてくれ。出来るだけ揺らさないように」
プルI同様、アムロの頭にまず浮かんだのも、何らかの脳障害ではないか、という予測だった。
それならば、患者に振動を与えるなど言語道断である。
「アムロ! Eは、Eは大丈夫だよな!? なあ!」
言いつつアムロに詰め寄ろうとするプルGをどうにか引き止めながら、プルBが声を絞り出した。
「落ち着けって! 静かにしないと、診断の邪魔だろう。アムロを信じろよ」
そう諭されて、プルGは不承不承ではあるがようやく騒ぎ立てるのをやめ、代わりにプルIが横たえたプルEの
すぐそばに座り込み真剣な面持ちでアムロの診断を見守る。
他のメンバーも同じように注視する中、アムロはそんな周囲の様子を気に留める余裕も無くプルEの状態を確認
していった。
脈拍も呼吸も落ち着いたもの。瞳孔も正常。一見したところでは、眠っているだけのようにも見える。
アムロは、無言で爪を噛んだ。
軍事教練のひとつとして一定の応急処置に関する知識はある。
だが、彼は医者ではない。
正直言ってこれは自分の手には余る。
アムロの中の冷静な部分はそう判断を下し、しかし、他に頼る者とて無い状況で、自分があきらめるわけにはい
かない、とも思う。
その焦燥が、彼の悪癖となって表れる。
――シャアには、何かわかるだろうか?
そう考えた時、ちょうどプルJとシャア、それに話を聞きつけた他のみんなが転がり込むように入ってきた。
「アムロ、いったいどうしたのですか?」
「Eがヤバいって、ホントかよ!」
口々に不安やら説明を求める声やらを上げるプルたちを制し、シャアが訊く。
「どうなのだ、アムロ?」
アムロは、プルたちの手前どう説明したものか、と一瞬迷ったが、優れたニュータイプである彼女たちに下手な
隠し立ては出来ない、と判断し、正直にかぶりを振った。
「俺は医者じゃない。詳しいことは、さすがに……身体には、問題ないと思うんだが」
それを聞いたプルたちの間に、細波のように不安が広がっていく。
しかし、さすがに幾つもの修羅場を潜り抜けてきたシャアは落ち着いたもので、ふむ、とひとつ頷くと、自らも
プルEの前に跪き、アムロがしたのとほぼ同じ診察を行う。
「確かに。すやすやと眠っているようにしか見えんな」
その言葉でプルたちは少しだけ落ち着きを取り戻したが、逆にアムロは焦燥を募らせた。
シャアも、医療に関しては自分と同レベルであると判断せざるを得なかったからだ。
「それで、どうしてこんなことに? 詳しい経緯を聞けば、何かわかるかもしれん」
「私のせいだ」
シャアの問いに言葉に、プルBが噛み締めるように応じた。
「私が、あんなものを持ち込んだから……」
「よせ、プルB」
やはり後悔の念に耐えるような辛い声で、プルIが止める。
「それを言うなら、よく確認しなかった私にも責任がある。むしろ、得体の知れぬデータを安易にアップした、
 私こそ責められてしかるべきだ」

520 名前:漂流家族アクシズ外伝・1――亡霊のブルー――(8/10) :04/01/28 23:31 ID:???
「やめるんだ、二人とも。自分を責めても、どうにもならない」
嗜めるアムロの言葉に頷き、シャアが言葉を継いだ。
「そうだな。責任云々は、今問題ではない。何をしたか、何があったかを、詳しく説明してくれないか?」
頷いて、プルIが事情を説明する。
幾度か確認を織り交ぜながら、アムロとシャアはその内容を検討した。
聞き終わったアムロは、深い溜息をついて首を捻る。
「突発的な精神的ショックが原因か? ニュータイプ用のフィードバック・システムといっても、神経に負担を
 掛けるようなレベルの調整はしていないはずだが……」
これに対しシャアは、何か記憶を探るように考え込んでいたかと思うと、不意に監視端末の方に向かって歩き出
した。
「どうした、シャア?」
訝しむアムロに、シャアは振り向きもせずに答える。
「気になることがある。それを確認したくてな……プルI、来てくれ。問題のデータとやらを見たい」
要請に応じ、プルIがシャアの後を追う。
シャアが何をするつもりなのか気になったアムロとプルJも、その後ろに続いた。
プルIを席に着かせ、シャアはデータを呼び出すように促す。
そうしてモニターに浮かぶ文字を追い、眺めることしばし。
「これは……まさか、EXAM!」
唸るように、シャアはそう漏らした。
「エグザム?」
鸚鵡返しに訊くアムロに、シャアは苦りきった表情で頷く。
「ああ、そういうシステムがある。私も、嘘とも真とも知れん話に聞いただけだが」
「いったい何なんだ、それは?」
「……EXAMを産み出したのは、フラナガン機関だ」
アムロの問いに、シャアは一瞬言葉に迷ってから応じた。
「もっとも、完遂は出来なかったようだが。開発者のDr.モーゼスが連邦に亡命してな……ニタ研あたりで、
 噂ぐらいは聞かなかったか?」
かぶりを振って、アムロは答える。
「いや、聞き覚えがない。どんなシステムなんだ?」
「制御OSの一種だと聞いている。オールドタイプでも、ニュータイプと同等以上の戦闘能力を獲得出来る、と
 いう触れ込みだったな」
そこで一息つき、シャアは続けた。
「ここまでは、確かな話だ。そして、ここから先は情報として正確な裏が取れていない。その前提で聞いてくれ」
そう言うからには、シャアはEXAMについて調査したことがあるのだろう。
――まったく、この男は何にでも手を出す。
そう思い半ば呆れつつも、それが事態を打開するきっかけになるかもしれないと期待し、アムロはシャアの言葉
に耳を傾ける。
「EXAMは、当初まるで役に立たん失敗作だったらしい。が、あるきっかけで驚異的な性能を発現させたとい
 う。そのきっかけというのが……」
少々の躊躇いをにじませつつ、シャアは言った。
「あるニュータイプの少女が、EXAM研究中何らかの原因で意識不明に陥った事故だ」
その言葉で、場の空気が固まった。
張り詰める緊張に声のトーンを落として、恐る恐るプルJが訊く。
「そ、それで、どうなったんですか、大佐?」
シャアは溜息を漏らし、重々しい雰囲気を振り払うように芝居じみた仕草でかぶりを振った。
「詳細は、掴んでいない。だが、噂はある――その少女、マリオン・ウェルチは、EXAMを搭載したマシンの
 消滅と共に目覚めた」

521 名前:漂流家族アクシズ外伝・1――亡霊のブルー――(9/10) :04/01/28 23:33 ID:???
「それじゃあ……」
一縷の望みを託すような瞳で見つめるプルBに、シャアは釘を刺す。
「あくまで、噂だ。マリオンの魂がEXAMに縛られていたのかもしれない、というだけのな。多寡がプログラ
 ムに果たしてそれだけの力があるのか、また、人の精神が機械に乗り移るなどということがあるのか否か、疑
 わしい部分も多い」
そう言っておきながら、シャアはプルBが唇を噛むよりも早く、言葉を継いだ。
「だが、私はやってみるだけの価値はあると思っている。EXAM退治を、な」
不敵な笑みを浮かべ、そう語るシャア。
「具体的には? シミュレーターを壊せばよい、ということか?」
シャアは、プルIの質問に首をかしげる。
「それは、どうだろう? 破壊せねばならんのは、機械ではなくEXAMという概念だと、私は考えている」
「どういう意味だ、シャア?」
問い質すアムロに、シャアは答えた。
「魂は、人の想いというものは、モノよりも概念に近い。そうは思わないか、アムロ? ならば、打倒すべきは
 EXAMの入った器ではなく、EXAMという概念そのものだ」
さすがに、アムロもプルたちも眉をひそめる。
「どうやって?」
アムロの疑問に、シャアは軽く肩をすくめた。
「簡単なことだ。シミュレーターで、EXAMマシンを倒す。EXAMの価値を、私が否定する」
「そんな単純なことなのか?」
「さあな。実際のところは、私にもわからんよ。だが、噂であれ何であれ、EXAMが倒されマリオン・ウェル
 チが目覚めたという話があるのは事実だ。ならば、試してみる価値はある」
「このまま手をこまねいているよりはマシ、か……わかった。俺とお前でやろう」
「一年戦争の亡霊を相手に、私たち二人か。悪くはないが、少し卑怯な気がしないでもないな」
「バカ言え。Eの魂が懸かってるかもしれないんだ。やるんだったら、手を抜くわけにはいかんだろ?」
「確かに。では、万全を期すためサザビーとνガンダムをシミュレーターに繋いでくれ。お互い、実物の愛機を
 使った方が上手くやれるだろう」
「わかった。三十分待て」
そこまで話を進め、シャアは置いてけぼりにする形になっていたプルたちに向き直った。
「と、いうことだ。いずれにせよ、プルEの命に別状は無い。みんな、安心しろ、というのは無理かもしれんが、
 あまり深刻にならずに我々を信じて欲しい」
諭すように言ってこの場を締めようとするシャアに、プルJが声を掛けた。
「待って下さい、大佐! それなら、私とプルIを同行させて下さい。大佐たちの機体をリンクするなら、シミ
 ュレーターもふたつ空きます。大佐の技量はわかっていますが、私たちでも弾除けぐらいには……」
まくし立てるプルJを、プルBが遮る。
「待て。それなら、お前ではなく私が行くべきだ。言ってはなんだが、シミュレーターでの戦績では私の方が上
 だし、この件に関しては責任もある」
「オレを……」
そのプルBを更に遮るようにボソリと呟いて、プルGが叫んだ。
「オレを連れてってくれよ、シャア! Eが大変なんだよ! それにオレ、Eとやってる時に感じたんだ。すげ
 ぇ気持ち悪い何か。Eのヤツ、一人であんなのに捕まって、今頃泣いてるに決まってるよ! オレが、オレが
 行ってやらなきゃ……」
「やめろ、みんな!」
口々に、あるいは口にせずとも、随伴を希望するプルたちに、アムロは珍しく怒鳴り声を上げた。
「いつものシミュレーター・ゲームとは違う。遊びじゃないんだ!」
「重々承知している」
そのアムロの剣幕に一歩も退かず、真正面から彼を見据えて堂々と反論したのはプルIだ。
「それでも、いや、だからこそ、我々は共に行くことを希望するのだ。力及ばぬというだけの理由で姉妹の危機
 に何もせぬようで、何の絆か」
さすがのアムロも激昂しようかという直前で、シャアが無言で二人の間に割って入る。
アムロが自分を抑え、プルIが半歩退くのを待ってから、シャアはおもむろに口を開いた。
「わかった。同行を許可しよう」

522 名前:漂流家族アクシズ外伝・1――亡霊のブルー――(10/10) :04/01/28 23:35 ID:???
「シャア! 貴様……!」
半ば絶句して怒りの矛先をシャアに向けるアムロを無視して、シャアは続ける。
「但し、私とアムロの命令には従ってもらう。また、メンバーは私たちの側で決めさせてもらう。それでいいか
 な?」
姉妹を代表し、プルIが頷く。
「妥当な指示だ。無論、承知した……感謝する、シャア」
「待て! 俺は……」
「アムロ、とにかく当面の作業を急ぐぞ。みんなは、プルEを医務室へ。その後は、ここで待機しているんだ」
食い下がるアムロをヘッドロックの体勢に捕らえて黙らせ、シャアはそれだけ指示を与えてアムロをMSデッキ
へ強引に引っ張っていった。

「どういうつもりだ、シャア!」
MSデッキでようやく解放されたアムロは、烈火のごとき怒りを瞳に湛えつつ問い質した。
「頭を冷やせ、アムロ。今成すべきは、彼女たちを止めることではないはずだ」
「そういうわけにいくか! これは、ゲームにしては……」
食い下がるアムロに、シャアは澄ました顔で応じる。
「ああ。実戦に近い。特に、ニュータイプにとってEXAMの悪意に触れることは、下手な実戦よりも危険かも
 しれんな」
「そこまでわかっていて、貴様は……!」
絶句するアムロ。
そのアムロに、シャアは静かに語り掛けた。
「アムロ。確かに、戦いは悪だ。人殺しを首肯するつもりはない。彼女たちには、出来れば戦いなど知らずに生
 きて欲しいと心から思うよ。しかしな」
一拍おいて、シャアは赤い彗星と恐れられた、あるいは総帥と呼ばれた当時の、強い意志の光を湛えた瞳でアム
ロを見据えて続ける。
「人は、時としてそれを必要とする。善悪の問題と、要不要の問題を同一のベクトルで語るのは愚かしい。善な
 ら、常に必要か? 悪なら、全て不要か? そうではあるまい。無用な善きこともあれば、必要とされるもの
 が悪に属する場合もある。本当の問題は、その時々、その状況において、何故、と考えることが出来ないこと
 だ。善という規範、悪という規定に安心し、自ら考えることをやめてしまう。そんな連中が、地球をああした」
「それで、アクシズ落としか? それが、貴様のエゴだと言っている!」
「否定はしない。だが、それでも私は思うのだよ。彼女たちを、必要な時に必要なことが出来ない、そんな人間
 にはしたくないと」
「話をすり替えるな!」
「すり替えてなどいないよ。彼女たちが望むのだ。しかも、その想いは間違いではない。ならば、彼女たちの望
 むようにするしかなかろう」
「今回は、危険過ぎる。Gだって、全くの素人ってわけじゃない。そのGが、成す術も無く撃墜された相手だぞ。
 しかも、よくはわからないがEXAMはニュータイプに酷く悪影響を及ぼすようなのに……あの子たちをむざ
 むざ危険に晒してどうする!」
「では、貴様が止めてみせろ! 彼女たちの心を! 貴様にその力と権利があるのなら、やってみせろアムロ・
 レイ!」
しばし無言で睨み合う二人。
ややあって、噛み潰すようにアムロが呟いた。
「やっぱり、お前とは一生分かり合えないのかもしれないな」
「アムロ。成すべきことは、わかっているな?」
「ああ。Eは、必ず救ってみせるさ」
「それだけわかっていれば充分だ。作業に取り掛かろう」
それきり二人は一言も言葉を交わさず、黙々と各々の作業を進めた。

523 名前:漂流家族アクシズ外伝・2――蒼を討ち取る者――(1/12) :04/01/28 23:42 ID:???
シャアとアムロがシミュレータールームに戻ると、監視端末前で難しい顔をしているプルIを他の姉妹が不安そ
うな様子で取り囲んでいた。
「どうした? 何かあったのか?」
怪訝な表情でシャアが問えば、プルIは小さく頷いて答える。
「EXAMの影響かどうかわからないが、システムが酷く不安定だ。正直、いつ止まってもおかしくない、とい
 う状況だな」
「ちょっと見せてくれ」
そう言ってやってきたアムロに席を譲り、プルIは説明を加えた。
「それから、幾つかのクラスタがメインサーバーから接続を拒否されている。困ったことに、それらクラスタの
 中にはνガンダムやサザビーのデータが入ったエキスパンションクラスタも含まれている」
解説を聞きながら、アムロは矢継ぎ早にコマンドを叩き、システムの状態を確認する。
「これは酷い……半分EXAMに乗っ取られているぞ」
「具体的にどう影響する?」
シャアの問いに、アムロは腕組みして考えつつ答えた。
「まず第一に、Iの言う通りいつシステムダウンを起こしてもおかしくない。MSのデータは、元からシステム
 に組み込まれていたものと、EXAMに登録されているマシンだけしか使えないな」
顔をしかめて、シャアが確認する。
「つまり、サザビーは使えない、ということか。元からあるMSというのは?」
「たいした機体は無いな。元がグリプス戦役前後のもので、しかも一般兵用だ。ネオジオンの機体は一般的な量
 産機しか登録されていない」
さすがに嘆息し、シャアは天を仰いで呪うように言った。
「私に、ガザCにでも乗れと? 悪い冗談だ」
その嘆きを無視してデータを追っていたアムロの手が不意に止まる。
「待て。ひとつだけ、使えそうな機体があるぞ」
「何だ?」
「お前の乗っていた、あの悪趣味な金色のモビルスーツだ」
悪趣味は余計だ、と思わないでもなかったが、シャアは胸を撫で下ろした。
「百式か。悪くないな」
廉価な量産機のガザCなどよりは遥かに頼りになるし、何よりエゥーゴ時代に乗り慣れた機体でもある。
若干装甲は薄いが、それでも一年戦争時代のものであろうEXAM搭載機に比べれば打たれ強いはずだ。
高速戦闘を意識した加速力と高いレベルで安定した機動性能は折り紙付きだし、汎用性にも優れている。
結局その名に込められた百年の時を生き延びることは出来なかったとはいえ、時代のフラッグシップとしてのポ
テンシャルの高さは量産機には無いものだ。
百式ならば、どんなフィールドに送り込まれたとしても対応出来ずに困るということはないだろう。
「どうしてエゥーゴの機体のデータが、ここまで事細かに登録されているのかはわからないけどな」
アムロの言葉に以前発見した無残な姿の百式のことを思い出し、少し頬を引きつらせるシャア。
だが今だけは、恐らく仮想敵機として嬲るためにであろう、この機体のデータを作成し登録させていたと思われ
るハマーンに手を合わせたくなるほどありがたかった。
「それよりも、問題はシステムそのものだ」
「そんなに酷いのか?」
唸るアムロに問えば、深い溜息とともに強く頷く。
「ああ。これは、常時監視しておくべきだな。シャアの憶測が正しければ、今システムを止めるわけにはいかな
 いだろう」
「ふむ……」
少しだけ考えを巡らせ、シャアは言った。
「では、アムロはそちらに集中してくれ。EXAMは、私が叩く」
「おい……」
顔をしかめて文句を切り出そうとするアムロを掌で制するシャア。
「現実を見ろ、アムロ。私の耳には、このシステムを知り尽くしている者が貼り付いている必要があるように聞
 こえたが?」
「それは、そうだが」
渋るアムロに、シャアは不敵に笑ってみせる。
「案ずるな。私とて、赤い彗星と呼ばれた男だ」

524 名前:漂流家族アクシズ外伝・2――蒼を討ち取る者――(2/12) :04/01/28 23:43 ID:???
一抹の不安を感じつつも、不承不承アムロは頷いた。
困ったことに、シャアの意見は至極まっとうで、その正しさを認めないわけにはいかなかったからだ――もちろ
ん、赤い彗星の実力も含めて。
「そうなると、我々の中から随伴出来るのは三名ということか?」
割り込んできたプルIの言葉に、アムロは更に表情を曇らせる。
彼女たちを危険に晒したくは無いが、恐らく何を言ってもシャアは聞かないだろう。今回ばかりは、プルたちも
シャアに味方するであろうことは容易に予測出来る。
MSデッキでこの男を説き伏せることが出来なかった時点で、プルたちを引き止めることは不可能だったのだ。
そう理解してはいても、やはり不安と不満は隠せない。
「俺は反対なんだが。EXAMの正体が知れないというのに、これ以上不測の因子を増やすことはないだろう」
「シャアが干渉する時点で、既に充分何が起こるか予測不能という気がするが」
プルIの反論に、アムロは心の底から嫌々ながらといった塩梅で吐き捨てる。
「シャアなら、何があろうがどんなところからでも必ず生還する。こいつは、そういう男だ」
酷い台詞を吐きながらも、ある意味で誰よりも深くシャアを信頼しているようなアムロの態度に軽く苦笑を浮か
べ、プルIはシャアに向き直った。
「だが、連れて行ってくれるのだろう、シャア?」
暗に、自分を連れて行け、と言うような口調で問うプルI。
シャアは一度静かに目を閉じ、それを見開くといかにも指揮官然とした凛とした声で告げた。
「では、EXAM攻略に向かうメンバーを発表する。プルJ、プルBはシミュレーターを使え」
「はい、大佐!」
「わかった」
応じて敬礼などするプルJと静かな決意に満ちたプルBの答えに頷き、シャアは最後の一人に視線を向ける。
「プルG。νガンダムを使え」
きっとプルIが選ばれるだろう、と思い顔を伏せていたプルGは、その言葉に胸の奥から湧き上がる熱いものに
興奮も隠せず跳ね上がった。
「ああ! 任せてくれよ!」
胸を叩いて顔を輝かせるプルGから視線を外し、プルIは少し寂しそうにシャアを見る。
シャアは、私よりもプルGを選んだ。
あの男のことだ、何か故あってのこととは思うが、それで完全に納得出来るほどプルIも大人ではない。
そんなプルIの気持ちを知ってか知らずか、シャアは彼女の肩に手を置いて囁くように言った。
「プルIには、アムロのサポートを頼む。こちら側のことは任せたぞ。期待している」
「……承知した」
確かに、情報処理関連でアムロのサポートをこなせるものなど、シャアかプルIぐらいのものだ。
それを考えれば、この配置にも納得はいくが。
「だが、私を置いていくからには、必ず帰ってこい。それが条件だ」
そんな台詞は、せめて抱きしめながら言えないのか、などと埒も無いことを考えつつ、プルIは釘を刺す。
「当然だ。私を、誰だと思っている?」
そう応じて軽く笑い、シャアは選抜メンバーに向き直った。
「わかっているとは思うが、機体を選ぶ際にEXAMマシンは使用禁止。作戦開始時刻1730。各自、準備に
 かかれ」
そう告げて、シャアは踵を返した。
その後を、シャアと同じくMSデッキから参戦することになるプルGが追う。
「待ってくれよ、シャア。一緒に行こうぜ」
そう声を掛けて、プルGはシャアと並んだ。
「へへ……ありがとな、シャア」
照れ臭そうに言うプルGに、シャアは肩をすくめる。
「何が、かな?」
「オレを選んでくれて、さ。Iには、ちょっと悪い気がするけど……」
申し訳なさそうに付け加えるプルG。
シャアは、さも当然、といった口調で応じる。
「私は、最良と思える選択をしたに過ぎんよ。プルIならば、わかってくれるさ」

525 名前:漂流家族アクシズ外伝・2――蒼を討ち取る者――(3/12) :04/01/28 23:44 ID:???
「ふぅん」
プルGは、感心したように言う。
「なんか、いいな、そういうの。信頼してるって感じで……あ、でもJのことはどうなるんだ?」
話の雲行きが怪しくなり始めたところで、二人はMSデッキに到着した。
「わかっているな、プルG。仮想空間での戦いとはいえ、遊びではない。気を引き締めていけ」
誤魔化すようにそう言って、シャアはサザビーのコックピットに向けて床を蹴る。
そのシャアに、プルGが大声で訊いた。
「なあ! シャアの機体って、何てヤツだっけ?」
「百式のことか?」
「それそれ。金色で、なんか成金趣味っぽいよな!」
軽口を叩ける程度には精神的に回復したらしいプルGの様子に、シャアは笑みを浮かべる。
「酷い評価だ! 百式は、よいモビルスーツだぞ!」
それだけ言って、シャアはコックピットに潜り込んだ。

荒野が広がっている。
どのあたりの地形を意識したフィールドかは判然としなかったが、地上のことをよく知らない者が多いアクシズ
で作られたものにしては、なかなか見事な再現振りだ。
「不思議なものだ。サザビーの操作系で、この機体を操ることになろうとは」
ひとりごちて、シャアは軽く機体を動かしてみる。
多少の違和感は拭えないが、なるほど、こちらもよく再現されていた。
これならば、充分に戦うことが出来るだろう。
そうするうちに、僚機が次々と出現する。
その内訳を見て、シャアは唖然とした。
「ひとつ訊いてもいいかな?」
「はい、大佐」
真剣そのものといった声で答えるプルJに、シャアはひとつ咳払いをしてから訊く。
「どうして、全員百式に乗っているのかな?」
確かに、百式は汎用性が高い。
俗な言い方をするなら、あらゆる状況で『つぶし』が利くモビルスーツだ。
だが、汎用性に優れるということは、裏を返せばこれという突出した部分がないということでもある。
チームを組むのであれば、ドムやリック・ディアスのような重MS、あるいはザメルのような支援MSを織り交
ぜた方が、部隊としての総合的な戦力は高くなる。
シャアに付いてきたプルGはともかく、他の二人にはアムロあたりが適切な助言を加えてもよさそうなものだが。
いや、それよりも何よりも。
「いえ、その……大佐のMSですし……」
「赤い彗星に敬意を表して、な」
「感謝しろよ、シャア! 今回は、シャアの顔立ててコレ使ってやるから」
そんな理由で百式が四機も並んでいる状況が、シャアには頭の痛い問題である。
今更ながら、彼女たちがチームプレイに慣れていないということ、そして相手の力量もわからないこの状況をそ
れほど深刻に考えてはいないという事実を痛感せざるを得なかった。
極論すれば、彼女たちはゲーム感覚から脱しきれていないということだ。
ゲーム感覚であれ何であれ、状況は待ってくれない。
不意にモニターに浮かんだエネミー・サインを見て、シャアは指示を出す。
「来るぞ! 全機、互いをフォローして死角を作らないよう留意しろ。何が起こるかわからん、敵を撃破するこ
 とよりも、墜とされないことを第一に行動するように」
それだけ伝えてから、シャアは彼の一面である好戦的な笑みを浮かべ呟いた。
「さて、見せてもらおうか……EXAMの性能とやらを!」
RX−79BD−1。
蒼い機体が、信じ難い高速で接近する。
巻き上がる土煙と移動の軌跡から、シャアはBD−1がホバーユニットを備えているのではなく、実に繊細なバ
ーニア制御で地面すれすれを『飛んでいる』のだと知った。

526 名前:漂流家族アクシズ外伝・2――蒼を討ち取る者――(4/12) :04/01/28 23:45 ID:???
「これは……生半な相手ではないな。迎撃する! 全員、止まるな」
シャアはBD−1を迎え撃つべく、左足で地を蹴ると同時にバーニアを吹かし上空へと飛んだ。
一年戦争時代のMSでは、ガンダムのようなごく一部の機体以外には不可能な動きである。
とりあえず、相手の手が届かず相手の様子がよく見える位置から軽く牽制し出方を伺おう、という腹積もりだ。
手早く照準を合わせ、僅かに銃身をずらし敵のスピードから勘案した予測点目掛けてビームを放つ。
並のパイロットが相手であれば、とても防ぐことなど出来ない正確無比の一撃であるはずだが。
BD−1は、不意にスラスターを吹かして進路を右にとり、シャアの攻撃を難なく躱す。
「やはり、遠距離では話にならんか!」
吐き捨てて、シャアは短くバーニアを吹かし、地上のBD−1目掛け高速で突進した。
一歩間違えば地面と衝突するような鋭い角度で突っ込みつつ、ライフルを三点射。
氷上に踊るフィギュア・スケーターのように滑らかな動きで、BD−1が攻撃をしのぐ。
躱しながら、手にしたマシンガンを一斉射するBD−1。
くるりと輪を描くように機体をスライドさせ、シャアは銃弾をやり過ごす。
「チィッ! なかなか、やる!」
そう漏らしつつ、シャアは一旦距離をとろうとするBD−1に牽制のビームを放った。
同時に、接近戦を予感し左手にビームサーベルを握る。
予測に違わず、BD−1は一度退くと見せ掛けておいて、左に回り込む形で急速接近、シャアの百式に肉薄する。
「甘い!」
BD−1のビームサーベルを百式もビームサーベルで弾き、間髪入れずゼロ距離でビームライフルの一撃を叩き
込んだ。
だが、相当なベテランでもしのぎきれぬほど鮮やかなシャアの攻撃を、BD−1は左腕に持つシールドを犠牲に
して切り抜けた。
「何ッ!?」
驚愕の声を上げる間もあらばこそ、BD−1が再びサーベルで斬りかかる。
咄嗟に機体を右に泳がせるシャア。
賞賛に値する機動だったが完全には躱しきれず、左のランダムバインダーを吹き飛ばされる。
シャアは横薙ぎにビームサーベルを走らせるが、BD−1は深追いせずに距離を取り、もののついでとばかりに
有線ミサイルを放つ。
後方に飛び、これを回避するシャア。
牽制を兼ねてビームライフルで狙うが、この体勢で当てられるものでもない。
「EXAM……予想以上だ!」
これだけの攻防で、シャアは正直舌を巻いていた。
突撃からの斉射、白兵戦からの不意の射撃、体勢を崩した状態からの反撃の一閃。
並の相手なら、少なくとも三回は死んでいる。
それをことごとく防ぎ、逆に深刻とは言わぬまでも相応のダメージをシャアに与えるだけの力量。
なるほど、プルGが成す術も無く撃破されるだけのことはある。
「取り逃がした! 全機、敵の動きに注意! 相手の機動に呑まれるな!」
注意を喚起しつつ、シャアはBD−1を追う。
シャアに言われるまでもなく、プルBはBD−1の動きを察知していた。
「高速で突っ込んでくる。J、G、遅れるなよ」
「言われなくたって!」
状況の割には冷静なプルBの言葉にそう答え、プルGはバーニアを吹かし左手に回り込んだ。
プルBを中心に、左にプルG、右にプルJという布陣。
このままBD−1が突進してくれば、半包囲の態勢になる。
しかし、一見連携が取れているように見えて、彼女たちの行動はやはりどこか甘い。
BD−1は、プルGの百式を避けるように、向かって左側、プルBとプルJの待つ方向へ突っ込んできた。
「エンゲージ! 射撃を開始する!」
「こちらも捉えた! 攻撃に移る!」
プルB、プルJが口々に叫び、矢継ぎ早にビームライフルを掃射する。
だが、シャアの初撃よりも離れた位置から放たれた光条は、BD−1の影すら捉えることが出来ない。

527 名前:漂流家族アクシズ外伝・2――蒼を討ち取る者――(5/12) :04/01/28 23:46 ID:???
「当たらない!?」
プルJが上げた驚愕の声を聞きながら、プルBは短く舌打ちする。
「読まれているのか? まるでニュータイプだ」
プルBは、自分が発した言葉に、ふむ、と頷いた。
「そうか。Eの力を取り込んでいると考えれば、ありえない話じゃない」
それならば、とプルBはニュータイプとしての感覚に集中した。
百式はNT用のMSではないから出来ることなど限られているし、ニュータイプとしての感応能力では姉妹中プ
ルHに次いで強いプルEに敵わないかもしれない。
だが、プルEは純粋過ぎる。
意識を垣間見ることさえ出来れば、読み合いでは負けない。
そう考えての行動だ。
しかし、それはプルBにとって致命的な判断ミスだった。
「……! な、何だ、これは!」
広げた感覚の網に触れた、堪え難くおぞましい意識。
「うわぁーーあぁーーーーっ!!」
脳髄を直接掻き回すような悪意の嵐に、プルBは絶叫し己の爪で傷付くことにも構わず頭を掻きむしる。
「プルB!?」
狂ったように――実際、狂いかけていたかもしれない――取り乱すプルBの悲鳴に、プルJが驚きの声を上げた。
「B! 心を広げちゃダメだ!」
すかされた形で戦闘から一時離れる形になっているプルGが、今更のように注意を喚起する。
だが、彼女たちよりも更に鋭くプルBの異変に反応したのは、他ならぬBD−1だった。
ギラリとヘッドユニットのアクティブライトを煌かせ、BD−1は委細構わず遮二無二プルBの百式に突進する。
瞬く間に距離を詰め、マシンガンを乱射。
こちらはこちらで、まるで狂っているかのような戦い方だ。
しかし、仮に狂っていたとしても、その射撃の正確さは驚嘆に値するものだった。
マシンガンのようなバラ撒き型の兵器が、精度においてライフル系の火器に劣るというのは誤解である。
安物のサブマシンガンのような劣悪なものを別にすれば、命中精度が悪化するのは射軸の固定をおろそかにして
無闇に乱射したり射撃に伴う熱により銃身が歪んでしまった場合の話であって、正常な状態からしっかり狙って
撃つ分には充分な精度を持つのが普通だ。実際、無防備に海岸線を上陸する相手を狙い撃ちする狙撃銃として使
用された例もある。まして、MS用の火器ともなれば、マシンガンといっても砲だ。命中精度は、思われている
ほど悪くない。
しかし、である。
それらを勘案するにしても、BD−1の射撃は正しく狂気に駆られた乱射だった。
それなのに、放たれた弾のほぼ全てが、プルBの百式を捉えていたのである。
「く、来るなッ! 来るなァーーーーッ! 私の『中』に、来るんじゃないッ!!」
プルBは、憑かれたように叫ぶだけで、自分が操縦桿を握っていないことにすら気付いていなかった。
有線ミサイルが放たれ、吸い込まれるようにプルBの百式に命中する。
着弾。
爆発。
それでも、とりあえず機能を停止しなかった百式は、さすがにグリプス戦役時代の名機である。
だが、鬼神のスピードで肉薄するBD−1の手に輝くビームサーベルを受ければ――
「させないっ!」
その時、ようやく駆けつけたプルJが叫んだ。
下手な射撃はプルBの百式にまで被害を及ぼしかねないと判断し、BD−1に倣うかのように突進しビームサー
ベルで横薙ぎに一閃。
不意を打たれたのだろうか、僅かにBD−1の回避が遅れ、左腕に浅くヒット。
しかし、さすがというべきかBD−1はすぐに体勢を立て直し、急ぐあまり直線的に深く突っ込んでしまったプ
ルJの百式へ袈裟懸けに斬りつける。
「しまった……!」
迫るビームサーベルの一撃。

528 名前:漂流家族アクシズ外伝・2――蒼を討ち取る者――(6/12) :04/01/28 23:47 ID:???
プルJは、咄嗟に機体を地にダイブさせてこれを回避しようと試みる。
後のことを考えれば自殺行為だが、結果的にはこれが幸いした。
寸毫間に合わず右腕を吹き飛ばされたが、気付けばビームサーベルを持つ左腕の先に無防備なBD−1の脚が見
える。
「やれるか!?」
僅かな迷いを口にしながら、プルJは草を刈り取るようにビームサーベルを走らせた。
狙いあまたず、BD−1のそれを上回る高出力の成型ビームがBD−1の左脚に深く食い込む。
「やった!」
思わず声を上げはしたが、よくよく考えるまでもなく体勢的に不利なのは自分の方だ。
ゾッとするものを感じ、機体を横に転がす。
コックピットが揺れ目が回り、一瞬周囲の状況を判断出来なくなる。
だが、それは実に正しい行動だった。
そうしなければ、プルJの百式は振るわれたBD−1の一刀で鱠斬りにされていたであろうから。
起き上がろうとするプルJの百式に、BD−1は有線ミサイルを射出。
これは、躱しようがなく二発直撃を許す。
再び、地に突っ伏すプルJの百式。
百式の装甲をもってしても、ノーダメージというわけにはいかなかった。
こうなっては、さすがにプルJも苦しい。
「……大佐!」
思わず口走ったところへ。
「『大佐』じゃなくて、わりぃな!」
軽口を叩きつつ、プルGが駆けつけた。
ようやく三人揃ったが、ここまでくると連携もへったくれもない。
それ以前に、どうにかしてBD−1を引き離さねば、プルB、プルJが体勢を立て直す隙も作れない。
プルGは、至近距離からビームライフルを乱射し、何とかBD−1を追い払おうとする。
しかし、そのプルGらしい短絡的な攻めは、BD−1にはなんら脅威になるものではなかった。
絶え間なく放たれる光の矢を、BD−1は軽やかに地を蹴りバーニアを吹かすことで難なく回避する。
「えっ!?」
そして、驚くプルGをあざ笑うかのように、無傷の右足で百式の頭部をサッカーボールのように蹴り付けた。
どんなに技術が発達しようが、質量というものを完全に打ち消すことは出来ない。
時代が進んでもモビルスーツ乗りにとって格闘戦が必須の技能であるのには、そういった理由がある。
ともかく、いかに時代が違うとはいえ、頭部にまともな蹴りを食らって無事で済むものではない。
衝撃と共にプルG機のモニターが歪み、一瞬暗くなる。
モニターが、今の一撃で死んだ。
すぐに機体各所に取り付けられた予備系統に切り替わる。
この状態でも全周囲がサポートされるのはありがたいが、若干映像の精度が落ち、何よりも照準システムの精度
が格段に劣化するのが痛い。
「このぉっ!」
距離をとりつつ放たれたマシンガンの銃弾を右に跳躍して躱し、お返しとばかりにビームライフルを三連射。
プルGの百式と平行に移動するように左に機体を滑らせ、BD−1がこれを躱す。
「チクショウ! 追いつけない!」
プルGが唸る。
メインモニターをやられたのが響き、どうしても反応が一拍遅れてしまうのだ。
「プルG! 右ッ!」
何とか機体を起こしつつあるプルJの声が聞こえたが、だからといってどうなるものでもない。
そもそも、右から来ることはわかっている。
わかっていて、どうにも対応出来ないのだ。
信じ難いスピードで接近するBD−1を感じ、νガンダムの胴を真っ二つにされた記憶を甦らせ戦慄するプルG。
だが、今回は一刀両断にされることはなかった。
「私を忘れてもらっては困るな……EXAM!」

529 名前:漂流家族アクシズ外伝・2――蒼を討ち取る者――(7/12) :04/01/28 23:49 ID:???
バランスを崩した機体を引きずり、ようやく駆けつけたシャアが風のように両者の間に割り込み、プルG機に振
り下ろしたBD−1のビームサーベルを弾き飛ばす。
そのまま、舞踏のターンを決めるようにくるりと機体を捻り袈裟懸けにビームサーベルを一閃。
モビルスーツに乗っていても、シャアはシャアだ。
こういった不規則で他人に見せ付けるような動きが、怖いくらいさまになる。
それを目にしたプルJとプルGは、初めて百式のことを『格好よい』と思った。
格好だけではない。
シャアの攻撃は、実に読みにくい。
機体を捻ることにより、どこを狙ってくるか見当がつかなくなるのだ。
もちろん、一瞬とはいえ至近距離の敵に背を向けて問題ないだけの腕と度胸が必要とはされるのだが。
ともかく、BD−1はこの攻撃を読めなかった。
咄嗟に機体を退かせ回避を試みたが、及ばずシャアの斬撃は深々と胴体を抉る。
「よし!」
さすがに、これで勝負は決まっただろう。
そう思い、会心の笑みを浮かべるシャア。
しかし、BD−1の行動は彼の常識を凌駕していた。
「なっ!」
突如、突進してくるBD−1。
虚を突かれたシャアは、真正面から体当たりを喰らい成す術も無く吹き飛ばされる。
――なんというパワーだ! やはり、傍流とはいえRXナンバーだということか!
埒も無いことを思いつつ、地に転がりしたたかに背を打つシャア。
BD−1は、そのシャアと唖然とするプルたちを尻目に戦線から急速離脱していく。
「大佐!」
ようやく機体を立て直したプルJが、シャアの百式の元へ駆けつける。
「あ! 待てっ! Eを返せ、コノヤロッ!」
プルGは、そう毒づきながらビームライフルでBD−1を斉射した。
これが当たらないと見るや、プルGは加速限界ぎりぎりにバーニアを吹かしてBD−1に追いすがる。
「待てって言ってるだろッ!」
「よせ、プルG! 深追いは禁物だ!」
慌ててシャアは止めようとするが、プルJの手を借りて機体を引き起こした時には、既にかなりの距離を引き離
されていた。
「ええい、私にプルGが抑えられんとは……」
呻きつつ、シャアは手早く機体状況を確認する。
機体各所が悲鳴を上げていたが、一番手痛いダメージはメインバーニアの破損だ。最後の突進で地面に打ち付け
られた際、どこかが潰されてしまったらしい。
「チィッ! プルJ、プルGを止めるんだ! プルBは!?」
「戦闘中に突然取り乱して……」
とりあえず後半の部分に答えるプルJ。
彼女にも、いったい何が起こったのか正確には把握出来ていない。
「そういえば、プルGが何か言ってました。心を広げちゃ駄目だ、とか」
それを聞いて、シャアは今更のように思い出した。
プルGは、プルEと対戦した時に何かを感じたと言っていなかっただろうか?
得体の知れない、何かを。
もしかしたら、それがEXAMの本体か、あるいはそれを示す重要なヒントなのかもしれない。
そんなことを思いつつ、シャアはプルJに指示を出す。
「プルJ、とにかくプルGを追って連れ戻すんだ。私の機体は、バーニアをやられている。だが、深追いはする
 な。プルBを何とかして、私もすぐに追う」
「了解! プルGを追います。大佐、お気をつけて」
どちらかといえば、気をつけろというのは私の台詞なのだが。
そう思いつつバーニアを吹かして飛び去る片腕の百式を見送り、シャアはプルBの百式に機体を寄せた。

530 名前:漂流家族アクシズ外伝・2――蒼を討ち取る者――(8/12) :04/01/28 23:50 ID:???
「プルB、大丈夫か?」
通信を入れるが、応答は無い。
一瞬、気を失ってしまったのか、とも考えたが、そうなった場合には自動的にシミュレーターが止まるはずだ。
機体が消えずにここにあるということは、プルBは少なくとも意識を保っているということだろう。
「プルB、しっかりろ!」
叱咤しつつ、機体を揺する。
シミュレーターを通して、振動はプルBにも届くはずだ。
「え……シャア?」
プルBが、ようやく我に返ったという感じの声を出す。
「どうした、プルB。君らしくもない」
「い、いや。感覚を広げた瞬間に、ものすごい『何か』を感じて……あれ?」
要領を得ない説明だ、と自分でも思いながら言ううちに、プルBは、ふと、違和感を感じた。
「シャア、私たちはシミュレーターの中にいるんだよな?」
その問いに、シャアは眉を寄せる。
「どういう意味かな?」
「いや、随分リアルというか、何か、本当にMSに乗ってるような気がして……」
口ごもるプルB。
しかし、シャアはそう言われて初めて、自分が正しく百式を駆っていた頃の『風』を感じていたことに気付く。
コックピットはサザビーのものに違いないが、何の違和感もなく自分は『百式に乗っている』のだと感じる。
全く違和感がないのが、逆にこれ以上なく奇妙だった。
「……! 確かに。これは、EXAMの力なのか?」
それはどうだろう、と自分でも思う。
だが、EXAMには何か得体の知れない力があるのかもしれない。
それを頭から否定してしまうことは危険だ、とシャアは思った。
それに、今はそれよりも差し迫った問題がある。
「立てるか、プルB? プルGが突出した。何とか追って、引き止めねばならん」
「何とか。アラート・サインがビカビカ目障りだが、動く分には問題なさそうだ。Jはどうした?」
「先行して、プルGを追っている。私の機体は、バーニアをやられてね」
「情けないな。お互い」
「情けなくても勝てばいい」
自嘲気味に笑うプルBに嗜めるように言って、シャアは続ける。
「悪いが肩を貸してくれるか? 歩いて追っていたのでは、時間が幾らあっても足りん」
「了解。しっかり掴まってろよ、シャア」
少しだけ笑みを浮かべ、プルBはシャアの百式の腕を肩に抱えた。

531 名前:漂流家族アクシズ外伝・2――蒼を討ち取る者――(9/12) :04/01/28 23:51 ID:???
一方その頃、シミュレーター・ルームは緊張に包まれていた。
「I、どうだ? 繋がりそうか?」
アムロが、プルIに問う。
プルIは、溜息混じりに答える。
「駄目だ。強制終了のコマンドすら受け付けん」
シャアがBD−1に致命傷を与えたのと同時に、シミュレーターは制御不能に陥っていた。
監視モニターすら切断されてしまい、中で何が起こっているのかは窺い知れない。
正確に言えば、延々吐き出されている膨大な量のダンプデータを追えば事態を把握出来るのだが、それこそ無駄
な努力に等しいだろう。
事ここに至って、プルIはシャアが自分をこちら側に残した理由を悟っていた。
理論の裏付けがあるのか本能的なものなのかはわからないが、シャアはある程度こういった事態を予期していた
に違いない。
だから、シャアは『期待している』などと言ったのだ。
この状況を、何とかしてくれと。
プルIは、シャアが耳元でそう言っているような気がしてならなかった。
――しかし、シャア。これは難問だ。
そうは思うが、あきらめるわけにもいかない。
「今は、シャアが上手くやるように期待するしかないのか……」
爪を噛みながらボソリと漏らしたアムロの弱気に、プルIはかぶりを振った。
シャアと姉妹が戦っている時に、自分だけ戦いを放棄するわけにはいかない。
何か、手段はあるはずだ。
「カーネルレベルで、何か手があるかもしれない。そちらをあたってみる」
そう言って再度モニターに向かい、プルIは次々に、思いつく限りのコマンドやキーワードを叩き始めた。
――足掻けるだけ、足掻く。それしか出来ないが……
そう思ってから、プルIは自分を励ますように笑みを浮かべる。
「期待していろ、シャア」
その様子を見て、アムロは一時的にとはいえ娘たちの前で弱音を吐いた自分を恥じ、プルIに倣い打てるだけの
手を打つべく手と頭をフル回転させ始めた。

532 名前:漂流家族アクシズ外伝・2――蒼を討ち取る者――(10/12) :04/01/28 23:52 ID:???
「んにゃろぉっ!」
勝利を確信し、プルGはビームサーベルを走らせた。
狙いあまたず、その一撃でBD−1の頭部が吹き飛ぶ。
それで、糸の切れた操り人形のように、BD−1は倒れ伏した。
「ふぅ……やったぜ! でも、シャアに怒られちまうかな?」
深追いするなとは言われたが、千載一遇のチャンスだ。
これでプルEの魂を解放出来るかと思えば、追わないわけにはいかなかった。
結果オーライ、シャアだってわかってくれるだろう。
シャアにやられたダメージが致命的だったのだろう、プルGが追ううちにBD−1の動きは目に見えて鈍くなっ
た。
そういった状況でもなければ、プルGにはBD−1を倒すことなど出来なかっただろう。
実際、動きの鈍ったBD−1相手でさえビームライフルによる射撃は当てきれず、結局背後からのビームサーベ
ルでカタをつけるしかなかったのだ。
「で、ここどこだ?」
呟いて、プルGは辺りをキョロキョロと見回した。
「っていうか、シミュレーター、終わんないの?」
いつもなら、ここいらでウィナーコールが表示されてシミュレーターのハッチが開くのだが。
ひょっとして、νガンダムのコックピットを使ってるから動作がおかしいのかもしれない。
そう思い、コックピット・ハッチを開こうと手を伸ばしたその時。
「え? エネミー・コール!?」
モニターにエネミーサインが点灯し、警告音が鳴り響く。
慌てて操縦桿を握るプルG。
確認すると、岩肌の影からまたもや蒼いモビルスーツが躍り出るところだった。
猛烈な勢いで逃げるBD−1を追っていたため、シャアたちとは相当距離が離れている。
救援は、期待出来そうにない。
背筋に冷や汗が流れるのを感じながら機種を確認。
MS−08TX。イフリート改。
プルIの言っていた、ジオン系のMSか。
両手にヒートサーベル。明らかに、白兵戦に特化された機体だとわかる。
動きは滑らかだが、先程のBD−1に比べ幾らか鈍い。
だが、こちらも手負いだ。
万全の状態でも、BD−1には軽くあしらわれた。
この状況で、果たして勝てるのだろうか?
しかし――
「やるっきゃないか!」
己の頬を叩いて、プルGは気合を入れた。
どのみち、ここで勝たねばプルEを解放することは出来ないのだ。
ならば、状況のいかんに関わらず、やるしかない。

533 名前:漂流家族アクシズ外伝・2――蒼を討ち取る者――(11/12) :04/01/28 23:53 ID:???
「いくぜ!」
叫びざま、プルGはビームライフルを乱射する。
イフリートがこれに応じ、強力なスラスターで左にスライドして躱しながら脚部に装備されたミサイルを立て
続けに放つ。
プルGも左に旋回し、右腕だけを敵に向けて更なる銃撃を加えた。
これも危なげなくクリアし、イフリートは短くジャンプ、プルGの百式との距離を詰めようとする。
接近戦は不利、と判断したプルGは、なんとか距離を保ちたい。
慌ててバーニアを吹かし後ろに飛ぶが、周囲に岩山の配置されたフィールドのおかげで中途半端な距離しか稼げ
なかった。
「くそっ! やりにくい!」
文句をたれつつ、プルGはビームライフルでイフリートを狙う。
今度も躱されたが、距離が近付いたためか相手にも幾分余裕がなかった。
「も少し近づいた方が、当たるか?」
呟いてはみるが、それでは白兵戦に持ち込まれる危険をはらむ。
安易に近付くことは出来ないと、バーニアを吹かし上空へ。
それを追う形で、イフリートは腕部グレネードを射出。
「うわっと!」
スラスターを全開にして、プルGは右へと逃れた。
そのまま、上から撃ち下ろす形で三連射。
左右に躱し、イフリートは百式の着地点目掛けて突進する。
「やべっ!」
着地の瞬間を狙われてはたまったものではない。
プルGは、素早く周囲を確認し、手頃な岩山の向こうに降りた。
「くっそぉーー! やっぱ、当たんねぇ!」
頭を抱えるプルG。
接近戦は、恐らく不利。
さりとて、こちらの銃撃はことごとく躱される。
正直、勝てる見込みがまるで無い。
いや、唯一方法があるとすれば――
「見て、みるか……?」
酷く緊張した声で、そう口に出してみる。
ニュータイプの力、感覚を開けば、あるいは。
しかし、それは必然的にあのキモチワルイモノ、オソロシイモノに触れることを意味する。
それに、耐えられるだろうか?
あれだけの悪意に晒され、正気を保っていられるだろうか?
あのプルBが、前後を見失い取り乱すほどの精神的衝撃を今一度受けて、自分は大丈夫なのか?
そんなことを思い躊躇していられたのも、ほんの僅かな間だけだった。
「うわっ!」
唐突に、岩山の影から躍り出るイフリート。
迷いのうちに足を止めていたことが響いた。
彼我の距離は、もう後一歩で剣戟を交わすレンジにまで詰まっている。
「ええぃっ! もう、どうにでもなれっ!」
叫んで覚悟を決め、プルGは感覚を広げた。
やはり迷いも恐れもあるが、そうする以外に突破口はないのだからやむを得ない。

534 名前:漂流家族アクシズ外伝・2――蒼を討ち取る者――(12/12) :04/01/28 23:54 ID:???
人は、意識せずとも常に周囲の状況を感覚で拾っている。
それ自体は、オールドタイプもニュータイプも変わりない。
ただ、ニュータイプはその感覚が非常に発達しており、そして、意識的に感覚を研ぎ澄ますことにより更に詳細
な、深い情報を感じることが出来る。
その能力が、今となってはプルGにとって頼みの綱だった。
しかし、EXAMに対してその力を使うことは、やはり諸刃の剣と言わざるを得ない。
「うっ……くぅっ!」
予測に違わず押し寄せる、圧倒的な悪意。
だが、プルGにとっては二度目のことだ。
ある程度の覚悟もしているし、堪え切れれば圧倒的に不利な状況を打破する契機ともなる。
暴力的なまでの負の感覚に震えつつ、プルGは相手の出方を探った。
――左から! 続けて右!
読み取ったプルGは、それに合わせ機体を左右に捻ってギリギリで斬撃を回避する。
その動きから余裕は感じられないが、プルGは褒められて然るべきだろう。
脳髄を焙られるような、強烈無比のプレッシャーに晒されながらの行動なのだから。
――回転! シャアみたいな動きか!?
イフリートが、両の腕を広げて一回転しつつ周囲を薙ぐ。
プルGは、この一撃を敢えてランダムバインダーに当てさせ距離を保った。
何故ならば――
「喰らえっ!」
気合一閃、プルGはビームサーベルを唐竹に叩き込む。
似たような動きは、つい先刻シャアに見せられたばかりだ。
攻撃の後に、多大な隙が出来ることも覚えていた。
果たして、イフリートはヒートソードを振り下ろしたままの体勢で一瞬動きを止める。
プルGは、その一瞬に賭けたのだ。
吸い込まれるように、プルGの百式が走らせたビームサーベルが、イフリートの頭部を真っ向から斬り下ろし、
成型ビームの刃は胸部の半ばまで達してようやく止まった。
「やったっ!」
歓喜の声を上げるプルG。
しかしその瞬間、プルGの広げた感覚に今まで感じていた魂を犯すような悪意とは別の何かが触れる。
『……』
「えっ! E!?」
思わず、呆然としてしまうプルG。
その隙を、瀕死のイフリートは見逃さなかった。
関節を軋ませつつ上げた腕に付けられたグレネードを、ゼロ距離で発射。
その爆発は、百式の頭部を吹き飛ばし、胸部装甲に深い穴を穿った。
イフリート自身もただでは済まず、文字通り吹き飛ばされて地に転がり動かなくなる。
「E、E……そんな……」
そして、プルGはそう呟いて一筋涙をこぼし、落ちるように意識を失った。

535 名前:漂流家族アクシズ外伝・3――裁き得ぬ者――(1/12) :04/01/28 23:56 ID:???
「プルG!」
悲鳴のように叫んで、プルJは岩山にもたれかかるように倒れているプルGの百式に向かって飛んだ。
プルJが駆けつけた時、丁度プルGの百式がイフリートのグレネードで吹き飛ばされたところだった。
あの爆発では、ただでは済まないはず。
焦燥を感じつつ、プルJは機体をプルGの百式に寄せる。
「大丈夫? プルG!」
酷い有様だったが、被害はコックピットにまで達してはいないようだ。
撃破されたMSはシミュレーターの処理負荷を軽減するため消える仕組みになっているから、恐らくギリギリの
ところで撃墜判定には引っ掛かっていないのだろうと思われる。
「プルG! 返事して、プルG!」
しかし、プルGからの返事はない。
機体を掴んで軽く振動を与えてみるが、それでも反応はなかった。
そうするうちに、プルBとシャアの百式が到着する。
「どうした、プルJ?」
尋ねるシャアに、プルJは困ったように応じた。
「わかりません……プルGが、応答しないんです。被撃墜の処理は、されてないみたいなんですが」
「ふむ」
考え込むように唸り、シャアは呟く。
「EXAMマシンと交戦中に何かあったのか? プルB、監視端末を呼び出してくれ」
シャアの要請に、プルBは溜息をついてかぶりを振った。
「さっきから、やっている。だが、繋がらないんだ」
「繋がらない?」
訝しむプルJに、プルBは説明を加える。
「アムロもIも、応答しない。それどころか、メッセージクラスタとの通信も遮断されている」
「EXAMの影響か」
忌々しげに言って、シャアは続けた。
「そもそも、EXAMマシンを倒したというのにシミュレーターが止まらないのが妙だな。あるいは、我々もE
 XAMに取り込まれたのか……?」
「そ、そんな! どうするんですか、大佐!?」
取り乱すプルJに、シャアは落ち着いた声で答える。
「慌てるな、プルJ。根拠の無い憶測に過ぎん。もしそうでも、捕らわれたのなら食い破れば済むことだ。それ
 に、もしかしたら我々のエントリー機数に合わせて、向こうも四機のマシンを用意しているだけのことかもし
 れん」
「この状態で、あと二機相手にするのか? それは、厳しいな」
冷静なプルBの意見に、シャアも溜息をつく。
シャアの機体はバーニアが潰れ、プルJの機体は右腕とライフルを失っている。プルBの機体も満身創痍で、プ
ルGに至っては戦線から脱落したと見た方がよいようだ。
どうしたものか、と考えあぐねているところへ、不意に通信が入った。
「シャア、接続に成功した」
そう言って開いた小モニターに浮かぶ姿は、監視端末のプルIだ。

536 名前:漂流家族アクシズ外伝・3――裁き得ぬ者――(2/12) :04/01/28 23:58 ID:???
「プルI!」
安堵の息をつくプルJに微笑み掛け、プルIが告げる。
「少し待て。今、機体のダメージを回復する」
「出来るのか?」
プルBの問いに、プルIは軽く肩をすくめた。
「メモリ上の機体データを上書きするだけだ。カーネルの内部通信ポートを押さえていれば造作も無い。さすが
 に、カーネルの全権ユーザーとパスコードを探り当てた時には失笑を禁じ得なかったが……なあ、シャア・ア
 ズナブル? それとも、キャスバル・レム・ダイクンと呼ぼうか?」
その言い方で、プルIが探り当てたユーザー名とパスコードがどんなものか察したシャアは、さすがに引きつっ
た笑みを浮かべるしかなかった。
そうするうちにも、全員の百式が次々修復されていく。
修復、というよりは、まっさらな機体に置き換わる、というのが正しいのかもしれないが。
「まさか、このためにIを……?」
プルBの疑念に不敵な笑みを浮かべ、シャアはいけしゃあしゃあと応じる。
「戦いとは、いつも二手三手先を考えて行うものだよ……助かった、プルI。天使のように見えるぞ」
シャアの軽口に赤くなりつつ、プルIは注意を喚起した。
「なッ……! く、くだらんことを言っている暇があるなら、臨戦態勢をとれ! こうして通信が出来るのは、
 EXAMが戦闘状態に無い時だけだ。そして、こちらで動きを追っている限りEXAMはまだ諦めていない」
「どういうことだ?」
「シミュレーターのハッチが、ロックされたままだ。それから、サーバーが新しいフィールドデータを読み込ん
 でいる。コロニー周辺宙域のフィールドだ。恐らく、セットが完了次第次のマシンが襲い掛かってくるだろう。
 予測される敵機は、RX−79BD−2並びにBD−3。EXAMめ、マシン総出で潰しにかかるつもりのよ
 うだ」
「そうか……ところで、そちらでプルGの様子をモニター出来るか? 撃墜されたわけでもないようだが、先程
 から反応が途絶えている」
「待て……登録からは消えていないが。νガンダムのメディカルセンサーも、正常を示している」
シャアの要請に従いコンソールを叩きながら、プルIはそう答えて続ける。
「眠っているようなバイオグラフだ……まさか」
「プルEの二の舞か……? ええぃ、私がついていながら!」
「今それを言っても仕方が無い」
歯噛みするシャアを慰めるプルI。
その映像が、不意に乱れる。
「くるぞ。接続が切れる……勝てよ、シャア」
「了解した。他の皆や、それにアムロにもよろしく伝えてくれ」
そう答え、シャアは操縦桿を強く握り直した。

537 名前:漂流家族アクシズ外伝・3――裁き得ぬ者――(3/12) :04/01/28 23:59 ID:???
唐突に、舞台は宇宙に切り替わった。
こういったところは、いかにもシミュレータといった感触だ。
しかし、プルBと話していた奇妙なリアリティは、更に深く感じられるようになっていた。
――ああ、そうか。MSデッキは無重力だからな。
身体が受け取る感覚が、周囲の情景と一致するからだろう。
そう思うことにして、シャアは自分の胸に広がる嫌な予感を強引に封じ込めた。
EXAMに取り込まれつつあるなどという仮定は、あまりにもゾッとしない。
「エネミー・サイン! 二機だ」
「BD−2、BD−3と確認。プルIの予測通りです、大佐!」
プルB、プルJの報告に、シャアは意識を現実に引き戻した。
プルGの機体は、どういうわけかこのフィールドには出現していない。
意識を失った彼女には、参戦資格は無いということだろうか?
その埒も無い考えを頭の隅に追いやって、シャアは手早く状況を確認した。
敵は、連携を取るなどということは考えもしていないのか、バラバラにこちらへ向かって進撃してくる。
これならば、各個撃破も可能だろう。
「プルB、プルJは連携をとりつつBD−3を牽制! 当てる必要は無い、私がBD−2を墜とすまで持ちこた
 えてくれ」
「わかりました、大佐!」
「気に食わないが了解だ」
口々に答え、BD−3に向かうプルBとプルJの百式。
それを見送り、シャアは迫るBD−2に向かいバーニアを吹かした。
宇宙空間でも目立つ鮮やかな蒼の機体に赤い肩。
拡大映像で捉えたBD−2の姿形は、正しくガンダムの系譜であることを声高に主張していた。
「だが、そこにアムロ・レイは乗っていまい!」
そううそぶいて、シャアはビームライフルを三点斉射。
これを軽く躱したBD−2が、やはり三連射で応射する。
シャアも難なくクリアし、両者は更に接近する。
数度に渡り銃撃を交わしつつ、互いの進路が交差。
その一瞬にビームサーベルを振るい、互いに弾き合って再度離れる。
離脱際、計ったように双方からビームが放たれるが、やはり互いに捉えることは出来なかった。
なかなかどうして、空間機動戦にも手馴れている。
いや、EXAM開発の経緯を考えれば、こちらがホームグラウンドなのかもしれない。
さしものシャアも、簡単に墜とせる相手ではないようだ。
「ええい、あまり時間を掛けるわけにもいかんというのに!」
プルB、プルJが言いつけを守り牽制に専念したとしても、そう長くはもたないだろう。
多少の無理はしても、早急にBD−2を片付けてあちらに駆けつけねばならないのだ。
しかし、相手がこちらの誘いに応じず一撃離脱を志向する限り、長期戦は免れ得ないと思われた。
「そういえば……」
シャアは、先刻のBD−1との戦いを思い出す。
途中から、BD−1は狂ったようにプルBを狙っていなかっただろうか?
そして、プルBはニュータイプの感覚を広げた時に、何かを感じたと。
プルGも、同じようなことを言っていた。
更には、昔聞いたクルスト・モーゼスに関する噂をも思い起こす。
ニュータイプと戦うためのシステム、EXAM。
それを必要とするのは、オールドタイプだ。
ニュータイプに悪意を抱く、オールドタイプだ。
EXAMが、ニュータイプに反応する?
信じ難いがそうだとすれば、ニュータイプの力を強く示せば劇的な反応があるかもしれない。
とりあえず、そう考えれば辻褄は合う。

538 名前:漂流家族アクシズ外伝・3――裁き得ぬ者――(4/12) :04/01/29 00:01 ID:???
「やってみるか!」
呟いて、シャアは感覚を広げていく。
そして不意に、プルGとプルBが感じたのと同じ悪意の奔流に晒される。
「……! これは!?」
シャアがプルたちと違っていたのは、その悪意の嵐に微塵も怯まなかったことだ。
彼の場合、四六時中悪意に晒されて生きてきた時間の方が長い。
今更EXAMの憎悪や負の意識に触れたところで、哀れみを感じこそすれ怖気づくことなどありはしない。
だが、EXAMの側では、受け手がどうであろうがあまり関係がないようであった。
即ち、BD−2はギラリと目のようなメインカメラのアクティブライトを輝かせたかと思うと、これまでの慎重
な機動をかなぐり捨てて、狂気のままにビームライフルを乱射しつつシャアの百式に突撃を掛けてきた。
「よし! これならば……!」
ほくそ笑みつつ、シャアはBD−2をサイトに捉え、トリガーを引き絞る。
だが、BD−2は驚異的な反応と機動で、その一撃をやり過ごし更に突進。
一気に百式との距離を詰める。
「馬鹿なッ!」
呻きつつ、シャアはもう一度ビームライフルで斉射。
これも、常識外としか言いようの無いスラスター噴射で急激に機体を捻り、BD−2は見事に回避して見せた。
これでは、中のパイロットはもつまい。
少なくとも、シャアはあのモビルスーツのコックピットにいて五体満足でいられる自信は無かった。
それ以前に、どうやってこちらの動きを察知したのか。
アムロのような優れたニュータイプでもなければ、今の攻撃を予期出来るものではない。
瞠目し、疑念を抱きつつも、シャアは手早くBD−2の動きに対処した。
一合、二合、三合。
肉薄したBD−2が振るうビームサーベルの斬撃を、同じくビームサーベルをかざして捌く。
横薙ぎ、逆袈裟と逆襲し、不意に機体を退かせ、退き際に至近距離からビームライフルを一射。
その全てを踊るように躱し、BD−2は胴部に備えられたミサイルを放つ。
直撃は避けたが、近接信管が仕込まれていたのだろう、爆発に巻き込まれ多少のダメージを蒙った。
「チィッ!」
舌打ちし、シャアは上面目掛けバーニアを吹かし、同時に左足のスラスターを断続的に噴射して不規則な機動で
逃れようとする。
そこへ、矢のように飛来するBD−2。
「何!?」
さすがに、シャアは驚愕に目を剥いた。
あの爆煙を越え、この機動に追随するなど、尋常の沙汰ではない。
「まさか、読まれているのか!? EXAM、本当にニュータイプの力を……?」
背筋に冷たいものを感じつつ、シャアは矢継ぎ早にサーベルを振るうBD−2と斬り結ぶ。
数合手を合わせ、BD−2が繰り出す大振りの横薙ぎに合わせて離脱、百式の加速性能を活かし一気に距離をと
ろうとバーニアを全開にする。
しかし、BD−2はパイロット殺しの凄まじいスピードで追いすがり百式を逃がさない。

539 名前:漂流家族アクシズ外伝・3――裁き得ぬ者――(5/12) :04/01/29 00:02 ID:???
「ええいっ! EXAMめ、化け物か!?」
吐き捨てつつ、シャアは突破口を探す。
BD−2は、攻めも守りも常軌を逸している。
しかし、それは読みとスピードが桁外れなだけで、決してMSに出来ないことをしているわけではない。
むしろ、動きそのものは教科書通りのそれといってよかった。
――つまり、戦術ではこちらに分がある。
そう考え、覚悟を決めると、シャアはコロニーを背にしてBD−2に向き直った。
たちまち追いつき、ビームサーベルで突き掛かるBD−2。
薄氷を踏む思いでその攻めをいなし、シャアはもう一度BD−2に背を向けた。
逃がすまじと、BD−2は突進する。
だが、シャアにはこの期に及んで逃げを打とうなどというつもりは毛頭無かった。
バーニアを吹かしたBD−2は、予測に反し脚部スラスターを吹かして後ろに飛んだ百式を避けられない。
そして、その左手に逆手に握られたビームサーベルの一撃を。
成型ビームが、BD−2のジェネレーター脇に深々と突き刺さる。
そのまま間髪入れず機体を捻り、シャアの百式がBD−2の胴を斬り裂く。
ジェネレーターを裂かれたBD−2は、直後、大爆発を起こした。
無論、至近で爆発に巻き込まれた百式も無事ではいられない。
「く……勝ったとはいえ、これでは!」
百式のダメージを確認し、シャアは呻いた。
とりあえず致命的なダメージは避けられたが、各所のスラスター外装が吹き飛び、装甲にも内部フレームにも深
刻な痛手を負っている。
だが、ここで留まっているわけにはいかない。
「プルJ、プルB、無事でいろよ!」
叫びつつ、シャアはBD−3が待つ宙域へと向かった。
戦場から戦場へ移動する、その僅かな時間にシャアは考える。
EXAMとは、そもそも何なのか。
クルスト・モーゼスが組み上げた制御OS。
マリオン・ウェルチの魂を虜囚にした薄気味悪い機械。
ニュータイプと戦うための戦闘システム。
そのどれもが、本質とは微妙にかけ離れているような気がする。
クルストが唱えていたのは……ニュータイプを危険視する思想。
それは、ニュータイプを戦争の道具にしようというフラナガン機関でも異端として処理された。
連邦に亡命してまでEXAMを完成させようとしたクルストの妄執。
裁く者、EXAM。
ふと、シャアの感覚に何かが引っ掛かる。
EXAMが、クルストが裁くものとは?
問うまでもない。
ニュータイプ以外にありえないではないか。
その結論に戦慄しつつ、シャアはプルB、プルJが待つフィールドへと急いだ。

540 名前:漂流家族アクシズ外伝・3――裁き得ぬ者――(6/12) :04/01/29 00:03 ID:???
シャアがBD−2を撃破する少し前、プルB、プルJも綱渡りのような激戦を繰り広げていた。
「J! 距離をとれ!」
指示を出しつつ、プルBはビームライフルを連射しBD−3を牽制する。
BD−3は、それに対応しつつもプルJの百式を狙いビームを放つ。
だが、危ういところでプルJ機の加速が間に合い、噴射剤の煌きを残して何とか離脱に成功する。
プルBとプルJでは、一見軍隊式の行動に慣れ親しんでいるプルJの方が戦いに秀でているようにも感じるが、
実際には彼女の実直過ぎる性格が災いし、いざという時の応用力に富むプルBの方が対応力という点で上回る面
も多い。代わりに、指示に従い正確な行動を取る、という面では、プルJの方が確かに上手であった。
本来はスタンドプレイヤーだが指揮もこなせるプルBと、軍人気質で行動の正確なプルJ。決して、悪いコンビ
ではない。ここに指揮官兼参謀型のプルIが加われば、プルたちの中でも最強メンバーが揃う。
しかし、彼女たちは今、疑うべくも無く追い詰められていた。
二人掛かりで牽制し何とか持ち堪えているが、BD−3に対して決定打となるような策があるでもない。
ただ、神経の擦り切れる思いでシャアの到着を待ちつつ守りを固めるだけだ。
救いといえば、プルJは元よりこういった場合の忍耐力に秀でていたし、プルBもまた、納得ずくの行動であれ
ばそう簡単に折れるような軟弱な心は持ち合せていなかったという点だろう。
しかし、戦場は生き物だ。
状況というものは、常に変化する。
戦いのさなか、突如、BD−3がプルB、プルJのどちらでもない方角に首を巡らせた。
「何だ? 何かあったのか?」
疑問を感じつつも、プルBはこの機を逃すまじと立て続けにトリガーを引きビームの雨を降らせる。
だが、明らかに注意を逸らしていてもなお、BD−3はその攻撃を躱し切り五月蝿いとばかりに無造作な動きで
正確な応射を放つ。
さすがに、これはプルBも予期していたので危なげなく回避。
「あの方向……まさか!」
プルJの叫びに、プルBも頷く。
「ああ。シャアのいる方向だ」
まさか、BD−3がニュータイプの力を開放したシャアに反応したなどとは思いもよらない二人ではあったが、
今BD−3がシャアに注意を向けるということが甚だまずい事態であることはわかる。
「行かせるかっ! 大佐のところに、行かせるもんかっ!」
咆哮を上げ、プルJは一直線にBD−3に突進する。
「やめろ、J! 迂闊だ!」
プルBが悲鳴のように叫ぶが、それで止まるプルJでもない。
ビームライフルを乱射しつつBD−3との距離を一気に詰める。
さすがにBD−3もこれを無視することは出来ず、牽制のビームを放ちつつプルJの百式を迎え撃つべくサーベ
ルを抜き放つ。
使命感と、恐らくは情念から我を忘れたプルJは、委細構わず感覚を広げる。
感覚でそれを察したプルBは、今度こそ悲鳴を上げた。
「よせっ! それは駄目だ!」

541 名前:漂流家族アクシズ外伝・3――裁き得ぬ者――(7/12) :04/01/29 00:04 ID:???
「うあっ……!」
プルJの苦悶の声が聞こえる。
恐らく、あの悪意に触れたに違いない。
「ああ……! J! やめるんだ、J!」
猛烈な悪意の嵐に晒されるプルJを思い、うわごとのように叫ぶプルB。
だが、プルJはプルBが恐れるおぞましい意識をその魂に受けてなお、立ち向かう意志を失わなかった。
――大佐! やらせません、大佐!
その想いだけを拠り所に、必死で精神の暴風に抗いBD−3に鋭く斬り掛かる。
しかし、戦いは非情だ。それで彼我の実力差が埋まるものでもない。
むしろ、プルJの行動はBD−3の力と動きを活発にさせた。
ギラリとメインカメラを輝かせ、鋭角的な機動でプルJ機のサーベルを躱す。
手にしたビームサーベルが流れるような軌跡を描き、プルJの百式の左腕を無造作に斬って捨てる。
「……このっ!」
シャアに倣いゼロ距離射撃を志向するプルJ。
しかし、トリガーが引かれるよりも早く、BD−3は返す刀で百式の右腕をも吹き飛ばした。
止めとばかりに、プルJ機のコックピット目掛け横薙ぎに振るわれるBD−3のビームサーベル。
「J! この馬鹿ヤロウッ!」
そこへ、プルBの百式が文字通り割り込みプルJ機を弾き飛ばす。
身代わりにBD−3の斬撃を受けることになったプルBの百式は、下半身を綺麗に失うことになった。
更に、近距離から胸部ミサイルの追い撃ち。
ジェネレーターの爆発だけは免れ得たが、プルBの百式は完全に戦闘能力を失ってしまう。
プルJ機も至近で爆発に巻き込まれ、両腕に続き両の脚も半ば潰され使い物にならなくなった。
「プルB……どうして!?」
ようやく我に返ったプルJが、泣き出しそうな声で問う。
「どうもこうもあるかっ! 色ボケの大馬鹿ヤロウは、ほっとくと危なっかしくてしょうがないんだよ!」
毒づきながら、プルBは自分自身の行動を意外に思っていた。
あの場面で、プルJに構わずBD−3を撃っていれば、あるいは痛手を与えられたかもしれない。
そこで、何故プルJ機の救出を優先したのか。
多寡がシミュレーション、自分の性格からするとBD−3撃破を試みる方が自然だ。
シミュレーターとも思えないこのリアルな感触が、そうさせたのだろうか?
意外ではあったが、プルBは自分の行動に納得していた。
――そうか。いざという時、私はこんなことをしてしまうのか。
そう思う。
その結論は存外不愉快ではなかった。
「ごめん、プルB……私……」
「繰言なんてどうでもいい」
努めてにべも無い調子で言って、詫びるプルJを黙らせる。
「問題は――アイツだ」
「ブルー・ディスティニー……」
虚空に浮かぶBD−3は、戦う力を失ったMSになど興味が無いのか、あるいは更なる敵の来襲を予期してか、
プルB、プルJのことは眼中に無い様子で、シャアの百式のものと思われる噴射剤の輝きを見据えていた。

542 名前:漂流家族アクシズ外伝・3――裁き得ぬ者――(8/12) :04/01/29 00:05 ID:???
「プルJ! プルB!」
シャアが駆けつけた時には、既に百式が二機、無残な姿を晒していた。
プルBの乗機は下半身を丸ごともがれ、もはや機能を停止している。
プルJの機体は、両の腕を失い両脚もまともには機能していない。
「た、大佐……申し訳ありません」
「シャア、あれは、あれは無茶苦茶だ。勝ち目がない」
ノイズ混じりに、二人の声が返ってきた。
どうやら、何とかコックピットは無事だと知る。
「大丈夫だ。安心しろ」
僅かに安堵しつつそう返すが、安心しきるほどに余裕は無いとシャアは感じる。。
BD−2撃破に伴い受けた百式のダメージは深く、その挙句、プルB、プルJをまとめて撃破したBD−3と戦
わねばならない。
状況は、最悪に等しかった。
しかし――
「まだだ……まだ、終わらんよ!」
ここで終わるわけにはいかないのだ。
「EXAM……ニュータイプを狩る、妄執の狩人か」
シャアは、バーニアを吹かし向かってくるBD−3を捉えつつ呟いた。
「ならば、これはどうだ!?」
シャアは、全ての感覚を閉ざした。
ニュータイプが感覚を広げるのとは全く逆に、全ての感覚を閉ざしニュータイプであることを捨てる。
彼にとって、たいしたことではない。
そもそも意識しなければニュータイプたりえない、『出来損ないの』ニュータイプである彼には。
迫るBD−3を視界に捉えつつ、シャアは静かに深く息を吸い込んだ。
「ダッシュ、3、2、1、ターン、1、ロック、外す!」
口でカウントを刻み、シャアは僅かに機体を捻る。
空恐ろしくなるほど正確無比なBD−3の射撃は、その軽やかな機動で悠々躱された。
「ターン、1、ダッシュ、そこだ!!」
気合一閃、放たれたその一撃は、初めてEXAMマシンをまともに捉えた。
吹き飛ぶ、BD−3の左腕。
それを確認したシャアは、会心の笑みを浮かべて叫んだ。
「やはりそうか! EXAMは、ニュータイプが相手でなければ半分も力を発揮しない!」
そこから先は、もはやシャアの独壇場と言ってよかった。
必死に逃げ回り反撃を試みるBD−3だったが、逃げ道は次々と塞がれ、攻撃はもうかすりもしない。
読んでいるのだ、シャアは。
幾多の戦場で培った経験とニュータイプのものではない通常の感だけで。
BD−3の攻めと守り、その全てを読み尽くし常に先手を取り続ける。
まさに、赤い彗星の面目躍如。
その純然たる戦士の前に、EXAMはあまりに無力であった。
「私が赤い彗星と呼ばれたのは」
その異名で恐れられた頃の不敵な笑みを浮かべ、誰にとも無くシャアは宣言する。
「私が出来損ないのニュータイプだったからではない!」
BD−3の次の機動を読んだシャアは、哀れむように呟いた。
「EXAM、貴様の負けだ。ニュータイプという言葉で一括りに出来るほど、人は底の浅い生き物ではない」
そしてシャアは、静かにトリガーを引き絞り、最後の一撃を放つ。
結果は、見るまでもなくわかっていた。

543 名前:漂流家族アクシズ外伝・3――裁き得ぬ者――(9/12) :04/01/29 00:08 ID:???
「EXAMクラスタ、切り離しに成功! やったか!?」
叫ぶようなアムロの声に、プルIが応じる。
「わからん。システムは正常、しかし、まだ動き続けている」
その報告が終わらないうちに、シミュレーターのハッチがふたつ同時に開いた。
慌てて、手の空いている者たちがポッドに駆け寄る。
「プルB、大丈夫!?」
不安げにポッドを覗き込み尋ねるプルF、プルBは疲れきったかすれ声で答えた。
「ああ、何とか。墜とされてしまったのが、悔しいけどな」
反対側のポッドでは、プルDに肩を貸されて這い出てきたプルJに、プルKが心配そうな顔で声を掛けている。
「プルJ、顔色が悪いわ。少し横になっていた方が……」
「だ、大丈夫。それより、大佐は? プルGは? プルEの様子は、どう?」
「医務室には、プルCとプルLが張り付いているわ。デッキの方は、どうかしら?」
その遣り取りを遮るように、プルIが焦燥感を隠せぬ声を上げた。
「アムロ、EXAMクラスタが動作を停止しない。僅かだが、内部ポート間での通信もキャッチ」
ぎょっとして、アムロが応じる。
「そんな馬鹿な。確かに切断したはずだ」
もしかして、表面上上手くいったが実際にはまだ終わっていないのか?
しかし、だったら何故プルBとプルJは解放されたんだ?
「まだ、何かあるのか……?」
いくつもの疑問を感じつつ、アムロはそう呟いた。

虚空に漂いながら、シャアは焦燥を感じていた。
BD−1、BD−2、BD−3、それに、プルGが倒したMS−08TX……EXAMマシンは、全て撃破した。
プルBとプルJの機体は先程消え、恐らくはシミュレーターから切り離されたのだと思われる。
にも関わらず、相変わらずこの世界が終わらないのはどういうことか。
「何故だ? やはり、EXAMを墜とせばよいなどという、単純な問題ではなかったということか?」
根本的な部分に疑問を抱きつつ、シャアはニュータイプとしての感覚を広げてみた。
まだEXAMが死んでいないのであれば、これで何かしら動きがあるかもしれない。
そう期待して。
だが、シャアの感覚に潜り込んできたのは、意外なものだった。
『……独りは、嫌……独りは、寂しい……独りは、哀しい』
「プルE……? プルEなのか?」
驚愕するシャアに、声は答えなかった。
ただ、うわ言のように繰り返し訴えるだけ。
『……暗い……寒いよ、ここは……』
『……会いたい……みんな……一緒にいたい』
『……独りは……嫌』
シャアは、全ての合点がいったように思った。
「……そうか! 待っていろ、プルE」
そうだ。
彼女が囚われるとしたら、あの場所以外にはないではないか。
そしてそれならば、どうすればいいかは考えるまでもない。
シャアは、ボロボロに傷付いた百式を、静かにコロニーへ向けた。

544 名前:漂流家族アクシズ外伝・3――裁き得ぬ者――(10/12) :04/01/29 00:09 ID:???
コロニー内部には、シャアが予測した通りのものがあった。
見覚えのあるデッキ。
そこで、シャアは百式を降りた。
シミュレーターでそんなことが出来るわけがないのだが、不思議と違和感も感じず、そうすることが当然のよう
にハッチを開きデッキに降り立つ。
目をつぶっていても大して困らないほど歩き慣れた通路。
そこは、アクシズだった。
当然だ。
彼女は、アクシズしか知らないのだから。
しかし、彼女らの嬌声が聞こえてこないだけで、ここはなんと寂しく、恐ろしい場所であることか。
今更ながらに、シャアは今自分が抱えているものの重さを知る。
この重みが無ければ、自分はどうなっていただろう?
正直なところ、想像もつかない。
それほど、彼女たちは当たり前の、そしてかけがえの無い存在になっていた。
いつかは、巣立つ日が来るだろう。
そうでなければ、いけない。
だが、失うことだけは、決してあってはならないと思う。
ややあって、シャアは目的の場所に辿り着いた。
全てが、始まった場所。
彼女たちに出会い、こんな傍目にもふざけた、喜びに満ちた日々が始まった場所。
このカプセルの中で、あの子たちはどんな思いで眠っていたのだろう?
時を止めるのは、人にとって一番の拷問かもしれない。
たった一人で、いつ果てるとも知れぬ眠りに就く。
そんな責め苦を味わってきた彼女たちを、いったい誰が裁き得るというのか。
それどころか、せめてこの先は人より幸せにしてくれてもいいだろう?
運命を司る何者かが本当にいるのなら、シャアはそう主張したかった。
シャアは、そんなものがいるはずもない、と自嘲気味にかぶりを振ってカプセルの前に立つ。
――運命がどうだか知らないが、私にも出来ることはある。もし悪意が君の時間を止めたなら、私は君に目覚め
の刻を告げる鐘を鳴らそう。
「……プルE。来たぞ。この私、シャア・アズナブルが、君を解き放とう――もう一度」
今は閉ざされているカプセルを、次々開放するシャア。
プルGのカプセルを開いたところで、すぅっ、と何かが通り過ぎるのを感じる。
それで、シャアは脱落したプルGもここに囚われていたのだと気付いた。
目に見えない何かが、還ってゆくのを感じる。
そして最後に、プルEが眠っていたカプセルの蓋を、静かに開いた。
瞳では決して捉えられないが確かにそこにいる何かが、抱きつくようにシャアの身を包む。
それが己を抱いたままゆっくりと還るのを、シャアはただ優しく見守り、戦士のものではない柔らかな笑みを浮
かべた。

545 名前:漂流家族アクシズ外伝・3――裁き得ぬ者――(11/12) :04/01/29 00:11 ID:???
目覚めた時、プルEは目の前にいた人にいきなり抱きついた。
「E! 目が覚めたのか!?」
驚きと喜びの入り混じる声で、抱きつかれたアムロは訊く。
周囲で、歓声が上がる。
ようやくEXAMクラスタの停止を確認し、シャアとプルGを案じてMSデッキに向かったプルI、プルJを除
く全員が医務室に集まっていた。
「やったーーーーっ! Eが起きたぞっ!」
プルDのように跳び上がって喜びを示す者もいれば。
「うぅ、よかったよぉ、プルE」
プルLのように涙ぐむ者もいる。
当のプルEは、アムロに抱きついたまま何事か呟き、ゆっくりと周囲を見回してから、恥ずかしそうに、コクン、
と小さく頷いた。
その様子がいつものプルEそのものだったから、周りでは更に歓声が広がる。
「そうそう、やっぱEはこんな感じじゃなくっちゃな!」
「よかったわ、本当に。上手くいって」
プルDとプルKの感想を聞きながら、プルFは懐から取り出した手帳に何かしら印を付けている。
「シャアの株が若干上昇、と。先週の下降分くらいは、取り戻したかしら?」
その呟きはとりあえず聞かなかったことにしよう、とアムロは思った。

医務室の入り口で、シャアは震えつつ固まっていた。
――くっ! アムロ、それは私の役目だったのに……!
プルEに抱きつかれているアムロに羨望の眼差しを送りつつ、なんとも子供じみたことを考える元総帥。
その背を、プルGが勢いよく叩く。
「やったな、シャア! ちょっとは見直したぜ!」
そう言って、照れ臭そうに笑う。
プルGは、途中からプルEと同様EXAMに囚われ最後まで経緯を知っていた。
だから、ちょっと恥ずかしくてそんな態度をとってしまう。
「あ、ああ、そうか……それはよかった」
シャアは現実に引き戻され慌てて誤魔化すが、既に冷たい視線が二組向けられていた。
「大佐……」
「シャア、何がそんなに不服なのかな? 返答と態度いかんでは、色々と考えねばならんのだが」
「い、いや、何でもない。何でもないとも!」
冷や汗かきつつ言い訳し、このあと吊るされず彼女たちの御機嫌をとるためにどうすればよいか、などと思案せ
ねばならないシャアは、身から出た錆とはいえ苦労の割に結構不幸だった。
もっとも、シャアが羨むアムロは。
「……? シャアじゃない……」
などと耳元で呟かれ、それなりにショックだったのだが。

546 名前:漂流家族アクシズ外伝・3――裁き得ぬ者――(12/12) :04/01/29 00:12 ID:???
その後、シャアに気付いたプルEが改めて彼に飛びついたり、それでプルJが奇声を上げたり、プルIが頬を引
きつらせたり、これ幸いと腰に手を回したシャアが結局シバかれたり、ある意味いつも通りの騒動が繰り広げら
れたのだが、とりあえず今はおく。
あれこれと状況を再度確認したり、一部から持ち上がった百式再生案をアムロが却下したり、例によって吊るさ
れそうになったシャアが珍しく恩赦を受けたりといった辺りも、今はいいだろう。
「そういうわけで、メンテナンスが済むまでシミュレーターは使用禁止。今後、妙なものを拾ったら必ず俺かシ
 ャアに相談するように。あと、シャア、お前には改めて話があるから後で顔を貸せ」
「は〜い」
「承知した……」
プルたちとシャアの応答に頷き、アムロは肩の力を抜いて相好を崩した。
「じゃ、とりあえずメシにしよう。色々あって、おなかも減っただろう?」
わいわい騒ぎつつ、プルたちが食堂に向かう。
シャアも、プルIとプルJにつっつかれながらトボトボとつき従った。
アムロは、そんないつもの風景に安堵しつつ廊下を歩み、ふと、シミュレーター・ルームの扉が開けっ放しにな
っているのに気付く。
部屋の電気は既に落とされており、暗闇に続くその入り口は何かしら不気味なものにも見えた。
――妙なことがあった後だからな。ちょっと敏感になりすぎか?
そう思いつつ部屋の中を覗き込み、念のためシステムがダウンしていることを確認。
「まったく、人騒がせなプログラムだったな……」
そう言って、アムロは扉を閉じた。



暗い部屋の中。
ひっそりと、消えていたはずのモニターにうっすら光がともる。
そこに浮かぶ文字は――

E X A M

――だがやがて、その亡霊は消えた。



消えたはず、である。

547 名前:外伝・イイワケ :04/01/29 00:15 ID:???
※登場するMS及びNTは、実際の時代背景と多少異なります。

……というのはブルー三部作のインストカードのパクリですが。(笑)
表題にもある通り外伝ということで。
書くと言ってしまったので一応書きました。
お気に召さない方は無視しちゃってください。
あと、EXAMとかの解釈は歪めてしまってますが御勘弁。
プルたちを戦闘に駆り出すのはどーかと思うんですが、あくまでシミュレーターでのRPG的なモンってことで。

なお、最後の数行に深い意味はありません。
『AirWolf』の名話『Moffett's Ghost』をパク……意識しただけで。


――おまけ・ボツ版エンディング――

シャア「EXAMが再戦を望んでいる!?」
アムロ「ああ。Gが調子に乗って自分からEXAMに取り込まれてなぁ……」
プルI「赤い彗星の雰囲気を出すため、ほら、仮面も用意してあるぞ」
シャア「い、嫌だ! 私はもうやらんぞ!」
プルJ「大丈夫です! 大佐なら勝てます!」
シャア「嫌だ嫌だ嫌だ!」

ゴネるシャアに無理矢理仮面を被せるアムロ。

アムロ「往生際が悪いぞ、シャア! Gは既にお前を倒すべく猛特訓に入ってるんだ!」

(イメージ映像)何故かパーカーを羽織ってランニングするプルG。
(リアルタイム映像)蒼ざめるシャア(仮面装備)。
(イメージ映像)どういうわけか強烈なブローでサンドバッグをブチ破るプルG。
(リアルタイム映像)更に蒼ざめるシャア(なおも仮面装備)。
(イメージ映像)よくわからないがトレーニングマシン『起き上がりアズナブル』を激しく乱打するプルG。
(リアルタイム映像)まだまだ蒼ざめるシャア(しつこく仮面装備)。

――そしてシャア・アズナブルの伝説は続く!


……パクリの上にダメダメだ。(笑)

550 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/29 00:29 ID:???
               ∩ 更にグッジョブ
               ( ⌒)     ∩_ _
              /,. ノ     i .,,E)
             ./ /"    / /" .
   _n  グッジョブ!! ./ /_、_   / ノ'
  ( l    _、_   / / ,_ノ` )/ /_、_    とにかくグッジョブ!!
   \ \ ( <_,` )(       /( ,_ノ` )      n
     ヽ___ ̄ ̄ ノ ヽ     |  ̄     \    ( E)
       /    /   \   ヽフ    / ヽ ヽ_//

551 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/29 00:38 ID:???
>>547
仮面ボクサーかよ!w

552 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/29 00:39 ID:???
やっぱ背景は書き割りでプリンの山なのか?

553 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/29 00:58 ID:???
リアルタイムでドキドキしながら読んでました
感動です!!神です!!!

でもシャアがカッコ良過ぎ
EXAMはシュミレーション上でアムロ搭乗のRX-78を撃破したことがあると
聞いたことがありますが
となるとシャア以外には墜とせないだろうなヤッパリ
しばらくシャアはハーレム状態だなチクショウ


554 名前:1/4 :04/01/29 01:26 ID:???
シャア「眠っていたのか・・・。」

ふと目を覚ますとそこはいつも皆で集まる台所。
テーブルの方にはアムロとプル達数人がなにやら楽しそうに話している。
シャア「ハハハ、何を話しているんだ?」
にこやかに会話に加わろうとしするシャア。しかし、
プルs「シャアは来ないで。」
アムロ「・・・あっちに行っててくれないか?」
シャア「なっ!?」

一斉に言われさすがの彗星もたじろぐ。いつもとは違う冷たい視線が
その場の全員から自分にふりかけられ、思わずその場を後ずさるシャア。
シャア(な、なにかがおかしい!)
昨日の事を思い出して見ても別にコレといった事は何も無かった。
・・・ハズ。
そんな事を考えていたその時、残りのプル達が怒った顔をして部屋に入ってきた。
オロオロしてるシャアを無視して、一同アムロに詰め寄る。

プルF「シャアのパンツと私たちの衣服は一緒に洗濯しないでって言ったでしょ!?」
シャア「何っ!!?」
今度はシャアに目線をチラリと向ける。
プルH「私たちより先にお風呂に入らないでって言ったでしょう!?」
シャア「んなっ!?(風呂は共同だったのか?)」
プルC「いつもジャージでいてオジサン臭い・・・不潔。」
シャア「ぐぅ!!(燃える男の赤ジャージを!)」
プルJ「タオルは自分専用の物以外使わないで下さい・・・」
シャア「!!!(プルJまで!)」

555 名前:2/4 :04/01/29 01:27 ID:???
シャア(ま、まさか・・・)
プル達全員がキッとシャアを睨む。
シャア(こ、これが思春期か・・・!)
その場で倒れるのをグッとこらえるシャア。

シャア「ア、アムロ、なんとか言ってやってくれ・・・」
アムロ「ごめんごめん、すっかり忘れてた。気を付けるよ。
それよりも晩ご飯にしよう。今日はスパムのホワイトソース和えだー。」
にこやかに場を納めるアムロ。シャアの事は鮮やかに無視。
プルs「やったー!アムロ大好きー!」
アムロの事は別に平気らしい。(母親役だから?)納得いかないシャア。
しかし、そんな駄目オトコ誰も気にせず皆テーブルにまっしぐら。
一同「いただきまーす!」
プルI「!私のトマトを食べたな!?」
プルG「いーじゃん!ケチケチするなよ!」
プルB「人参いらない・・・。」
アムロ「オイオイ、好き嫌いしちゃ駄目だろう?」
賑やかな食卓の風景。しかし全く会話に入れない男一人。
シャア(これでは窓際族だよ!)

いつもと様子が違うのはプルsだけではなかった。
なぜかアムロもやけに手厳しい。話しかけてみてもなぜかトゲトゲしい。
少しでも文句を言おうものならすぐに口論となった。
いつもの口論以上の激しいプレッシャーを感じる。
さらにプル達は口論のたび全員がアムロに加勢した。
そして向こうから話してくる事は全く無かった。
もちろんアクシズ名物のマウントも無く、もしかしたらアレは
喧嘩するほど仲がいい、と言う意味だったのか?と思った。

556 名前:3/4 :04/01/29 01:28 ID:???
シャア(やってられん、やってられんよ!!)
昼間から仕事を放り出して一人酒。すぐに酔いが回り、♪シャア!シャア!と口ずさむ始末。
駄目オトコ(36)独身無職、ここに極まる。
そして、その様子を影から覗きため息をつく一同。

気がついたらもう次の日の朝だった。
いつもなら起き出したプル達がぎゃあぎゃあと騒ぎだしやかましいのに、
今日はやけに静かだった。先に朝食を食べているのかな?と思い、
のそのそと部屋にいくとなぜか誰一人として居ない(ハロも)。
よく見るとテーブルの上に手紙が一枚置いてある。そこには一言。

「 W B に 帰 ら せ て い た だ く 。 
               アムロ・レイとプル一同(ハロも)」

・・・シャアは身体が石になってガラガラと崩れる感覚を覚えた。


「大佐、大佐、起きて下さい!」
ハッと目を開けるとそこにはプルJの姿が。
今、自分がいる場所はサザビーのコクピットの中だった。
点検をしていて、つい眠ってしまったらしい。
プルJ「みんな大佐がいないって心配してずっと探してたんですよ!」
プルA「おーい!みんな、見つかったって!」
サザビーの下からプルAが叫ぶ。向こうから沢山の足音が近づいてきた。
アムロ「全く・・・、人騒がせな・・・。」
探し疲れたのか、眠っているプルLを背負ったアムロと
他のプル達が次々とやってくる。
プルK「押し入れで眠っちゃう子供みたいですね。」
プルD「まさかそんな所に居るとはな〜」
プルG「家出したのかと思ったよ!」
プルE「よかった・・・。」
全員の顔に安堵の色が浮かぶ。

557 名前:4/4 :04/01/29 01:29 ID:???
シャア「夢・・・・・」
プルJ「早く下に降りま・・・!!」
シャアは目の前のプルJを思わずギュウ、と抱きしめる。
何が起こったかまだ頭で理解できず固まるプルJを連れて、
サザビーを軽やかに降りるシャア。一部始終をみて固まる一同。

アムロ「・・・まだ寝ぼけてるみたいだから起こしてやるよ!!」
いつもと同じ様にコスモを燃やしてマウントしようとするアムロ。
しかしシャアの表情は逆にハレバレとしていた。
シャア「これからも私があこぎな事をした時は頼むぞ、アムロ。」
アムロ「(ポカーン)シャア、酸素欠乏症に・・・!」
シャア「私は 正 常 だ!」
「ハーイ!そこまで!!」
突然の高く大きな声にアムロもマウントを止める。そこに現れたのは、

「ま さ か の 時 の

      ⌒⌒ヽ   ⌒⌒ヽ     ⌒⌒ヽ
    (γ ノ|ノ)从 )(γ ノ|ノ)从 ) (γ ノ|ノ)从 )
     ‖* ̄_ ̄ノ  ‖*´ー`ノ  ‖*^∀^ノ
     丿~ † ~ヾ  丿~ † ~ヾ   丿~ † ~ヾ
     ん  八  ) ん 人  )  ん 人  )
     んU〜Uゝ  んU〜Uゝ   んU〜Uゝ

               ア ク シ ズ 弾 劾 裁 判!」

唐突な展開にポカーンとするシャア。
シャア「な、何故・・・?」
プルD「被告人は、みんなを心配させたうえに、プルJをリンゴ病に
発病させたため・・・・」
シャア「ま、まさか、タオルを別々にする刑か!?」
プルF「ハァ!?そんな軽い刑じゃないわよ!サウナ室10分の刑!」
シャア「ホッ・・・って何だと!?」
プルJは恥ずかしさのあまり部屋にひきこもったため、弁護人は誰一人
いなかった。赤い彗星は自らの行いを激しく後悔したと言う・・・。

プルA「おーい、生きてる?」
プルB「なんか笑ってるように見えるけど。・・・虚ろな目で。」
プルL「少し怖いかも・・・」
プルG「反省の色が無いからもう10分追加するか。」
シャアは熱気とプル達の笑い声に包まれながら今の幸せを
噛み締めていた。きっと、しばらくは続く幸せを。
                            おしまい

574 名前:小さな嘘(1/3) :04/01/29 23:19 ID:???

 通路の角でプルEとでくわしたアムロは、Eが慌てて背後に隠した物を覗き込んで
首をかしげた。
「どうしたんだい?救急箱なんか持って。誰かケガしたのか?」
 プルE自身ではないだろう、とアムロは思った。彼女はどんな小さなケガでも
自分達に手当てしてもらいたがる。となると他の誰かだろうが、コソコソしてるのは
悪戯でもしてたからか?
「…プルD…。」
「プルD?」
 アムロは少し険しい表情になった。プル'sは皆、個性的で元気だが、中でもお転婆
と言えるのがプルAとプルDだった。特にDは行動が大雑把で羽目を外すことが多く、
いつか大ケガするのではないかと心配していたのだ。自分で来れないほどのケガなのか?
 見て分かる酷いケガならすぐ自分達を呼ぶだろうが、後から症状が出る場合もある。
「どんなケガだい?今どこに居るの?」
「…縫ってて針…お父さん壊れて…。」
 それを聞いてアムロは表情をゆるめた。
「なんだ、裁縫の針を刺したのか。でもプルD?プルCじゃなくて?」
 無表情のままだが微妙に視線をそらすプルEを見て、アムロは更に問いかけた。
「もしかしてDがLの"お父さん"を壊しちゃったのかい?」
 そこまで言われてプルEは内心焦った。どうしよう。プルDが悪い子だって思われる。
アムロ達に嫌われちゃう!
 しばらく俯いて黙っていたプルEは一大決心をして顔を上げた。
「わたしが"お父さん"壊したの。Dが直してくれたの。」
 自分でも驚くほどはっきり言った。
 アムロも驚いた。あっけにとられて、しかしすぐに事態を理解した。
 "お父さん"を壊したのはプルDだ。間違いない。本当にプルEが壊したのなら
修理はプルCかプルGに頼むはずだから。
 おそらく、ふざけていての弾みだったんだろう。あの子のことだから自分で直すと
言い張ったに違いない。慣れない手つきで、きっと指先を傷だらけにして。
 この子も、ただでさえ話すのが苦手な上に甘えたがりなのに、姉妹をかばう為に
精一杯の勇気を出したんだろうな。

575 名前:小さな嘘(2/3) :04/01/29 23:20 ID:???

「プルEもプルDもいい子だね。」
 普段は殆ど感情を顔に出すことの無いプルEだが、アムロの言葉を聞いて目を
まん丸くした。プルLが大事にしてる"お父さん"を壊したって言ったのに…?
「あのね、プルE。」
 アムロはプルEの肩に手を置くと、促すように通路を歩き出した。
「何一つ過ちを犯さずに生きていくのはとても難しいんだ。というより不可能かも
しれない。」
 プルEはアムロの手の温かさを感じながら並んで歩いた。
「やるつもりが無くてやっちゃう時もあるし、判らずにやってしまう時もある。
…判っててもやらずにいられない時もある。」
 プルEはアムロを見上げた。アムロもEを見下ろしていた。その目はとても
優しかったけれど、何だか寂しそうだとEは思った。
 やっぱり"お父さん"を壊しちゃったこと悲しんでるのかな。
「でもね」
 アムロは微笑んだまま言葉を続けた。
「大事なのはその後なんだ。悪かったって思ったなら、ちゃんと謝って償うための
努力をしなくちゃならない。言ってること解るね。」
プルEはコクンとうなずいた。
「"お父さん"を壊しちゃった子は自分でそれを直したんだね。」
「…(コクン)」
「ごめんなさい、は言ったのかな?」
「…(フルフル)」
「ちゃんと言えるよね?」
「…(コクン)」
「だったら大丈夫だ。」
 そう言ってアムロはプルEの頭を撫でた。その温かさがEにはとても嬉しかった。

576 名前:小さな嘘(3/3) :04/01/29 23:21 ID:???

「ほう、そんな事があったのか。」
「ああ。最近、あの子達には驚かされてばっかりだ。」
 プル'sが寝静まった夜のアクシズの管制室で、大人達はモニターを前に今後の
軌道修正の予定について相談していた。
 シャアの頭脳がいかに大胆かつ精密な計画を導き出そうと、アムロの知識と技術
なくしてシステムは動かない。アクシズにおいて二人は正しく車の両輪であった。 
 そして仕事の話が一段落すると、どちらからともなく他愛無い話を始めた。
「可愛いものではないか。ぬいぐるみ一つにそこまで一所懸命になるとは。」
「そうだな。本当に皆いい子だよ。」
 そう言ってから二人は少しの間沈黙した。
 自分達は己の過ちに対する謝罪の言葉も贖罪の方法も知らない。今こうやって
プル達を守り育てていることも、傍から見れば偽善行為だろう。
 この旅が終わる時、それは彼女らが自分達の真実の姿を知る時だ。英雄という名の
殺戮マシンと理想を掲げたジェノサイダー。
 それでも今だけは嘘をついていたい。共に過ごすこの時間が何よりも大切だから。
「プルEといえば、先日私が君に殴られた後『痛いの飛んでいけ』と、おまじないを
かけてくれたぞ。その仕草がまた可愛らしくてなぁ…。」
「それさえ無きゃ、おまえについて見直すんだがな。」
 アムロはだらしなく思い出し笑いするシャアの顔を見て一つため息をついた後、
あの子達に魅せられているのは自分も同じかもしれないと思って小さく笑った。

580 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/30 02:04 ID:???
「私、シャア・アズナブルがアムロにコーヒーを入れさせると、」

     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     | エエーイ、私にタンポポコーヒーを飲めというのかアムロ!!
     | ________________________
      V         r'⌒⌒^'、
    r⌒⌒⌒、      ( rνyy'ソ  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ζλノ'yメλ ___ .ヾ ゚一゚ノ < 貴様にコーヒー豆はもったいない
    ヾ ▼Дノ /    │.( ニつ つ△\_______________
    E彡、 ¥ /∬ 凸 │ |\|/||ヽ 目\  \
 ┏ / `、二つc凵 日 │ |  |  ||│ヽ 凸| ̄ ̄|
 ┃(__ /      │(_(__).\|  |\.|    |
 ┗┳┳./ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|         \|  |    |
   ┃┃(___|        .|            \ |__|
   ┻┻   |_______|


 |⌒⌒^、 |       1.タンポポの根をよく洗い刻んで新聞紙、ざるなどの上でよく乾燥させます。
 | rν'ソ |       2.乾燥させた根を厚手のフライパンで20分程やや焦げ目が付くまで炒ります。
 |ヾ  ゚ノ  |       3.よくさましてから、ミキサーなどで粉砕してフライパンに戻しさらに香ばしく炒ります。
 |/__( つ¶ |r'⌒`⌒\. 4.小さじ2のタンポポコーヒーに対して2杯の目盛りまで水を入れ、
 |(( ,/つ__ζメ )イy  |   コーヒーを入れる要領でドリップします。
 |::::::::::::: ∠▼=ミ  |  (「タンポポコーヒー 作り方」で検索すれば見つかるページ参照)
 |::::::::::::::::::.|.レ .イww人 
 |::::::::::::::::: | E彡    ヽ.)) カサカサ
 |::::::::::::::::: |、_ソ )    ヽ

というわけで、コーヒー当番のネタがあったプルFを使おうと企んでみたり。

601 名前:ブラックボックス(1/4) :04/01/31 13:46 ID:???
アクシズの中で、一番不要との悪名高いアムロのジャンク部屋。
アムロは宝の山だと言い張っているが、他のメンバーから見ればただのゴミ山だった。
今回、その部屋のジャンクが増えすぎてしまい、これ以上ジャンクが入りきらなくなってしまった為、一家総出でここより広い部屋へお引越しすることになった。


「………私には、全部ゴミにしか見えんが…」
シャアがそびえたつ山を見上げて呟く。
それに合わせる形で、シャアの横に立っていた(ベストポジションを狙って)プルIも呟く。
「直せばそれなりに使えん事もないのだろうがな。だがやはり、捨ててしまった方が早いだろう」
山の頂上からアムロが返す。
「冗談じゃない。これは全て使えるものだぞ!? …このチップを修理すれば、何かのAIとして使えるだろうし、このコンポだって、そこの操縦桿だって。」
「なら、いつそれを使う機会があるのですか?」
「そ、それは……………」
何かの残骸をいちいち取り上げながら力説するアムロに、プルKの鋭いツッコミが入る。プルKは押し黙ってしまった登山家に更に追い打ちをかけた。
「確かに、直せば使えるものばかりなのでしょうが、コンポが直っても聴ける曲がなければ意味はないし、操縦桿も入れるMSがなければ邪魔なだけのオブジェです。そこの掃除機だって、この間アムロが直した他の物が既にあります」
「ハハハ、だそうだアムロ。諦めろ」
プルKの言葉のボディーブローが一段落ついたのを見計らい、シャアは心底楽しそうに適当なジャンクを放り投げた。
「! や、やめろ、シャア!!」
「よし、それでは、今日の引越しは中止だ。これからは大掃除を始めるぞ」
「は〜い!」 「了解した」 「わかりました」 「よっしゃ!」 「………(首を縦に振る)」
「止めてくれ〜〜〜!!!」

602 名前:ブラックボックス(2/4) :04/01/31 13:46 ID:???
と、そんないつもと立場の逆転した家族を満足げな微笑で眺めていたプルHだったが、何かに気付き、ふと足元に目を移した。
「? 何かしら」
そこには高級そうな黒い箱が転がっていた。

「どうした、プルH」
「箱が」
「箱?」
「開けてみるわ…」
箱を拾い上げて、慎重にそれを開けるプルHに全員の視線が集まる。

「!」

箱を開けた瞬間プルHは、クスリ、とアムロに向かって謎の笑みを浮かべた。
続いて箱を覗きこんだプルAとプルJはそのまま固まってしまう。
3人の反応を見て、シャアも箱に近寄っていく。
その後、口に手をあててアムロに妙な視線を向けるシャア。
他のプル'Sもシャアと似たような反応してアムロを見つめる。

「お、おい、どうしたんだ?」

この場で箱の中身を見ていないのはアムロだけとなる。
プル'S+シャアから発せられる奇妙なプレッシャーを感じ取ったアムロは、今まで繰り広げてきたどんな修羅場よりも今の状況がまずいことを悟った。

「女王様………」
「は?」

ボソリ、と呟くプルE。

「アムロ、まさか君にこのような趣味があったとは」
「…何のことだ?」

プルHが開けた黒い箱の中身。それは―――

603 名前:ブラックボックス(3/4) :04/01/31 13:47 ID:???
「蝶をモチーフにしたと思われる珍妙な仮面」
「すっげー痛そうだな、このムチ」
「これはまた…、趣味の悪いレオタードですね」
「私、網タイツなんて初めて見たよ」

「――――――!?」

アムロは顎が外れそうなくらいに大きく口を開けて硬直した。
狼狽するアムロを見て、プルBが言う。
「別に、お前の趣味なら私は何も言わん。こんな趣味、普通は人に隠しておきたいものであるだろうからな。それを開けて見てしまったこちらが悪い」
「ち、違う。誤解だ!?」
「ん? 言い訳か。見苦しいぞアムロ」

箱の中には、女王様といわれる方が愛用する着衣や道具が大事そうに収められていた。

「だから、こんな箱、拾った覚えはない!」
「本当かー?」
「本当!!」
「ジャンクは宝の山なんでしょう?」
「くぅっ……!!」

604 名前:ブラックボックス(4/4) :04/01/31 13:48 ID:???
必死にプル達の誤解を解こうとしているアムロをぼんやり眺めて、シャアは考えていた。

(……あの箱が紛れ込んでいたのはアムロの言う通りただの偶然なのだろうが…。考えてみれば、アムロの周りには気の強い女性が多かった気がするな。ララァにしろ、ベルトーチカにしろ。もし、アムロの好みがああいった女性なのだとしたら、まさか、本当に…?)

恐ろしい結論に辿り着きそうになったシャアは思考をここで止めた。これ以上思考を巡らせたら、宇宙で壮絶な戦いを繰り広げてきた、最高で、最悪のライバルに自分の中で抱いていた期待や羨望の感情が核弾頭で跡形もなく吹き飛ばされそうな気がしたからだった。

しかし、そこでシャアは、新たな事に気付いてしまった。
(プル達は、どこであんな情報を知ったのだ?)

シャアはため息をつくと、いつのまにか近くに立っていたプルHに「どうも頭痛がするから、少し休んでくる」と一言告げると、そのまま逃げるようにその場を立ち去った。もう何も考えないことにした。
そんなシャアの心のうちを知ってか知らずか、プルHも一言
「お大事に」
と呟くだけだった。


608 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/01/31 19:04 ID:???
とある日、シャアはプル達が耳慣れない歌を歌っているのを偶然聞いてしまった。

 「休みの日には トドみたいでさ
 ゴロゴロしてて あくびして
 弾劾裁判 やらかして
 天井に吊るされ 揺れている

 だ け ど よ

 昼間のシャアは ちょっとちがう♪
 昼間のシャアは 光ってる♪
 昼間のシャアは いい汗かいてる♪
 昼間のシャアは 男だぜ♪

 カッコイー」

「アムロ―――ッ!! なんだねあの歌はっ!」
「…いつもスパムの歌では情操教育上悪かろうと思ったんだが。何をそんなに怒っている?」
「歌詞が気にいらない」
「お前の立場向上も考えた内容なんだが」
「それはいい。だが”トドみたい”とは失礼ではないかっ!
私は体型の維持にはいつも気を使っているのだよ!」

その様子をうっかり物陰から覗いていたプルF
「…突っ込むポイントはそこなんですね、シャア。クスクス」

609 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/01 00:19 ID:???
>>608
乙!
オチのFがいい味出してるw

610 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/01 02:06 ID:???
>>608の後日、アムロはプル達が耳慣れない歌を歌っているのを偶然聞いてしまった。

 「アムロさん 夜なべをして
 レースを編んでくれた♪

 軍用ツナギじゃ しょうもなかろと
 せっせと編んだだよ♪

 ふるさとの地球はとおい
 せめて腹巻送りたい♪」

「………シャアァァァァッ!!」
「何を怒っているアムロ。私はお前の考えを取り入れたのだぞ。
確かに歌による情操教育は大切だからな、ふふん」
「だからってなあ…」
「それにお前の事を思いやって歌詞を考えたのだぞ。感謝して欲しい物だな」
「どういうことだ?」
「一行目は本当は”アムロママ”だったのだ。まあそっちの方が実情に合っていると思うがな」
「!!!!!」

        丶     r'⌒⌒^'、 
         ヽ\\ヽ(m#νy'ソ/m)//
         \ (m ヽ(#゚ー゚ノ/m)/┓
         ┏丶\(m\  m)// ○
         ○ (m\(m (m ○/
              (┗○/メ""ミ)
           ミヘ丿 ∩#∀▼||l 
            (ヽ_ノゝ __ノ 

やはりこの様子をこっそり見ていたプルF
「真実を突かれると人は激怒するものですものね。ウフフフフ」

611 名前:白い奇跡(1/7) :04/02/01 04:34 ID:???
事の発端は、シャアの不手際であった。
「シャア、A−04番の散布ノズルが何だかおかしいみたいです。見てもらえませんか?」
「ノズルが? Aナンバーは、天井のやつだったな」
プルKに要請にそう答え、シャアは首にかけた手拭いで額に薄っすら浮かんだ汗を拭いつつトラクターの脇に備
え付けてある脚立を取りに向かう。
その姿は、MSに乗れば万夫不当、敵味方誰もの耳目を集めずにはおかない稀代のスーパーエース、壇上にあれ
ば独特の舌鋒も鋭く人心を掴んで止まない天性の指導者、スペースノイドの清濁入り混じる希望と期待を一身に
背負い一時代を築いた英雄、の姿にはとても見えない。
せいぜい、趣味で庭弄りに励む田舎の紳士、といったところだ。
今日の仕事は、プルD、プルF、プルKを連れての農作業。
アクシズにおいてシャアが参画できる、数少ない肉体労働のひとつである。
「4番は、どこだったかな。案内してくれるか?」
脚立を肩に掛け、プルKに問うシャア。
実のところは場所を知らないのではなく、単にプルKを連れて回りたいだけであったりする。
戦場を離れMSを降りた途端「ダメな人」にジョブチェンジする男、シャア・アズナブル。
こんな調子だから、高値安定のアムロ株に比べ、シャアの株は激しく乱高下するのだが。
そんな風に思いつつも、プルFは何も言わず二人を見送った。
どうせ、劣化したパーツがずれてノズルが詰まったとか、そんなことに違いない。
特に面白そうでもなかったし、幾らシャアでも白昼堂々プルDやプルFの目がある中で不穏当な真似はしないだ
ろう、と考えたからだ。
しかし、プルFの認識は甘いと言わざるを得ない。
周囲がどうであろうが、本人にその気があろうが無かろうが、事態をのっぴきならない方向に転がしてしまうの
が、シャア・アズナブルという男なのである。面白いかどうかは別にして。
「どうですか?」
脚立を押さえながら訊いて来るプルKに、シャアはわざわざ視線を向けて答える。
「何かが詰まっているようだな。まあ、アムロを呼ぶほどのことでもないだろう」
アムロほど広範かつ専門的な知識は無いが、シャアとてMS乗りとして正統な訓練を受けて来た経験がある。そ
のカリキュラムには、機械整備の訓練も含まれていたから、ちょっとした修理ぐらいはこなせるのである。
が、操作や操縦は別にして、やはりメカニクスの取り扱いに関してシャアの手際はアムロより遥かに低い。スキ
ル的な問題もあろうが、それ以前の問題としてメカニクスに対する意識が低いのだ。
これがアムロであれば、ノズルをどうこうする前に一旦散布システム全体の水を止めたはずである。
「む? おかしいな、ここがこうなって……ええいっ、この私にバルブが押さえられんとは!」
哀れむべきかな、現実に修理にあたったのはシャアであり、目の前のノズルが止まっている状態だけを捉え、1
番から128番まである散布システムAラインにどれだけの水圧か掛けられているか、ということに思い至らず、
水を止めるという簡単な配慮を思いつきもしなかった。
結果。
「ぬぶぅわぁっ!?」
「きゃっ!」
制御バルブごと吹き飛び、思い切り噴射を開始するB−04番散布ノズル。既にノズルは無いが。
集中豪雨、というか鉄砲水が巻き起こり、辺りは水浸し。
当然、ノズルの目の前にいたシャアも、真下にいたプルKも濡れ鼠である。
更に、強烈な水圧に耐えかねて、シャアを載せた脚立がグラリと傾く。
そして、プルKの膂力では一度バランスを崩したそれを立て直すのは困難で、ついでに濡れた手は非常に滑りや
すかった。
結果、シャアは数メートルの高さから畑へ墜落。
よく耕かされた比較的地面が柔らかな場所へ落ちたのが救いであったが。
洒落にならなかったのは、激しい水流が制御パネルを直撃したことである。
途端に、火花が散り鳴り響くエマージェンシー・コール。
「いかん! みんな、早急に退避を!」
指示を出しつつ、落ちたる赤い彗星は未だ呆然とするプルKを小脇に抱えてダッシュ。
「え? えっ? ええぇーーーーっ!?」
こうして、第二農耕ブロック(通称シャア農園)は壊滅した。
この影響で臨時に非常に厳しい水量規制が敷かれ、更に食卓が若干寂しくなるという事態が発生したため、赤い
彗星株は記録的な大暴落を起こしたのであった。

612 名前:白い奇跡(2/7) :04/02/01 04:36 ID:???
翌日。
『シャア、外壁の修復を完了した。空気制御弁をオープンしてくれ』
「了解した。制御弁開放……あとは、結果待ちだな。気圧が戻り次第確認する」
『OK。νガンダム、アムロ。これより帰還する』
農耕ブロック前の隔壁脇端末からアムロと通信していたシャアは、それを聞いて通話回線を落とした。
何故管制室ではなくこんなところから通信しているかというと、プルたちの冷たい視線に堪えられなかったから
である。
実のところ食料生産計画においては壊滅した第二農耕ブロックの比重は微々たるものだったのだが、プルたちの
お気に入りであるシャワーに制限が掛けられたのが痛かった。
親シャア派であるプルIでさえも、弁護のしようが無い、と匙を投げ、プルJですら暗い顔をして無言でかぶり
を振るしかないような状態だ。アクシズ弾劾裁判の開廷も、時間の問題であろうと思われた。
だが、運命というものは、えてして皮肉なものだ。
結論から言えば、この日アクシズ一家は弾劾裁判どころではなく、シャアの罪は有耶無耶のうちに不問に附され
ることになる。
「気圧0.98。そろそろだな」
そう呟いて隔壁を開いたシャアは、目の前に広がる光景にしばし呆然とした。
そして、ぽかん、とだらしなく口を開いたまま、通信パネルで管制室を呼び出す。
「プルJ? みんなを連れて来てくれ。理由? いや、来ればわかる」

呼び出されたプルたちは、不平不満不穏当をありありと浮かべた顔で農耕ブロックにやって来た。
「で、何?」
えらくドスの効いた声で短く尋ねるプルD。
「う、うむ」
さすがにたじろぐシャア。
しかし、シャアが針のムシロに座っていなければならなかったのは、ほんの僅かな時間だった。
「みんなに、見せたいものがあってな」
そう言って、シャアは一旦閉じていた隔壁を開く。
「うわぁ……」
プルたちが、シャアへの不満も瞬時に忘れ去り、瞳を輝かせ異口同音に感嘆する。
目の前に広がっていたのは、一面の銀世界、であった。
「すげぇ! 雪だよ、雪! オレ、初めて見たぜ!」
興奮して叫び、飛び出すプルG。
それを皮切りに、誰も彼もが我先にと雪原に飛び出して行く。
「ええい、慌てるな! 私とて初めてだ!」
普段沈着冷静な理論派で売っているプルIでさえ、わけのわからないことを口走りつつ駆け出した。
「何をやってるんだ、シャア? って、うわ! どうしたんだ、これは!?」
遅れてやって来たアムロも、あまりの光景に目を剥く。
シャアは、腕組みしつつあまり意味のない憶測を述べる。
「恐らく、中途半端にサーモコントローラーが働いた状態で天井から水の散布が続いた結果だろう。これは、あ
 る種の奇跡と言っても過言ではないな」
呆気にとられつつも、アムロは訊いた。
「で、どうするつもりだ?」
とりあえずこの雪を溶かさねば、水をリサイクルすることも出来ない。
それは確かなのだが。
「どうもこうも無い。この状態で出来ることといえば……」
「と言えば?」
どうせロクでもないことだろう、と思いつつも、アムロは一応訊く。
もちろん、シャアの答えは概ねアムロの予想通りだった。
「雪遊びだよ、アムロ! それ以外に何があるというのか、君は!」

613 名前:白い奇跡(3/7) :04/02/01 04:38 ID:???
樹脂製のパイプを適当な長さに切って、更に縦に割る。
ヒーターであぶって先を曲げ、足を固定する紐を取り付ければ簡易スキー板の出来上がりだ。
スティックは、その辺にある棒切れで構わない。
エッジは付いていないが、まともな傾斜があるわけでもなし、遊ぶ分には充分だ。
同じ要領で作った板の上に手頃な大きさのコンテナを載せればソリになる。
「ほら、出来たよ、L」
「うわぁ、ありがとう、アムロ」
完成したソリを受領し礼を述べるプルL。
雪に足を取られながらヨタヨタと乗り込むと、ソリの左前に付けられた引き紐をプルAが握る。
「じゃあ、私が引っ張ってあげる! B、そっち持ってよ!」
「うん? まあ、構わないが」
プルAの要請に従い、プルBが右の引き紐を持つ。
先にスキー板を受領していた二人に引かれてソリが滑り始めると、プルLは歓声を上げた。
「すごいすごい〜」
「よーし、プルC号と競争だよ!」
「乗った。スキー勝負の借りを返してやる!」
先行してソリを受け取りプルD、プルGに引かれてはしゃいでいるプルCのところに向かうプルL号。
その様子を見ながら、結局シャアの意見を容れ――というよりプルたちの顔に浮かんだ満面の笑みに抗えず――
雪遊びに協賛することになったアムロは、満足そうに微笑んだ。
こんな状況でもモノ造りに励んでしまうあたりがアムロらしいところだが。
心の底から楽しそうに遊んでいるプルたちを見ていると、シャアの不手際が招いたこの奇跡に感謝したい、とい
う気すら起きる。
「さて、それじゃひと働きしておくか」
そう呟いて、アムロは更なるアイテム製作に取り掛かるのであった。

一方、奇跡を呼ぶダメ男シャアは、この機に華やかなウインタースポーツの手並みでも見せて失地を回復しよう
か、などという邪なことを考えつつ歩いていた。
その途中、奇妙なものを目にして足を止める。
プルEが、なにやら雪を盛っているのだ。
「プルEは、何を作っているのかな?」
問い掛けるシャアに、プルEはポツリと呟くように答える。
「……かまくら」
「カマクラ?」
「……図解すると、こう」
プルEが手にしたスケッチブックには、プルKあたりが描いたのか、えらく見事なかまくらが描かれていた。
上に巨大な蜜柑が載っている辺りが何か間違った印象を与えることを除けば。
「なるほど、かまくらか。イヌイットの作る、氷の家のようなもののようだな」
呟くシャアの隣から、感心したような声が上がる。
「ふむ、雪で構築した防御陣地か。これは使えるやもしれんな」
「プルI、いつの間に……と、それよりも、防御陣地というのは、どういうことだ?」
シャアの疑問に、プルIは、ニヤリ、と含みのある笑みを浮かべつつ答えた。
「いや、プルB軍との間に雪合戦が始まってな。プルD、プルG、プルAという体力派を擁する敵軍に対し、こ
 ちらは同志プルJ、現地徴用のプルFという数においても劣る軍容だ。何か、秘密兵器が欲しいところだった
 が……うむ、これは使えそうだ。シャア、プルE、情報提供を感謝する」
そう言って立ち去るプルI。
何か、変なスイッチが入ってしまっているようである。
「いや、まあ、ある意味これ以上ないくらい楽しそうだからいいが……」
プルIを見送り、そう呟いたシャアに。
「ぐぬぅぶぅわぁっ!」
ズドドドド、と降り注ぐ雪弾の嵐。
たまらず転倒するシャアの背後には、もちろん作りかけのかまくら。
「あ、悪ぃシャア! 誤爆だ、ゴメンなーー! くっそーー、Iのヤツどこ行ったんだ!?」
赤い彗星を撃破したプルGは、それだけ言って駆け去る。

614 名前:白い奇跡(4/7) :04/02/01 04:41 ID:???
残されたのは、突っ伏すシャアと破壊されたかまくらモドキ。
「……」
そして、無言で立ち尽くすプルE。
「は、はは……」
圧倒的なプレッシャーに、乾いた笑いを漏らしつつ固まるシャア。
「か、かまくらを作ろう! な! 私も手伝うから!」
結局、手伝いというより奴隷のように働いて、シャアはかまくらを完成させる羽目になった。
ウインタースポーツでいいとこ見せよう、という計画も台無しである。
まあ。
「……ぬくぬく」
満足そうに目を細めてヒーターにあたるプルE。
「こういうのも、悪くは無いか」
完成したかまくらにヒーターを持ち込んでプルEとまったりするシャアは、まんざらでもなかった。
餅は無いので、ヒーターを取りに行ったついでに食料庫から失敬してきたカンパンを軽くバーナーであぶり、ス
パムを載せて頂く。
何か違うような気もするが、シャアもプルEも餅など知らないので充分満足できた。
そうこうしていると、プルEハウスに来客あり。
「あら? 素敵ですね」
「ああ、プルK。君も入ったらどうだ? なかなか、快適だぞ」
そうは言われても、さほど広くないかまくらの中は、三人も入ると結構狭苦しいように思える。
プルKは、勧めたシャアではなくプルEに尋ねた。
「いいんですか?」
機嫌よさそうに、こくん、と頷いて場所を空けるプルE。
腰を屈めて入って来たプルKは、中が見た目より広いことに感心しつつ、ヒーターに手をかざして、はぁ、と息
をつき人心地つける。
「助かります。寒いのは、少し苦手ですから」
「そう言わず、楽しんでおくといい。アクシズでこんな風に遊べるなど、滅多にあるものではないからな」
「楽しんでいますよ? プルDやプルGみたいに、無茶をしないだけです」
そう言ったところに、ドロドロになってゼイゼイ息を切らしたプルFが顔を出した。
「本当、無茶を、するわね、あの二人」
「あら、プルF。雪合戦は、どうなったのかしら」
少し驚いた顔で問うプルKに、プルFは溜息混じりに答える。
「プルIが、要塞を作って立て篭もってるわ」
「要塞って……らしいと言えば、プルIらしいけれど」
苦笑を漏らすプルK。
「こっちは、たまらないわ。壁を作らされたり、囮にさせれたり。挙句の果てに、そのプルIに誤射されてこの
 有様」
「暖まっていくといい、プルF」
うんざりした声で毒づくプルFに、かまくらから出てスペースを空け、シャアが言った。
「君に風邪でもひかれては、私はまたアムロに殴られてしまうよ」
「あら、どちらへ行かれるんですか?」
プルKに質問に、シャアは微笑を浮かべてうそぶく。
「何、私の実力を示してやろうと思ってな」
そう言って、シャアは立ち去った。
「気を利かせたのかしら? 珍しい」
「うふふ、そうかもね」
シャアは、こういう部分では気の利かせようとする人だと思うけれど。それが上手くいくかどうかはともかく。
そう思いつつも、プルKは付け加える。
「珍しいことをすると、雨が降るって言うけれど……」
「ああ、雪だものね」
大いに納得した様子で頷くプルF。
その評価を聞き、プルEは特に感慨もない様子でボソリと呟いた。
「……哀れ」

615 名前:白い奇跡(5/7) :04/02/01 04:43 ID:???
プルEハウスを出たシャアは、とりあえずアムロと一緒になって雪だるまを作っている一団の方に足を向けた。
「スキー、は無理か。斜面が無い。4番ノスルの近くは凍った池のようになっているが、スケートも靴が無い」
今度こそ腕前を見せて失地回復、としつこく画策し、腕組みをして呟きながら。
それが聞こえたのだろうか、アムロがシャアの足下に何かを投げ出す。
「ほら」
見れば、それは底面に鉄板の入った軍用ブーツにブレードを取り付けた、スケート靴らしきものであった。
「雑な造りだから気を付けろよ」
ぶっきらぼうに言うアムロに、シャアは少し感動しつつ言う。
「アムロ、わざわざ造ってくれたのか? しかし、また器用な……」
「どうせ、誰かさんはウインタースポーツも得意だろうと思ってな!」
憎まれ口を叩くアムロに、シャアは子供のような笑みを浮かべて応じる。
「ははは、そうひがむな。有難く、使わせてもらうぞ。みんな、氷上に踊るということがどういうものか、よく
 見ておくといい」
そう声を掛け、その場にいたプルC、プルH、プルLを呼び集める。
ちょうど雪だるまの作成も一段落したところだったので、アムロも含めた四人の観衆がシャアの妙技を見せても
らうことになった。
確かに、言うだけのことはありシャアのスケートの腕前は見事なものだった。
ターン、スピンジャンプと華麗にこなし、見た目最も派手でわかりやすいスピンを披露。
クルクル回るシャアを見て、プルたちが感嘆する。
が、それがいけなかった。
見とれたプルLが、思わず引いていたソリから手を放してしまい。
緩やかな傾斜をシャアがいる辺りにソリは滑りゆく。
「危ない!」
プルCが叫ぶ。
「ははは、問題無いよ!」
軌道から直撃は受けないと判断し、そう笑うシャア。
確かに、直撃はしなかった。
ただ、ソリの引き綱がシャアの足に絡まってしまったのは、慢心が招いた不幸であったろう。
シャアは、その間も気付かず回転を続けており――
「ぬおっ! 何だ、この蛇が巻き付くような感触はっ!?」
引き綱を巻き取ったシャアは、そのままソリを引き寄せることとなり、結局その上に転倒した。
箱入りの、赤い蓑虫、完成。
「ははは、シャア、自分から巻かれるなんて、殊勝な心掛けだな! はははは……」
大笑いするアムロ。
もちろん、プルたちも愉快に笑い転げている。
哀れなるかな、シャア・アズナブル。失地回復どころか。
「これでは道化だよ……」
赤い彗星は、自らの行為に涙した。

一方、雪合戦は異様な盛り上がりを見せつつ終局を迎えようとしていた。
「くっくっく……圧倒的ではないか、我が軍は」
「何としても、あの要塞を落とすんだ!」
難攻不落のプルI要塞。しかし、そのプルIの後ろに立つ影があった。
「プルFか……何の真似だ?」
「プルIも、意外とお甘いようで……」
言うや否や、プルIの後頭部に至近距離から雪弾をぶつけるプルF。
「うわっ!」
バランスを崩し、プルIは要塞から転び出てしまった。
「誤射の罪は総司令といえど免れ得ない! というか、よくもコキ使ってくれたわね!」
集中砲火を浴びるプルIを眺めつつ言い放つプルFの正面に、巨大な雪弾を抱えてプルJが立つ。
「プルI……私からの手向けよ!」
「うきゃっ!」
顔面に巨大雪弾をモロに受け、やはり転がり出るプルF。
当然彼女も集中砲火は免れ得ず。
残ったプルJが投降したことにより、雪合戦はプルI軍の内部崩壊で幕を閉じた。

616 名前:白い奇跡(6/7) :04/02/01 04:46 ID:???
戦い終わり日が暮れて。
みんなドロドロになったので、プルたちは雪を溶かすついでにアムロが作った露天風呂にいくことになった。
「おっふろ、おっふろ」
「今日はお湯使いたい放題だって」
「やったー!」
はしゃぎつつ、お風呂セットを手に持ち雪の上を歩くプルたち。
「露天風呂……混浴……」
何故か赤くなりながら、ボソリ、とプルEが漏らした呟きにプルAが跳び上がる。
「うそっ! 混浴なの!?」
「そ、そんな……た、大佐が来たらどうすればっ!?」
「ゆーわくしちゃえばぁ?」
うろたえるプルJに、プルDは無責任な言葉を返す。
「直截な干渉は禁止! それに、混浴という可能性は、まず無い」
プルIの言葉には、妙に説得力があった。
何故なら、ソリの上で蓑虫と化したシャアがアムロに引かれて行くのを、みんな見ていたから。
つまり――

「……で、アムロ。私は、いつになったら降ろしてもらえるのかね?」
「プルたちの風呂が終わったらな」
「アムロ! 私を誰だと思っている!?」
「三十路半ばのロりコん変態オヤジ」
「くっ……チャンスは最大限に利用するのが私の主義だというのに!」
「黙って大人しくしていろ、赤い変質者!」

――概ね、こういうことだった。

「なるほど、クアハウスのようなものだな」
「情緒の無いやつだな。露天風呂って言えよ」
ようやくプルたちの入浴が終わり、大人二人もせっかくだから風呂を楽しもうと連れ立ってアクシズ露天風呂に
やって来ていた。
「重度メカフェチの君に情緒云々言われるのは心外だな……第一、アクシズの中で露天も何もあったものではな
 いと思うのだが」
「メカ好きと情緒は関係ないだろう!?」
アムロの抗議はキッチリ無視し、シャアは何の気なしに尋ねる。
「しかし、よくこんな巨大なバスタブがあったな」
「ああ、これな」
得意げな顔で、アムロは解説を始めた。
「以前、お前のザクが出て来たろ?」
「おい」
「あれな、頭のセンサー類使ったんだ。古いとは言ってもさすがエースカスタム、部品の精度はよかったな。外
 装の処分には困ってたんだが、いや、こんなところで役に立つとは」
「……」
「ちなみに、お湯はヒートホークの加熱コイルで沸かしてるんだぜ」
すごいだろ? と自慢げに胸を張るアムロ。
やはり、重度メカフェチである。
情緒もへったくれも、あったもんではない。
シャアは、もう責める気力も起こらなかった。
さらば、我が愛機。
硝煙の彼方に霞む、我が青春。

617 名前:白い奇跡(7/7) :04/02/01 04:48 ID:???
男二人、湯船――ザクの頭だが――にもたれつつ、無言でのんびりする。
ややあって、アムロが、ふぅー、と心地よさげに息を吐いて言った。
「色々あったけど、ま、あの子たちに雪を見せてやれたし、結果オーライってことでいいか」
「ふむ。種なり株なりあれば、しばらくこのままにして寒冷地野菜でも育ててみるのだがな」
「そう上手くいくか。今回だって、笑い話で済んだからいいようなものの、一歩間違えば大惨事だぞ?」
「面目無い。私は時々、注意力に欠けるようだ。あの程度の修理、私にもやれると踏んだのだがな」
「まったく」
軽く笑い、アムロは続ける。
「そういう時は、俺を使えばいいだろ? お前は、すぐ意地を張って失敗をやらかすんだから。危なっかしくて
 見ていられないよ」
「馬鹿を言え」
シャアも、微笑を浮かべて切り返す。
「君こそ、すぐに無理をするだろう。頑張り過ぎて倒れられでもしたら目も当てられん」
言い合い、見詰め合って、二人は同時に溜息を漏らした。
今ここで何を言っても詮のないことだ。
「そうそう、酒を持って来てたんだ。雪見酒と洒落込もうじゃないか」
「ふむ。東洋の習慣だったか。悪くないな」
「酒はアクシズ産の合成酒だけどな。ヒートホークから引いてきた熱で、いい感じに燗になってる」
「これだから、君から情緒云々を言われるのは心外だと……まあいい、乾杯しよう」
お猪口を手にして、アムロが訊く。
「今日は、何に乾杯する?」
「この奇跡に」
澄まし顔で答えるシャアに、アムロは頷いて応じた。
「なるほど。じゃあ、この白い奇跡に」
「いいや」
微妙な笑みを浮かべ、シャアが訂正する。
「腐れ縁という名の、絆の奇跡に、だよ」

669 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/05 07:39 ID:???
トリビア

プルズは




シャアがシャワー室に侵入すると蒸し殺す

671 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/05 13:36 ID:???
>>669
それは幸せ杉。

672 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/05 14:08 ID:???
>>671
    ⌒⌒ヽ     ⌒⌒ヽ    ⌒⌒ヽ
  (γ ノ|ノ)从 ) (γ ノ|ノ)从 ) (γ ノ|ノ)从 )
   ‖* ̄_ ̄ノ  ‖*´ー`ノ   ‖*^∀^ノ
   丿~ † ~ヾ   丿~ † ~ヾ   丿~ † ~ヾ
   ん  八  )  ん 人  )  ん 人  )
   んU〜Uゝ   んU〜Uゝ   んU〜Uゝ

  「当然サウナ室のことですが、何か?」

673 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/05 20:29 ID:???
>670
確かに皆ファザコンになりそうだな
付き合う相手は必ずどちらかに似ているという罠

674 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/05 21:51 ID:???
なんだかんだで甘やかせる限りでは甘やかしてそうだからな。
何より極限状況もいいところのなかでの共同生活、まだ10歳の状況。
普通の父娘のような親子の相克などはまだまだ先のことだろう。

675 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/06 02:45 ID:???
シャバに出ても、パパママ以上の男はそうはいないしなあ。
アムロに限っては、もうすこし人格破綻しててもいい気もするが
なんせ今の生活じゃあ問題児13人も抱えているしな…

676 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/06 03:36 ID:???
たしかに二人ともランクは高いが、愛人ならともかく結婚相手として考えるとちょっと遠慮したいタイプの罠。


677 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/06 06:51 ID:???
アムロの方は悪くないんでないかい
スポンサーの陰謀さえ無けりゃ家庭作ってたはずの人だし

678 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/06 08:25 ID:???
プルI 「ただ個人としてはともかく、二人とも地球圏へ戻れば結婚なんて考えられないだろうな。それに」
プルA 「え〜、なんでなんで?それにそれに?」
プルB 「考えても見ろよ。片や地球をつぶそうとした大テロリスト、片やそれを阻止した地球圏最大の英雄。
     どっちにせよ見つかったらまともな生活は無理だな。」
プルH 「それだけじゃないわ。アムロは年上趣味よ。シャアに聞いたのだけど。」
プルG 「あいつのいうことは話半分に聞いたほうが良いけどな。お?なにむくれてんだ?プルJ」
プルJ (むすっ)

679 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/07 01:01 ID:???
アムロが年上趣味ってのは、10代の頃だけじゃないの?
成人後つきあったベルトーチカもチェーンもどう見ても年下だし
ハイストリーマーに出てくるカニンガムは20そこそこ、アリョーナが17だから、
恋愛対象年齢が最低17ってところだろう。

680 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/07 01:18 ID:???
シャア「12も年下だと!? なかなかやるではないか、アムロ。いや私以上だ。感服した」
アムロ「……」

681 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/07 01:18 ID:???
>>679
ええええ。
だって付き合ってるのぐいぐい引っ張ってってくれるタイプばっかじゃん。
チェーンにしたって後輩タイプだけど大人しい女ってワケじゃないし。
最年少のアリョーナだって自立してて強いぜ。
年上趣味ってのはリードしてくれる女好きってメンタリティが表れてるというか。
子供に興味ないというか。(クェスがあれで17歳設定だとしても駄目だったろう、奴は限りなくガキだ)

682 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/07 01:21 ID:???
>681
「気が強い女が趣味」と「年上の女が趣味」は君の頭の中ではイコールなのか?

683 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/07 01:29 ID:???
>>682
リードするってのが10代においては年上に目が行くって事
実際ララァはほぼ同い年だけど、精神的には年より成熟した女。

ハイストの女性遍歴を見てると、相手がきちんと自分で立っている人だと認められると
恋の相手としても受け入れられるって感じじゃないか、アムロ。

684 名前:通常の名無しさんの3倍 :04/02/07 02:14 ID:???
つまりアムロにとってプルたちは恋愛対象ではない。
まあカツレツキッカみたいなものか。

685 名前:おままごと1/2 :04/02/07 02:26 ID:???
「シャアやアムロは、私達くらいの年の時って、どんな遊びをしていたの?」
昼下がりの、のんびりとしたおやつの時間。
プルAの口から、そんな質問が飛び出した。
「ん〜・・・そうだなぁ・・・おもちゃを組み立てたり、ばらしたり、本を読んだり、
後はフラウ・・・幼馴染の女の子と、追いかけっこやおままごと、とかだったかな?
・・・みんなと大して違わないんじゃないかな」
アムロの発言を聞いて、シャアの顔に微笑がうかぶ。
「おままごととは懐かしい・・・私もアルテイシア・・・妹に、良く相手をさせられたよ」
懐かしい名前を聞いて、アムロの顔にも、自然と笑みがこぼれた。
そして、ある事に思い当たると、アムロはシャアに意味ありげな視線を向けた。
「・・・やっぱり料理とか・・・?」
シャアは、その質問の内容を、正確に理解した。
「・・・むろん、食べたとも・・・君もそうだろう?」
シャアは眉間にしわを寄せると、肩をすくめて見せた。
幼い日、断りきれずに口にした、あのじゃりじゃりとした歯ごたえが、二人の脳裏によぎる。
お互いに顔を見合わせて、そこにある微妙な表情に、思わず吹き出してしまった。
懐かしくて、可笑しくて・・・ほんの少しだけ、切なくて。
しばらくの間、笑いが止まらなかった。

「あー・・・あのさ」
二人の笑いが収まるのを待って、プルDが声をかける。
「おままごとってどんな遊び?・・・なんかすごい楽しそうなんだけど・・・」
「あ、あたしも知りたい!」 「ねえ、教えてよ〜」

二人の男は、ほんの一瞬、真剣な表情で、視線を交わす。
(そうか・・・この子達は、おままごとなんてたわいの無い遊びも、知らなかったんだ・・・)
優秀な兵士として、兵器として、造り出された『彼女達』には、不要な物であったから。
二人の胸に、それぞれの思いが通り過ぎていく。
たわいの無い、おままごとの思い出。
暖かい、懐かしい思いが・・・

我々は、彼女達に、いったい何をしてあげられるだろう?
『人間』の、『小さな子供』である、彼女達に。

二人の顔には、すぐに優しい微笑みが戻っていた。
答えはわかりきっている。

思い出は、重ねていける物だから。
今、この瞬間の出来事が、幸せな思い出になるように。
彼女達が、幸せであるように。

知らない事は、教えてあげれば良いだけだ。
「おままごとっていうのはね・・・」

686 名前:おままごと2/2 :04/02/07 02:28 ID:???
おままごとが、アクシズでポピュラーな遊びになったのは、
それからまもなくの事だった。

ドアを開けて、サングラスをかけたプルGが入ってくる。
そして、入ってくるなりソファにだらしなく横になる。
「・・・ああ、今日も良く働いた・・・母さん、本日の夕食は?」
それに答えるのは、ストライプのタオルを腰に巻き、エプロンをつけたプルBだ。
「スパムだ、他に何がある?」
「スパム、スパム!ラブリースパム!ワンダフルスパム!」
プルBのすぐ足元には、両肘を曲げ、体のわきにくっつけた状態で、
体育すわりをしていたプルEが、ひじをぱたぱたさせながら作り声を出している。
それを聞いたプルGが、ソファから立ちあがり、テーブルを激しく叩く。
「ちぃぃぃっ!毎日毎日、こんな塩辛い物ばかり食ってられるか!」
テーブルの上に並べられた皿が、一斉に宙を舞って、床へと落ちた。
それを見たプルEは、体育すわりのまま、あらぬ方向へと転がって行った。
「父さん!食べ物を粗末にするんじゃない!」
プルBが、すばやくプルGにのしかかり、マウントポジションを取る。
「まて母さん、今のは私が悪かった、反省している、だから許して・・・ブベラっ!
・・・ってたんまたんま!ほんとに殴らないでよ!」
「ごめん・・・つい役に入りきっちゃって・・・」

すぐ脇では「子供役」の少女達が、満足そうに意見を交わしている。
「迫真の演技だったな、なかなか見ごたえがあった」
「おままごとって、結構楽しいわね♪」
「次、わたしがアム・・・じゃなかった・・・お母さん役やってもいい?」
「えーっ!!次は私でしょ!?」
「お父さんは誰がやるの?・・・あたしはやだなぁ・・・痛そうだし」
プルEとプルHは、向かい合って、体育座りで肘をパタパタさせながら、
作り声で楽しそうに会話をしている。
今回の役が、いたくお気に召したようだ。
「ハロ、ゲンキ、オトウサン、ゲンキカ?」
「オトウサン、ノーハレベル、オチテル!」

その頃廊下には、楽しげな室内の様子をこっそり覗きに来て、
そのまま固まっている二人の男の姿が・・・
「・・・なあ、アムロ」
「・・・なんだ?」
中で繰り広げられている「おままごと」は、ちょっと・・・いや、かなり予想とは違っていた。
だが、みんな、とても楽しそうだ。
それで、良いような気がした。
「・・・・・・・・・・・・いや、何でも無い・・・」
「ああ・・・そうだな・・・」

この出来事もまた、いつか、良い思い出となるだろう。
二人の中年ダメ男は、顔を見合わせて苦笑しながら、それぞれの仕事へと戻って行った。

彼女達が幸せであるように。
ただ、それだけを願いながら。 −END−


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